俺が戦慄している中、バクゴー君は挑発していた。
「先生ぇ……? てめえがボスじゃねえのかよ……白けんな」
それは自分の考えを相手に悟らせない為か。バクゴー君はジリジリと後ろに下がっている。俺に何か出来れば……!
「黒霧、コンプレス。また眠らせてしまっておけ」
「ここまで人の話を聞かねーとは……逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
なんで俺はものに触れられないんだよォ!
その時、軽いノック音と共に、呑気な声で呼びかけられた。
「どーもォ、ピザーラ神野店ですー」
それに気を取られた瞬間。外側にあたる壁がど派手に、クッキーが砕かれるように壊された!
「何だぁ!!?」
ヴィランたちが慌てて、黒モヤが支持されるままゲートを開こうとするが。
「先制必縛、ウルシ鎖牢!!」
壁が壊れて見えた外からシンリンカムイが“個性”の手足の木で奴らを拘束した。燃やそうとしたツギハギ顔は素早い小さいおじいさんに後頭部を蹴られ、意識を飛ばした。
「さすが若手実力派だシンリンカムイ!! そして目にも止まらぬ古豪グラントリノ!! もう逃げられんぞ、
壁を容易く壊した本人が、活躍した彼らの名を上げる。無い体がビリビリ痺れる。その笑顔、その力強い声、俺が夢見たヒーロー像。
やっと来てくれた、俺たちのヒーロー!
「我々が、来た!」
君を救けに、オールマイトが来てくれた!!
「オールマイト……!? あの会見後にまさか、タイミングを示し合わせて……!」
「攻勢時は守りが疎かになるものだ……」
後ろの扉から声が聞こえたから見てみれば、何かが扉の隙間を、体を紙のように薄くしてすり抜け侵入してきた。その人はヒーロー、エッジショット。尖った髪型をした彼は体を薄く引き伸ばせる“個性”を持った、忍者のようなヒーローだ!
「ピザーラ神野店は、俺たちだけじゃない。外はあのエンデヴァーを始め、手練れのヒーローと警察が包囲してる」
エッジショットが鍵を開けた扉から警察が突入してくる。壊れた壁から覗いてみたら、その下には確かに警察とヒーローが包囲していた。炎を身に纏っているエンデヴァーが特に目立って見えた。
「怖かったろうに……よく耐えた! ごめんな……もう大丈夫だ少年!」
「こ、怖くねぇよ! ヨユーだクソッ!!」
安心して、笑いたいっていうのを無理やり抑えている口は歪んでいる。こんな状況なのに、微笑ましくなっちゃうじゃん。オールマイトもグッと親指を立てている。
さあ行こう! 少し足を犠牲にしたって、リカバリーガールに治してもらえばいいさ! さあ行こう! バクゴー君、動いて!
「オールマイト! ヘアバンは見つかってねえのか!?」
その話は後ででいいだろ!!
「ヘアバン?」
「雄英1年C組、吐移 正。雄英教師なら知ってるだろ!?」
「あ、ああ、彼か……彼が、どうした?」
「は……?」
オールマイトは俺が攫われたことを知らないのか? そんなはずは……いや、それは本当にどうでもいいから、早く逃げようよ! 君さえ逃げれば勝ちなんだよ! ほら、手の奴も「は、ははは」って不気味に笑ってんだからさぁ!!
「爆豪くん……どこでその情報を手に入れたかは知らないが、よく聞いてくれたよ……」
「!」
「彼の“個性”も使えるし、爆豪くんと仲が良いからね……ついでに勧誘してたんだ……彼もお呼びしようじゃないか……」
誰をお呼びするってぇ!? バクゴー君、早く逃げよう! 惑わされるな!
「黒霧! 持ってこれるだけ持ってこい!!!」
脳無を持ってくるつもりか!!
奴の叫びから、何も起こらなかった。
「すみません死柄木弔……所定の位置にあるはずの脳無が……ない……!!」
「!?」
助かった……?
