傷吐き   作:めもちょう

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二十七話

 俺に礼を言いに来た人達も、救急車やパトカーで病院に運ばれていく。

 それを見送っていたら、後ろから声をかけられた。

 

「どういうことだ、ヘアバン」

「あ、バクゴー君。もう次の現場に行ったと思った」

「全員見送ってからだわアホ」

「そっか」

 

 ヒーローしてるな。ジーニアスから影響受けてるのかな。……それならお顔もそんな不機嫌にしないでクールにすましとけばいいのに。眉間に皺が寄りまくってるー! こわーい!

 

「で?」

「でって……。あ、“個性”の話? あのね、昨日分かったんだ! 俺、他人の傷も治すことが出来るんだって!!」

「それで調子に乗って、5人分の怪我を吸収したんだな。この未熟者め!」

「ケンさん!」

 

 よく見てみれば、ケンさん私服じゃん。別れた後、そのまま来てくれたのか?

 ケンさんはバクゴー君の方を見て自己紹介をして、労いの言葉をかけていた。バクゴー君が野次馬の対処してくれてたんだ。

 ありがたいなぁ。あの人たち、手伝えないなら避難してって言ったのに、聞いてくれなかったんだよね。

 

 仕事に戻るらしいケンさん。なら俺もついて行こう。バクゴー君がちゃんと「ありがとうございます」って敬語が使えることに驚きつつ、聞かれた“個性”の話を後でメールすることを口約束して、ケンさんについて行った。

 

「あ、まって、君!」

「はい?」

「そんな血まみれじゃ帰れないでしょ? せめて、ここで流していかない?」

「え、ここでですか?」

「『雨降らし』の“個性”でね、私。血まみれで帰るよりかはいいでしょ?」

 

 人命救助のお礼よって言って、声をかけてくれたヒーローが俺の頭上に雲を作り、雨を降らせてくれた。確かに、血まみれはまずいか。公共的に。上の服脱ごう。

 このヒーローさん、雨恋さんの親戚か、姉妹かな? ……でも、だとしたら、雨恋さんがあんな自信無いワケないよなぁ?

 雨越しにケンさんが言う。

 

「吐移。署に戻ったら、反省文な」

「えー!?」

「俺の監督外で“個性”使ったんだ。当然だろ」

「うっ……」

「止める奴が居ないとお前はすぐに死にそうだ。だから止めたんだ。反省してくれ」

「……はい」

 

 正直、反感しかなかった。でも、止めた理由が俺を心配してだと言われたら、文句は言えなくなってしまう。

 微妙な空気が流れた。

 

「もう血、流れたんじゃないかな? ……うん、大丈夫だね!」

「ありがとうございました」

「拭いたらいくぞ。走るからな!」

「はい!」

 

 そばのカバンからタオルを二枚くらい取り出して拭く。ヘアバンドも絞って付け直して、用意が出来たから走り出した。

 

 反省文は裏紙に、正直に書いた。

 使ったことに後悔は無いこと。“個性”使用で本当にダメなのは人に危害を加えることで、俺のしたことはその反対。だから法律を破っていないこと。そして、自分のしたことは他人に迷惑を、心配をかける、ヒーローを目指す者としてあるまじき行為であり、気遣ってくれたケンさんへの裏切りだったこと。その点は深く反省している。

 

 それらを言葉を増やして書いて、ケンさんに提出した。不貞腐れているケンさん。反省文の最初の方を見ている時は顔を顰めていたけど、最後は表情を和らげていた。なんか複雑そう。

 

「……最後のやつだけでよかったよ。あんまり、こんな文で人間関係に波風立てるなよ。めんどくさくなるからな?」

「はい」

 

 ケンさんが言うなら、態度を改めようか。そのケンさんが裏紙をたたむ。

 

「まぁ今回は、お前が迅速に対応してくれて、リーダーシップを取ってくれたから、救えた命や心が多かった。自分が犠牲になっても構わず傷を治したから救える命があった。大きな手柄を立てたお前に強くは言いたくなかったんだが……。今、俺はお前の保護者だ。お前に何かあったらって、心配なんだよ。だから、次からは、俺の目の届く範囲で使ってくれ」

「……すみませんでした」

「分かってくれたなら、それでいいよ」

 

 たかが職場体験中の責任者でしかないはずだ。スカウトだからか? だからこんなに大切にしてくれるんだろうか。

 ……でも、死に急いでる奴がいたら、止めたくなるものか。目の前で死なれたら……苦しいから。

 俺は、苦しい。今なら、手が届くから。

 

「で、どうなんだ?」

「え?」

「俺が目を離した隙に使った“個性”のこと。5人に使ったんだから、何か分かったことがあるんじゃないか?」

「ま、まぁ……。大発見がありました」

「マジか! ならそれ、雄英にも報告するべきじゃないか?」

「そ、そうですね」

 

 するべきか? でも、「一緒に考えてやるよ」って笑って誘ってくれるケンさんの好意に報いたくて、「ありがとうございます」と受け入れることしか出来なかった。それによく考えたら、バクゴー君にも報告しないとだしね!

 

「え、えっ!? 本当にそうなのか!?」

「はい。毒抜きの要領でいけます。だから、一々俺に傷を移さなくても他人の傷を治せます」

「うおおおおっ!! 強個性じゃーん!!」

 

 ケンさんが言ってくれた。

 

「お前はヒーローになったほうがいいな!」

 

 なりたい。認めてくれたからには、なりたい!

