傷吐き   作:めもちょう

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四十九話

 密室からワープで、バクゴー君はバーに連れ込まれた。バーには襲撃の時に見かけたヴィラン三人以外にも二人、新しく見る顔があった。トカゲのような顔した男、分厚い唇のサングラス男。あれ、仮面男の仮面、線が多めのペイントになってるな。ま、どうでもいい。

 

 バクゴー君はあっという間に椅子に拘束されたし、時間はそろそろ雄英の会見が始まる頃。無力化されているバクゴー君の前には、ヴィラン共が七人。いくらバクゴー君でも、今の状態からどうこうできない。

 屈するな。大丈夫だ、バクゴー君。少し、時間稼ぎをしてくれれば、それでいい!

 

「早速だが……ヒーロー志望の爆豪勝己くん。俺の仲間にならないか?」

「寝言は寝て死ね」

 

 この集団のリーダーなんだろう。顔に手の模型を取り付けたこの気色悪い奴が、バクゴー君の勧誘を始めた。止めろ。

 

「まあ、そんな怖い顔するなよ。まずは話を聞いてくれ」

 

 せいぜい、ヒーローたちが来るまでその間抜け面で話してな! 俺はこの手の奴の首を絞めながら、こいつの、こいつらの不幸を願った。

 

 バクゴー君から見て正面に置かれたテレビから、雄英高校の謝罪会見の様子が放送されるらしい。

 

「俺たちのこと、君のことだ。見ようじゃないか」

 

 こいつの、余裕と愉悦で震えた声が、滅茶苦茶気に入らない。

 

『この度──我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまったこと、ヒーロー育成の場でありながら、敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。誠に申し訳ありませんでした』

 

 会見は相澤先生の謝罪から始まり、テレビ局の質問と校長先生たちの返答が繰り返される。そもそも雄英を数字と見て、責める気しかない質問者たちの空気は悪い。テレビっていう影響力のある媒体でこんな態度を取れば、見る人たちにもその影響は出ると分かっているはずなのに。気分が悪い。

 首を絞めている男がニヤニヤ笑っている。

 

「不思議なもんだよなぁ……なぜ奴ら(ヒーロー)が責められてる!?」

 

 この事件を起こしたお前が言える言葉じゃないだろうが。

 手の男は演説するかのように両手を広げて問いかけた。答えを聞くつもりもないくせに。全部自分で言って、バクゴー君にその考えを植え付けようとしてるんだ。

 

「奴等は少ーし対応がズレてただけだ。守るのが仕事だから? 誰にだってミスの一つや二つある! 『お前らは完璧でいろ』って!? 現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ爆豪くんよ!」

 

 バクゴー君に何吹き込もうとしてんだ。殺してやる。

 

「守るという行為に対価が発生した時点で、ヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!!」

 

 黙れトカゲ頭。モチベーション維持に手っ取り早いのは金だ。人気、功績、信頼なんかのバロメーターが金だ。彼らの存在が必要だから、政府もヒーローを職として保護したんだ。テメェらみたいな奴らから、無力な人を守ってもらう為に!!

 理想につけ込んでヒーローを惑わせ、調子に乗っているお前たちが、大嫌いだ!!!

 

「人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでキチキチと守る社会。敗北者を励ますどころか、責め立てる国民。俺たちの戦いは『問い』。ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか、一人一人に考えてもらう」

 

 ……残念ながら、人は庇護欲の沸かない弱い存在を痛めつける傾向にある生物だ。異様なのは間違っちゃいない。

 正義と悪で決定的なのは、盗みと同族殺しをしない、しかない。

 それ以外の正義は全部、()()()()が決める。

 

「俺たちは勝つつもりだ」

 

 俺はお前らを負けさせたい。俺が命をかけて守ろうとした未来を、テメェらの決めた正義の未来になんかしたくない!!

 

「君も、勝つのは好きだろ」

 

 バクゴー君を穢すんじゃねぇよ!!

 

荼毘(だび)、拘束外せ」

「は?」

 

 ほーん? 随分ナメてんなァ?

 

「暴れるぞこいつ」

「いいんだよ、対等に扱わなきゃな、スカウトだもの。それに、この状況で暴れて勝てるかどうか、わからないような男じゃないだろう? 雄英生」

 

 いかにも信用してますと、態度で示そうってか。雄英の信頼を壊そうと、人々を不安にさせようと。テメェらが調子かこうとしているだけ、バクゴー君をそのコマにしようとしてるってのは丸見えなんだよ!!

 拘束を解くのはトゥワイスと呼ばれた全身黒タイツ。その後ろから仮面男が「強引な手段だったのは謝るよ」と謝罪する。

 

「けどな。我々は悪事と呼ばれる行為に勤しむただの暴徒じゃねえのは分かってくれ。君を拐ったのはたまたまじゃねえ。ここにいる者、事情は違えど、人に、ルールに、ヒーローに縛られ……苦しんだ。君ならそれを──」

 

 分かるわけねーじゃん!!

