ステージ四隅の炎が、一層燃え上がる。それは観客のボルテージを分かりやすく表しているようだった。
『さァいよいよラスト!! 雄英一年の頂点がここで決まる!! 決勝戦 轟 対 爆豪 !!!』
「うわぁ、緊張する!」
『今!! スタート!!!!』
「うお゛っ」
無理やり上げたテンションが大氷結の冷たさに下げられた。バクゴー君の姿が見えない。あの馬鹿でかい氷結の中に埋まっているのか!? ド派手!
「いや、聞こえる!」
氷結の中から爆破音。そして、氷を破ってバクゴー君が出てきた。もぐらみたいなのにド派手だ!!
「ド派手だけど、轟くんはなんか、大雑把だ」
またバクゴー君を氷結の中に埋めようとする轟くんの手を飛んで避けるバクゴー君。轟くんのまだ燃え上がっていない左側を掴み、爆破の慣性を使って投げ飛ばした。
「……全力、か」
轟くんはまだ悩んでいるんだろう。悩んでいるから、右側の氷に頼りきった戦い方? 緑谷くんの言葉で影響は受けても、それで万事解決とは行かなかったんだ。そうなっていたら、左側の炎も使うはずだから。
飛ばされた轟くんは氷結で背後に壁を作って場外アウトを回避。カーブさせた氷壁に体についた慣性を殺させながら滑る轟くんにバクゴー君が左側から迫る。まるで、炎を使えと言わんばかりに。
「全力……なら……」
バクゴー君の狙い通りか、轟くんはバクゴー君の伸ばされた右腕を掴んだ。
「! 燃やされるっ」
だがそんなことにはならず、バクゴー君は投げられただけだった。
「何で左側を使わないんだ?」
「……使いたくないくらいの、悩みでもあるんじゃない? さっき、エンデヴァーの激励無視してたし」
「家庭の事情、か」
かなり深刻そうだね。顔左側のやけど痕も、関係してるのかもしれないね。ああ、見るからにバクゴー君のフラストレーション溜まってるぞー。
「てめェ
「!」
バクゴー君が左手から爆発を起こしながら吠えた。
「ブッ殺すぞ!!! 俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ! 舐めプのクソカスに勝っても取れねんだよ! デクより上に行かねぇと意味がねえんだよ!! 勝つつもりもねぇなら俺の前に立つな!!! 何でここに立っとんだクソが!!!」
キレたバクゴー君が地面に爆破を向けて、高く飛び上がる。そして、左右の手で違う方向に爆破をする。勢いを付けるようなそれは、バクゴー君自身を回転させていく。轟くんはまだ、動かない。
「負けるな、頑張れ!!!!」
緑谷くんの応援の声がこちらまで聞こえてきた。当然、轟くんにも聞こえたはずだ。
回転を早めたバクゴー君。轟くんは、左側を燃やした。
「
鼓膜を痛いほど震わせる爆破音。飛び散る氷。閃光。最後に煙幕。凄まじい衝撃だった。でも、見えた。見えてしまった。
「ねぇ……今、氷使わなかった?」
『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!! 轟は緑谷戦での超爆風を打たなかったようだが、果たして……』
バクゴー君はステージ上でうつ伏せに倒れ、轟くんは場外で氷に身を預けて倒れていた。
勝者はバクゴー君。でも君は満足しないだろう。全力を出していない相手に勝ったって、君は認めないだろう。現にバクゴー君は気絶している轟くんの胸ぐらを掴んでいる。
「ふざけんなよ!! こんなの……」
興奮するバクゴー君を、ミッドナイト先生が“個性”で眠らせた。
「轟くん場外!! よって──爆豪くんの勝ち!!」
『以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭1年優勝は──A組 爆豪勝己!!!!』
「勝者も寝てるって、締まらないね」
「それ、お前が言うのか」
いや見てみ? どっちも倒れてるんだよ? しかも勝った方は強制的に眠らされてるとか、全然締まらなくない?
