傷吐き   作:めもちょう

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五十一話

 バクゴー君、逃げよう! 止まるな!

 バクゴー君の肩をもって揺さぶると、彼はそれに気づいてくれたみたいだった。なら、二人の戦いに巻き込まれる前に、早く!

 

「随分遅かったじゃないか」

 

 オールマイトの強すぎる拳の衝撃は、地面にクレーターを作ることで受け止められた。が、それを作った際の爆風にバクゴー君が吹っ飛ばされた。この顔無し男……あのパワーに負けるどころか、オールマイトを素手で弾くだなんて……。どんだけその体に”個性”詰め込んでんだ、このヴィラン!

 

 大丈夫か、バクゴー君! あ、バグゴー君、偽物の心配なんてしないで! あいつは俺じゃない、偽物を呼ぼうとしないで!

 バクゴー君の口を手で塞いだら、黙ってくれた。え? 見えてる、の?

 

 っ!? また、戦う二人の起こした衝撃波で、バクゴー君ぶっ飛ばされた! オールマイトも大丈夫か!? ええっオールマイトいない! 吹っ飛ばされたのか! たくさんのビルなどの建物を巻き込んで、どこまで吹き飛んだ!? オールマイト、生きてるのか!?

 

「オールマイトォ!!!」

「心配しなくても、あの程度じゃ死なないよ。だからここは逃げろ弔。その子達を連れて」

「!」

 

 逃げよう、バクゴー君! あの偽物なんか見てないで! ちょっと難しいかもしんないけど、君なら出来る! 俺が見えるなら、こっちじゃなくて、向こうに行こうよ! ねぇ!

 

 顔無し男が右手の指先から黒い爪みたいなのを出した。それを自在に伸ばして、黒もやの体に突き刺した。なんだその“個性”! しかも気絶してるはずなのに、黒もやの“個性”、ワープゲートがなんで展開されてるわけ!?

 

「さあ行け」

 

 どれだけの人間が、お前の犠牲になった!?

 

 遠くから、何かが飛び出した衝撃音。それは一瞬後、顔無し男の近くに、派手な音と衝撃を与えながら現れた。オールマイトだ!

 

「逃がさん!!」

 

 オールマイトは顔無し男に殴りかかっていく。

 

「常に考えろ弔。君はまだまだ成長できるんだ」

 

 成長の糧に、バクゴー君が使われてたまるか!

 

「行こう死柄木! あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれてる間に!」

 

 仮面男がまだ気絶している荼毘ってやつを“個性”でビー玉にする。

 

()()持ってよ」

 

 連れて行かせるかよ!

 

「めんっ……ドクセー」

 

 バクゴー君を狙うのは七人! 緊急事態だから、さっきまでと違って、強引にでもバクゴー君を連れて行く気だ。バクゴー君! 何が何でもあの仮面男には触れられないで! 同じ手に捕まるなんて、君らしくはないだろう!?

 

「今行くぞ!」

「させないさ」

 

 オールマイトは顔無し男に邪魔されてるから、バクゴー君の救出はできないだろう。そもそもオールマイトはバクゴー君を巻き込まない為に全力を出せていないんだ。おい偽物! バクゴー君を助けろ!

 

「バクゴー君! 右!」

「!」

 

 ナイス! よく仮面男のいるところを忠告してくれた! でも、見え見えの、捕まえようとする下心無しでだこの偽物!! テメェもやっぱり死ね!!

 

「7対1……かよッ!!」

 

 あ゛? 何笑ってんだ偽物。

 

「……なんでバレたんだろ?」

「ハンッ!」

 

 俺の笑顔は、バクゴー君が評価してくれた100点満点の笑顔は、こんなに汚くねぇんだよ! ニセモンがァ!!!

 

 バクゴー君もこいつが偽物だと分かってくれた。ならバクゴー君は、自分のやるべきことを理解したね? さあ逃げよう! それが一番難しいんだけどね!!

 せめて偽物、手出しすんなよ。お前も俺の面をかぶるなら、バクゴー君大好きだよなァ?

 

「もちろん」

 

 !?

 

 

 

 バクゴー君はずっと爆破で奴らの攻撃を躱したり、防いだりしていた。人数差的にいくら逃げても回り込まれて、脱出が出来ない。おい偽物! お前俺の声が聞こえるなら、バクゴー君を助けろ!

 

「悪いな幽霊。俺はトゥワイスが作ったお前の分身でね。恐らく意に反する行動をすれば、消される。助けられるチャンスは一回だから、慎重にならねぇといけねぇ」

 

 ……そうかよ。

 偽物はいつ拵えたか分からない、黒いキューブを右手に隠し持っていた。

 そのチャンスは、いつ来る。

 

 唐突に、それは起こった。この場の誰のものでもない力で壁がぶち破られ、氷結の坂道が突然現れた。

 あの氷結。あのエンジン音。あの緑の光。

 

「来い!!」

 

 あの声は。

 

 偽物からバクゴー君に飛んで、思いっきり背中を押した。

 

 行って!!

