傷吐き   作:めもちょう

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四十六話

 3人の動きがまた一瞬止まった。またテレパスが送られてきたか。それがいいのか悪いのか、バクゴー君が邪悪に笑みを浮かべている。身を守る為の戦闘許可が下りたのか? いいかバクゴー君。その力は、今、逃げるために使うんだからな。勘違いすんなよ。

 心なしか、バクゴー君の笑みの口角が下がった。俺の思いが伝わってくれたらしい。

 

 目の前のヴィランは、歯を伸ばして地面に刺し、それで自分を浮かせ、支えていた。その歯は刃にもなっているらしい。なるほど。歯さえあれば移動も戦闘もいけると。むしろその拘束された体のほうが邪魔だと。なら、バクゴー君たちを狙って攻撃してくるくらいなら、そのいらない体を捨てて首だけになって死んどけ!!

 

 轟くんが氷壁を作って、歯の刃を防ぐことしか今のところ出来ていない。尾白くんはその筋肉で太い尻尾を活用した格闘スタイルで中距離相手にはかなり不利な“個性”だし、バクゴー君の“個性”は森がまた燃える可能性があって、こちらも使えない。なのにバクゴー君、ヴィランを無効化しようと動いている。いい加減にしてよ!

 また3人がビクッてした。そしてなぜかバクゴー君が不機嫌になっていく。バクゴー君何か言われたのか。ヴィランの止まらない攻撃は、また轟くんの氷壁で防がれる。

 

「耐えなきゃ……仕事を……しなきゃあああ、あああーーーーーーーー」

 

 耐えてねぇで首から下、落とせ。そしてバクゴー君は下がれ。

 

「不用意に突っ込むんじゃねえ」

「何で出てきちゃったかなあ。お前、狙われてるってよ!」

「かっちゃかっちゃうるっせぇんだよ頭ん中でぇ……クソデクが何かしたな、オイ。狙われてんのは、知ってんだよ」

 

 覚えてんなら出てきてんじゃないよ!! 君はそこまで馬鹿じゃなかったはずだろう!? ヴィランに狙われる危険を、以前も味わったことがあるらしいじゃん! 施設から出る前から覚えてたんなら、なんで今、馬鹿なことしてんの! 君が分からないよ!

 

「クッソどうでもいィんだよ!!」

 

 どうでも良くないよ!

 またヴィランを無力化しようとして、歯の刃を爆破しようとしたバクゴー君。だが枝分かれするように刃から刃が出て、バクゴー君は身をのけぞらせた。刃を氷結で止めてくれた轟くん。ついでにヴィランを捉えようと氷を生やすが、ヴィランは木に歯を突き立てて、自分の体を押し出すようにして避けた。軽そうにこなしてるけど、氷壁は一瞬で迫って来る。それを息をするように避けるんだから、敵ながらすごいと思う。

 

「地形と“個性”の使い方がうめぇ」

「見るからザコのヒョロガリのくせに、んのヤロウ……!」

 

 その場数は、どこで踏んできやがった。

 

「肉、見せて」

 

 自分のを晒してろ。

 

「ここで爆破使って燃え移りでもすりゃ、火に囲まれて全員死ぬぞ。分かってんな」

「喋んな。わーっとるわ」

「ガス溜まりで退けない。先に行くには、こいつを倒すしか……」

 

 人数が減ればさらに危険度は高まるから、逃げることも出来ない。クソがっ。四人が無事でいる為には、目の前のこいつを倒すしかないのかよ! 消えろや!

 

 このヴィランの”個性”、思っていたよりもすごい脅威だ。歯を縦横無尽に伸ばす“個性”。伸ばす距離も、速さも、鋭さも、量も半端ない。今だって、轟くんの氷結で奴の攻撃を防ぐことしか出来ていない。

 こいつを、倒すことが出来るのか……!?

 

「近づけねぇ!! クソ、最大火力でぶっ飛ばすしか……」

「だめだ!」

「木ィ燃えてもソッコー氷で覆え!!!」

「爆発はこっちの視界も塞がれる! 仕留め切れなかったらどうなる!? 手数も距離も、向こうに分があんだぞ!」

 

 指の数よりも多い攻撃手段。ガスがここまで来ると仮定すると時間も無い。動ける人間が三人も居るのに、手が出せるのは轟くんのみ。どうしたらいいんだ!

 

 

 

「いた! 光が見える、交戦中だ!」

 

 傍から、破壊音と共に声が聞こえる。そちらを見れば、たしかA組の、腕多めの人が、何か背に抱えながら、木を大量に薙ぎ倒す何かに追いかけられていた!

