傷吐き   作:めもちょう

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四十七話

 バクゴー護衛部隊は、目立たないように、森の中を突っ切って進んでいた。俺は誰からもどうせ見えないから、大胆に索敵する。つまり飛び回ってるってことなんだけど。今のところヴィランの気配はない。だけど当然、安心はいつまでも出来ない。

 森を抜けた先で、施設に近いコースに出た。と、同時に、ヴィランの気配を感じた。この気配、俺らの姿を見て逃げた女の子のヴィランじゃない!

 目で追った気配の先では、ニンマリ笑っているような変なペイントを施されている仮面をつけて、シルクハットを被った変な奴が、木に紛れるようにして立っていた。

 

 バクゴー君! 危ない!! 気づいて!!!

 

 危険を知らせようと寒気を送るが一足遅く、バクゴー君は仮面に触れられてしまった。

 バクゴー君は、小さな小さな、ビー玉にされてしまった。

 

 返せよ!!!

 

 仮面の奴はさっさと帰ればいいものを、緑谷くんたちが気づくまでそこにいるらしい。自分の勝利に酔うタイプのヴィランか。ふざけるな!

 木の太い枝の上に立つヴィラン。その下で漸く緑谷くんたちもバクゴー君が居ないことに気がついた。

 

「彼なら、俺のマジックで、貰っちゃったよ」

 

 あげた覚えはねェんだよクソヴィラン!! 

 

「こいつぁヒーロー側(そちら)にいるべき人材じゃあねえ。もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ」

「っ返せ!!」

 

 その中から開放しやがれェ!!

 

 いくら仮面の手の中のビー玉を取り返そうとしても、触れられないから意味は無い。分かっていても、手を伸ばすことを止められない。

 

「返せ? 妙な話だぜ。爆豪くんは誰のものでもねぇ。彼は彼自身のものだぞ!! エゴイストめ!!」

「返せよ!!」

 

 エゴイストはどっちだ! “彼は彼自身のものだぞ”って言う割にはバクゴー君をビー玉に閉じ込めやがって! ヴィランらしく、言動が馬鹿だな!!

 

「どけ!」

 

 轟くんが障子くんたちを退けて、氷結を食らわせようとした。

 

「我々はただ、凝り固まってしまった価値観に対し、『それだけじゃないよ』と道を示したいだけだ。今の子らは価値観に道を選ばされている」

 

 木を伝って向かってきた氷結を、すごいジャンプで避けた。足にバネでも仕込んでんのか、滞空時間も長い。そして、今気づいた。ビー玉二つだし、もうひとつの方には常闇くんの影が見える。こいつっ……!!

 

「わざわざ話しかけてくるたぁ……舐めてんな」

「元々エンターテイナーでね。悪い癖さ。常闇くんはアドリブで貰っちゃったよ」

 

 手の中で彼らを転がすな。

 首を絞めるように、奴の後ろから腕を回す。今なら、いくらでも体温を奪える気がする。

 

「ムーンフィッシュ……『歯刃(はじん)』の男な。あれも死刑判決控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ。それをああも一方的に蹂躙する暴力性。()()()()と判断した!」

 

 帰さねぇぞ。その手を、彼らを隠したその手を開けろ!! 彼らを解放しろ!!

 

「この野郎!! 貰うなよ!」

「悪いね。俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ! ヒーロー候補生何かと戦ってたまるか」

 

 仮面男は氷結の追撃もジャンプで避け、インカムを起動した。

 

開闢(かいびゃく)行動隊! 目標回収達成だ! 短い間だったがこれにて幕引き!! 予定通りこの通信後5分以内に“回収地点”へ向かえ!」

 

 あ゛あ゛んっ!!? なんだよこいつ、仮面なのをいいことに、彼らを閉じ込めたビー玉を口の中にしまいやがったぞ!! やめろ!! きたねぇだろうがっ!!!

 ばっちいヴィランは木の上を走って、“回収地点”とやらに向かうらしい。嫌だ。止めてくれ。バクゴー君を連れて行くな!

 

「させねぇ!! 絶対逃がすな!!」

 

 後ろで轟くんの大声が聞こえた。お願いだ、助けて。

 二人を助けて!!

 

 地面を走っている彼らと木の上を飛ぶように駆けていく仮面。あっという間に彼らと差をつけていくのが、悔しい。俺がいくら体温奪っても、森自体が燃えて熱くて意味が無い! 首を絞めても意味がない!! 俺じゃ、こいつを止められない!!

 お願い……助けて、皆!!

 

 背後から悲鳴のような声が迫ってきたと思ったら、仮面ヴィランが撃ち落とされた。落としたのは、轟くん、障子くん、緑谷くんの三人だ! 緑谷くん、そんなにボロボロなのに、来てくれたのかっ!? 俺と同じになっちまうぞっ!

 

 落ちた場所に居たのは、さっき見たセーラー服の女の子と、全身タイツな黒いやつと、顔中ツギハギのグロテスク男の三人。全員気色悪い! 

 

「知ってるぜこのガキ共! 誰だっ!?」

 

 全身タイツ、お前は何矛盾したこと言ってんだ!?

 

「Mr. 避けろ」

「! ラジャ」

 

 ツギハギ顔が左手を構え、その手から青黒い炎が放たれた! 仮面の男は自らビー玉になってそれを避け、奴を捕らえていた三人に炎が襲いかかった。あの色の炎、普通に考えて火力が強いやつ。そうでなくても火には変わりなくて、避けれず腕を焼かれた緑谷くんと障子くんが、心配だ。彼らだって死なせたくない存在。彼らにそれぞれヴィランが襲いかかっていく。俺は、でも俺には、何か出来ることは無いのかっ!?

