傷吐き   作:めもちょう

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三十六話

 緑谷くんはバクゴー君を殴り飛ばした勢いそのまま、彼を抱えて、カメラのない裏路地へと姿をくらませた。そうだね、逃げるのも戦略だ。でも、それだけじゃないはずだ。

 

「さて、二人はそのままゲートへ向かうかな?」

「俺は、立ち向かうと思います」

「なぜ?」

「……前に、バクゴー君から聞きました。彼は、『オールマイトみたいになりたい』と、言っていました。それって彼にとってはきっと、“絶対に勝つ”ってことだと思うんです。差がありすぎるなら、一矢報いるくらい、するはずです」

「なるほどね」

 

 彼の目指すヒーロー像は“勝つ”ことなんだ。俺の想像だけど。

 俺はオールマイトを“救う”人だと思っているから、同じ人を見ていても違う解釈が出来るっていうのは面白いなって思うのと同時に、オールマイトはいろんな要素を盛り込んだヒーローなんだと、だから最高のヒーローで、オールマイティーで、“平和の象徴”なんだなって思った。二人は、そんな人を相手にしているのか。

 すごい、な。

 

 画面にはゲートに向かっている様子のオールマイトが映し出されていた。カメラも二人を追えていないんだね。オールマイトの走るその背中に、バクゴー君が爆破で浮きながら飛び出してきた。

 バクゴー君はオールマイトを爆破で目くらましすると、何か大声を上げる。そしたら、オールマイトの背後の煙の中から、緑谷くんが出てきた。彼の右腕には、バクゴー君の籠手が装着されている。飛び出したバクゴー君は陽動だったか! 

 

 緑谷くんが籠手のピンを抜くと、バカでかい爆破がオールマイトに向かって放たれた! そんな機能があるんだね、その手榴弾型の籠手! 撃った場所も、最初にオールマイトが壊したところ。被害が増えた訳じゃないのが、また凄いな。二人はオールマイトが動けない間に離れていった。

 

「すごいな……」

「そうだね。でも、この子らばかり見てちゃ勿体ないよ。他にも目を向けてごらん」

「はい」

 

 確かにそうだ。この二人はおそらくこのまま逃げるだろうし、切島くんも上鳴くんも気になる。

 このチーム勝ったな。他のチーム見てくるわ。

 

 切島くんは砂藤くんと組んで、相手はセメントス先生。“硬化”と増強型、どちらも次々と現れる壁を壊すだけで、本体のセメントス先生には辿り着かない。この様子だと、消耗戦に二人は弱いのかな? 確かに体育祭で切島くんがバクゴー君に負けたのも長期戦だったから。だからセメントス先生が当てられたのかもな。

 一方上鳴くんは芦戸さんとチームか。二人は廃工場的なフィールドを舞台に、根津校長が仕掛ける連鎖ゲームのような建物破壊の前に“個性”を使えず、翻弄されている。校長えぐい。

 

 そちらに目が行っている間に、最初の条件達成チームが出たみたいだ。リカバリーガールがマイクをオンにした。

 

「報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム!」

「その二人は、特に怪我もなさそうですね」

「それに引き換え、緑谷チームは大変そうだ」

「うわっ!? 何があった!?」

 

 相澤先生を布でぐるぐる拘束した轟・八百万チームには目立った傷が無いのに、対するバクゴー君たちはもう悲惨だ。緑谷くんは左腕を掴まれて地面から足が浮いてるし、バクゴー君は逆に地に落とされて、腰あたりを踏まれて動けなくなっていた。

 

「籠手も無い」

 

 両方とも壊されたのか。もうあのバカでかい爆破は使えないってことだ。今度こそ、諦めるか? いや、君はきっと立ち上がるだろう。君はタフネスなんだから! 

 

 投げ捨てられた緑谷くん。余裕そうなオールマイト。その真下からバクゴー君が大爆破を起こした。その衝撃でオールマイトが浮き、バクゴー君は解放され、彼は倒れている緑谷くんを爆破を使って投げ飛ばした。その先はゲートだ。でも!

