傷吐き   作:めもちょう

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三十七話

 オールマイトの手によって、出張保健所のベッドに寝かされたバクゴー君と緑谷くん。どっちもボロボロだなぁ。

 寝かされてようやく、緑谷くんは俺に気付いたらしい。

 

「君……」

「C組の吐移。喧嘩の時ぶりだね。今日はリカバリーガールのお手伝い兼、俺の“個性”練習だよ」

「あんたの処置はこの吐移に任せてるからね」

「そういうことで、よろしく!」

「うん、お願いします」

 

 彼をうつ伏せに転がして、腰を持ち上げるようにして寝かせる。よし、始めよう。

 

「これから始めるけど、一つ謝っとくよ。俺の“個性”はリカバリーガールと大差なく、『口を近づけて吸う』ことで発動する。謝ったから、もう文句言わないでね」

「わ、分かったよ」

 

 なんか嫌そう。緑谷くんってよく怪我するらしいし、よくリカバリーガールのお世話になっているんだろう。ははっ、顔を近づけてくるのがおばあちゃんと同級生男子って、確かに嫌だろうね! 俺だって嫌だ!

 

「態度に出てるよ!」

「すみませんっ!」

 

 嫌なのがバレて怒られちゃった緑谷くんでした。

 

「まずは頭から。影響があると怖いし、ここは念入りに吸い取るよ」

「はい」

 

 上にしている左側頭部辺りに口を寄せて、「受け取りたい」と思いながらその部分を吸う。それをすぐに吐き出すと、体の中にキューブが出来た感覚がして、“個性”が上手くいったと自覚する。もう一度吸って吐けば、新しいキューブが出来た感じはしなかったから、頭の方はもう大丈夫なんだろう。

 

「フゥ……。次は背中と腰。ここからは、自己治癒能力に任せる為に少しダメージを残すからね」

「あ、はい……」

 

 ここからが本番だ。調節を頑張れ。

 ケガの大きさと吸う息の量は関係ない。どれだけ傷が深くても俺が100の量を吸えば一発で治るんだ。範囲は小さいし、怖いから何度も吸って確認はするけれど。100%の量を吸うか、50%の量を吸うかで治る傷の程度が変わるっていう仕組みなんだよね。傍から見れば、何度も吸ってるから傷の深さも関係してるって勘違いされそうだけど。

 今やりたいのは、70~80%の力で吸っていくこと。背中・腰・腕・手・足。後で痛みがあるかどうか聞かないとな。“触ると痛いけど、慣れれば別に”程度にまでにしたい。しかし緑谷くん、もぞもぞ動くのは止めてほしい。また恥ずかしくなるから。

 

「なんだか、エロいね!」

「オールマイト!?」

「人が気にしてることを!!」

「あ、気にしてたんだ。ごめん」

 

 いきなりなんだよオールマイト! 黙ってたんだから、最後まで黙ってて欲しかったなぁ!

 ガルルッと心を獣にして唸っていると、失言だったかと焦るオールマイトがHAHAHAと笑いを零しながら頬を掻いていた。お茶目そうに振舞ったって、誤魔化されないぞ。

 

「いやぁ、もっと全体的に効果が出せるといいね! 例えば意識を全体にするとか。回数も減らせるし!」

「確かに……。ご教示ありがとうございます。他にありますか?」

「う~ん、セクシーさを下げる為に、吐くときは“ペッ!”ってしてもいいかもね。今の吐き方だと、アンニュイな横顔がセクシーに見えちゃう人もいるかもしれない!」

「なるほど……緑谷くん、他に痛むところは?」

「え? え~っと、肩と、ほっぺた、かな」

「わかった!」

 

 教師になりたてとはいえ、現役プロヒーロー。そのアドバイスは参考に出来ると思って、早速緑谷くんを実験体にしてやってみる。にしてもアンニュイな横顔って、この女顔寄りのヴィラン顔がセクシーに見えたら、それはそれでなんか……。まあいいか!

