傷吐き   作:めもちょう

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三十五話

 勉強の甲斐あり、期末の筆記試験は手応えばっちりだった、物理も、まぁ、悪くはないんじゃないかな。なんか記見さんは顔を青くしてたような気がするけど。シンソー君はやりきったって顔してたけど。畳くんは「赤点さえ逃れればいいや」って言ってた。いやいや、ここ進学校。

 そして普通科がいつも通りになる頃、ヒーロー科は演習試験を迎える。俺は特別にこの演習の裏方として参加することになっている。全ては“個性”のおかげだ。ヒーローに近づけると前向きに受け取るべきだろう。

 

 俺が待機しているこのテントは、“リカバリーガール出張保健所”。今日の俺の活動場所だ。数多くの液晶が並ぶ暗いテント内。俺の隣に座っているのは、テントの名前を冠したこの人。

 

「さて……今日は激務になりそうだ。改めてよろしくね、吐移正くん」

「よろしくお願いします、リカバリーガール!」

 

 俺が目標とする先生だ。

 俺のすることはリカバリーガールの補佐だけじゃない。先生から課された、「ケガの治療程度の調節」という課題をこなす必要がある。他人を回復させる方の“個性”のやり方には二つある。

 

・口対口なら全身に効力がある。

・口以外なら患部に自分の口を寄せる必要がある。

 

 このどちらも、俺の吸う息の量によって傷の治る程度が変わるのだけど、まだ俺はその調節が上手いわけではないんだ。ちなみに実験体はマイク先生か、担任の越壁先生。引っ越してから結構な頻度で実験に付き合ってくれてる。ナイフで腕切るの、毎回怖いはずなのに、ありがとうございました。それでも下手で、ごめんなさい。

 

「くれぐれも、治し過ぎないようにね」

「自己治癒能力を失わせないように、ですよね」

 

 だからこそ、今回は頑張りましょう!!

 

 たくさんある液晶にはそれぞれ、二人一組にされたA組の人たち、そしてヴィラン役の先生が映し出されている。演習内容の説明を受けているようだ。

 今回の演習試験は例年の対ロボット演習ではなく、二人一組で一人のヒーローを相手にするもの。勝利条件は「ハンドカフスを先生に掛ける」か、「試験者どちらか一人がステージから脱出」すること。先生側には体重の約半分の重量の超圧縮おもりを装着するが、それでも先生は生徒より当然格上。マイク先生に至っては、動かずとも相手出来る“個性”、『ヴォイス』だから、関係無いんじゃねぇの?

 先生をヴィランと見立てての演習。戦ってカフスを付けるか、ステージからの脱出を試みるか。相手になる先生や試験者本人の“個性”によって、その選択肢は変わるだろう。

 

「それじゃ、見ていくかね」

 

 頃合いを見たリカバリーガールがマイクの電源を入れた。

 

「皆、位置に着いたね。それじゃあ今から、雄英高一年、期末テストを始めるよ! レディイイ──……ゴォ!!!」

 

 三十分の、長い試験(たたかい)が始まった。

 

 リカバリーガールのコールで、先生たちの雰囲気がガラリと変わる。画面越しでもそうなのだ。直に体験するA組はもっと感じていることだろう。

 

「先生たちの雰囲気が変わった……?」

「そりゃそうさね。教師陣も、生徒たちを全力で叩き潰すつもりさ」

「……怖い、ですね」

「将来的にもっと凶悪で最悪なヴィランと毎日のように相手するんだ。これくらい当然さ」

 

 ……俺に、その覚悟はあるか。違うな。今から、決めろ。

 試験を受ける皆は、先生から隠れたり、逃げて戦闘を避ける動きをしている。

 

「今回の相手は先生だから、“個性”の把握はある程度出来ますね。今はとりあえず距離を取って、自分や相棒の個性の相性だったり、相手の弱いところを突く作戦を取れるか、それともそうではないと判断して応援を呼びに行くか。なんかを話し合わないとですね」

「分かってるじゃないか。そう。この試験で見ている項目の一つには、コミュニケーション能力があるよ」

 

 画面を見て素直に思ったことを口から出したら、リカバリーガールに褒められた。やったね!

