傷吐き   作:めもちょう

52 / 63
五十二話

 顔ブニブニ男とオールマイトの会話は、俺にはよく分からなかった。

 

「貴様の穢れた口で……お師匠の名を出すな……!!」

「理想ばかりが先行し、まるで実力の伴わない女だった……!」

 

 分かるのは、顔ブニブニ男が挑発してきているってこと。

 

「ワン・フォー・オール生みの親として恥ずかしくなったよ。実にみっともない死に様だった……どこから話そうか……」

 

 言葉の続きを聞きたくないオールマイトが再び左腕を振り上げるが、顔無し男が右腕を膨らまして、オールマイトを吹き飛ばした! ヘリが飛ぶような高さにまで吹き飛ばすなんて、どんな威力だよ! 一瞬の出来事すぎて、俺置いてかれたし!

 くそ、あのままじゃヘリにぶつかる……!

 しかし小さいおじいさんがオールマイトを回収してくれて、大事故にならずに済んだ。

 

「ゴホッ……邪魔を……」

 

 お前の存在が、人類からして邪魔だよ。

 

 オールマイトはおじいさんの手助けもあって着地出来た。一方、顔無し男の方も立ち上がり、戦闘態勢を作り直した。

 二人が戦ってきた場所は瓦礫ばかりで何もなく、その外も破壊され、機能しなくなった建物ばかり。この二人の戦いでどれだけの被害が出たことか。それが無いとこいつを止められないのか。やっぱりお前は最悪のヴィランだ。

 

 死柄木の育ての親だというのがよく分かる。顔無し男は両腕を大きく広げて、挑発しだした。

 

「弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまって良いものか……。でもねオールマイト。君が僕を憎むように、僕も君が憎いんだぜ?」

 

 愉悦を多分に含んだ、嫌な声だった。

 

「僕は君の師を殺したが、君も僕の築き上げてきたものを奪っただろう? だから君には可能な限り醜く、惨たらしい死を迎えて欲しいんだ!」

 

 なんてことを口にするんだ! 許せるわけがない!

 顔なし男の左腕がまた大きく膨らむ。この攻撃は噴射であることはさっき分かった。小さなおじいさんが「でけぇの来るぞ!」と言いながらジャンプして避ける。

 

「避けて反撃を──」

「避けて良いのか?」

 

 顔無し男が左腕をオールマイトに向かって構えた。避けてよ、オールマイト!

 

「君が守ってきたものを奪う」

 

 幽霊の俺でさえ吹き飛んでしまいそうな、とんでもない威力の噴射が繰り出される。避けなかったオールマイト。きっと後ろに人がいたんだ。そこに付け込むなんて、お前はどこまで……!

 

「まずは怪我をおして通し続けたその矜持」

 

 煙が晴れていく。

 

「惨めな姿を世間に晒せ。平和の象徴」

 

 晴れて見えたのは、いつか見たガイコツ姿。

 

 この、人は……、俺に、自販機で当たった、コーヒーをくれた、先生……!

 

「頬はこけ、目は窪み!! 貧相なトップヒーローだ。恥じるなよ。それがトゥルーフォーム(本当のキミ)なんだろう!?」

 

 トゥルーフォーム……本当の姿……? お、俺は、この人に……!

 

 先生は顔無し男に嘲られても、その青い、炎のような燃える瞳の光を失うことはなかった。

 

「……そっか」

「体が朽ち、衰えようとも……その姿を晒されようとも……私の心は、依然平和の象徴!! 一欠片とて奪えるものじゃあない!!」

 

 痺れる。どんな姿になっても、やっぱりあなたはオールマイト。そんなあなたに認めてもらったんだ、俺は!

 

 ああ゛っ!!

 

「素晴らしい! まいった、強情で聞かん坊なことを忘れてた。じゃあ()()も君の心には支障ないかな……あのね…………」

 

 顔無し男は人差し指を立てて言う。

 

「死柄木弔は、志村菜奈の孫だよ」

 

 オールマイトの目の輝きが、その炎が、小さくなった。

 

「君が嫌がることをずぅっと考えてた」

 

 なんて、気色の悪い声で、無い鳥肌を立たせ、際限ない怒りを沸かせる声を出せるんだ、お前は!

 

「君と弔が会う機会を作った。君は弔を下したね。何も知らず、勝ち誇った笑顔で」

「ウソを……」

「事実さ。わかってるだろ? 僕のやりそうな事だ」

 

 二人の話はやっぱり、俺には分からないことの方が多かった。それでも分かることはやっぱりあって。

 

「あれ……おかしいなオールマイト。笑顔はどうした?」

 

 顔無し男が、オールマイトを苦しめることを心の底から楽しんでいやがるってこと。

 

「き……さ、ま……!」

 

 歯ぎしりをするオールマイトに、嘲る顔無し男。

 

「やはり……楽しいな! 一欠片でも奪えただろうか」

 

 とんでもねぇクズ野郎め!!!

 

「~~~~ぉおおお──……!!」

 

「負けないで……」

 

 膝をつきかけたオールマイト。その彼が守った背後から、声がした。

 

「オールマイト……お願い……」

 

 その声はオールマイトが秘密と引き換えに守った、女性のもの。

 

「救けて」

 

 救いを求める言葉。きっとあのヘリが伝える画面越しにも、同じことが、いや、それだけじゃない。彼を後押しする言葉が叫ばれているはずだ。

 

 あなたがその姿になったとしても、あなたが成してきたことが、皆の希望となり、支えだった。

 微々たるものなのは皆分かっているだろう。俺だって分かってる。それでもせずにはいられない。

 

 あなたに想いを届けたくて、あなたに勝ってもらいたくて。あなたへ向けて、声を張り上げることを、せずにはいられないんだ!