 バクゴー君は俺が首を絞める手の奴に、拘束が解けた瞬間、爆破を食らわせた!! ザマァねェぜ!!

 バクゴー君にテメェらヴィランの、()()()()()()()()()()()なんて、分かるわけねェんだよ!!

 

「黙って聞いてりゃダラッダラよォ……! バカは要約できねえから話が長ぇ! 要は『嫌がらせしてぇから仲間になってください』だろ!?

 

 無駄だよ」

 

 すっごいスッキリした! その険しい顔が、俺には頼もしく見えるよ。

 

「俺は()()()()()()が勝つ姿に憧れた。誰が何を言ってこようが、そこァ()()曲がらねぇ」

 

 そうだよな、バクゴー君。君はただ勝つだけじゃ嫌なんだ。

 体育祭で優勝したのにああも暴れていたのは、君が決めた、()()()()()()じゃなかったからだ!!

 こんな奴らに惑わされる君じゃない。こいつらの不幸を願うなんて止めだ止め! そんなことしている暇があったら俺はバクゴー君を守って、俺が好きな人たちの未来を良いものにするんだ!

 

 バクゴー君に触れる。俺が君に送りたいのは安心感だ。あったかいとさ、人って、安心するよね。

 大丈夫だバクゴー君、揺らがない君は、ヒーローになれる。

 

 

 

 テレビは会見の様子を未だ流し続けている。記者が、“攫われたのがバクゴー君だったのは体育祭で見せた粗暴さや不安定さが原因なのでは、そんな彼にヒーローとしての未来があるのか”と訊いていた。あいつも殺したい。あ、だめ、今の俺は幸せを願うって決めたんだ。

 答える相澤先生は、頭を下げていた。

 

『行動については私の不徳の致すところです。ただ……体育祭での()()()は、彼の“理想の強さ”に起因しています。誰よりも“トップヒーロー”を追い求め……もがいている。あれを見て“隙”と捉えたのなら、ヴィランは浅はかであると私は考えております』

 

 まったくもってその通りだぜ相澤先生!! そうであることに越したことはないけど、一年生から完ぺきなヒーロー像を持って行動してたっていうんなら、わざわざ雄英にくる必要なんて無いもんなぁ!! 理想の為にもがく姿がいくら周りからヴィランに見えたって、関係ない! そうだよな、バクゴー君!

 

 記者は根拠になっていないと、具体策があるのかを再度訊き、校長が警察と共に調査を進めていると答えた。

 

『我が校の生徒は必ず取り戻します』

 

 なんて頼りがいのある発言なんだろう。

 俺も、信じれば良かったのかな。救われることを、迎えに来てくれることを。

 

「ハッ! 言ってくれるな、雄英も先生も……そういうこったクソカス連合!」

 

 バクゴー君はバクゴー君で立場が分かっているな。そうだ。君は俺と違って「脳無にするにはもったいない、クレバーな戦闘をする“強個性”の、乱暴者な男」で、こいつらが「味方に取り入れたい重要人物」! 君自身が欲しいわけだから、本気で殺しに来ることはない、相手がいくらいたって、触られなければ、君の勝ちだ!

 

「言っとくが、俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ!!」

 

 片や「小賢しい」と、片や「馬鹿だ」と、「懐柔されたフリでもしときゃいい」だの、ヴィラン共はバクゴー君を好き勝手に評価する。バクゴー君を分からないからそう言うんだろ? やっぱりテメェらにバクゴー君はもったいないなぁ! 

 

「したくもねーモンは嘘でもしたくねんだよ俺ァ。こんな辛気くせーとこ長居する気もねぇ」

 

 ヒュー! かっこいいぜバクゴー君!

 

 そのバクゴー君に爆破された手の奴はこのやりとりの間、ずっと落ちた手の模型を見つめていた。ワープの奴が何か「落ち着いて」とか言っている。その手は何かのストッパーか?

 

 手の奴がバクゴー君を睨みつけた。それはバクゴー君を少しだけ怯ませるだけで、大した効果は無いようだった。オールマイトと戦ったことがある君だ。あのくらい何でもないだろうね。

 手の奴は、落ちた模型を拾って、顔にそれを取り付けた。

 

「手を出すなよ……お前ら、こいつは……大切なコマだ」

 

 やっぱりその程度としか考えてなかったか! テメェに渡すもんかよォ!

 

「できれば、少し耳を傾けて欲しかったな……。君とは、分かり合えると思ってた……」

「ねぇわ」

 

 何かが違えば、こいつと同じになってたのかもと、何故か一瞬考えて、そうじゃないから考えるのを辞めた。その考えに引きずられるのが嫌だったから。

 

「……仕方がない。ヒーローたちも調査を進めていると言っていた。悠長に説得してられない。先生。力を貸せ」

 

 先、生……?

 テレビモニターから聞こえてきた声は、あの時の、奴の声だった。

 

『良い、判断だよ。死柄木弔』

 

 死んでいるのに、血の気が引いた気がした。

 駄目だ、こいつが出て来たら……! こいつが来たら、誰も敵わない!!!

 

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