顔ブニブニ男とオールマイトの会話は、俺にはよく分からなかった。
「貴様の穢れた口で……お師匠の名を出すな……!!」
「理想ばかりが先行し、まるで実力の伴わない女だった……!」
分かるのは、顔ブニブニ男が挑発してきているってこと。
「ワン・フォー・オール生みの親として恥ずかしくなったよ。実にみっともない死に様だった……どこから話そうか……」
言葉の続きを聞きたくないオールマイトが再び左腕を振り上げるが、顔無し男が右腕を膨らまして、オールマイトを吹き飛ばした! ヘリが飛ぶような高さにまで吹き飛ばすなんて、どんな威力だよ! 一瞬の出来事すぎて、俺置いてかれたし!
くそ、あのままじゃヘリにぶつかる……!
しかし小さいおじいさんがオールマイトを回収してくれて、大事故にならずに済んだ。
「ゴホッ……邪魔を……」
お前の存在が、人類からして邪魔だよ。
オールマイトはおじいさんの手助けもあって着地出来た。一方、顔無し男の方も立ち上がり、戦闘態勢を作り直した。
二人が戦ってきた場所は瓦礫ばかりで何もなく、その外も破壊され、機能しなくなった建物ばかり。この二人の戦いでどれだけの被害が出たことか。それが無いとこいつを止められないのか。やっぱりお前は最悪のヴィランだ。
死柄木の育ての親だというのがよく分かる。顔無し男は両腕を大きく広げて、挑発しだした。
「弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼。決定打を僕が打ってしまって良いものか……。でもねオールマイト。君が僕を憎むように、僕も君が憎いんだぜ?」
愉悦を多分に含んだ、嫌な声だった。
「僕は君の師を殺したが、君も僕の築き上げてきたものを奪っただろう? だから君には可能な限り醜く、惨たらしい死を迎えて欲しいんだ!」
なんてことを口にするんだ! 許せるわけがない!
顔なし男の左腕がまた大きく膨らむ。この攻撃は噴射であることはさっき分かった。小さなおじいさんが「でけぇの来るぞ!」と言いながらジャンプして避ける。
「避けて反撃を──」
「避けて良いのか?」
顔無し男が左腕をオールマイトに向かって構えた。避けてよ、オールマイト!
「君が守ってきたものを奪う」
幽霊の俺でさえ吹き飛んでしまいそうな、とんでもない威力の噴射が繰り出される。避けなかったオールマイト。きっと後ろに人がいたんだ。そこに付け込むなんて、お前はどこまで……!
「まずは怪我をおして通し続けたその矜持」
煙が晴れていく。
「惨めな姿を世間に晒せ。平和の象徴」
晴れて見えたのは、いつか見たガイコツ姿。
この、人は……、俺に、自販機で当たった、コーヒーをくれた、先生……!
「頬はこけ、目は窪み!! 貧相なトップヒーローだ。恥じるなよ。それが
トゥルーフォーム……本当の姿……? お、俺は、この人に……!
先生は顔無し男に嘲られても、その青い、炎のような燃える瞳の光を失うことはなかった。
「……そっか」
「体が朽ち、衰えようとも……その姿を晒されようとも……私の心は、依然平和の象徴!! 一欠片とて奪えるものじゃあない!!」
痺れる。どんな姿になっても、やっぱりあなたはオールマイト。そんなあなたに認めてもらったんだ、俺は!
ああ゛っ!!
「素晴らしい! まいった、強情で聞かん坊なことを忘れてた。じゃあ
顔無し男は人差し指を立てて言う。
「死柄木弔は、志村菜奈の孫だよ」
オールマイトの目の輝きが、その炎が、小さくなった。
「君が嫌がることをずぅっと考えてた」
なんて、気色の悪い声で、無い鳥肌を立たせ、際限ない怒りを沸かせる声を出せるんだ、お前は!
「君と弔が会う機会を作った。君は弔を下したね。何も知らず、勝ち誇った笑顔で」
「ウソを……」
「事実さ。わかってるだろ? 僕のやりそうな事だ」
二人の話はやっぱり、俺には分からないことの方が多かった。それでも分かることはやっぱりあって。
「あれ……おかしいなオールマイト。笑顔はどうした?」
顔無し男が、オールマイトを苦しめることを心の底から楽しんでいやがるってこと。
「き……さ、ま……!」
歯ぎしりをするオールマイトに、嘲る顔無し男。
「やはり……楽しいな! 一欠片でも奪えただろうか」
とんでもねぇクズ野郎め!!!
「~~~~ぉおおお──……!!」
「負けないで……」
膝をつきかけたオールマイト。その彼が守った背後から、声がした。
「オールマイト……お願い……」
その声はオールマイトが秘密と引き換えに守った、女性のもの。
「救けて」
救いを求める言葉。きっとあのヘリが伝える画面越しにも、同じことが、いや、それだけじゃない。彼を後押しする言葉が叫ばれているはずだ。
あなたがその姿になったとしても、あなたが成してきたことが、皆の希望となり、支えだった。
微々たるものなのは皆分かっているだろう。俺だって分かってる。それでもせずにはいられない。
あなたに想いを届けたくて、あなたに勝ってもらいたくて。あなたへ向けて、声を張り上げることを、せずにはいられないんだ!
