傷吐き   作:めもちょう

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二十二話

 体育祭後の休校2日目。雄英高校のヒーロー科教員は会議室にて職員会議を行っていた。内容は特筆するものは無い。最後以外は。

 セメントスが議題を口にする。

 

「最後ですが、“普通科1年、吐移 正への警戒態勢”についてですね」

「警戒態勢に至った理由は、この資料の通りでいいんだよね」

 

 オールマイトが資料を持ち上げる。そこに書かれている理由は、以下の通りだ。

①母親がヴィランである。

②長年に渡っての暴行、誹謗中傷の被害者である。警察への通報の実績はあるものの、未だ復讐心を抱えている可能性がある。

③先の体育祭で“個性届”にある以外の“個性”の使用の可能性が疑われる。

 この三点である。

 エクトプラズムが立ち上がる。

 

「ソノ下ニハ、吐移ノ近況ヲマトメテアリマス」

「報告ありがとう、エクトプラズム」

 

 エクトプラズムは“個性”の『分身』を使用し、吐移の学外での監視を行っていた。報告書には4月からの簡単な報告と、5月に入ってからの近況報告が記載されており、エクトプラズムは5月のものを要約して読み上げた。

 

「基本的ニ4月ト大差ハアリマセン。一人デ居ル吐移ハ(くち)ヲ開ク事ガ無ク、時間ガアレバ勉強カ家事カ、笑顔ノ練習ヲヒタスラシテイマス。タダ……最近ハ過呼吸ニ陥ル瞬間モアルコトヲ確認。救助スル間モ無ク、スグニ治マリマスガ」

「最初からずっと、吐移くんも私たちを警戒しているんだろうね。そのボロが、出てきたのかな」

「警戒レベルは上げるか、現状維持だな」

「異議アリ」

 

 校長に続いて発言したスナイプに不満そうに反応したのは、吐移との親交が深いプレゼント・マイク。スナイプは斜め前に座るプレゼント・マイクに視線を送った。

 

「①の理由はもう無意味だろ。つーか、下げるっつー選択肢はねーのかよ。過呼吸させるまで生徒を追い込んでるんだぜ?」

「マイク、教え子として思い入れがあるのは分かるが、吐移の“個性届”が虚偽だった時点で、下げることはあり得ないだろう」

「いいや、虚偽じゃないね。役所が発行した写しだぞ。当たっているはずじゃねーか」

「でもマイク。吐移くんは体育祭の予選で、明らかに『自己回復』の“個性”以上の()()を使っていたわ。あなたも見たでしょ。それ故に警戒を緩めることは出来ない」

 

 ミッドナイトの発言はしかし、プレゼント・マイクの態度を改めさせることは無い。相澤がミッドナイトに続く。

 

「そうだな。吐移も時を考えれば良いものを。2位なんて目立つ位置に居たのも、血まみれの足裏を置いていったのも愚策だった。いかにも警戒してくれと言っているようなものだ」

「中途半端なんだよな。隠すつもりなら活躍せずにいればいいし、目立ちたいならその“個性”を使えばいい。一体、何がしたかったんだか」

「当然、一位になる為に決まってるだろォ! 吐移本人が言ってた!」

「なら尚更、“個性”を使うべきだった。有用なのに使えない理由があって、俺たちはそれが、詳しい効果も分からないから警戒を解けないって話なんだろうが」

 

 ブラドキングも警戒レベルを下げることに反対姿勢だ。セメントス、オールマイトも少なくとも賛成では無い表情をしている。13号が口を開く。

 

「怪しいのはそれだけではありません。吐移くんはわざわざ、笑顔と発声の練習の為にヒーローの教えを請いました。それだけなら別に、放送部や演劇部でも……」

「その話は済んだだろ、13号!!」

 

 こめかみに青筋を作ったプレゼント・マイクが、机を強く叩いて立ち上がった。

 

「それは、よりヒーローに近づけるように、間近でヒーローという存在を感じてヒーロー科との差を埋めたいっていう、吐移の思いがあったって、……それで終わった話だ!」

「そうね。その点に関してはマイクに賛成する。納得は出来ないけれど、あれからほとんど職員室に来てもないし、ヒーロー科の生徒とも体育祭2週間前からはほとんど関わっていない様子だった。スパイかどうかの話は終わっているし、蒸し返す必要は無いわね」

「そうですね……。失礼しました、マイク」

「……これ以上、吐移をヴィラン予備軍のように扱うのは止めてくれ……」

 