 

「いってて……飛んで迫ってくるとは! 発想がトんでる」

 

 仮面男はビー玉からまた戻り、平気そうにしてやがる。帽子くらい燃えてろよ。

 

「爆豪は?」

「もちろん」

 

 ツギハギ顔に確認される仮面男は、なぜかポケットをまさぐる。そこには仕舞ってないだろ。そう思っていたら障子くんが「二人共逃げるぞ!!」と叫んだ。

 

()()()()でハッキリした……! “個性”はわからんが、さっきおまえが散々見せびらかした──……右ポケットに入っていた()()が、常闇、爆豪だな、エンターテイナー」

 

 なるほど、そうか。見ていた距離の違いか!!

 違うんだよ障子くん! 君もこいつがエンターテイナーだと言うなら、そう単純じゃないと気づいてくれ! 走っていかないで!!

 

 木の陰から脳無が現れ、緑谷くんたちの正面に黒いワープゲートが立ちふさがった。

 

「合図から5分経ちました。行きますよ、荼毘」

「まて、まだ目標が……」

 

 この声は、ワープの奴か。くそっくそっ、くそっ!! 気づいて、誰か! 連れて行かれちゃうよぉ!!!

 

「ああ……アレはどうやら走り出すほど嬉しかったみたいなんで、プレゼントしよう。悪い癖だよ。マジックの基本でね。物を見せびらかす時ってのは……」

 

 仮面男が仮面をずらして口を開けた。

 

見せたくないもの(トリック)がある時だぜ?」

 

 舌の上には、ビー玉が二つ。

 見せびらかしたと同時に、障子くんが持っていたビー玉が巨大な氷へと変化した!

 

「氷結攻撃の際にダミーを()()し、右ポケットに入れておいた。右手に持ってたもんが右ポケットに入ってんのを発見したら、そりゃー嬉しくて走り出すさ」

 

 こいつが自分から本物を白状してくれたおかげで、緑谷くんたちがまだ自分たちの目標を達成してないことに気づいてくれた。そうだよ、急いであいつの顔をぶん殴って、口の中から二人を救出して!!

 

「そんじゃーお後がよろしいようで……」

 

 よくねェよっ!!!

 

 仮面男がワープゲートの中から恭しくお辞儀をする。その横っ面に、光きらめくレーザーが放たれ、仮面男のアイデンティティが破壊された!!

 

 このレーザーは、体育祭の、予選で、最後に見た……! 青山くんの“個性”のレーザー!!!

 

 ありがとう青山くん!! 君が居てくれたおかげで、勇気を出してくれたおかげで!! 三人がビー玉にされた二人の救出が出来る!!!

 

 走り出した三人。そのうち緑谷くんは傷で限界を迎えたのか失速し、轟くんと障子くんが二つに手を伸ばす。

 障子くんの手がひとつ掴む。

 障子くんの複製の手と轟くんの手が──空気を掴む。

 

 もうひとつのビー玉は、ツギハギ顔の手に握りこまれてしまった。返せよ!! 返しやがれ!!

 

「確認だ。“解除”しろ」

「っだよ、今のレーザー…… 俺のショウが台無しだ!」

 

 仮面だった男が指パッチンすると、ビー玉から彼らは解放された。障子くんの手の中にいたのは常闇くん。

 

「問題なし」

 

 ツギハギ顔に捕まっているのが、バクゴー君だった。

 やめろ! 離せよ!!

 

「かっちゃん!!」

 

 動け、バクゴー君!! 緑谷くんに手を伸ばして!! お願い、助かる為の行動をして!!!

 

「来んな、デク」

 

 ふざけるなァァアアアアアッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 ワープ先で、バクゴー君は気絶させられた。

 どうして? どうして、あの時、手を伸ばしてくれなかったの、バクゴー君。

 

 夢の中に入ると同時に、涙腺が決壊した。留めなく涙が溢れ出て、激しく泣いている俺に、バクゴー君は何も言ってはくれなかった。

 

「言うんじゃ、なかった」

 

 嗚咽混じりすぎて、殆ど言えてなかった、後悔の言葉。

 他にもたくさん、バクゴー君を責める言葉を口にしたかったはずなのに、泣いて、泣いて、何も言えなかった。君を守れなかった後悔が、俺に何も言わせてくれなかった。

 バクゴー君の口を開いた。

 

「テメェがどうしてその情報を持ってるのかを考えた時、俺は同じ行動を取っただろーよ。何も伝えなくても、肝試しに参加して、結局同じだ。テメェの忠告はそこまで意味はなかったんだよ」

「……そこまで?」

 

 一定の効果はあって、それを振り切って、君は、拐われたっていうのかい?

 涙が止まって、バクゴー君の言葉を、全身が待っている。

 

「俺には拐われた理由がある」

 

 待っているはずなのに、続きが聞きたくなかった。不安が、俺を追い詰める。

 

「お前を、助ける為だ」

 

 その一言が、トドメだった。

 涙がさっきの比じゃない位、溢れていく。止まらない。苦しくて、苦しくて、嫌だった。

 

「ごめんね、ごめんね。君の、覚悟を……」

「言うな」

 

 遮られて出なかった、“覚悟を無駄にしてごめんなさい”。“死んで、ごめんなさい”。

 

 君が助けようと、自らを危険に晒した結果の先にあるのは、俺が死んでいるという事実。

 

 あの、夢の中の幸せなひとときと引き換えに、俺は死後ずっと、この事を後悔し続けていくんだ。

 

 ああ、ああ、死にたい。

 

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