勝って! オールマイト!!
オールマイトの右腕に、光が走る。
「お嬢さん、もちろんさ」
……やっぱりあなたは、皆の希望だ。
「ああ……! 多いよ……! ヒーローは……。守るものが多いんだよ、オール・フォー・ワン!! だから、負けないんだよ」
右腕だけが筋肉で膨れ上がるそのガイコツ顔に浮かべる笑みは、誰よりもヒーローだった。
「渾身。それが最後の一振りだね、オールマイト」
顔なし男がふわりと浮く。テメェはまだオールマイトを苦しめる気か。許さない。彼だって、俺が命に代えて守りたい一人なんだ。
これ以上は許さない。余裕そうなその態度が気に入らない。パイプを外せば、息が止まってくれるかなァ???
その行為が実を結ぶ前に、そのまま奴は上空へ浮かび上がっていく。
「手負いのヒーローが最も恐ろしい。
右腕を膨れ上がらせる顔無し男に、炎が迫った! 膨れ上がった右腕は、その炎を払う為に力を使った。炎の主は──
「なんだ貴様……その姿は何だ、オールマイトォ!!!」
だがそのNo.2はオールマイトにしか興味が無さそうだ。
「なんだそのっ情けない背中は!!」
オールマイトへ厳しい言葉送っていた。
「応援に来ただけなら、観客らしく大人しくしててくれ」
エンデヴァーに何か攻撃しようとする顔無し男に、エッジショットが迫った。
「抜かせ破壊者。俺たちは救けに来たんだ」
下ではシンリンカムイが倒れているヒーロー、ギャングオルカやジーニスト、Mt.レディを腕の木を伸ばして回収し、瓦礫に挟まっていた女性はワイプシの虎が“個性”の軟体で助け出していた。彼もやられた一人だってのに。まだ傷が浅めだったか……?
皆が、オールマイトの背負うものを少しでも軽くしてやろうと、彼の守るものを代わりに請け負っていく。エッジショットとエンデヴァーが少しでもダメージを与えようと、顔無し男に攻撃を仕掛けていく。俺もこいつの首を絞めて寒気を送ってやる。
すべては、オールマイトの勝利の為に!!
「煩わしい」
今までも見せてきた噴射を、地面に向けて放ち、二人の攻撃を、皆の心を吹き飛ばした顔無し男。
「精神の話はよして、現実の話をしよう」
顔無し男の右腕が、ゴリゴリ音を鳴らしながら変形していく。
「『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3『増殖』『肥大化』『鋲』『エアウォーク』『槍骨』。今までのような衝撃波では、体力を削るだけで確実性がない」
トゲが、結晶が、バネが、大量の右腕が。
「確実に殺すために、今の僕が掛け合わせられる最高・最適の“個性”たちで」
気色悪いが集合した右腕。
「君を殴る」
お前は何人、人間を食ってきた!!?
触れたくなくて離れた途端、奴はオールマイトに迫っていった。呪えないとか色々思うことはあったけれど、二人の戦いにこれ以上俺が入っちゃいけない気がして、憑いて行かないことにした。
異形の拳とオールマイトの拳がぶつかり合う。今まで以上の衝撃が街を、人々を襲う。
煙が少し晴れたから見に行ったら、拳はまだぶつかり合い、オールマイトの腕、手から血が噴き出していた。そして、彼は、左腕にも力を入れた!
「そこまで醜く抗っていたとは……誤算だった」
そのマッスルになった左腕で、顔無し男の横っ面に一撃を入れた! が……
「らしくない小細工だ。誰の影響かな」
今の一撃、効いてなかったのか!?
「浅い」
奴は左腕を大きく膨らませた!
「そりゃア……」
「!」
力を抜いていた右腕が、血を吹きながら、またマッスルになった!!
「腰が、入ってなかったからな!!!」
口から血を吹きながら、オールマイトが右腕を振りかぶる。
「おおおお!!!」
オールマイトのすべてをかけた拳が、顔無し男の左っ面にめり込んだ!!
「UNITED STATESOF SMASH!!!」
顔無し男は地に落ち、その衝撃波は上空にいるヘリを不安定にさせ、地面の他を吹き飛ばした。
時間が経ち、砂煙が晴れていく。見えるのはクレーター。その中央には倒れ動かない顔無し男。そして立つのは、ガイコツ姿のオールマイト。
皆が息を呑む。オールマイトは分かっている。皆が求めている姿を。
彼は左腕を掲げた。そして、マッスルフォームへ、姿を変えた!
辛いだろうに。力を入れるのは、もう大変なことだろうに。それでも彼は、自身の信念の為に、腕を掲げ、勝利宣言をするのだ。
最後の最後まで人々に平和をもたらし、希望を与えてくれた平和の象徴。
俺の夢見たヒーロー像の、最後の姿。
ありがとう、オールマイト。