傷吐き   作:めもちょう

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二十五話

 出た血はせいぜい50ml。普通の献血でももう少し抜くから、今回は輸血の必要は無いってことで、俺は病院に行かなかった。俺としては別の病院に行きたいですけどね。俺の“個性”どうなってんだ。

 

 呼んだ救急車が怪我人二人を運んでいき、警察が事故整理するのを見届ける。ついでに俺はケンさんが買ってくれたタオルを濡らして、血を拭きとっている。俺達が残っているのは証言者だからだ。と言っても、まあ暇だ。

 

「ケンさん、俺なんで倒れたんですか? 覚えがなくて……」

「は? マジで?」

「マジで。だって俺、他人の傷を治せたことなんて……」

 

 本当に無い。だって、そんなのあったら俺大々的にアピールして、ヒーローを目指すし。

 他人を回復させられる“個性”は貴重だから、学費の安さで雄英を選ばなくてもいいし、俺を正しく評価してくれる学校に奨学金もりもりで入学したはず。それに、入試の時のあいつの傷だって治した。

 

「あの人の“個性”で俺に傷が移ったとかじゃないですか? そうとしか……」

「いいや、それはない。あの人の“個性”は『キノコ狩り』。そんな“個性”が傷を移すなんて、考えられないだろ?」

「確かに……」

 

 山で大活躍しそうな“個性”だな、それ。

 

「だからあの怪我は、お前の“個性”で一旦負ったものだと考えたわけだ。……お前の顔を見る限り、初めて、それも偶然使えたみたいだな」

「はい」

「なら、使うのは控えろ」

「え?」

「どんな発動条件やデメリットがあるかも分からないんだ。見た感じ、使いすぎると多量出血で死ぬぞ。分かったな」

「……はい」

 

 言外に、ちゃんと研究しろって言われた。うん、俺も死にたくないし、ちゃんと考えよう。

 

 警察からも解放されて、署に戻った俺たちは思い出した。

 

「あ! お茶っ葉買ってない!」

「俺タオルしか買ってねぇ!」

 

 事情を知っている職員さんから、「いや、まず言うことそれ!?」って笑われてしまった。別の職員さんが買いに走って行ってくれたってさ。

 

 少ないとはいえ血を失った俺は、その後トレーニングすることを止められてしまった。食って血を増やせって、お弁当まで奢られちゃって。

 

「また明日にはトレーニングに参加してもらうし、今日が特別なだけだ。気に病むなよ」

「はい。皆さんを観察しとくか、“個性”を見直します」

「その方がいいな」

 

 俺たちの会話が聞こえたらしい職員さんが、「じゃあ、いる?」と言いながら裏紙を3枚くれた。

 

「あくまで俺の話だけど、考え事する時はチャートを作るんだ。頭一つで考えるより、書き出した方が見直しやすいから」

「なるほど……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 職員さんはおまけにペンを貸してくれた。独り言をブツブツとつぶやくよりは良い方法だろう。俺は1枚の紙に手をつけた。

 

 1時間経った。結局答えは出なかった。でも、仮説は立てられた。

 『“傷を自分のものにしたい” と思うことが条件なのではないか』ということだった。

 

 気を失う直前、俺はあの人を死なせたくないがあまり、「代わってあげたい」と考えた。今までそんなこと思ったことはないし、試したこともない。それで俺に傷が移ったって言うなら、もう決まりだと思う。

 まだ仮定なのは、1例しかないから。……起こって欲しくはないけれど、事件、事故で出てしまった怪我人を相手に訓練してみないことには……。

 “個性”は私有地以外での使用は認められてないけど、人助けをするのをダメだって言うなら、それは国や法による人殺しだ。だからまぁ、大丈夫でしょう。

 

 

 

 職場体験二日目。皆さんの引き継ぎの様子を観察させてもらってから、俺は朝からトレーニングに励んだ。やっぱり皆さんには敵わない。一日で勝てるわけないんだけれど。鉄棒きつい。

 

「吐移、今日は外に食べに行くか?」

「え!? そんなことしていいんですか!?」

「大丈夫大丈夫! 俺今日半日勤務だから。昼過ぎてるし、退勤ついでだ。……だから気にすんなっての」

「す、すみません……」

「今日は平和だといいな」

「そうですね」

 

