傷吐き   作:めもちょう

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二十三話

 嬉しいことの多かった二日間だった。お母さんに認められて、応援されて。バイト先でも「君もしかして雄英の?」って注目浴びたり。

 やっぱりすごいな。さすがは日本において、かつてのオリンピック並みに注目されてるっていう雄英体育祭だ。人生でこんなに声をかけられたことはなくて、自己肯定感が満たされた。

 

「聞いて聞いてー! バイト先で俺、声かけられちゃった!」

「そうなの!? あ、そうか、トーナメントまで進んだもんね!」

「そうそうー!」

 

 休校明けの朝。俺は記見さんに自慢していた。あ、シンソー君来た!

 

「シンソー君、シンソー君! 俺声かけられちゃったよ! お疲れ様とか! やっぱすごいね、雄英体育祭!」

「俺も声かけられたよ。……これでヒーロー科なら、ヒーロー事務所へ職場体験に行けるのにな……」

「まぁまぁ。俺たちも普通の職場体験行こーや」

 

 そうだ。もうすぐ職場体験に行くんだ。せめてトーナメントに行けた人だけでも、ヒーローから指名入ればなぁ。そうだったらもっと皆、全力出してくると思うのに。俺たちがヒーロー科を妬まなくなるのに。

 

 時間は流れて昼休み。記見さんの制止を振り切って、バクゴー君たちのところに座った。すっごい久しぶりな気がする。

 

「久しぶり! 体育祭お疲れ!」

「吐移じゃん! 久しぶりー!」

 

 挨拶を返してくれたのは切島くん。上鳴くんも瀬呂くんも手を上げて応えてくれた。バクゴー君は俺をチラリと見ただけで、すぐにカツ丼に興味が移ってしまった。カツ丼に負けた……。

 

「瀬呂くんははじめましてかな、体育祭お疲れさま」

「お疲れ! つっても、お前の方が戦績は上だけどな」

「瀬呂くんのクジ運が悪かっただけでしょ!」

「お、言ってくれんなァ!」

 

 俺の言葉に笑ってくれる瀬呂くん。やっぱり絡みやすいなぁ。

 

「でもそっか、吐移って普通科な上に“個性”はあんまり強力じゃないのに、ベスト8なんだよな……」

「……ちょっと見苦しい勝ち方だったけどね」

「体育着はそうかもしんないけど、芦戸は見習いたいって」

「体育着の話は止めて!」

「気にしてたんだ」

 

 当たり前じゃん! と文句を言いながら弁当の包みを開く。この話題から一刻も早く逃れたかったから。

 今日もメニューは同じだ。思った通り、上鳴くんが「もしかして……」と、興味を持ってくれた。

 

「ハッ! 梅じゃこ丼!」

「あ、そうだった」

 

 頑張った記念にって、バイト先から色々恵んでもらったんだよね。今日の夕飯はステーキ。今、臭み取りとして牛乳に浸している最中だ。ホントに臭み取れんのかな。確かにどっちも牛だから不味くはならないとおも、いたい。不安。

 さて、そろそろ切り出し時か。

 

「バクゴー君、体育祭お疲れさま!」

「あ゛ァン!?」

「めっちゃ不機嫌じゃん!」

 

 思わず笑った後、今日の目的を、ついに切り出す。

 

「体育祭も終わったことだし、また稽古をつけてくれませんか?」

 

 カツを頬張っているバクゴー君は俺に視線を送るだけ。君は何を考えているんだろう。

 

「お願いします!」

「……今日からか」

「善は急げ。受け入れてくれるなら、今日からお願いします」

「……放課後、トレーニング室に来い」

「ありがとう!」

 

 思った以上に簡単に、約束を取り付けられた。ちょっとホクホク顔になっていたら、バクゴー君がフッと笑った。え、不穏。

 

「二度とあんな情けねえ負け面させねェように、鍛え殺してやらァ」

「……お、お願いしますぅ」

 

 体育祭の中で一番みっともない勝ち方と負け方の両方をした自覚があるだけに、それを指摘されて恥ずかしいやら、優しさも感じられる宣言に感謝もあるわで、この涙がどんな名前なのか、俺には分からなかった。とりあえず、今日のステーキの味は美味しく感じることは間違いなさそうだ。

 切島くん、上鳴くん、瀬呂くんも参加することになって、昼休みは終わった。

 

 また時間は流れ、7限目のLHR。職場体験の話だった。始まる前に担任に呼ばれてあることを言われた俺は正直、LHR中の担任の話を集中して聞けなかった。聞かなくてもいいかもしれない。俺は行き先をもう決めてるから。説明をしてた担任が職員室に戻って、皆がワイワイ職場体験先を決める時間になった。暇だしシンソー君のとこ行こーっと

 

「シンソー君はどこ行くの?」

「吐移。俺は、警察が第一志望だよ。吐移は?」

「実はさ、俺、オファー来てて……」

「え?」

「あ、ヒーロー事務所からじゃないよ?」

「……なら、どこだよ」

「へへ……東京の消防署からだよ! 災害救助のプロから、どういうわけかオファーが来てさ! まぁ多分、体育祭の時にマイク先生が話してくれたからだと思うけど……」

 

 芦戸さん戦の終わりでマイク先生が『本当は非暴力主義なの!』って庇ってくれたからなんだと思う。普通科にヒーローからの指名は送られないが、ヒーロー以外から指名が入ることも前例はないらしい。そりゃそうだよな。

 

「すごいな、夢の職からオファーなんて」

 

 本当に。雄英に来てから、俺は恵まれ過ぎている。

 俺たちの話が聞こえたらしい、近くの席の人たちから、「すごいじゃん!」「おめでとう」なんて言葉を送られた。記見さんもわざわざ来てくれた。

 

「頑張ってきてね、吐移くん!」

「ありがとう! 俺、行ってきます! 皆も行きたいところに行けるように、応援してるね!」

 

 あ、嫌味みたいになってないかな。今の発言って、余裕が無いと言えないことだし。皆の不評を買ってないと、いいんだけどなぁ……。

 

 シンソー君は第二、第三希望がまだ決まらないらしくて、後日出すって。あと二日でかぁ。

 放課後になった。稽古の集合時間には、まだちょっと早いかな?