「やはり君はまだまだ青二才だ。死柄木!」
「あ?」
いや、オールマイト、語る暇があるなら、バクゴー君を連れて逃げてよ。
「
少年の魂を。
警察の弛まぬ捜査を。
そして、我々の怒りを!!
おいたが過ぎたな。ここで終わりだ、死柄木弔!!」
俺の文句を吹き飛ばすような、オールマイトの強すぎる覇気。ヴィランを捕らえる力強すぎる眼力。俺たちにとって頼もし過ぎた。
ハーン! ざまぁみろヴィラン共! オールマイトの存在に、絶望しろ!
「終わりだと……? ふざけるな……始まったばかりだ」
ビビってんのか、力んでんのか分からない、震える手の奴の声。
「正義だの……平和だの……あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す……その為に
まだ諦めてねぇってのか。オールマイトが居るってのに。お前らの脅威が捕まえに来たってのに。楽になっちまえよ!
「仲間も集まり始めた。ふざけるな……ここからなんだよ……黒ぎっ……」
「うっ……!」
手の奴が命令しようとした瞬間、黒もやが呻いた。気絶させたのはエッジショットだ。中いじったって。
おじいさんが前に出て、「おとなしくしといた方が身のためだって」と、ここにいるヴィランたちの名前を上げていった。
「
なァ死柄木。聞きてぇんだが、おまえさんのボスはどこにいる?」
「…………………………………………」
諦めちまえ、諦めろよ。お前はもう、その未来しか無いんだから。何も考えるな。
「ふざけるな。こんな……こんなァ……」
お前は、追い詰められているんだ。
「こんな……あっけなく……」
追い詰めている、はずなんだ。
「ふざけるな……失せろ……消えろ……」
こいつがまた何かをしでかす前に、バクゴー君、早く逃げようよ!
「
「お前が!!」
急に出てきたこいつの気魄。
「嫌いだ!!」
それに応えるかのように、臭い黒い液体と共に脳無が出てきた! 何も無いところから、しかも手の奴も驚いていたから、こいつが呼んだわけでは無いらしい。エッジショットがワープの奴の仕業では無いと言っている。ならコイツらは、どんどん出てくるこいつらは、一体……!?
「シンリンカムイ、絶対に放すんじゃないぞ!!」
「お゛!!?」
脳無が出てきた黒い液体が、バクゴー君の口の中から溢れ出た!? これもワープ系の”個性”で、まさか、あいつが……!?
「爆豪少年!! NO!」
「っだこれ、体が……飲まっれ……」
なら行き先は……!!
アイツのとこはダメだァ!!!
バクゴー君に憑いていたからか、俺は彼と一緒に黒い液体に飲まれてワープされた。一瞬のことだ。バクゴー君はワープ先で口に残ったそれを吐き出した。
「ゲッホ!! くっせぇぇ……んっじゃこりゃあ!!」
ワープ先は……やっぱり、こいつがいた。
「悪いね爆豪くん」
「あ!!?」
ていうか、ここ何があったんだ!? コイツの正面、がれきの道じゃねぇか! 元はなんだったんだ!
俺が驚いている間に、他のヴィラン共も臭い液体を吐いてワープしてきた。バクゴー君の後ろには奴らが、そして、顔無し男の後ろから、……俺ぇっ!?
「ヘア、バン……」
「ゲホッ……ば、バクゴー君……!」
誰だお前はァッ!!!
「また失敗したね弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り返した。この子
全ては、君のためにある」
俺を攫ったのも、脳無ってのを作ったのも、全部、お前自身の為じゃなく、手の奴の為、だっていうのか……? あまりの絵面の不気味さに、バクゴー君も血の気が引いていっている。
「……やはり、来てるな……」
その発言は、上空から来たオールマイトに対して使われたものなんだろう。重力で加速し、勢いが増したはずのオールマイトの拳は、受け止められてしまった。
「全て返してもらうぞ、オール・フォー・ワン!!」
「また僕を殺すか。オールマイト」
オールマイトがいても、どうしても拭えない不安が、俺にバクゴー君を急かさせた。
逃げよう、バクゴー君。俺も手伝うから。お願い。