傷吐き   作:めもちょう

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二十六話

 「ご協力お願いします! あなたは救急車を呼んでください! あなたは警察を! あなたはヒーローを!! 体格に自信のある人は、俺と一緒に車の中の人の救助を!」

 

 気が付けば、そんなことを叫んでいた。

 頭をよぎったのはケンさんへの連絡。でも、そんなことをする暇があったら、一人でも多く安全な所に連れて行きたい。

 

「手伝えないと思う人は逃げるか、せめてAEDを持ってきてください!!」

 

 この時ほど雄英の制服を着てて良かったと思うことはない。こんな高校生の言うことを、すんなり聞いてくれるから。でもヒーロー早く来て! 警察も早く! 

 

 怖くてギャン泣きする子供、鼻血を垂らす男性、子供を抱きしめて頭から血を流す女性、動けないおじいさん、助けてと泣くおばあさん。

 皆、横倒しになったバスの中から、有志によって外に連れ出されていく。力の足りない俺には女性か子供しか救えなくて、自分の力の無さが歯痒かった。

 

「ありがとう、雄英の子……」

 

 バスの中からおばあさんを俺に渡したおじいさんがそう言ってくれた。力が漲る。ここで俺が弱音を吐いて、どうすんだ!

 おばあさんを外に連れ出した俺は、駆けつけてくれたヒーローたちとバトンタッチした。おじいさんも連れ出したかったけど!

 

「まだたくさん中にいます!」

「分かってる! 君も怪我してまで頑張ってくれてありがとう! でも動けるなら応急処置を頼むよ!」

「はい!」

 

 アドレナリンがドバドバで気付かなかったけど、肩から血が滲んでいた。割れたガラスで傷ついたか。もう治ってるし、言われた通り、出来ることをしよう。

 

 頭から血を流している女性に近づく。こんなこともあろうかと、安いタオルを持っててよかった。

 

「これで頭を押さえてください」

「い、いいの? これ、あなたの……」

「5枚組の安いやつです。気にしないで」

 

 人助けに使われて、こいつもいい気分だろう。

 頭以外に出血のある怪我は無さそうだった。打撲はあるってことなんだけど。

 

「ねえ、どうしてこの辺りに雄英の子が?」

 

 遠いよね? と言う女性。良かった、余裕が出てきたみたいで。

 

「職場体験中なんです。俺は普通科なんで、体験先は消防署なんですけどね」

「そうだったの……」

「でも、ヒーローになるのを諦めた訳じゃないんですよ?」

 

 警察が近くで交通整備をしてくれている声が聞こえる。

 

「よければ、俺の“個性”の練習に、付き合ってくれませんか?」

「え?」

「昨日分かったんです。自己回復以外に、他者も回復させられる“個性”だと。でもまだ分からないことが多くて……。あなたの傷を、治してみてもいいですか?」

 

 どんな方法で治すか分からないはずの女性は、それでも躊躇いなく頷いた。

 

「お願い、妹を!」

「え?」

「お姉ちゃん、私、大丈夫だよ……?」

「そ、そう……?」

 

 美しい姉妹愛。この人が守った妹さんは傷一つない。何としても、この美しい人に傷を残してはいけない。

 

「それじゃあお姉さん。失礼します。目をつぶっていただけますか?」

 

 返事を待たず、左手で彼女の目を覆う。そしてすかさず彼女の口元に己のを近づけ、触れない位置で吸った。

 

「~~っ!!」

 

 頭をぶつけた衝撃を受けて、息を吐いて、すぐにそれを消した。

 左手をヘアバンドに持っていく。

 

「もう、痛くありませんか?」

「え? あ、はい! 痛くないです!」

「良かった……。なら、これで大丈夫なはずです。出血しましたし、一応病院にも行ってくださいね。俺は次に行ってきます」

「あ、ありがとうございました!」

 

 背中に投げられたお礼の言葉を受け止めながら、彼女から立ち去る。あまり、血は見せたくない。

 俺の行動を見ていたらしい男性が、「俺にも出来ないか」と声をかけてきた。割れたガラスで切ったか、腕には結構広くて深い傷が出来ていた。あれを見て頼んだのなら、覚悟の上だろう?

