傷吐き   作:めもちょう

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三十八話

 俺も強化された期末演習試験を終えた翌日。昼休み時間に待ち合わせた皆は、そこそこ元気だった。凹んでないのかって思ったけど、それは林間合宿に行けるからだったんだ。切島くん、上鳴くん、瀬呂くんは皆赤点らしい。バクゴー君だけかい、合格者は! まぁ、そんなことは言わないけどさ。

 

「皆良かったね、合宿行けて!」

「合宿先で補習は絶対大変だけどな」

「行けるだけいいっしょ! お土産話、楽しみにしてるよ!」

「おう!」

 

 その後は情報解禁された俺の“個性”の話をした。職場体験で初めて発現したこととか、だから今高級マンションに住んでることとか。そんなこんな話をしていたら時間になった。次の授業は体育だし、着替えの時間を確保したい。早めに出よう。

 

「俺、少し先に帰るねー」

 

 いつも早めに戻るけど今日は特にね。

 

 にしても、昨日は慌てたね。だって保管箱がぶっ壊れたんだもん。間違ってでかい傷のキューブを入れてたらしくて、箱の中身が大変なことになってた。なんとか外側は保ってくれたから家に被害は無いけれど。残ったキューブは体に取り込む必要があって、今の容量は99%。今日の体育が卓球で良かった。他と比べて激しい競技じゃないから。あんまり激しいと、体からポロリしちゃうね。

 

 放課後、バクゴー君が頭に怪我をしたと聞いた。

 どういうことだと切島くんに尋ねたら、「サイコロくらいの大きさの黒い四角を爆破したら、頭から血ィ出して倒れたんだよ。場所は更衣室で、周りに怪しい奴も頭に落ちてきたものもねぇ。となると原因はあの黒い四角。食堂で拾ったらしいんだけどよ……」と話してくれた。

 終始、息が止まるかと思った。だって俺のせいだったから。心配してる顔を作って息をするので、精一杯だった。ずっと胃がキリキリして、痛い。

 

「わざとだったら、許せねぇよな!」

「そうだね!」

 

 わざとじゃないから、許して……。

 

 

 バクゴー君は保健室で寝かされてるって聞いたから、そちらに向かう。気絶するほどの傷。しかも頭。もしかしたら体育祭の時の傷かもしれないな。ロボから部品が落ちたやつ。無防備だと気絶するよな、あのショックは。

 保健室前に着く。気合を入れて、いざ、引き戸を開く。

 

「失礼します……」

 

 中にはリカバリーガールと、カーテンの閉まったベッド。あの中にバクゴー君が寝てるのか。

 

「丁度いいところに。あんた、私が許可出すから“個性”であの子の頭の傷を治してやんな」

「いいんですか!?」

「頭は後遺症が残ったら大変だからね」

「ありがとうございます」

 

 良かった、責任取れる。白いカーテンに手をかけて横に引けば、そこにはベッドに横になるバクゴー君が。コスチューム姿の彼の目は、ガッツリ開いていた。

 

「あ、起きてた」

「目ェ覚めてなかったら、勝手にするつもりだったんか」

「その方が何も言われずに済むと思って。“個性”発動条件的にね」

 

 何気ない会話をすることが、こんなに難しいとは思わなかった。それを誤魔化す為に右手の人差し指を口元に持っていったら、「気色わりぃ」って言われた。よし、誤魔化せたか?

 

 

「さっさと済ませよ」

「はいはい」

 

 じゃあ、責任取らせてもらおう。

 

「目ぇ閉じてて。顔近づけるから」

 

 彼に不快感を覚えさせないように、緊張が伝わらないように、なるべく顔から離れた脳天に。

 包帯が巻かれた彼はとても痛々しかった。早く直さないと。こんなの、バクゴー君らしくないよ。

 

 吸って、吐く。体の中にまた黒いキューブが出来た。いつ溢れてもおかしくない。現に昼休み、溢れてしまったのか。嫌だ。よりにもよって、バクゴー君に……。

 

「はい、おつかれ。全部取れたよ」

 

