傷吐き   作:めもちょう

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二十八話

 日曜日は職場体験が無かったから、提出する用のレポート書いたり、お母さんへの手紙を書いたり、あ、まず家に帰った。

 案外、移動時間がかかったから、今日まで体験じゃなくて良かった気がする。土曜日は最後にちゃんと挨拶も出来たし、うん。不足分は無いな!

 

 そして普通に戻る月曜日。朝から皆の顔に元気はあまりなかった。昨日まで体験だったのかな。それとも、慣れないことで疲れてるのかな? 俺だってそうだし。

 だからって笑顔を忘れないけどな!

 

「皆、おはよう!」

 

 いきなり大きな声が聞こえたからか、皆驚いてたけど、挨拶を返してくれた。

 近くの畳くんが言った。

 

「吐移、声、大きくなったな」

「あ。……へへーん、そうでしょ?」

「完全無意識だったな」

「バレたか。でも、それを目標にしてたし。いいでしょ?」

 

 まぁな、と、畳くんは笑った。

 そこに記見さんが「おはよー!」って元気に挨拶しながらやってきて、シンソー君の近くに行く俺の隣に立った。でも記見さんも大変だったのかな。ちょっと草臥れてる感じが出ちゃってる。俺も皆から見たらそう変わらないかも。

 

「吐移くん! 消防はどうだった?」

「有意義だったよ! 実際の事故現場に出くわした時はあまり動けなかったけど、これが現場の空気なんだなって、肌で感じたよ」

「現場に!」

「たまたまね。記見さんは? シンソー君と同じで警察だったんだよね?」

「警察だけど、市が違うから……。私は、現場はやっぱりヴィラン受け渡しだったよ。捜査はやっぱり参加させてもらえなかったかな」

「そっかー」

 

 “個性”のことはクラスメイトにも言えないから、火事現場の時のことを濁して言うしか出来なかった。記見さんはちょっと満足出来なかったのかな。

 

「シンソー君は?」

「俺も同じ感じだったかな。警察はやっぱり“個性”を使わせてもらえないからな。“個性”が腐る」

「やっぱりシンソー君はヒーローが似合うよ、アングラ系のさ。記見さんもそうだと思うんだけど、目指さない?」

「警察の仕事は犯罪者を捕まえるだけにあらず! 地道な捜査や犯罪抑止、市民から相談を受ける事も、警察の立派なお仕事なんだよ!」

「記見さんカッコいい!」

「……とはいえ、心操じゃないけど、“個性”使えたら最高なのに」

「絶対役に立つのにね」

 

 身体能力の一つとして見ている消防とは違い、警察はかなり厳しく“個性”の使用を禁止している。“個性”を使った捜査はヒーローにまかせっきりみたい。勿体無いよなぁ。

 

 予鈴が鳴って、先生が入ってきたから席に着く。

 今日から、いつも通りが再開する。

 

 昼休みになった。また久しぶりに、彼らに会える。

 

「じゃ! 俺バクゴー君のとこ行ってくるね!」

 

 記見さんは相変わらず、俺が彼らの所に行くことに良い顔をしてくれない。なんで嫌なんだろう。まぁいいや。

 いつも通り弁当を持って、俺はバクゴー君たちの所へ向かった。

 切島くん、上鳴くん、瀬呂くんとは違って、バクゴー君は今日、めっちゃ不機嫌だった。カツ丼に七味どんだけかけてんの? もう表面真っ赤よ?

 

「なんでそんな怖い顔してんの?」

「あ、吐移……。今あまり、触れないであげてくんね? 俺ら思い出し笑いしちゃう

「え、うん」

 

 最後なんか聞こえない声で言ってたけど、上鳴くんがそう言うなら、そんな気はなかったけれど、揶揄うのはやめよう。この感じだと職場体験の話をするのも駄目だろう。不機嫌なのはきっとそれが原因だから。えーっとえっと。

 

「ほ、保須市の……」

「吐移……」

「……俺の初体験、聞いてくれる!?」

「ばっ、なに暴露……イヤまず何してんの職場体験中に!?」

「ビッグマック初めて食べた!!」

「チョー健全!!」

 

 ヒーロー殺しの件も駄目だったかー。駄目って事は、ヒーロー殺し、ステインにやられてしまったヒーローの関係者がA組にいるのか。……そういえば、体育祭の時、飯田くんが早退してたな。彼のことだろうか。

 

「四人ともよくマック行ってそうな顔してるし、オススメ教えてよ。たまの贅沢に行くわ」

「マックが……贅沢……っ!!」

「るせぇやい!」

 

 そこで泣くフリすんな、上鳴くん! あ、瀬呂くんまで!