 その発言は恐らくこの場の全員に向けられたものだっただろう。ヴィランどころか予備軍などと思っていない者が大多数だろうが、プレゼント・マイクにはそう映らないらしい。そんな彼の味方になったのは、根津校長ただ一人。

 

「皆は、“本人希望での個性届の改変”を行える制度を知っているかな?」

「ええ、勿論」

 

 ミッドナイトが根津の問いかけに答えた。

 

「“個性守秘制度”のことですね。日常生活に支障をきたす“個性”を持ち、本人が使用を拒み且つ知られることを強く拒否している場合に限り、役所に“個性”を正しいものを届けることを条件に、文書を書き換えることが可能な制度。……なるほど、そういうことですか」

「うん。きっとそういうことだと思うよ。吐移くんは小学、中学となかなか凄惨なイジメを受けていたらしいからね。人に危害を加えられる“個性”であると知られたら、いらない罪を擦り付けられかねない。だからこの制度を使い、今日まで過ごしてきたんだろう」

「ロボに使ったのは人でないからセーフと見たか。なら近いうちに秘密を打ち明けてくれそうだよな!」

 

 な! とプレゼント・マイクは周囲に同意を求めたが、良い顔の者はいない。根津でさえもだ。

 相澤が口を開く。

 

「それはどうだろうな。高校では打ち明けるつもりだったなら、どうして入試試験では使わなかった。ロボ相手だぞ」

「そ、それは……」

 

 ここでプレゼント・マイクが「その当時吐移は当然まだ中学生で、バレるわけにはいかなかった」と 発言出来ていたならば、未来は変わっていたのかもしれない。

 

「ここに入ってから! 心変わりしたのかもしれない!」

 

 これだけでは、吐移を庇うことは出来なかった。

 

「ヒーローを目指す理由も、どことなく弱い。ヒーローと同時に特別救助隊を志すのに“個性”の弱さを理由にしているなら、攻撃性のある“個性”を使うつもりが最初から無いってことだ。優勝を目指して“個性”を使おうとしたが、それが目立つことを嫌った。つまり現状、吐移は“個性”を打ち明けるつもりが無い。これまで通り、復讐を企む者として認識すればいいな」

 

 相澤のごもっともな意見にプレゼント・マイクはぐぅの音も出ない様子だった。

 

「人に向けて発動したところを今のところ確認出来ていませんし、警戒レベルは現状維持で良いのではないでしょうか」

 

 その後に続いたミッドナイトの提案は容認され、職員会議は終了した。

 

「引き続き、監視を頼むよ、エクトプラズム、プレゼント・マイク」

「ハイ」

「……了解でェす」

 

 プレゼント・マイクだけが、不満を隠そうともしなかった。

 

 会議室から職員室に戻る際も、プレゼント・マイクは不貞腐れたままだった。

 

「マイク、あなたどんだけあの生徒を贔屓してるの。いくら弟子だからって」

「だってよォ。吐移も変わろうとしてるんだよ。環境が変わって、周りにいる人間も違って。きっと、“個性”との向き合い方も変わったんじゃないかって思うんだよ。だから、今まで使わずに俺たちにも悟らせなかった“個性”を使うようになったんだと思っちゃうわけ」

「ならもっと思い切って使うべきよね、吐移くんも」

「詰めが甘いんだよ、あいつは」

 

 ミッドナイトとプレゼント・マイクの会話に割り込んだのは、彼らの隣を歩いていた相澤だ。

 

「環境が変わって、ヤツ自身も確かに変わったのかもしれない。だか、行動が行き当たりばったりで、警戒の解き方も順序も下手だ」

「それだけ過酷だったんだって! 可哀想な吐移! 雄英(ここ)に来てやっと安心出来るようになったんだ!」

「自分で自分を抑圧してきた9年間が、あいつの思考・判断を鈍らせているんだろう」

「そう! そうなんだよ! それが不憫で! って、そう思うならイレイザーも庇ってくれてもいいだろォ!?」

「復讐心が無いとは言い切れないからな。あいつを警戒する理由、あいつをヴィランにしないよう保護する理由でもある、“虐め加害者達への復讐心”が限りなく無くなっていると確認出来るまでは、吐移を庇うことは出来ない。あの“個性”さえ見せなかったら、監視は解かれていた。惜しかったな」

 

 相澤の言葉に溜め息を吐くプレゼント・マイク。それはやたらと重く、長かった。

 

「なんで、隠すんだろうなぁ……。せめて、俺にだけでも相談してくれたなら……。直ぐに監視を止めることが出来るのに……」

 

 ヒーロー科教員の中で恐らく一番吐移に関わっているであろうプレゼント・マイクが、そう弱音を吐いた。

 

 

 

 

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