傷吐き   作:めもちょう

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三十四話

 期末まで一週間に迫ったある日、今日も俺は弁当を持ってバクゴー君たちとお昼時間を過ごしていた。

 

「えっいいな切島くん! バクゴー君、俺も勉強会に入れて!」

「勝手にしやがれ」

「ッシャ!」

 

 話題はテスト勉強のこと。上鳴くんと瀬呂くんは同じクラスの八百万さんに教わるんだって。そして俺は切島くんと一緒にバクゴー君から教わることになった。やったね! 物理教えてもらお! 

 

「あれ? 心操から聞いたけど、吐移ってC組中間1位だったらしいじゃん。教えてもらう必要ある?」

「上鳴くん、さすがの情報収集能力だね……。応用でちょっとつまづいてて、そこ教えてもらえると助かるなって」

「なるほどなぁ」

 

 え、バクゴー君なんか引いてない? 本当だかんね!?

 上鳴くんがクリームパンを食べながら続けた。

 

「吐移はあの記見って可愛い女子と勉強会すると思ったけどなぁ」

「教えるのは苦手でさ。俺より下の学年ならいいけど、同学年はさすがに余裕がないよ。物理とか」

「俺の理系選択は生物だぞ」

「嘘だろバクゴー君!?」

 

 ねーえー、意味なくなっちゃうからー! キャベツ炒めの味が分かんなくなるー。切島くんは笑って励ましてくれた。こういう時、バクゴー君何もフォローしないよね。

 

「元気だせって吐移! それよりどこで勉強会する? ベタにファミレス?」

「金の無い俺をよくそこに誘えたな、切島くん」

「ごめんなさい」

「じゃあどこだよ。図書館は喋れねえぞ」

「うーん……」

 

 どうしよう、呼んでもいいのかな。

 

「俺ん家、友達呼ぶなって言われてんだよなあ」

「じゃあいっそ、教室でやる?」

「机が動かせねぇし、狭ぇだろ」

「そっか」

 

 他に無いなら、ダンボールも片付いたし、黒いキューブを入れてる箱はクローゼットに隠してるし……多分安全。誘っても大丈夫かな。

 

「……俺の家来る? 一人暮らしだし、まぁまぁ広いよ」

「は?」

「へー、広いんだ?」

 

 なんでバクゴー君驚いてんの? え?

 

 

 今日は月曜日。バクゴー君たちとのトレーニングの日だ。始める前にバクゴー君に昼のことで説明を求められたから、切島くんも連れてきつつ、上鳴くんと瀬呂くんを置いて少し移動した。

 これはまだ秘密にしてたい話だから、小声で話す。

 

「情報解禁していいって許可降りたから二人には言うけど、あんまり人に言わないでね? 実は俺の“個性”、『他人の傷を直すことが出来る』“個性”でもあったんだ。治癒系の“個性”はとても貴重だからって、今俺、雄英に保護されてる形でさ」

「マジかよ、すげーな!」

「手のひら返しがな」

「は?」

「バクゴー君!」

 

 それ知ってる生徒はバクゴー君だけなんだよ! もしかしたら俺より、先生から話を聞いて知ってるかもしれないけどさ! 切島くんが興味持ったらどうすんの! 切島くん気遣い出来る男だから、色々気にしちゃうから! 教えちゃダメだよ、俺が雄英からまだ警戒されてること!

 

 

 

 約束の日曜日。俺は集合場所である雄英の校門前まで歩いた。着くとすでにバクゴー君と切島くんの二人は来てて、待たせていたことに気づいた。

 

「おはよう! 少し遅くなってごめん!」

 

 何か話してたみたいだけど、なんだろう。まぁでもそれよりも案内しなきゃね。切島くんが手を挙げて応えてくれた。

 

「おはよう! 今日はよろしくな。お菓子買っといたぜ!」

「わあ、ありがとう! じゃあ早くいこっか!」

 

 お茶はあるけど、お菓子は忘れてたなぁ。普段食べないから。

 じゃあ案内しよう。二週間前に引っ越したばかりの新しい家に。

 

 マンションの前についた二人は、見上げて呆けていた。気持ちわかるよ。俺だってまだ信じられてないから。

 

「は~~~~……」

「すげぇな、雄英」

「俺にはもったいないよねー」

 

 ザ・高級マンションに入る。フロントにはコンシェルジュがいて、二人はそれにも驚いてた。エレベーターを呼び出しながら、「朝だから静かにね」と口元に人差し指を寄せた。

 一階に降りてきたエレベーターに乗り込む。このエレベーターもまぶしい位に綺麗なんだよな。

 

「いい思いさせて、ヴィランにさせないようにしたいのかもなー」

「なんでそんな後ろ向き? ま、怪しむ気持ちも分からないでもないけどな」

「20階か」

「うん。たまたま空いてたって」

「高いなぁ」

 

 エレベーターにはバリアフリーの為にでっかい鏡が付いている。こんな、金色もあしらわれているようなキラキラしたエレベーターに、ヴィラン顔の貧乏人が乗っている。毎回不釣り合いだと思いながら乗るのは心に来るものがあるから、気にしないようにしている。