 

「俺はー、悪ぃけどビッグマックだな。でかいし、肉2枚だし。食べごたえがある方がいいな」

「お、やっぱり好きな人多いんだ。はぁ。切島くんだけだよ、教えてくれるのは」

「ちょいちょい!」

「俺らも教えるって!」

「じゃあなに? はい!」

「上鳴電気のオススメは、ダブルチーズバーガーです!」

「チーズバーガー二個買えるからダメ」

「ええっ!?」

「俺はえびフィレオだな。エビたくさん入ってて、思ってるより満足感あるぜ?」

「そうなの? 値段のわりにはサイズ……って思ってたけど、今度試してみるよ。ありがとう瀬呂くん」

「俺の扱いどうなってんの、吐移ぃ」

「バクゴー君は?」

「無視?」

「バーキン派」

「モスですらないの!?」

「ファストフードは一回食べると中毒みてぇに次も食べたくなっから気ィつけろよ」

「マジで? 君の口からそんなありがたい忠告が聞けるとは思わなかった! ありがとうございます!」

 

 あんだとテメェって睨まれたけど、やっぱり怖くない。いや、めっちゃ優しくない? 今の発言で俺、未来の金欠から救われたかもしれない!

 

「あ、そうだバクゴー君。プロテインバーより魚肉ソーセージの方が安くて筋肉にいいって聞いたんだけど、本当?」

「ア゛? ささみプロテインバーのほうがいいに決まってんだろ。魚肉より高ェケドな」

「よし、魚肉ソーセージをおやつにしよう」

「あ、値段とった」

 

 そんなこんなで、お喋りしまくった平和な昼休みでした。満腹満足!

 

 

 昼休みが終わって教室に戻ったら、記見さんに「勉強を教えて」って言われた。けど俺も自信があるわけじゃないから断らせてもらった。あっちでシンソー君が「攻略難易度高いな」とか言ってたけど、何の話だろう? いつ、ゲームの話してたの?

 

 

 日が変わって、火曜日の放課後。防音の放送室の一室を借りて、マイク先生との笑顔発声レッスンの時間のはずなんだけど、先生に平謝りされた。

 

「ごめん吐移! “個性”試させて!」

「あ、そういえばそうでしたね! 俺も忘れてました。やりましょう」

「あんがとー!」

 

 別に礼を言われることじゃない。有用性があるかどうか把握しときたいのが当たり前だと考えてたから。

 

「どうしますか? 機材の角に足ぶつけてみます?」

「めっちゃ痛いやつぅ! でもまぁ、いっか! それでいこう!」

 

 いいんだ? マイク先生はおもむろに放送機材に近づくと、重いそれの角に小指をぶつけた。

 

「~~~~っ!!」

 

 思ったより勢いよくぶつけてる。あれって骨折れてることもあるから、気軽にやっていいもんじゃないんだけどなぁ。

 

「た、頼むぜ、吐移!!」

「分かりました!」

 

 信頼してくれてるって解釈で良いのかな?

 

 打撲でも治せることは分かっている。だから、小指のこれも大丈夫だろう。蹲る先生を椅子に座らせ、靴下を脱がせる。ぶつけたのは右足か。それを掬いあげて、口を寄せる。……汚いものからは目をつむって逃げようか。

 吸って、吐く。

 いつものように、黒いキューブが体の中に出来たのが分かったから、これでもう大丈夫のはずだ。足を下ろす。

 

「先生、もう痛みありませ……何、顔隠してるんですか」

 

 気を使おうとしたのがバカみたい。そう思わせたのは、先生が顔を乙女みたいに両手で隠してたから。俺がそれを訊いてようやく、中指と薬指の間を開けて、こちらを伺ってきた。サングラスで目がどこ向いてんのか分かんないけど。

 

「いやぁ……絵面がアウト過ぎてなぁ!」

「え、絵面?」

 

 今の構図のこと?

 先生が椅子に座って、俺がその前に正座してる。で、先生の足を俺が持ち上げて、口、近づけ、て……。

 この格好は、まずい。

 

「誰も見てないな!?」

「監視カメラが見てるっ!」

「ぎゃあああっ!?」

 

 とんでもないものが映ってしまったじゃんかぁ!! 嫌だぁ!!!

 

「と、とりあえず、報告はちゃんとお願いしますよ!?」

「ま、まか、まかせとけっ!」

 

 発声練習どころじゃなかった。今日はもう、とにかく、この空間に長居したくなくて、俺たちは解散した。

 

 嫌すぎる1日の終わり方だ。今日くらい良い晩ご飯食べてもいいよなー。

 

 

 

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