 

「あれ人の体だぞ!」

 

 人が飛ぶ爆破の威力とか絶対凄まじいし、しかもゴールするどころか、オールマイトが超スピードのヒップアタックで緑谷くんを撃ち落としたし! 痛さがすごい!!

 

「ありゃ、腰がいったね」

 

 地面を跳ねて転がる緑谷くん。でもヒップアタックの反動でまだ浮いたままのオールマイトにバクゴーくんの特大火力がお見舞いされる。だけど、あんなの何度もやっていたら。

 

「手、絶対焼けてる」

 

 しかしもう一度撃つじゃないか。オールマイトはさらに地面から離れていく。だがそれに意味はあるのか? 宙に浮いた状態からヒップアタック決めるような人だぞ。緑谷くんはゴール出来るか? ああ、思った通り、オールマイトが緑谷くんをめがけて……っ!?

 

「っ!! バクゴー君!」

 

 オールマイトの狙いは、ゲートに向かうに緑谷くんじゃなく、緑谷くんを狙うオールマイトを狙った「バクゴー君」だったんだ! 裏をかかれた!

 

「頭を打たれた! ……えっ!」

 

 落下の勢いを利用されて、頭を打ち付けられたバクゴー君だったが、自分の顔を掴むオールマイトの腕を爆破し、抵抗の意思を見せた。

 

「でも、弱い……」

「爆豪はここまでかね」

「そうです、ね……」

 

 見ているこちらですら諦めるこの状況。抵抗の弱いバクゴー君にトドメをさそうと腕を振り開けたオールマイトの顔面に、突然拳が入れられた! 

 

「ええっ!?」

 

 拳を入れたのは緑谷くんだった。ゲートに向かってたんじゃないの!? バクゴー君に気を取られた隙を狙ったのか!? いや、もっと単純な理由か!?

 バクゴーくんを回収した緑谷くんは、どうやら気絶しているらしくてぐったりしているバクゴー君を抱えて、二人でゲートをくぐった。

 

「すごいなぁ……どんな状況でも勝つことを諦めない。そして、助けにいく。……ヒーローだ」

「じゃあ、そのヒーローたちをお迎えしようじゃないか。あの子らの相手は大変だよ」

「それでも、やり遂げてみせます」

 

 

 

 そのヒーローたちが来る前にこちらに来たのは、最初の条件達成チーム。轟くんと八百万さんだった。言うて傷があるわけでもなく、わざわざここでじゃなくて校舎の方のベッドで休んでもらった方がいいだろう。そうリカバリーガールが伝えている間、どうやら轟くんの興味は俺に向いていたらしい。それも「リカバリーガールの補佐で居ます」って言ったら無くなってしまったけど。八百万さんは俺が口を開くまで存在に気付かなかったみたい。考え事してたのかな? 俺は見てなかったけど、さっきの試験の中で自分で課題を見つけたんだろうな。反省出来る人ってかっこいいや。

 とりあえず二人は相澤先生に連れられて、校舎に向かっていった。合格おめでとう。

 

 

 

「さて、これから問題児二人が運ばれてくるよ。吐移、あんたは緑谷をお願いね」

「俺が、緑谷くんですか? 分かりましたけど、理由を聞いてもいいですか?」

「私の“個性”は相手の体力に依存する。気を失っているだろう爆豪はいいとして、そうじゃない緑谷をさらに疲れさせるのは酷だろう。だからね」

「なるほど、分かりました。彼の方がボロボロそうですし、いい練習相手になってくれそうです」

 

 “個性”の練習もそうだけど、使うときにエロさを感じさせないようにもしないとな。マイク先生に指摘されたときはマジで恥ずかしかったし。よし、頑張ろう。俺の本番はこれからだ。

 

 数分後、オールマイトが疲弊したバクゴー君と緑谷くんを抱えて連れてきた。やっぱりバクゴー君は気を失っている。

 格上すぎる相手に、自分の信念曲げてまで、よく頑張りました。

 

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