傷吐き   作:めもちょう

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四十三話

 人生初の試みは、概ね成功したらしい。その証に今俺は、俺の体を見下ろしている。

 

 黒いモヤの奴に息を確認されるが、しっかり無くなってくれているようで安心した。これでそこのすっごい危なそうな顔無し男に“個性”を奪われることもないだろう。よし、よし。狙い通りだ。

 

 やっぱり、ひとたまりもなかったらしい。自分の体に食らわせた黒いキューブの中身は、職場体験の時に吸収した、火傷以外の全て。頭も、顔も、首も、肩も、胸も、腰も、腹も、足も、全て打ち付けていて、傷ついていて、派手に血が散っている。頭や首にダメージがある人たちを多く救えていて良かったよ。俺はそれのおかげで、これからの被害を防ぐことが出来たんだから。

 

 大丈夫、大丈夫。

 

 考えてみろよ、俺。普通の人が、人を何人も救えるか? 訓練されていない人間が救えるか? でも俺は、何人も死から救ってきたんだぞ。だから、この人生に意味はあったんだぞ。俺はヴィランにならなかったんだ。正。俺は立派なんだぜ。

 

 泣いてもいいけど、後悔はすんな。

 

 俺の死体は黒いワープゲートを通じて、どっかの海に捨てられてしまうらしい。どこの海かだけでも言えばいいのに、顔無し男はめちゃくちゃ適当な指示を飛ばすし、黒モヤも遠い場所ってだけで、特に場所を口にしない。……仕方ない。これから時間はたっぷりあるんだ。今急いでゲートを通って迷子になるよりは、バクゴー君に危険を知らせに行ったほうが生産的だ。今は、自分を捨て置け。

 

 合宿先は限られた人間にしか分からない。俺も勿論分からないわけだから、バクゴー君に危険を知らせる為にも、まず合宿先を探さなきゃ。林間合宿って自然たっぷりの中でやるイメージがあるし、そういうところを重点的に見てみようかな。林間つってんだから当たり前か。

 体っていう、重力に逆らえない存在から解放された俺の移動は、何でもありだぜ! 

 

 自然が多そうって理由で、長野県に飛んだ。魂だけの存在って、案外便利なもんで。軽く軽く飛んでいける。

 怪我した時の為にきっと病院に車でも三十分かからない場所だと考え、探す場所は交通の便もある場所とした。

 

 俺の居た場所が神奈川だったから結構時間がかかって、探すのに結局丸1日かかった。合宿は二日目になるのかな。その甲斐あって、彼を見つけることが出来た。合宿先は、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツっていう四人一チームのヒーローグループが構えている、マタタビ荘だって。

 俺が着いた頃にはすっかり夜で、A組もB組もカレーを作って食べていた。いいなー。俺、最後に何食べたっけ。いつも通りの具材の焼きそばだったっけ。お母さんのカレー食べたかったなぁ。

 よくあるカレーの匂いが、人の心を揺さぶるなんて思いもしなかった。

 辛くなったけど、だからって逃げるわけにはいかなくて、俺は皆に囲まれながらカレーを食べるバクゴー君を見つめていた。死んでから知ったよ。君が料理出来る人間なんて。料理出来る君が、あの時のオムそばに文句をつけなかったってことは、やっぱり自信をもって良かったってことなんだよね。

 

 さて! どうやってバクゴー君に声をかけようか! バクゴー君に変な視線を浴びて欲しくなくて、周りに人がいる時に声はかけないでいようと心がけていたら、バクゴー君今すっかり寝ちゃった!! だって、夕食後、洗い物する時も、お風呂入る時も、その後もずっと彼の周りには切島くんか上鳴くんか瀬呂くんが居て、バクゴー君が一人になるタイミングがトイレしかなかったんだよ! 驚かせたくないからトイレで話しかけたくなかったし。てか見られたくないでしょ。俺だって嫌だし。

 そうやって選り好みをしていたから、バクゴー君に大切なことを伝えられずにいるんだけどね!! あー最悪! 