 家に案内したら、切島くんに「さすがに角部屋じゃないか」って言われた。流石にね。

 

「それは贅沢すぎでしょ! さあ、いらっしゃいませ」

「お邪魔します」

「しゃっす」

 

 家の中に入っても二人は落ち着かなかった。しきりに辺りを見渡して、絶句していた。大理石だもんな、分かるよ。でも一々それに付き合っていたら時間がなくなる。

 

「そこのテーブルでやる? それとも、地べたになるけどそっちの机でやる?」

「こ、こっちのテーブルで」

「分かった。席に着いて待ってて。今お茶出すから」

 

 冷蔵庫に向かうけど、後ろから「……部屋いくつあるんだ」「絶対単身者用じゃないな」とか言ってるのが聞こえた。

 

「ヘアバン、トイレ借りるぞ」

「いいよ。玄関から見て左手の、二つ目の扉のとこだよ」

「おう」

 

 切島くんはテーブルにお菓子を広げてくれていた。つまみやすそうな個包装タイプ。手が汚れないから、勉強やりやすいね。小さいゴミ箱持ってこよう。

 

 家具は殆ど雄英に用意してもらった。このマンションに釣り合ういいものだけど、食器類は俺個人のを持ち出してきた。だからこの普通の麦茶が入っているコップは、普通の100均のガラスコップだ。切島くんがホッとした顔になってくれた。お、バクゴー君も戻ってきた。バクゴー君も心なしか肩の力が抜けた様子だ。

 

「なんか安心したわ」

「立派なのは家だけで、俺自身はまだ貧乏人だからね。食費は自分持ちだし!」

「そっか!」

「じゃあ勉強始めっぞ」

「あ、その前にいい?」

「なんだよ」

 

 切島くんの隣に座る。これを話すのは少しドキドキするなぁ。でも話したいんだよねー。

 

「実はさ、俺、君たちの期末実習の関係者になったんだ。よろしくね!」

「は?」

「なんでっ!?」

「ははっ、さっきも言ったでしょう? “他人の傷を治す”って。ヒーロー科の演習、絶対怪我人出るでしょ? だから、リカバリーガールの補助として、君たちを見守ります!」

「すげーじゃん!」

「マンションの対価か」

「足りない……もっと利用してくれていい……」

「だから」

 

 切島くんにまたマイナス思考になるなよって慰められた。ついでにチョコも渡された。嬉しい。

 

「何と言うか、まあ、バクゴー君。合わない人とグループを組むことになっても、協力して頑張ってね!」

「……入試の時と、内容変わんのか」

「そこまでは知らされてないけど、確実に難易度上がってそうだし、協力プレイはプロもやってることだから評価の対象でしょ! ……とりあえず今は、普通科目の対処から始めようか」

 

 本当に演習内容は教えられてないから、俺の役割を話しただけなら、まあ大丈夫でしょう。だから普通に試験対策していこう。物理は昨日、先生にちょっと教えてもらったから、大丈夫な、はず。

 

 数学を少し教えてもらっただけで、基本的にはバクゴー君が切島くんに声を荒らげながら教えていた。うるさいだけで暴言ではないから大丈夫、だよね? 切島くんが時々こっちをチラ見してくるけど、その視線に気づくたび、俺は首を振ることしか出来ない。教えるのは苦手だから……。せめて一口ウエハースを差し出して、バクゴー君の口を乾かさせて少しでも黙らせることしか、協力出来ない。

 

 ふと時計を見ると、十一時半を過ぎていた。そろそろお昼ご飯の時間か。二人共弁当はもってなさそうだし、元々準備はしてたし、俺が作ってしまおう。オムライスの気分だな。

 

「昼ごはん、オムライスでいーい?」

「手作りっ!?」

「ラーメンで」

「ムリ」

「じゃあ訊くな」

「いや、あの、爆豪さんや……」

 

 インスタントラーメンとか昨日で食べ尽くしたし、客人に出せるものじゃない、と貧乏人でも思う。ラーメンスープの素みたいなのはまた今度買う予定だったし、えっと、中華麺は残ってたはず。これで焼きそば作って、上に薄焼き玉子を乗っければいいね。弁当用に常備してる、ざく切りキャベツと短冊切り人参、スライス玉ねぎがあれば、野菜は十分かな。肉は鶏肉しかないからそれ一択で。焼きそばソース買ってて良かったー。

 

 

 

「あとは玉子を乗っけてっと……」

 

 出来てから気づいたけど、これ緩く焼いたほうが良かったかな。お店っぽかったよな、その方が。まぁいいか。

 

「二人共、料理運ぶの手伝ってー。あとカラトリーも自分で取ってね」

「うまそーな匂い!」

「そ、そう?」

 

 わー、料理褒められたの久しぶりで、ちょっと恥ずかしー。

 

「いただきます!」

 

 味見もして分かってたけど、うん、悪くないな。

 

「すげぇな、吐移って……」

「美味しい物って、幸せになるからね」

 

 バクゴー君も文句言わないし、美味しかったってことだと思おう!

 

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