 緑谷くんの右肩に口を寄せて、吸って、ペッて吐いた。なるべく力強く。これでどこを吸ってもエロくなくなるはずだ! 足先でも大丈夫だろうね! 

 ほっぺの方も吸って、ペッと吐く。緑谷くんももぞもぞしないから、これ大正解だね!

 

「オールマイト! 確かにこの方法なら、エロくないかもしれません!」

「うん! 私から見ても大丈夫だった!」

 

 オールマイトが親指立てて喜んでくれるから、俺も親指を立てて喜び返す。きっと緑谷くんもって思って見たら、なんか悲しそうな顔してた。

 

「吐移くん……それ、少し、傷ついた……」

「なん……だ、と……!? 傷を治すはずがっ!?」

 

 思わず膝から崩れ落ちる。でも仕方ないだろう!? 俺の目指すヒーロー像は、“傷を治し、広げない”ヒーローだ。なら今のは、俺の目標と相反するものになってしまう! あー確かに、女の子は嫌がるかも。……いや、俺が“個性”を使う時点で嫌がられそうだけど。

 失敗は成功の基。これも糧にしていきましょう。

 

 リカバリーガールに処置を受けたバクゴー君はまだ気を失ったまま。彼はオールマイトに抱えられて、校舎に送られていった。

 

「──だとすると、吐移くんの個性はリスクが少ない。素早さで言ったらリカバリーガールに軍配は上がるけれど、その後の消耗を考えると吐移くんの方が負担が少ない。一体どんな仕組みで──」

「緑谷くん、口に出てる」

「ご、ごめん」

「考察よりも、皆の戦い見ようよ。こんな機会、めったにないんだろう?」

 

 緑谷くんって独り言多い人なんだなぁ。俺も一人暮らしするようになって独り言が多くなったけど、あんなにはなりたくないかな。あんまり考えてること、監視してる人にバレたくないし。一層気を付けなきゃ。

 後、俺の“個性”の考察をされたくない。

 

 

 拘束されても黒影によりカフスをかけることに成功した蛙吹・常闇チーム。

 虫へ命令を出し、マイク先生を討った耳郎・口田チーム。

 穴ぼこだらけのステージを何とか逃げた飯田・尾白チーム。

 索敵対決を勝ち取った障子・葉隠チーム。

 吸い込まれそうになりながらも、13号先生にカフスを付けることに成功した麗日・青山チーム。

 そして、“モテたい”をいう気持ちで勝利をもぎ取った峰田・瀬呂チーム。

 

 こんなふうにクリア者が続々と出てくる中、昼ごはん組の動きはよろしくなかった。切島くんたちは相変わらずセメントス先生の壁で詰んでるし、上鳴くんたちは逃げ道塞がれて追い詰められている。クリアしたけど瀬呂くんは寝てる。え、あ、あの……。

 

「タイムアップ!! 期末試験、これにて終了だよ!!」

「バクゴー君以外の、俺の友達……あの……」

「せ、瀬呂くんはクリアしたじゃない!」

「あのチーム、戦ったのは峰田くんが9割じゃん……合格なの?」

「……」

 

 自分で言っといて絶望だ。

 試験終了後、出張保健所に来たのは、耳郎さん、飯田くん、尾白くん、峰田くんと、条件未達成の四人。

 一番最初に来たのは耳郎さん。耳たぶからジャックが生えていて、それが“個性”なんだろう。そんな大切な耳から血が出ていて、痛々しい。俺が居る理由を話したら、彼女はこう言った。

 

「へぇ、あんた“個性”進化したんだ? 私にやってみてよ」

 

 思い切りのいい人だなぁ!?

