傷吐き   作:めもちょう

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四十四話

 俺の右頬に、バクゴー君の左手の人差し指の背が触れている。感触を確かめるようにスリスリされて、少しドキドキしてしまう。夢の中だからって、男相手だとしても、大胆だなぁバクゴー君。

 

「どうしたの? くすぐったいよ」

 

 そう言って笑っていたら、バクゴー君が言ったんだ。「100点だ」って。

 

「え?」

「“笑顔満点計画”。てめェが言い出したことだろ。満点だっつってんだ」

 

 笑顔のえの字もないような表情で言われたそれに、俺は目を丸くした。

 君の口から「満点」って言葉が出てきた。俺に向けて。俺の、笑った顔を見て。

 

「……うれしい」

 

 胸の奥から熱が湧き出て、目からそれがこぼれ落ちた。涙の姿を借りているそれは、俺の頬を濡らした。

 

「泣くほどかよ」

「だって、君が、言ってくれるって、思わなかった……」

 

 めちゃくちゃ嬉しいんだよバクゴー君。分かってくれ。

 

「俺、さ。君に助けられて、変わったんだ。死にかけの中、全く知らない君に助けられて、こんなに優しい人がいるなんてって。俺の世界は救われたんだよ。この世界も捨てたもんじゃないって。法律しか心の拠り所のない俺に、“ヒーロー”っていう新しい心の拠り所が出来た。それだけで復讐心が薄れた。

 君と友達になれて、雄英の皆と出会えて。顔色を伺わなくていい友達が出来て、俺、人生が楽しくなった! 心の底から、“生まれてきてよかった”って思えた! 母さんに“産んでくれてありがとう”って言えた! バクゴー君! 俺と出会ってくれて、ありがとう! 俺は、君に救われた! 君は、俺の、ヒーローだ!!」

 

 昂ぶっていく感情の赴くままに、バクゴー君の左手を両手で包んで、感謝の言葉を告げる。そんな俺とは違うバクゴー君は、どうやら「そこまでやった覚えはない」みたいなことを思っているらしい。顔に出ている。だから、「無意識に心救っちゃうなんて、君はオールマイトかっ!」って笑って言ったら、「そうかよ」って、照れた感じで返してくれた。

 

「あれ? あれれ~? バクゴー君も照れる事ってあるんだね~!」

「うるせぇ」

「へへ……でも、俺も、“個性”事故関係なしに、本心だよ」

 

 あの時は苦しくて苦しくて仕方がなかったけれど、今は開放感しかない。

 ありがとう、バクゴー君。君のおかげで、俺はこんなにも正直者になれたんだ。信じてくれよ、バクゴー君。全て、君と出会ったおかげだったんだよ!

 照れて顔を逸らしたバクゴー君が、また俺のことを見てくれた。そして口を開く。

 

「やっぱ、満点だ」

 

 こんの人たらし!! 普段の君はこんなじゃないから、夢の中限定なのかな!? レアすぎ!! 俺以外誰が見れんの!? もはや俺限定じゃーん!

 

「も~、自分が照れたからって、こっちまで照れさせないでよ」

 

 恥ずかしくて、嬉しくて、ますます、失いたくないって強く思った。

 だから俺は伝えなくちゃいけない。君を、生かす為に。彼から手を離して、真剣な顔をする。俺の覚悟が伝わったのか、少し驚いたバクゴー君が、俺を見る目を変えた。

 

「なんだよ」

「バクゴー君、俺、最初に言ったじゃん? どうしても伝えたいことがあるって」

 

 さっきはすごい軽い調子で言ったけど、本当に大切なことだ。

 

「バクゴー君」

 

 俺から目を逸らさず、覚悟して聞いてくれ。

 

「俺、ヴィランに捕まった。次の奴らの狙いは君だ。バクゴー君」

 

 バクゴー君の目が揺らぐ。

 

「皆から絶対に離れないで。補習組と一緒に居て! 俺からの、お願いだ」

 

 本当だから。嘘なんかじゃないから。だから信じて、バクゴー君。逃げて、バクゴー君。

 

 

 

 バクゴー君の意識から追い出された。目覚まし時計が鳴っていたから、そいつが追い出した正体だろう。もう少し情報を渡したかったのに、この目覚ましめ。

 俺はどうやら、意識がある人、起きている人に干渉が出来ないらしい。……中に入れないだけで、何とか誘導出来ないかな。やりたい時に試してみよう。

 

 俺が拐われてしまったんだ。この合宿でも、奴らが来て、きっとバクゴー君を拐おうとするだろう。そんなこと、俺がさせねぇ! 君は、俺が守る! 今更拒否なんて受け付けないよ! だってもう命に代えてるからな!