 何もなければ、俺も今日はこのまま帰らされるって。今日で“個性”の把握は期待出来ないか。

 体育着から制服に着替えると、先に用意出来ていたケンさんの所に行く。ケンさんは家が近いから歩いて出退勤してるって。だからお食事処までも歩きだ。

 

「なに食べたい?」

「うーん、わりと何でも」

「俺もそうなんだよなぁ」

 

 二人揃って頭をひねる。本当はハンバーガーがいい。でも大人の人にそれを言っていいのだろうか。あんまり学生臭いと嫌がられそうで怖いんだよね。

 飲食店が集中しているところに出た。

 

「目についたし、マックに行くか!」

 

 ケンさんって、心読める人なのかな?

 

 ビッグマックセットを奢ってもらってしまった。実は初めて食べる。ビッグマックにはビッグマック限定のソースがかかっているらしいじゃん? 外食自体をあまりしないもんだから、ちょっと緊張してしまっている。そして、楽しみだ。

 

「食べないのか?」

「い、いただきます!」

 

 すげえよなぁ。箱に入ってるって。

 酸味のあるソースが、しゃきしゃきレタスが、二枚のパティが、一口、また一口と、俺のブレーキを壊して要求させる。つまり、美味しかった!

 

「男子校生に、今ので足りたか?」

「はい! ごちそうさまでした!」

 

 炭酸は何て偉大な発見だろう。腹は膨れた。

 膨れてなかったのはケンさんの方だったらしくて、「アイス食おうぜ」っていって、またレジに向かった。トレー片付けてしまおう。

 

「お、片付けてくれたんか。ありがとな」

「いえ、ついででしたし」

「そっか。あ、そうだ! 吐移、“個性”の方はどうだ? 何か分かったか?」

 

 戻ってきたケンさんの両手にはカップに入ったソフトクリーム。もう貰えたんだ。受け取りながら、質問に答える。

 

「ほとんど分かってないですね。『代わってあげたい』って思ったのがキーだとは思いますが……。あ、あと、人工呼吸も。でもそれ以外はよく分かっていなくて……一回じゃ、確実なことは分かりません」

「……そう何度もあって欲しくはないけど、成長の為にはなぁ」

 

 溜め息をつかれた。そりゃそうだ。俺が練習出来るって事は怪我人がいるって事。それもたくさんいたら逆に俺が死ぬ。だからって平和すぎると、俺の“個性”が使えるかどうか分からない。ジレンマに、自分でも溜め息を吐きたくなるわ。

 

「口と口とでしか出来ないのかも、気になるな」

「あっ!?」

 

 それは思いつかなかった! 傷を治そうとするたびに人とチューするって、リカバリーガールよりヤバめ!

 

「最悪俺や隊員たちで実験体になるか」

「そこまでしなくていいです!」

 

 何かあった時は実験関係なくこの“個性”を使いますから!

 

 口直しも済み、店を出る。美味しかったなぁ。

 

「じゃあまた明日、朝6時。遅刻するなよ」

「分かってます。ご馳走までしていただき、ありがとうございました」

「いいってことよ! あ、あと、俺の監督外で勝手に“個性”使うなよ! じゃあな!」

「分かりました! さようなら!」

 

 ケンさんは俺が行きたい方向とは違う方向へ歩いていった。俺も帰ろう。

 

 俺の一週間の仮住まいはビジネスホテルだ。すぐに、しかも一週間だけ貸してくれるようなアパートはこの辺りにはなくって、高くつくけどこっちになった。低料金でランクは、バジェットって言うんだったかな。それでもスカウトしてくれた淵谷署と雄英が出してくれなかったら来れなかったね。一週間で5万円だし。食事はこっち持ちだし。バイトしてて良かったぁ。

 

「あっ!!」

 

 通行人の誰かが声を上げた。視線を送ると同時に、昨日と同じ衝撃音が響いた。血の気が引く。

 

「今日もかよ……」

 

 昨日と違うのは、ここが人通りの多い場所で、交差点であり、正面衝突の事故を起こしたのがトラックと大型バスであるって事。そして、ケンさんのいない今、俺は一般人。

 

「怪我人、多そうだ……」

 

 一般人がどうとか関係ない。俺に出来ることを、考えろ。

 

 

 

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