 

「轟! 頼む――」

「肉」

 

 ヴィランの刃が欲望のまま動くものに反応してるかのように、追いかけられている彼らに向けられる。

 

「光を!!!」

 

 巨大な手が、派手な音を立てて、宙にいたヴィランを轟くんの個性の氷結を巻き込みながら地面に叩きつけた。

 それはそれは巨大な黒い影で、化け物のよう。自我らしい自我は認められなかった。

 

「なっ……どうして、かっちゃんが!?」

 

 背負われていた緑谷くんはボロボロすぎるな。もう突っ込みたいことが多すぎて、処理が出来ないです。まず、その黒い影はヴィランですか? 誰ですか?

 

「障子、緑谷……と」

「あれ、常闇か!?」

「早く“光”を!!! 常闇が暴走した!!!」

 

 うそっ、あれ常闇くん!? 体育祭で戦った時は人くらいの大きさだったのに!? 夜はあんなにでかくなる“個性”なのか! かなり制御の難しい“個性”なんだな、そりゃ時間とかで違ってくるなら、日の高かったあの時間はあれが全力だって言われても納得だ。って、前の話をしてる場合じゃない!

 ヴィランを押し潰した後も暴れる常闇くんの“個性”。あれは敵味方の判別が出来てないぞ。出来ないから障子くんたちを追いかけているのか。動くもの、無差別に。

 

「見境なしか。っし、炎を……」

「待てアホ」

 

 迂闊に動くのを止める判断は悪くないと思うけど、君らは光を結果的に出せる人たち。君たちが黒影を止めてくれないと……。

 

「駄目だ、駄目だ。許せない」

 

 ヴィランが歯を伸ばして、杖のようにして起き上がる。まだ動けたのか!

 

「その子達の断面を見るのは僕だぁあ!!! 横取りするなぁあああああ!!!」

 

 黒影を仕留めようと歯を伸ばしたヴィランは、巨大な手に掴まれ、返り討ちに遭っていた。

 

強請(ねだ)ルナ、三下!!」

 

 体育祭の時、この状態の黒影と戦うことにならなくて、心底良かった。

 

「見てぇ」

 

 バクゴー君めちゃくちゃ悪い笑顔してるぅー!?

 ヴィランを掴んだその手は、叩きつけるように木々を薙ぎ倒しながら振り回される。何本持ってかれた? 最後はヴィランを木に叩きつけた。容赦無さすぎ!! あれはいくら俺でも死んじゃうぞ!!

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛暴レタリンゾォア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 バクゴー君と轟くんがそれぞれ“個性”で光を出して、雄叫びをあげる黒影を弱らせた。「ひゃん!」と可愛い声出して小さくなった黒影が、常闇くんの中に収まっていく。ずっと暴走した黒影を抑えようと頑張ってたんだろうな。常闇くんは膝を付いて、肩で息をしていた。

 

「テメェと俺の相性が残念だぜ……」

「……? すまん助かった」

 

 バクゴー君、あんなのと戦ってみたかったのか……。それにしても、よくあのヴィランを止めてくれたよ。常闇くんがいなかったら、どうなっていたことか。

 

「俺らが防戦一方だった相手を、一瞬で……」

「暴走だとはいえ、すごいパワーだったな」

「常闇大丈夫か、よく言う通りにしてくれた」

「障子……悪かった……緑谷も……。俺の心が未熟だった」

 

 常闇くんたちは俺たちよりも先にさっきのヴィランと相敵し、障子くんの複製の腕がトバされた瞬間、怒りでああなってしまったらしい。大変な話だ。幸いなのはトバされたのが複製の腕だったこと。本体じゃないからそんなに影響してないらしい。良かったぁ!

 

 話はヴィランたちの目的に変わり、バクゴー君を保護する動きになった。時間短縮の為にも森を横切って、施設に向かうらしい。

 索敵能力のある障子くん、氷結の轟くんに、近接の尾白くん、そして制御アリの黒影の常闇くん。忘れちゃいけない頭脳の緑谷くん。……なんて頼もしいんだ!

 

「このメンツなら正直……オールマイトだって恐くないんじゃないかな……!」

 

 俺も何か見つけたら、寒気送るからな、バクゴー君! 安心しろ!

 

「何だこいつら!!!!」

「おまえ中央を歩け」

「出てきた爆豪が悪い」

「俺を守るんじゃねぇクソ共!!!」

「行くぞ!!」

 

 進め! バクゴー護衛部隊!!

 

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