傷吐き   作:めもちょう

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四十五話

 訓練も、夕食も、その後の片付けも済み……ついに来てしまった。

 

「肝を試す時間だー!」

 

 ダメなんだよ、ダメなんだよ。バクゴー君は試しちゃダメなんだよ。

 本当はやりたくない。当たり前だ。好き好んで友達を体調不良にしたがる奴があるか! いたらそいつは友達じゃない、おバカだよ!

 でも、俺はやらなきゃいけない。バカにならないといけない。バクゴー君を死なせたくないから!

 

 どうやって体調不良にしていいか分かんないから、とりあえず後ろから首に腕を回して、体温が俺に移らないかなーって感じでやった。魂にも一応重さあるらしいし、その分だけでも、体が重くなればいい。バクゴー君が身震いした。上手くいっているらしい。

 

 彼の目の前では芦戸さん達補習組5人が、相澤先生の捕縛用の布でぐるぐる巻きにされていた。あれは帯って言った方がいいのかな? 残念ながら5人はこの肝試しには参加出来ず、この時間は補修に当てられるらしい。よし、バクゴー君。彼らについていけ。君を守る人間は、多ければ多いほどいいからね。

 

「相澤センセー、俺も、そっちに行っていいっスか」

 

 よっしゃぁあっ!!!

 

 願いは通じ、バクゴー君は「体調不良だ」って言って、補習組と一緒に戻ることになった。ノリのいい彼らは「俺たちに構わず行けぇ!」とか言ってたけど、体調不良だから。別に君達に付き合ってとかじゃないから。

 

 ……でも、肝試し組から何も言われなかったのが気になる。あの中にバクゴー君と仲良しの人は確かにいなさそうだけど、だからって。……ちょっと、体温を奪いすぎたのかもしれない。心配しているからこそ、戻るバクゴー君に声をかけないのかもしれない。少し、離れようか。

 

「そこまで悪いわけでもねーから、後ろで聞いてる」

「わかった。ほら、自主的に補習に取り組むって奴もいるんだ。お前らも文句言うな」

「爆豪は休むだけじゃないっすかぁ!」

「どうしたんだよ爆豪!! お前の肝は小せぇのかぁ!?」

「うるせェ。本調子じゃねぇつってんだ」

 

 やりすぎてたんだ、やっぱり。何か不名誉なことも言われちゃったし。ごめんね。

 

「あぅぅ……私たちも肝試ししたかったぁ」

「アメとムチっつったじゃん。アメは!?」

「サルミアッキでもいい……。飴をください、先生」

「サルミアッキ旨いだろ」

 

 帯で巻かれたまま連行される補修組。相澤先生って、普段は血も涙も無さそうだよね。サルミアッキには悪い思い出しかないから、正直名前も聞きたくなかったりする。

 

「今回の補習では、非常時での立ち回り方を叩き込む。周りから遅れをとったっつー自覚を持たねぇと、どんどん差が開いてくぞ。広義の意味じゃ、これもアメだ。ハッカ味の」

「ハッカ味はうまいですよ……」

 

 さっきの発言は撤回します。優しいじゃん相澤先生。そうだよ。シンソー君の師匠になってる時点で、血も涙もありありな、しかも熱血な先生なんだよ。ついでに俺も見てもらう予定だったのにな。悲しい。ハッカはお嫌いなのか。俺もあれよりはオレンジの方が好き。

 マタタビ荘に着いた彼らは講習室に入った。先客が居たようで、中から声が聞こえる。

 

「あれぇ、おかしいなァ!! 優秀なはずのA組から赤点がごっ……六人も!?」

 

 やーいやーい! やっぱり試験落ちてたか、B組物間ー! いや、“個性”全部晒け出したから、君を忌み嫌う理由もなくなったんだけどね。却って君に真似してもらったほうが救える人多くなってたと思うけど。顔も俺よりは確実に良いし、女性から嫌がられないだろう。もうそれも出来ないのか。縁がなかったね。

 

「B組は一人だけだったのに!? おっかしいなァ!!!」

「どういうメンタルしてんだおまえ!!」

「俺は補習じゃねぇ」

 

 ここでトイレに行くというバクゴー君が一人になってしまった。いや、でもここはもう施設内だし。ただのトイレだし。言うならば俺もついて行ってはいけないよな。

 バクゴー君の足取りは遅い。どこか上の空で、考え事をしているようだ。早くトイレ行って、早く講習室に戻ってもらいたいんだけどなぁ。

 

 思った矢先、バクゴー君の足が止まった。一気に空気が緊張した。何だ、何が起こっている!?