 

「お安い御用で」

 

 ただ、ちょっと違う方法をさせてもらおうか。

 

 4人を相手にして分かったことがある。

 口対口なら全身の傷を俺に移すことが出来るが、傷付近だと範囲が急に狭くなって、何度も傷を吸わないといけなくなる。時間はかかるし、自覚のない傷は見逃してしまう。だからって俺とキスまがいな事をしたい人はいないだろう。だからこの方法は有用だったし、急いで傷を吸う。

 

「大丈夫なのかい?」

「え?」

「血が……」

「あ、ああ……」

 

 一度傷を自分の体に移す仕様上、一瞬開いた傷口からどんどん血が流れてしまう。塵も積もれば山となる。たとえ傷つくのが一瞬だとしても、何度も開いてりゃ白い服は赤くなっていく。……ジャケットつけてたら良かったな。暑いからって脱いでたのが仇となった。

 

「食べて、休めば大丈夫です。ご心配、ありがとうございます」

 

 ちゃんと、笑えただろうか?

 次の重傷者を探す為に立ち上がろうとして、立てなかった。

 

「ほ、ほらやっぱり!」

 

 それでも、あの人を助けなきゃ。俺の目は意識の無い女性も捉えている。

 

「お、おい! もう無理すんな!」

 

 誰かが言った。でも、まだ試してないことがある。

 

「皆さん……怪我が治ったら、献血お願いしますね……。俺、O型なんで、そこんとこ……よろしく……」

 

 この方法がダメだと、俺が死ぬ。だけど。今やらなきゃ、あの人が死ぬ。

 

 体を引きずりながら、彼女のところへ向かう。近くにいる男性は恋人か。助けて欲しいが、俺を頼ってもいいのか迷っている。だから、笑って応えるんだ。

 

「大丈夫です。いいこと、思いついたんで!」

「……頼む!」

 

 俺の“個性”は、息を通じて自分の傷を黒いキューブに変えるものだ。他人の傷も一旦自分のものにした後、黒いキューブにしている。って事はさ、他人の傷も息から直接キューブに変換出来るはずだよな。

 

「失礼します……」

 

 口から血を流す彼女のそこに、俺のを寄せる。

 吸って、吐く。俺の中に黒いキューブが生まれた気配がした。

 なんだ、こんなに簡単だったのか。もっと早く気付きたかった。気が抜けて倒れそうになるのを、誰かが支えてくれた。

 

「もういい。君のおかげで、重傷者はいなくなった。もういいんだ」

 

 支えてくれたその人は、ヒーロー、ジーニアス。近かったのか。

 

「……まだ、いるんじゃ……」

「ありがとう。命に別状のある怪我人は、君のおかげでもういない。休むんだ」

「……はい」

 

 ジーニアスが言うなら、そうなんだろう。ああ、疲れた……。

 

「オイ! ヘアバン!!」

 

 え、なんでっ!?

 

「バクゴー、君……?」

「なんでテメェ、ここに──」

「と~~い~~!!!」

「うわっケンさん」

 

 やべー、ケンさん来ちゃったよ。これはめっちゃ怒られる。

 

「勝手に動くなっつったろ! その“個性”、まだ発覚したばかりで、限界も条件も何も分かっちゃいないだろ! それになァ!」

「分かってます……キケンな人が助かれば、俺、は、下がります……」

「そうしてくれ……」

 

 一応、救助をしたからか、本気の本気で怒っているわけでは無さそうだ。俺の肩を叩くと、ケンさんは優しく、頭をかき回してきた。血まみれになるよ?

 

 体力切れて使い物にならない俺は、安全な場所で放置された。休んどけってことかな。

 悲しいかな。聞こえてきた警察の話によると、事故の原因は犬の飛び出しだって。避けようとしたトラックが、運悪くバスとぶつかった。ああ、悲しい事故だ。

 

 怪我人は全員で30名。随時、病院に運ばれていくらしい。救急車が足りないもんね。軽傷者はパトカーやタクシーが協力して病院に連れていった。そして、本当に、命に別状のある人はいないらしい。……よかった。今日も、救えた。

 

「君が、助けてくれたんだよね?」

 

 声をかけられた。その人は、さっき助けた女性だった。

 

「意識、戻られたんですね。良かった」

「ええ。ありがとうございました。あなたがいなかったら……」

「いたんですから、そんなことは考えなくていいんですよ」

「……本当に、ありがとうございました」

「生きてくれているのが、何よりのお礼です。こちらこそ、ありがとうございます」

 

 それから次々と、俺に礼を言いに来てくれる人々。俺は“個性”の扱いの練習をしてただけなのに。でも、命と引き換えにしなくてもいい方法が発見出来て、すごく良い救助だった。こんなにもたくさん、救えた命があった。

 

 お母さん、俺、生きる意味を見つけられたよ。

 

 

 

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