 

「この社会……ヒーローとして地味に重要な能力。特定の相棒(サイドキック)と抜群のチームプレーを発揮出来るより、誰とでも一定水準をこなせる方が良しとされる。となると、あの二人は──」

「バクゴー君……」

 

 だからこそ、俺でも分かるからこそ一層不安なんだよな。バクゴー君、緑谷くんチームは。

 市街地マップで堂々と歩くバクゴー君と、その後ろを不安そうに、声をかけながら歩く緑谷くん。全く話を聞く気がなさそうで、俺との喧嘩の後もまた仲が悪くなってそうで嫌だった。

 

「音声も聞けるよ。聞くかい?」

「……いえ、大丈夫です」

「そうかい?」

 

 せっかく、ルール違反にならない程度にヒントを出したのに、まるで効果が無かった。わざわざグループを組ませてるんだから、一人で勝てるような内容じゃないって分からないのか!?

 

「! うそ……」

 

 画面の中のバクゴー君が籠手で緑谷くんの顔を殴りつけた。緑谷くんは君と話し合おうと一生懸命だったのに! 苦手だろうと、試験だからと割り切って話し合おうとしたのに! こんなんじゃあ……。

 

「チームワークなんて、無いも同然だ……」

 

 そう零した瞬間、バクゴー君たちがいた道が吹き飛んだ。周りの建物も当然のように壊れ、吹き飛び、それによって緑谷くんは尻餅をついた。

 

「最悪のチームだね」

 

 オールマイト(脅威)が現れた。

 

「あんなパワーが……てか、建物!」

「ヴィランがそんなこと気にするもんか。さて、どうするかね」

「……」

 

 あんなのが相手になったら、俺なら逃げ一択だね。現に緑谷くんはオールマイトの威圧感に圧倒されている。それに対してバクゴー君は無謀だ。自分に襲いかかってくるオールマイトに閃光弾(スタングレネード)を食らわせ、立ち向かう。顔面を掴まれても爆破の連打で少しでもオールマイトにダメージを入れようとしている。顔を掴まれたら、俺なら怯んで剥がそうとするだろうから、その根性は見習いたい。普通に怖くない? あ、投げられた。

 緑谷くんは逃げていたところを回り込まれて、また逃げる為に後ろに飛び跳ねたけど、爆破で飛んでいたバクゴー君と空中でぶつかって墜落した。どこまで息の合わない組なんだ。オールマイトに気圧されて逃げ出そうとした緑谷くんも、話を聞かないバクゴー君も、どちらも悪い。

 

「勝つことだけが条件じゃないのに……。バクゴー君、何か焦ってる? 緑谷くんがいるから……?」

「そうかもしれないね」

「落ち着いてくれ……頭いいだろうが」

 

 二人はまたなにか言い合うけれど、緑谷くんはオールマイトにガードレールで地面に押さえつけられ、バクゴー君は見えない速度でみぞおちに拳を叩き込まれ、吐きながら何mも吹っ飛ばされた。俺ならどうだ? 少なくとも、吹っ飛ばされた後は吐かないか? 痛みで気絶して終わりか? 

 

「ここまで、かね」

 

 立ち上がるバクゴー君。でもフラついて、とても戦えるような状態じゃない。画面に映し出される表情だって、全然、立ち向かう男のそれじゃない。オールマイトはそんなバクゴー君に向かい語りかけていたけれど、それも短かった。

 トドメを、刺される。

 

「あ!!?」

「おや」

 

 バクゴー君の諦めきったその横顔に、いつの間にかガードレールから抜け出した緑谷くんが拳を入れて、吹っ飛ばした。まるでバクゴー君の諦めの感情まで吹っ飛ばしたかったみたいに。

 

「緑谷くんは、まだ諦めてない!」

 

 

 

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