 

 勝って! オールマイト!!

 

 

 

 オールマイトの右腕に、光が走る。

 

「お嬢さん、もちろんさ」

 

 ……やっぱりあなたは、皆の希望だ。

 

「ああ……! 多いよ……! ヒーローは……。守るものが多いんだよ、オール・フォー・ワン!! だから、負けないんだよ」

 

 右腕だけが筋肉で膨れ上がるそのガイコツ顔に浮かべる笑みは、誰よりもヒーローだった。

 

「渾身。それが最後の一振りだね、オールマイト」

 

 顔なし男がふわりと浮く。テメェはまだオールマイトを苦しめる気か。許さない。彼だって、俺が命に代えて守りたい一人なんだ。

 これ以上は許さない。余裕そうなその態度が気に入らない。パイプを外せば、息が止まってくれるかなァ???

 その行為が実を結ぶ前に、そのまま奴は上空へ浮かび上がっていく。

 

「手負いのヒーローが最も恐ろしい。(はらわた)を撒き散らし迫ってくる君の顔。今でもたまに夢に見る。二・三振りは見といた方がいいな」

 

 右腕を膨れ上がらせる顔無し男に、炎が迫った! 膨れ上がった右腕は、その炎を払う為に力を使った。炎の主は──

 

「なんだ貴様……その姿は何だ、オールマイトォ!!!」

 

 だがそのNo.2はオールマイトにしか興味が無さそうだ。

 

「なんだそのっ情けない背中は!!」

 

 オールマイトへ厳しい言葉送っていた。

 

「応援に来ただけなら、観客らしく大人しくしててくれ」

 

 エンデヴァーに何か攻撃しようとする顔無し男に、エッジショットが迫った。

 

「抜かせ破壊者。俺たちは救けに来たんだ」

 

 下ではシンリンカムイが倒れているヒーロー、ギャングオルカやジーニスト、Mt.レディを腕の木を伸ばして回収し、瓦礫に挟まっていた女性はワイプシの虎が“個性”の軟体で助け出していた。彼もやられた一人だってのに。まだ傷が浅めだったか……?

 

 皆が、オールマイトの背負うものを少しでも軽くしてやろうと、彼の守るものを代わりに請け負っていく。エッジショットとエンデヴァーが少しでもダメージを与えようと、顔無し男に攻撃を仕掛けていく。俺もこいつの首を絞めて寒気を送ってやる。

 

 すべては、オールマイトの勝利の為に!!

 

 

 

「煩わしい」

 

 今までも見せてきた噴射を、地面に向けて放ち、二人の攻撃を、皆の心を吹き飛ばした顔無し男。

 

「精神の話はよして、現実の話をしよう」

 

 顔無し男の右腕が、ゴリゴリ音を鳴らしながら変形していく。

 

「『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3『増殖』『肥大化』『鋲』『エアウォーク』『槍骨』。今までのような衝撃波では、体力を削るだけで確実性がない」

 

 トゲが、結晶が、バネが、大量の右腕が。

 

「確実に殺すために、今の僕が掛け合わせられる最高・最適の“個性”たちで」

 

 気色悪いが集合した右腕。

 

「君を殴る」

 

 お前は何人、人間を食ってきた!!?

 

 触れたくなくて離れた途端、奴はオールマイトに迫っていった。呪えないとか色々思うことはあったけれど、二人の戦いにこれ以上俺が入っちゃいけない気がして、憑いて行かないことにした。

 

 異形の拳とオールマイトの拳がぶつかり合う。今まで以上の衝撃が街を、人々を襲う。

 煙が少し晴れたから見に行ったら、拳はまだぶつかり合い、オールマイトの腕、手から血が噴き出していた。そして、彼は、左腕にも力を入れた!

 

「そこまで醜く抗っていたとは……誤算だった」

 

 そのマッスルになった左腕で、顔無し男の横っ面に一撃を入れた! が……

 

「らしくない小細工だ。誰の影響かな」

 

 今の一撃、効いてなかったのか!? 

 

「浅い」

 

 奴は左腕を大きく膨らませた!

 

「そりゃア……」

「!」

 

 力を抜いていた右腕が、血を吹きながら、またマッスルになった!!

 

「腰が、入ってなかったからな!!!」

 

 口から血を吹きながら、オールマイトが右腕を振りかぶる。

 

「おおおお!!!」

 

 オールマイトのすべてをかけた拳が、顔無し男の左っ面にめり込んだ!!

 

「UNITED STATESOF SMASH!!!」

 

 顔無し男は地に落ち、その衝撃波は上空にいるヘリを不安定にさせ、地面の他を吹き飛ばした。

 時間が経ち、砂煙が晴れていく。見えるのはクレーター。その中央には倒れ動かない顔無し男。そして立つのは、ガイコツ姿のオールマイト。

 

 皆が息を呑む。オールマイトは分かっている。皆が求めている姿を。

 彼は左腕を掲げた。そして、マッスルフォームへ、姿を変えた!

 

 辛いだろうに。力を入れるのは、もう大変なことだろうに。それでも彼は、自身の信念の為に、腕を掲げ、勝利宣言をするのだ。

 

 最後の最後まで人々に平和をもたらし、希望を与えてくれた平和の象徴。

 俺の夢見たヒーロー像の、最後の姿。

 

 ありがとう、オールマイト。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。