傷吐き   作:めもちょう

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三十九話

 ニュースで木椰区(きやしく)ショッピングモールにヴィランが出現したっていうのを知った。大混乱にはなったけど、特に被害は無かったみたい。けど、恐ろしいな。

 

 今日は朝ごはんがっつり食べて、元気いっぱい。昼ご飯は“飲むおにぎり”というキャッチコピーの、ゼリー飲料的な商品を持って行こう。あんまりにも人気がないから50%OFFになってて、つい大量買いしたやつだ。基本的にはこの商品、災害の時とかの、非常食扱いのやつなんだけどね。まあ、一回食べたことあるけど、確かに味が強くて違和感があるから、一回食べたらもういいやってはなる。でも買っちゃったからには食べて消費したい。

 

 さあ、マスクをして学校に行こう。このマスクは、縫い付けた口を見せないようにするためのものだ。

 

 今日は月曜日。せっかく周りに皆がいるのに、おしゃべり出来ないのは寂しいな。仕方ないけど。この口も、もって二日。バイト先にはもう休みはムリヤリ貰っているからいいけど、いつまでも治らない風邪なんて怪しまれる。シンソー君達も心配してくれてる。早く晒してもいい秘密、探さないと。

 

「吐移くん、風邪引いちゃったの? 私が看病するから、お家帰ろ!」

 

 記見さんは相変わらず、押しが強いなぁ。いつもはちょっと嬉しくなるんだけど、今はちょっと、困るかな。

 しかし面白いよな。皆、俺が病気するもんだと思ってくれてるんだから。あぁ、そうか。病気も吐けることはバクゴー君にしか話してなかったっけ? ほんと皆、純粋。俺みたいなのにすっかり騙されちゃって。ごめんね。ごめんね。

 

 今日の難関、昼休み。誰にも見つからないようにトイレに駆け込まないといけない。中学校も給食だったから初めてだね。トイレ飯。別に虐められてるわけでもないのに、おかしな話だ。

 息を潜めて、音を立てないように、しかし素早くおかゆみたいな奴でチャージする。入れ物を握り潰して、弁当箱にしまう。よし、栄養補給が出来た。残りの時間はこの“個性事故”について情報が出ていないか調べよう。

 

 めっちゃ重要なことが分かった。情報を順番にまとめていこう。

 “個性”の内容は『本音を垂れ流すようになる』こと。潜伏期間があり、その時間は約6時間から前後3時間くらい。差がありすぎるだろ。その間に接触するとまた感染るって感じ。あの子はもう発現していたから、俺は別の人から貰っていたんだろうか。

 そして、これが重要だ。“個性”解除の方法は、『一つ秘密を人に話すこと』。これが厄介すぎる。話せなくて、俺みたいに口を塞いで生活してる人も多いらしい。大体の人がガムテープみたいだけど。

 

 そろそろ時間か。歯磨き用のガムも包み、ポケットに突っ込んでトイレから出る。ふらつく演技も忘れない。少しきつそうにしていれば、トイレに弁当箱持ち込んでても変に思われないだろうから。

 

 二人より早く戻ったみたいだな。教室に戻ってきたけど、シンソー君と記見さんは戻ってなかった。畳くんが居たから手を挙げて「おかえり」の言葉に応えた。

 少しすればシンソー君達も戻ってきた。シンソー君が「どこに行ってたんだよ。ちゃんと食べたか?」って心配してくれたから、筆談用のノートを開く。あらかじめ用意していた、言い訳文を書いてるページを。

 

『途中で気分が悪くなって、保健室に行った。弁当はそこで食べさせてもらった』

 

 実際に行こうか迷ったけど、相手はプロの看護教員。仮病なんてすぐ見抜かれる。だから行かなかったし、調べられたらOUT。ああ、まずいなぁ。

 

「吐移くーん、今日の笑顔見せてー?」

『ごめんね』

 

 この顔は、見せられない。

 

 

 

 あの後、二人の様子がおかしいことに気がついた。もしかしたら“個性事故”について知っている……? ショッピングモールの事件の方が目立って、この事故のことはあまり報じられていないのに。

 そうか、見つけちゃったか。俺が甘すぎるのか。どうしよう……。気軽に晒せる秘密なんて、持ち合わせていない。

 いっそ、この口を秘密として話すか。そうするか。そうだ、だって、口のことは隠していたかったんだからね。これも秘密になる。放課後、話してみようか。

 

 7時間目の暇な時間を見つけては、筆談用ノートに、『俺、綺麗?』とか書いて、“口裂け男で笑いを取りつつ秘密を晒そうぜ”計画を構築する。バクゴー君に言ったら絶対ブスって言われるから、マスクを勢いよく取って、「だよねー!」って感じのウザい顔をするんだ。ウザくて笑えるし、俺は秘密を簡単に晒せる。なんて合理的なんだ。俺って天才なんじゃない? 放課後が楽しみだな。トレーニング前にやってみようか。クラスの皆は『俺、綺麗?』とか言っても困るだけだし。うん、狙いはやっぱりバクゴー君だ。早く行こう。

 

 帰り支度をしていたら、シンソー君が少し緊張した感じで近づいてきた。

 

「吐移、 爆豪が教室で待ってろって。さっき言ってたの忘れてたわ」

 

 ええ? なんで? 別に先にトレーニングルームで待ってても良くない?

 首を傾げたから、疑問に思っていると通じたんだろう。シンソー君は続けて「演習が長引くかもしれないから待っとけてさ。宿題して待ってようぜ」って説明してくれた。そういうことならいっか! お楽しみがちょっと先に伸びただけさ。

 じゃあ簡単に済みそうな奴からやるか。家庭科がいいかな。クリアファイルをカバンから取り出していたら、「オイ」って呼ばれた。この声はバクゴー君だ! よし、“口裂け男”計画、実行するぞ! 

 

「ヘアバン、こっち来い」

 

 言われなくてもー! あ、ノート机に忘れちゃった。ま、いっか! バクゴー君! 今からキモいポーズするから、「キモい」って正直に答えてくれよ? そしたら、その仏頂面を崩してやるぜ!!

 

 

 

 バクゴー君の右腕が動いて、左頬に衝撃を受けた。顔がバクゴー君から右下に向いている。

 次に気付いたのは、マスクが取られていること。

 

「っ!!?」

 

 まって、まって! 自分で言わなきゃ、この“個性”解除されないじゃないか!

 反射で両手で口を押さえたけれど、今更意味は無いだろう。バクゴー君やその後ろにいる切島くん、上鳴くんだけでなく、まだ教室に残っていた皆にも見えてしまっただろうから。小さな悲鳴や、ざわめきが証拠だ。

 クソがっ、クソがっ! クソがっ!!!

 

「俺相手に秘密を作ろうなんざ、甘ぇんだよ! 晒しやがれ。全部な!」

 

 力が抜けて、床に膝をつく。立てない。皆の顔が見られない。

 文句を垂れてもしょうがねぇ。考えろ、考えろ、考えろ! 晒してもいい秘密を考えるんだ! じゃなきゃ。じゃなきゃ……!!

 

 キューブがバレちまう!!!

 

 

 

 

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