 顔を離す。バクゴー君は頭に触れて痛くないか確認している。100%の力で吸ったんだ、大丈夫でしょ。

 

「すげぇな」

「でしょ?」

「調子乗んな」

「乗らせてもらいますー!」

 

 だって君が褒めてくれたから。そのきっかけを作った傷も、俺が与えてしまったのだけれど。

 

「治ったなら、包帯取るよ」

 

 リカバリーガールに安静にするように言われたバクゴー君。「明日休みだし丁度良いんじゃない?」って言ったら、「テメェは筋トレ忘れんなよ」って言われた。サボりは許されない。

 

 コスチュームを着替えに行ったバクゴー君。すぐ終わるだろうから待っていよう。聞きづらいけど、聞いてみようか。君の傷の原因を。君に直接。

 着替えて出てきた彼に言う。

 

「バクゴー君」

「あんだよ」

「……やっぱり、なんでもない!」

「ああ゛?」

 

 怖くなった。聞いた方が自然なのは分かっているのに。こんな時も誤魔化すことばかり考えている自分が嫌いだ。

 

「……ごめんね」

「だから、なんだよ」

 

 秘密ばかりで、ごめんなさい。

 

 

 

 その日は徹夜して、保管箱を作り直した。外は木材だけど、中はダンボールで仕切りを作っている保管箱。壊れてもいいようにっていうか、壊れる為に作っているやつで、主に傷が浅いキューブを入れている。

 急いで作らないと。出来ていく側からキューブを詰めていく。一段一段作り上げて、十段で限界か。

 

 その徹夜が原因だったんだろうか。バイト中、品出ししてたら、走り回っていた子供とぶつかってしまった。その子もちょっと悪いけど、ぼーっとしてて避けなかった俺も悪かった。幸い、出してたチョコ菓子の箱は落とさずに済んだけど、尻餅をついた女の子に「大丈夫?」って言って起き上がらせようとしたら、泣いてしまった。確かにこのヴィラン顔は施設でお世話になっていた頃も女の子に不評だったし、アルバイトしてても子供には怖がられる。女性客にも質問されることもない。でもだからって、こんなにギャン泣きされるとは思わないじゃないか。

 

「おかあさーーん!! おかあさぁあん!!」

 

 どうしよう、どうしよう! 泣き止まそうとするたび、女の子の泣く声が大きくなっていく。そうだ、他の店員に、女の人にお願いを! お店全体に迷惑がかかると思ったその時、女性が小走りでやってきた。どうやらこの女の子の母親らしい。彼女は俺に謝りながら女の子を宥め始めた。ありがたい。

 

「うん、痛かったね、立てるかな?」

「お母さーん! 怖いよぉー!」

 

 やっぱり顔か。女の子をこれ以上怖がらせたくなくて顔を背けるけど、母親さんに話しかけられた。

 

「ごめんなさい、この子、“個性事故”に巻き込まれていて……。もしかしたら、あなたにも感染(うつ)ったかも知れないわ」

「……感染(うつ)るんですか?」

「そういうものみたい。“個性”は『本音を言わせる』もの。潜伏期間があるみたいだけど、いつ本音を言い出すかはわからない……。解除の方法もよく分からないの……ごめんなさい」

「……随分、厄介ですね。でもまあ、大丈夫でしょう。こちらこそ、怖がらせてすみませんでした」

 

 女の子のすすり泣く声が聞こえる。姿を見てないのは、俺が手で顔を隠しながら話を聞いていたからだ。

 3時間は潜伏期間だと思うと言われて、バイト中はずっと人に触れないようにして、何とか乗り切った。明日がバイトも学校もない完全オフの日でよかった。

 

 家に帰ってから“個性事故”について考えて、顔が青くなる。あの母親さんは解除出来たらしいけど、なんで解除出来たのか分からないらしい。でもこのままじゃ、俺の本性が駄々漏れになる。逃げようにも、手の中にはGPSが埋め込まれている。不審な動きは出来ない。

 くっそ。

 

「詰んだな」

 

 

 

 

 

 

 思い付いた。

 裁縫セットは、この家にも持ってきていたはずだ。

 

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