ステージは撤収されて、俺たち生徒は再びグラウンドに集まる。台の代わりに俺たちの前には表彰台。三位に常闇くん、二位に轟くん。そして一位の座には……。
「すごいなアレ……」
「起きてからずっと暴れてんだって。元気だなー」
「元気……?」
すごくない? 手も体も口も全部拘束されても、コンクリにはり付けられても大人しくならないなんて。もはやそれ大昔の罪人晒しみたいなもんだよ? そこまでしないと暴れ散らすとか、バクゴー君どんだけ轟くん恨んでんの。どこまで嫌なの。完璧主義なの。
三位には常闇くん以外にもうひとり、飯田くんが居るはずけど、早退したらしい。ミッドナイト先生がメディア意識しながら言っていた。
「メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのは勿論この人!!」
ミッドナイト先生が指差す、スタジアムの屋根には一つの影が。
「私が」
その影は屋根から飛び、回転しながら着地する!
「メダルを持って来「我らがヒーロー オールマイトォ!!」」
ちょっと、被せないでよ、ミッドナイト先生……。
気を取り直して、メダルの授与が始まった。いいなぁ。オールマイトから言葉をかけてもらえるなんて。
オールマイトからメダルを貰っても、バクゴー君は目を吊り上げたまま。あれ、90°行くんじゃない? めっちゃ面白いじゃん。
「後でおめでとう言ってこよー」
「悪意しか感じない」
バレちゃった?
「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にも
「プルス「プル「お疲れ様でした!!!」ウル……えっ!?」プルス……」
なんで!?
「「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」」
「ああいや……疲れたろうなと思って……」
調子狂うなぁ……。
更衣室に戻ろうとして、怪我したままの緑谷くんを見つけた。リカバリーガールに回復されなかったのか、処置された上でああなのか。まあ、でっかく包帯されてるし、後者っぽいな。腕なんて三本分の太さくらいのギブス巻かれてんじゃん。……俺が、変わってあげれればいいのに。
黒いキューブに変換するのに、リスクは殆どない。変換した後の管理が問題ではあるけれど、それは俺が心配すればいい。あーあ。他人の傷も回復出来たなら、大手を振ってヒーロー志望って言えるのに。皆に反対されないのに。
「どうした?」
嘘吐きで自業自得な俺の前に立ちはだかる壁に憂いていたら、シンソー君に声をかけられた。
「ん? ああ……。全力の話、してたでしょ、俺。」
今日も今日とて息するように、嘘を吐く。
「……俺、自分の限界を知らなくて……。俺の全力は、もしかしたら全力じゃないかもしれない。もしかしたら、自分の知らない“個性”があるんじゃないか、って……」
「それと、緑谷を見ていたのは、何か関係ある?」
「あ、バレてた。……いや、俺にも、リカバリーガールみたいな“個性”があったらいいなって。そしたら、ゲームで言ったら戦う回復術士みたいな、そんなヒーローになれるかも……って」
「それは、強いな」
「だから、怪我の多い緑谷くんに実験体になってもらおうと思ったんだけど……。あれでリカバリーガールに処置してもらった状態でしょ? なら無理だね」
「……怪我するのは、嫌なんだけど」
「別に頼んでないし、無理にお願いなんてしないですー。無いかもしれないしー」
「あるといいな」
「いいね!」
本当にそんな“個性”があったら、誤魔化されるかな。
放課後、俺はバクゴー君に突撃した。全力笑顔で嫌味満開。爆破されないようにバクゴー君の両手を持って、メダルの紐を咥えたままの怒りの表情の彼に言ってあげる。
「おめでとう!」
「…………クソがァッ!!!」
青筋浮きまくったバクゴー君に思いっきり頭突きを喰らった。出てきた鼻血はすぐに止まって、俺は吠えるバクゴー君から逃げた。
「なめてんじゃねェぞヘアバン!!!!!」
「逃げろー!」
バクゴー君っていじるの面白いなぁ!
今だけは、忘れられた。