 

 目が覚めたバクゴー君はあくびをしていた。

 

「ハヨー、ばくごー……あれ? どした?」

「なにがだよ……」

 

 切島くんが何かに気づいたらしい。何だろう。

 

「いや、あくびか。なんか、泣いてた気がしたから、よ」

「はあ?」

 

 確かに涙は出ていた。でもバクゴー君はきっと泣いていたと認めないだろうし、欠伸と決めつけるだろう。

 まだ眠たいんだろう。バクゴー君はそれきり口を開かなかった。さっきまでの夢は、ただの夢じゃないけど、夢だ。もしかしたら忘れているのかもしれないなぁ。

 

 

 

 合宿は三日目。生徒らは朝食を食べて、また訓練をする。そんな中、バクゴー君は一人早めに朝食を切り上げて、どこかに向かっていた。向かった先は先生たちが使っている部屋。そこから丁度出てきた相澤先生を呼び止めた。先生に用があったのか。なんだろう。

 

「どうした爆豪」

「センセー……、ヘア、吐移と今、連絡出来ないっすか」

「……いや。こちらからも雄英からも、互いに連絡を出来ないようにしている。場所が割れないようにな」

「じゃあ、あいつに異変があっても、こっちは分からねえってことっすか」

「そういうことだ」

 

 バクゴー君が俺のことを気にしてくれている、だ、と……!?

 いや、夢に出たくらいだし、あんなこと言ったから気になってくれるのが正常だと思うけど! でもこの聞き方から察するに、夢のことはほとんど忘れているみたいだから、聞いてくれただけ、奇跡なのかもしれない。

 

「なんで気になった」

「夢に出てきた気がしたから」

 

 ズキューン!!! って!!! 胸を!!! 貫かれた!!! 気がした!!!

 だって、知らない人が見たり聞いたりしたらさ、 “夢の中で見たから、現実で話がしたくなった”って言ってるような内容だよ!? 知ってる俺からもそう聞こえるんだから、そう思いましたよね相澤先生! そして隠れて聞いている尾白くん! 可愛い一面あるなぁとか思ってるでしょー? 俺もそう思うー!

 

 バクゴー君は「緊急性があると思ったからで……」とか言ってるけど、夢での出来事を真に受けてるのも、その為に動いてるのも、微笑ましく思えて当然だと思うよ。寝ぼけてるなぁって。あと俺のことめっちゃ好きなんだろうなぁって。俺も愛されててとても嬉しいですよ。忘れかけてる夢を頼りに、俺を心配してくれて。

 

 ……ごめんね。でも、だからこそ、君を守りたい。

 

 

 

 その後は各自の“個性”を伸ばす訓練に精を出すバクゴー君。お湯の中に手を突っ込んで汗腺を広げては爆破を繰り返している。さっき話を盗み聞きしてた尾白くんは切島くんと戦ってた。皆も頑張ってるなー。

 皆の、十人十色な訓練の様子を見ていたら、プッシーキャッツの一人、ピクシーボブが特徴的な「ねこねこねこ……」という笑い声を上げてから、「今日の晩はクラス対抗肝試しを決行するよ」と言っていた。肝試しで十人もチームで組むわけない。少人数になって、バラバラで行動するとなると、奴らはここを狙ってくるに違いない。

 タイミング的にもう俺は直接バクゴー君に忠告することが出来ない。なら、幽霊は幽霊らしく、憑いて体調不良にしてやろう。

 

 荒業でごめんね。俺は君を、どうしても奴等に渡したくないんだ。

 

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