 

 寝相が悪いけど、綺麗な顔して寝てるバクゴー君。半目開けて、大口開けて血で汚くなっていた俺とは大違いだよ。

 ……夢枕に立つって、表現あるよな。もしかしてさ、幽霊って生きてる人の夢の中に入れたりするのかな? すげーなそれ。どんな魔法? よォし! 俺も魔法使いになるー! 

 

 バクゴー君の頭の上に降り立って、頭に触れる。俺の手の奥から、バクゴー君の固そうで柔らかい髪が見える。自分の認識ですら、透けている存在なのか。

 俺は、幽霊なんだな。

 意識をバクゴー君の頭に向ける。夢の中に入るイメージをして、俺は目を閉じた。

 

 開けて、驚いた。出来ていたからだ。空間は俺たちが初めてトレーニングをした、良くも悪くも思い出の多古場公園だった。目の前のバクゴー君しか生者の居ない、静かな空間。風が気持ちいいなぁ。

 

「おおー、出来ちゃったわ、バクゴー君の夢に干渉」

「……何、しやがる」

「いや~、どうしても伝えたいことがあってさ! 夢枕に立っちゃいました!」

「お化けかオメーは」

 

 お化けなんだよなぁ。良い勘してるよ、バクゴー君。

 

「いいじゃん。夢なんて、現実世界じゃほんの少しの時間じゃん。ゆっくり話そ?」

 

 バクゴー君はここがどこなのか確かめようと辺りを見回している。俺が無意識で作り出した空間なんだけど、二人で話したいって思ったからここだったんだろうか。他の思い出の場所は切島くん達も居るから。そうかもしれないな。

 バクゴー君を、俺たちがいつかゆっくり、俺だけかなりドキドキしながら話した、思い出のベンチに案内する。

 話が出来るだけで、嬉しい。

 

「へへっ」

「……何笑ってんだ」

「また会えたのが、嬉しくって」

「夏休みが明けりゃ、また会えんだろ。わざわざ夢にまで出てくんじゃねえ」

「あっはは! そりゃ、そう、なんだけど、さ!」

 

 魂だけの存在だからか、顔がうまく作れないし、嘘の調子も悪い。もう、会えないんだよバクゴー君。

 泣き顔が隠せなくて、辛い。

 ここが夢の中だから、風を感じられる。

 ざわざわした、風を。

 

 いきなりあの話をするのはちょっと早すぎる気がして、だから先に、聞いてみたかった話を振ることにした。

 

「バクゴー君」

「んだよ」

「あの、さ。俺、成長したかな?」

 

 曖昧な表現だったけど、成長ってのは、まぁ色々な話だ。何かバクゴー君が俺の成長した部分を見つけてくれないかなーって思って。自分では色々あるんだよ。

 ちょっと考える素振りを見せてくれたから、待つことにした。

 

 木の枝が、葉っぱが、風によって揺れている。いつか見たゆりかごのような優しさで。バクゴー君が俺を見ていたから、彼に視線を戻す。心がポカポカして、これが幸せだと思った。

 気づけば俺は笑っていた。自然に、無意識に笑っていたいってことで鍛えたこの表情筋。今が一番輝いてんのか。進化は止まんないね!

 バクゴー君が答えを言ってくれなかったから、自覚している成長点を言う。

 

「期末テスト、クラス二位になったり、“個性”も進化したり。声だって大きくなったと思うし、無理せず人と目を合わせられてると思うんだけど……」

 

 言ったらバクゴー君、変な顔しちゃった。言おうとしてたことと、俺の言った答えの感じが違ってたのかな。悪いことしちゃった。なんでも良かったんだけど。

 

「?」

 

 俺の右頬に、バクゴー君の人差し指の背が、触れられた。

 

 

 

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