 

「吐移」

「何?」

「昨日か一昨日、何か良い事あったか?」

「! 分かっちゃった?」

「一日中笑ってりゃな」

 

 へへっ、分かっちゃったかぁ。ニヤニヤが収まらないんだよね。

 

「実はさ、母さんに会ってきたんだ」

「……」

「ずっと、……嫌いだけど、好きだった母さんに。今まで、会えてなかったんだ。俺自身も大変だったから。……俺が、片足とは言え、医療の、ヒーローの道に進んでいいのか、聞きに行ったんだ」

「……」

「なんて言ってくれたと思う?」

「……さあ」

「“全力で応援するわ”、だって! 体育祭も見てくれたらしくて、“危ない戦い方はしないで”って。でも、“あなたの夢は多くの人を救う。だから、応援するわ”って……言ってくれて……。シンソー君。俺、愛されてた。俺の母さんは、とっても優しい、強い人なんだよ!」

「……そうだな」

 

 思い出すと泣けてくる。俺なんて、あいつらがヒーローになることを絶対に許さないのに。いや俺は被害者で、あいつらは加害者って時点で比べるものじゃないか。でも、お母さんへの加害者と同じ職を目指して良いと許してくれるなんて、すごく懐深いよな。

 事故で生まれたような俺を、憎む相手の、知らない男の血が半分流れている俺を、愛してくれて、ありがとう。

 お母さんが俺を愛してくれるのは、俺の顔がお母さんとよく似ているからだろう。だから俺は、実は自分の顔を、男としては不細工とは思ってるけれど、言うほど嫌いじゃなかったりする。

 

「あと少しで出てこれるんだって。俺、まだ稼げる人間じゃないけど、夢を叶えて、母さんを楽させてあげるんだ」

「いい話だな」

「でしょ!」

 

 産んでくれたことに恩返しするのが、一つの目標だ。

 

 さあ、その為にもそろそろ向かおう。

 

「じゃあ俺、バクゴー君と稽古があるから!」

「まだ続いてたのか、その関係」

「切島くんと上鳴くん、瀬呂くんもいるよ! あ、シンソー君もどう!? トレーニング室で筋トレなんだけど」

「せっかくだからなぁ。世話になろうかな」

 

 やった!

 

 

 

「よろしくお願いします、バクゴー君!」

「……後ろの奴は?」

「クラスメイトのシンソー君!」

「そうじゃねぇよ。何アポ無しで連れてきてんだ」

「ごめん! 俺がさっき誘ったからさ!」

 

 そのシンソー君は切島くんたちに挨拶してた。それも済んで、バクゴー君によろしくって言いに来たけど、バクゴー君はまるで歓迎してない。めっちゃ口元下がってる。そんなに嫌いなの? 二人の間に何があったの?

 

「よくその面ァ下げてこれたなぁ……!」

「体育祭終わったんだから、敵視やめて。俺の笑顔に免じてさ!」

「-100万点」

「9900万点加点!!! よっしゃあ!!!」

「……」

 

 ガッツポーズに力が入る。バクゴー君、俺の吠えにびっくりしてるみたいだけど、俺だって大幅な加点に驚いてるから、お互い様だ。切島くんも上鳴くんも喜んでくれた。と言っても、二人はどこか、バクゴー君を揶揄う目的がありそうな顔をしてるけど。

 

「前より笑顔自然になったもんな! 加点する気持ち、分かるわー」

「残り100万100点、頑張ろうぜ!」

「うん!」

 

 ほーらやっぱり。俺も二人に倣って、チラチラバクゴー君を見る。不機嫌メーターがぐんぐん上がっているのが手に取るように分かるね!

 

「……これからやんのは、筋トレだぞ」

「こめかみピクピク言ってんな、爆豪」

「るせぇ!! てめェは帰れっ!!!」

「世話になる」

「ウゼェー!!!」

 

 怒りの噴火レバーを下ろしたのは、シンソー君だった。やるなぁシンソー君!

 

 そんなことしてたからか、もう最初から筋トレしかなかった。

 

「あ゛っ!? 振り子みてぇな反動つけてんじゃねぇぞ青髪!! ダンベルしっかり持ち上げろ!!」

「っウス」

「ヘアバン! テメェもだ!」

「はいっ!!」

 

 最初の頃の笑顔の練習の話は、もうバクゴー君の頭から抜けているらしい。まあいっか。むしろバクゴー君の笑顔はレアってことでいいんじゃないかな。俺も凶暴なやつしか見たことないし。

 

「考え事か、ヘアバン。ヨユーそーだなァ?」

「そんなことありません!」

「そいつが終わったら、校庭5周してこい!!」

「勘弁してぇー!!」

 

 足腰立たなくなりますー!! バイトォー!!

 

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