傷吐き   作:めもちょう

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四話

 雄英高校の普通科に合格している俺。時間がある時に細々と必要なものを購入している。

 俺の地元から雄英は片道二時間。毎日通うことを考えたら、近くにアパートを借りる方が時間も金も安上がりだ。この間焼肉したのも借りる家を相談する為だった。まぁ雄英生向けの安い単身者用アパートがあるから、その中から選んだ。一番安いとこ。

 

 バイト先を探しつつ、土地勘を鍛える為に散策する。今日はついに少し離れた場所にある、木椰区ショッピングモールに足を伸ばした。ここで買うものはないんだけど。施設から洗井さんが部屋の片付けを手伝いに来てくれてるし、お土産くらいは買おう。……何も追い出さなくても良かったじゃん、洗井さん。なんでなの?

 お金はなくても時間はあるから、見て回ろう。せっかく前髪も洗井さんに切ってもらって、爽やかな気分だしね。

 平日だけど春休み時期だから、人が多い。キョロキョロしてたらダサいな。どうしよう。

 

「ん?」

 

 一目惹かれたそのお店は、アクセサリーショップか。男性用ってか、学生向けのところだ。歩き回るのもなんだし、ここで時間を潰そう。なんでサングラスが多いんだろう。ネックレスもなかなかあるな。

 

「お?」

 

 ヘアバンド? ああ、いいかも。でも一つ600円は高ぇや。かっこいいけど。素材も良いし。

 近くに備え付けてある鏡を見ながら、自分に合う柄を探す。手頃な高校デビューアイテムだと思ったから。でも、駄目だな。顔が悪い。下がりきった不満そうな口元。青白い肌。大きく、鋭い三白眼。ヴィラン顔だ。晒していいのか、こんな顔。

 

「あら~! お似合いですねお客さま」

 

 その台詞は男の声で言われた。そして、聞き覚えがあった。

 

「高校デビューですかぁ?」

 

 ねっとりとした、悪意しかない声色。

 

「なんで……」

 

 俺に話しかけてきた男は、俺を虐めていた奴らの一部。後ろにはあと3人いる。

 

「たまたまだよ、たまたま。そう、たまたま」

 

 訳が分からない。俺が雄英に、普通科とはいえ合格したのは確かに知られている。今年はあの中学から俺ひとりだっていうのも。だからなんだ。どうして俺がここに、今日居るって分かっているんだ。本当に、偶然であってくれ!

 

「なあ吐移、久しぶりだし、話そうぜぇ? なぁ?」

「!!」

 

 しまった! こいつの“個性”は『足固め』。その場から動けなくさせる“個性”で発動条件は対象者の体に触れること。このままじゃ、ここに放置される。効果時間は3時間。こいつが解かなきゃこの店に迷惑がかかるどころか、俺もトイレに行けず困る。

 

「ここじゃねぇ場所でさぁ?」

「……」

 

 バカが。少年院送りにしてやる。

 

 

 

 肩を組まれたまま、取り囲まれて移動する。どこか目立つところに放置すれば、俺に恥をかかせることは出来る。が、すぐに通報されて、俺の証言で特定出来る。それくらい考えられる程度の頭はあるらしいな。

 

「ぐぅ……がっ!」

 

 バカがよぉ。こんな暗い路地裏に連れ込んでリンチしたって同じだよ。いくら血が出ないようにってやったとしても、俺が“個性”の黒いキューブで血を出して偽装すれば、お前らの少年院送りは免れない。俺を恐怖させた報いだ。せっかく示談で済んだのに、かわいそうにな。

 

「テメェのせいで、ろくな高校に行けなくなっちまったよ。ヒーロー科なんてまったく」

 

 自業自得だ。人をヴィラン呼ばわりした人間がヒーロー? ふざけんなよ。そんなの認めねぇ。

 

「ぐっ!!」

「生意気な目ぇしやがって、オイ、あれ出せよ」

「いいのか?」

「いいんだよ。どうせ、こいつは“個性”で治るんだからな。寄越せ」

「へいへい」

「……」

 

 ああ、馬鹿だ。いや、もう血が出ちまってるからそうするのか。

 出すように言われたそいつは鞄から、サバイバルナイフなんていう、殺意の塊を取り出しやがった。

 

「幕張、ビニール」

「殺人に荷担したくはなかったんだけどなぁ」

 

 そう言いながら、幕張は自らの“個性”『ビニール』をラップのように腕から取り出し、ナイフを持った留目に差し出した。留目はビニールにナイフを突き刺し、刃だけが出ている状態にした。返り血を浴びないことを意識したか。くそが。

 

「さァて、遊ぼうぜ、ヴィラン。生きるか、死ぬか。運良く生き残れば、俺らを通報すればいい」

 

 殺す気だ。こいつら、俺を殺す気だ!! しかも全員ノリ気だ。さっき「殺人に加担したくない」って言った奴まで……! いい高校へ行けなかったのは自分の行いの結果なのに。俺を恨むのはお門違いだ!!