 

 雄英にメールを送ったら、10分くらいした後にマイク先生から電話かかってきた。

 

『おま、お、と、吐移! あのメールの内容、マジなの!? 俺ら教師陣パニックよ!』

「マジっす。こんなに早くレスポンスが来るなんてって今俺びっくりです」

『するする!! で、本当なんだよな……? いや、責任者も連名してるし、疑ってるわけじゃないんだけど、一応ネ!』

「うーん……どう証明したらいいですかね。また後で動画送りますか? ……心苦しいですが、花形さんに協力してもらって」

『い、いや、いいよ! なんなら俺が実験体になるから! エ、何イレイザー。……でも、あまり言いふらすなよ? ヒーローが守れない環境でお前に何かあったら、先生泣いちゃうから!』

「……ありがとうございます」

 

 何かあったらって、何を想定してるんだ。怖い。そしてそれを心配してくれて、嬉しかった。

 

「なるべく秘密にはします」

『使うなとは言えない、苦しい状況だァ……だってなぁ……』

「使わなかったら、それはそれで罪ですもんね」

 

 マイク先生も忙しいから職場体験が終わってから確かめるって打ち合わせして、電話を切った。そしたらすぐまた電話が来た。知らない番号だけど出てみたら、担任だった。

 

『なんで電話出ないんだ吐移! 心配したぞ!』

「すみません。マイク先生と電話してたので。被ってたんですね」

『そっか、それならいいんだが……』

 

 越壁先生も同じ内容で電話してきた。やっぱり大事件らしいな。他人を治癒出来る“個性”はとても貴重らしいし。雄英からの扱い、変わりそうだなぁ。

 

 

 

 変わるのは、俺の復讐計画もだった。

 

 そもそも俺の計画は、災害現場で見かけたら見殺しにするっていう、不確定すぎて計画とも言えないお粗末なものだ。で、俺の“個性”は、もう人を救える。届かないところにも手が届くようになった。届かせたくなかったところにまで、届くようになった。助けなかったらあまりに不自然だ。

 

 計画は破綻だ。

 

 破綻するのはそれだけじゃない。そもそも飽和気味の体の中の黒いキューブ。このまま人々を救っていたら、いつか溢れてバレてしまう。黒いキューブは俺から出て三日しか形を保たない。それも、ケースに保存して、他に刺激を与えないようにした場合の話。最初からビスケットくらい脆いから、他人に持たせたら大変なことになる。まず誤爆することは間違いない。

 

 なんで純粋に喜べないんだろう。隠し事してるからだ。

 どこかで使わなきゃ。監視の目が届かないところで。

 

 

 腹が痛い。

 

 

 

 

 バクゴー君が体験先から帰った頃を見計らって、夜、“個性”についてまとめたメールを送った。内容はこんな感じ。

 

・他人の傷も治せると気づいたのは職場体験初日。怪我人に人工呼吸をした際に傷が移ったことに気づいた。

・今日5人相手にして理解したのは、口同士でなくていいこと。傷を受けたいと意識しながら傷付近を吸うと、吸収出来る。

・一度自分に出現させてから自分の傷を治す為今まで血が流れていたが、毒抜きの要領で出来ないか試したところ、最後可能性を感じた。

・雄英に報告したところ、貴重な個性だから言いふらさないように、なるべく秘密にするようにとのことだった。君も言いふらさないでね。

 

 言いふらさないでねって書いたけど、個人の発言があっという間に広がる昨今、あの現場を見ていた誰かが、助けた人が、病院の人が言いふらしたら意味はない。俺も秘密にしてくれとは言ってなかったし。いずれどこからか話が広がるだろう。

 風呂から帰ってきたら、返信が来てた。

 

『災害救助の即戦力だな』

 

 ああああああああっ!?? 君そんなこと言える人だったのバクゴー君!? 意外っ! 圧倒的意外っ!! 好きになっちゃう!!

 そんなテンションを抑えつつ、返信する。

 

「本気でヒーロー目指していいかもしれないって初めて思えた。俺、リカバリーガールを目指すよ」

 

 近くに目標に出来る人が居るのは、とてもいい環境だと思う。

 

 

 

 その後四日間は、トレーニングをしたり、火事現場に同行させてもらったりした。

 正直、火事現場では動けなかった。煙に対して、俺は無力だった。何も手伝えなくて謝っていたら、「体験生に高度なことを期待してるわけはない。動きを見ていてくれていたら、それでいい。むしろ人命救助していた二日目が異常だったんだ」と言われた。でも、「“個性”に期待しているから、今回同行してもらった」とも言っていて、まだまだ未熟ながら、やけどを負った人の治癒を行わせてもらった。

 

 俺は欲深い。俺が全く出来なかった、火の中から逃げ遅れた人を救う行為が、消防車から放水して消火する様子が、とてもかっこよく見えて、俺も出来るようになりたかった。俺の“個性”だって、すごくいいもののはずなのに。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

「うん」

 

 そう、いいものなんだ。あれは技術。欲しけりゃ、身につけられるんだ。おっ、欲深くていいじゃーん!

 

 多くの収穫があった一週間だった。“個性”のことは当然だとして、事故現場での迅速な対応、協力出来ることが学べた。人命救助はただの一般人でも出来ることだ。ヒーローに頼れない場面で、俺のこの体験は活きるはずだ。

 ヒーローになれなかったら消防隊員になろう。ヒーローよりは、1cmくらいは広い関門だろうから。

 

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