 そういえば、プッシーキャッツのメンバーの一人には、テレパスの“個性”を持ったマンダレイがいた。彼女のテレパスで、何かが伝えられているのか! 俺の勘が外れてなければ、それはきっと……ヴィランの襲撃! やっぱり肝試し会場の方に現れるよなぁ!

 良かった。バクゴー君をこちらに連れてこれて。頼れる仲間とプロヒーロー二人。その人たちに守られるんだから、バクゴー君は安全だ。

 

 ……え? どうしてバクゴー君、こそこそ移動してるの? なんで、講習室から離れていくの? 一体、何してんだバクゴー君。行くな、行くんじゃねえ、バクゴー君!!

 俺が全力で後ろから抱きついて体温を奪っている。寒くて身震いするだろう? だから、バクゴー君、俺が止めてるって、もう分かってるだろ?

 君が一人で勝手に行動すれば、皆に迷惑がかかる。被害を出したら、先生の責任になる。それなのに、何しに行くつもりだバクゴー君。バカなことはやめろよ? ヴィランを捕まえようっていう、小学生みたいなことを言うんじゃねぇぞ。おい、バクゴー君、行くな、行くなよ。動くな。その裏口のドアを開けるんじゃねぇ。

 一人で危険に飛び込むな。行くな、行くな、行かないで、ねぇ、お願いだよ、行かないでよぉ!!!

 

 

 

 今度の願いは聞き届けられず、バクゴー君は今、肝試し会場である森の中を進んでいた。君の狙いが分からないよ、バクゴー君。しかも森燃えてるし。なんでわざわざ自分から行くの? 言ったじゃんか。君は狙われているって。都合よくそこだけ忘れてんじゃないよ!

 

「爆豪! お前何してる!!」

 

 声を荒らげてきたのは、右半分白、左半分赤の髪色をした轟くん。「戻れ!」という彼の隣には肝試しのコンビなんだろう、尾白くんもいる。ちょっと君には縁を感じ始めてきたよ。

 二人共、バクゴー君が居ることに驚いているようだった。そりゃそうだよね! 俺もめっちゃ止めたんだけどさ、聞かないんだよ! 二人からも言ってくんね!? 

 

「お前、体調不良で施設に戻ってたんじゃないの!?」

「うるせぇ。用が出来たんだよ」

「後にしろ。とりあえず、お前も一緒に戻るぞ」

「だから俺に指図すんじゃねえ」

 

 あー聞く耳持たないなー! 用って何!?

 嘆く俺の前で、尾白くんが眉を顰めて口を押さえた。

 

「な、なぁ。なんか、煙たくないか? ただの煙とは違うような……」

「! 吸うな! 毒性があるかもしれねえ」

 

 確かに、焦げ臭いような……幽霊になっても、匂いは分かるのか。

 ねえ、帰ろうよバクゴー君。燃えてるわ毒ガスはあるわで、この先良いことなんてない。さあ、戻ろうよ。

 

「! あそこ倒れてるのって、B組の!」

「吸っちまったか」

 

 ほら! 保護すべき人もいることだし、これ以上危険に踏み込まないで。戻って。

 

 願いが聞き届けられたと思っていた。3人が戻ろうとしていたから。バクゴー君もまずいことしてたと気付いたんだと思った。せっかく、俺の願い通りになると思ったのに。

 

 その足取りは、ある人物によって止められてしまった。膝を付いている、拘束具が巻かれている黒い人影に。

 

「おい、お前らの前、誰だった……!?」

 

 幽霊の俺でさえビビる奇妙さ。「見とれていた」? 何を言っている。

 

「常闇と……障子……!!」

「きれいな肉面、ああ、もう誘惑するなよ……」

 

 悪い予感しかしない。

 こっちに振り向いた奴の顔は、金具で無理やりこじ開けられた口以外、見えていない。

 

「仕事しなきゃ」

 

 逃げなきゃいけない。でも、背を向けてはいけない。

 

「交戦すんな、だぁ……!?」

 

 やらなきゃ、死ぬ。

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