 

「今更命乞いしたって遅いぜ?」

「……」

 

 留目の“個性”で、腰まで固められ、立つしかない俺。逃げることは不可能。

 息を止めんなよ、俺。息し続ければ、絶対に助かるから。

 

「じゃあな」

 

 腹にナイフが刺さる。

 

「が、はァ!!」

 

 あつい! 痛い! あ゛あ゛! あつい!!

 ナイフはすぐに抜かれたが、肉を少し持ってかれた気がする。もう回復しただろうけど、血の熱さが、肉を破られる痛みが、ずっとここに残っている。

 

「次俺ー」

 

 何回、これが続くんだ。

 

 

 

「ハァ……ハァ……ゲホッオエッ……ハァ……ハァ……」

 

 形容したくない、痛みが、ずっと腹にある。痛み、熱、衝撃に体力を奪われて、立っていられない。“個性”のせいで無理やり立っているに過ぎない。血が、足りない。

 

「この一発で、もうギリギリになるかなァ?」

 

 もう5回は刺された。

 心の準備もさせてもらえず、6回目が来た。

 

「ガボッ……!!」

 

 ぐりぐりと腹に刺さったナイフを掻き回される。

 

「がァ……アァ……!」

 

 死ねばいいのに!!

 

「死ねよ、ヴィラン」

 

 やっと抜かれた。そして“個性”が解かれた。立てない俺は血溜まりに沈んだ。俺から流れ出たばかりのそれは、一応まだ暖かい。

 

「俺の人生めちゃくちゃにしやがったお前に、相応しい死に方だな。ざまぁねえなァ!!」

 

 俺は、血溜まりからあいつらを見上げる。頭が回らない。寒い。傷は塞がってもう血は流れてねえのに、さらに血の気が引いていく。

 

「ここまでしたんだし、ほっときゃ死ぬだろ。帰ろーぜ」

 

 留目の言葉で、4人で俺から離れていく。もう痛いのは無いんだ。少し、休んだら、俺も、行こう。

 こんな、血まみれ、なんだ……。何も、言わなくても、分かって……くれる……。

 

「いたい……さむい……」

 

 立てない。動けない。……なんで、なんで、俺は……あいつらなんかに殺されなきゃなんねぇんだよ!

 

「やる……してやる……! いつか、絶対……傷ついた分だけ、返してやる……!」

 

 俺は手を汚さない。味わいやがれ、俺の傷を。見捨てられる恐怖を。傷つけられる恐怖を。

 俺は、絶対にヴィランにならない。お前らの望んだ通りになんて、なってやるものか。俺は、ヒーローになって、テメェらを捕まえてやる。絶対だ。絶対だ!!

 

 

「オイ! 生きてんのか!!」

 

 え?

 

「今、救急車呼んでやるから、死ぬ気で踏ん張りやがれ!」

 

 誰? だれが、優しくしてくれるの? ……救急車? いらない。

 

「チッ! 血が多すぎんだろ……!」

 

 目の前の、人相の悪い男の腕を掴む。あぁ、血まみれだ。ごめんなさい、あなたを、汚した。でも……。

 

「いらない……意味ない……ケガはもう無いから!」

 

 これだけは伝えなきゃ。血なんて、食べれば増えるから。ねぇ、警察呼んでよ。今なら、あいつら、捕まえられるから。

 

 血液でヌル付いた手は乱暴に払い除けられた。誰か知らない、優しいのか怖いのか分からないその人は、救急車を呼んでいた。それから俺を冷たい血溜まりから出して、血を、自分が着ていた服で拭いてくれた。

 ……あったかくて、眠たくなる。お礼が言いたくて、彼の顔を見る。そこで力尽きた。

 彼の顔に見覚えがあった。どこであったんだろう、こんな、親切な人。

 

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