 

「耳郎さん!? いいの? リカバリーガールより直接的に顔を近づけちゃうんだよ? 俺男だよ? 気持ち悪くない?」

「それが条件なら、しゃーなしっしょ。ほら、耳痛いんだから、頼むよ」

「う、うん」

 

 俺より男らしいなあなた。体に触れないように、正面から左右にそれぞれ、顔を近づけて吸って吐く。ペッっていうよりは丸い息を勢いよく吐き出すイメージで、フッと吐く。ちゃんと課題をこなすことも忘れない。

 

「ん~、少し、違和感……」

「リカバリーガールに言われて、手加減の練習してて。手加減は出来たし、今で完璧に治す?」

「頼むよ! あんたの目的も分かるけど、痛いのは嫌だからさ」

「了解」

 

 もう一度同じようにする。今度は100%の力で吸う。ここでさっきと同じ70%の力でやると、また30%が残ってしまうから。この辺りはめんどくさい“個性”だ。……緑谷くんの視線が気になる。

 芦戸さんを治す時、「出来るなら体育祭の時も治してくれて良かったじゃん!」と言われたが、「その後で分かったんだよ」と苦笑で躱すことしか出来なかった。お詫びに100%の力で治そうか。男子? 男子は絆創膏があるくらいがいいでしょ。戦った勲章だよ。

 

「野郎に唇近づけられるのなんて、ごめんだね!!!」

「あ、そう」

 

 男と老婆を天秤にかけて、老婆をとったくせに、峰田くんは「どっちに転んでも、か……!」とか言って泣いていた。さっきは難易度高めのミッドナイト先生相手にゲートから引き離して、“個性”の頭のぽよぽよで拘束して……かっこよかったのに。リカバリーガールも、「“モテたい”も突き詰めれば、見据えるべき一つの“目標”ね」って評価してたのに。

 切島くんの処置を終えたら、もう怪我人は居ない。休憩に入ろうとしたところで、最後まで居た緑谷くんに声をかけられた。

 

「ねえ、吐移くん」

「何?」

「さっきはどうして、僕の方を処置したの? 君、かっちゃんと仲いいだろう? それなら……」

「ああ……。まぁ、理由は二つ。俺の“個性”は消耗が少ないこと。そして、君の方が重症だった。この二つだよ」

「そっかぁ」

 

 あ、あと、意識ある人じゃないと、傷とか痛いとこあるかどうかも聞けない。それもあってか……。リカバリーガール、やっぱりすごい人だ、彼女は。俺がバクゴー君相手にしてたら、見えるところしか処置出来ないし、不安になって、結局口同士近づけないといけなかったかも知れない。意識のある緑谷くんで良かったー。

 

 緑谷くんがなぜかエロい事考えてたみたいで、峰田くんが過剰に反応した。アンテナって君ねぇ……。タイミング的に対象俺だよって言ったら、いらねー!!って叫んだから、この話は終わらせた。緑谷くんの名誉の為に言うと、考えてなかったらしいよ、エロいこと。知らんけど。

 

 

 

 

 A組で試験があったんだから、当然B組も試験がある。

 先生の人数的に後になった彼ら。どのチームもハラハラがありつつも、バクゴー君と緑谷くんみたいな超問題児チームは無くて、30分が終わってみれば、全チームが条件達成していた。B組の方が優秀なんじゃない?

 

 中には、と言うか、物間くんは瀬呂くんみたいに役立たずになってたけど。相手に触れることで“個性”を真似出来る“個性”は、今回は味方のしかコピー出来ないし、引き離されたら物間くんは“無個性”同然。これは怪しい。でもなるほど。“個性”に頼らない相澤先生みたいな立ち回りが、機転の良さが試されたってことか。これは参考になる。

 

 B組にも怪我人はそれなりにいたので、女子は完璧に治して、男子は絆創膏付きにまで直した。物間くんの相手は自然にリカバリーガールに押し付けた。こいつに“個性”真似されたら、たまったもんじゃないんでね。

 

 帰る時は気をつけなきゃ。黒いキューブの身体に入る容量が90%まで埋まっちまったから。早く家に帰って、保管箱にしまわないと。

 




 本誌を読んでる時だけでは分からなかったことも、二次創作してると「こういうことがあったからあの場面があったんじゃないか、こう思ったんじゃないか」って考えが自然と浮かんできて、楽しくなりますね。
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