 

 バクゴー君は捕まえようとしてくる奴らを爆破で吹き飛ばしながら、飛び上がって、彼の為に伸ばされた手を、しっかりと掴んでくれた!!

 

 やっと、やっとだ! やっと君が、救われてくれた!

 

 追いかけようとするヴィラン共が反発力を使って飛び上がったところを、倒れていたMt.レディが巨大化して頭で撃ち落とした。ヒーローってすごい!

 

 バクゴー君が振り向いた。俺のことを見てくれていた気がしたから、全力で、心の底からの感情を顔に浮かべた。

 助けに来てくれたのは切島くん、飯田くん、緑谷くんだった。飛び上がる為の氷結があったから、轟くんも居るかもね。もしかしたら、他にもいる?

 

 もう一発撃とうとした奴らは、素早くて小さいおじいさんに蹴られて気を失った。脳震盪やば。

 

 

 

 逃がしてくれた彼らとバクゴー君を見送った俺は、偽物に目を向けた。偽物は右手を頭に添えていた。そっちは、黒いキューブを持っていた手か。

 ありがとう、偽物。邪魔してくれなくて。

 

「助けようとしたじゃんか。その機会は無かったけど」

 

 あ、そっか。そうだったね。

 

「一つ、直してくれ。俺は偽物じゃない。俺は、お前の、分身だ。つまり俺はお前だ」

 

 そうらしい。分身はそれを言い残して、黒いキューブを発動させた。頭が飛び、黒い液体になった分身。実に俺の分身らしい最期だった。

 

 

 

 俺が分身に別れを告げている間にも戦局は進んでおり、ヴィラン達が次々とワープゲートへ吸い込まれていった。こっちも逃げたか! なら気持ちを切り替えよう。今度は、あなたを守ろう、オールマイト!!

 

 オールマイトが顔無し男に左腕を振りかぶる。が、顔無し男の前に黒い液体が溢れ出て、その中からさっき三人を気絶させた小さいおじさんが出てきた。オールマイトの左腕も何か膜が張られた。勢いは止められず、オールマイトの拳はおじいさんの顔に当たってしまった。何っ、オールマイトの不自然に弾かれた拳からも血がっ!? あの膜が、衝撃の反転でもする“個性”なのか!? そもそも、人を盾にするなんて、最低な奴だ!!

 

「なんせ僕はおまえが憎い」

 

 この二人は、何か因縁があるのか? オールマイトが手の奴に聞いていたのは、こいつのことか?

 

「かつてその拳で、僕の仲間を次々と潰し周り、お前は平和の象徴と謳われた」

 

 果たして、その仲間をお前は仲間と思っていたのだろうか。どうせコマだと考えていたんだろう? あの手の奴、死柄木弔でさえ。

 

「僕らの犠牲の上に立つその景色」

 

 そのお前らが犠牲にした人々は、どうなった。

 

「さぞやいい眺めだろう?」

 

 お前が見る景色は、地獄が一番お似合いだ。

 

 膨れ上がった奴の左腕から放たれた拳は、オールマイトのスマッシュで打ち消された。それでも瓦礫は吹き飛び、オールマイトは血を吹いた。

 

「心置きなく戦わせないよ。ヒーローは多いよなぁ。守るものが」

「黙れ」

 

 なんて野郎だ、顔無し男。

 

「貴様はそうやって人を弄ぶ!」

 

 オールマイトが顔無し男の左腕をつかむ。ゴキキッと、骨の折れ、割れるような音がする。

 

「壊し、奪い、つけ入り支配する! 日々暮らす人々を! 理不尽が嘲り嗤う! 私はそれが!」

 

 オールマイトに助けられていたヒーローのおじいさんが、安全な場所に放られる。とどめだ。

 

「許せない!!」

 

 オールマイトの拳が顔無し男の黒いヘルメットを突き破り、その奥にあるはずの顔に直撃した。

 

 ……オールマイトの様子がおかしい。今までずっと、後ろから彼に掴まり見てきたが、 右半分の髪がへたってきた。

 

「嫌に感情的じゃないか、オールマイト」

 

 お前まだ喋れるのか!?

 顔無し男に目を向けて、血の気が引いた。今まではメットをつけてて顔が分からないから、そう呼んでいたんだ。

 

「同じようなセリフを前にも聞いたな」

 

 シュコー、シュコーと、パイプから音がする。

 

「ワン・フォー・オール、先代継承者。志村菜奈から」

 

 目も、鼻も無いブニブニの皮膚。正真正銘、こいつは顔無し男だったんだ!

 

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