戦いが終わって、それで全てが丸く収まればよかったのに。
オールマイトと最悪のヴィランの戦いの痕は凄まじくて、たくさんのヒーロー達と警官が協力して、倒壊した建物から生き埋めになっている人々を救助していた。でも死者はかなり居るだろうな。なんか、蛍のような光が次々と、天へと登って行っている。
……俺が生きていたら、俺が生きて救助活動が出来たなら。
……あの時生きることを選んでいたとして、俺はヴィランになっていたわけだから、救助活動も出来ないし、これ以上の惨事を引き起こしたかもしれない。だから、死んで良かったんだ。
―本当に?
知らない。
―考える時間は出来た。
嫌だなぁ。
―でも考えなきゃ、バクゴー君を納得させられる説明は出来ない。
……いやだなぁ。
でも、ここで何も言わずに去ったら、バクゴー君何するか分からない。俺を探されたらたまったもんじゃない。
俺は自分の人生を謳歌した。だから、バクゴー君も、皆にも謳歌してもらいたいんだ。俺の体を探すなんて無駄な時間を、一瞬でも過ごして欲しくない。
だから、説明を。その為の説得の言葉を考えてなきゃいけない。俺があの場ですぐ死んだ理由を、ちゃんと言葉に起こさないと。
オールマイトもいる厳戒態勢の中、顔無し男はぐるぐる巻きにされて、
オールマイトが指さした。どこへ? 中継カメラへ。ボロボロの、口から血を流しているオールマイトは告げた。
「次は 君だ」
誰に向けた言葉だろう。決まっているさ。不安を心に抱える一般国民へさ。
これだけボロボロになっても、私の心は折れていない。私を今まで見てきた人たち。私の信念は、君が継ぐんだ。
俺にはそう聞こえて、痺れて、混乱した。
この意思が継げるような肉体が無いことに絶望して。
オールマイトが勝って生き残り、この発言をしてくれたことに喜び。
雄英教師としてまっすぐ俺を認めてくれたこの人の気持ちに、報えないことに悲しみ。
あなたを俺が殺すことにならなくて良かったと歓喜した。
俺は死んでよかったんだ!!
生きてヒーローになりたかった!!!
同じ口が発しているのが、自分でも信じられない。
もうオールマイトの側にいたって仕方がないだろう。バクゴー君の所に向かいながら、この混乱はどうにかしよう。
歩きながら考えて、バクゴー君の所に着いた。着いてしまった。準備は出来ているのに、怖かった。
警察署で保護されているバクゴー君にいつもの覇気は無くて、警察官に聞かれるまま答えていた。疲れてるんだろうな。事情聴取を終えた彼は、対応していた警官に「吐移正ってやつの捜索届が出てないか」って聞いていた。雄英があるのは神奈川じゃないから、ここで言ったってしょうがないのに。警官も不思議そうにしていた。
別室に通されたバクゴー君。親の迎えが来るまでここで待機らしい。疲れているバクゴー君はソファに横になった。
「ヘアバン……」
どうして? どうして君は、俺を探そうとしてくれるの?
「バカだよ、バクゴー君は。バカゴー君め」
夢の中に入る。入って、馬鹿にしたのにバクゴー君は何も言い返してこないし、何か期待している顔をしている。その理想は膨らむ前に壊させてもらおうか。
「例のごとく、
壊したらバクゴー君、膝をついて絶望した顔になった。夢だと気づかなかったくらい疲れているのか、現実の方にも現実感を感じていなかったか。まあ確かに、あの大事件は夢であって欲しいよな。
「……そんなに、俺のことを助けようとしてくれた、その気持ちはありがたかった。でも、それを君がする必要はなかったんだよ、バカゴー君」
「……夢にまでわざわざ出てきたんだぞ。お前が警告すると同時に、俺以外に自分の危機的状況が伝えられていないと考えても、いいだろうが」
不満を言う口の端は、上がろうとしているのを無理やり抑えていた。
「残念! 俺の生身にはね、GPSやらなんやらが取り付けられてるの。手のひらにね!」
「電波ジャックするような組織だぞ。そんな情報も遮られてるに決まってんだろ」
「パソコン繋がってたじゃん!」
「それが捕まった時点で分かってりゃな!」
こんな状況でも、こんな内容でも、話せるって事が楽しかった。バクゴー君もそう思ってくれてたら嬉しいな。夢の中に入るまでは本当に怖かったのに。なんかそういうことわざあったよね。何だっけ。
意識をバクゴー君に向けると。彼は俺を伺うような表情になっていた。君がそんな顔をするだなんて、思いもしなかった。君は人の心とか事情とか、何も気にせずズケズケと話を進めるイメージがあるから。……それは緑谷くんかなぁ。彼も中々だからなぁ。バクゴー君にとっては失礼なことを考えてしまった。だから、俺から誘ってみよう。
「バ
「……なら、さっさと済ます」
バ
バクゴー君は震える口を開いた。
「お前は今、どこにいる」
質問はやっぱりそれだよな。思わず笑ってから、用意していた言葉を放つ。
「分かんない。俺も探してる」
バクゴー君が何も言わないから、俺は続けて言う。
「だから、来てほしくなかったんだよ。俺にも分からないから。……なんのこっちゃって話だよね。でも、本当なんだよ。ワープの奴に俺の体、どこかに捨てられちゃったから。テキトーにめっちゃ遠いとこに捨てたらしくてさ、どこかってヒントもくれなかったし」
「体を、捨てられた……?」
説明下手のまま人生を終えてしまったなぁ。これも最初に言わないといけなかった。
「ああ。俺、自殺したから」
「はあっ!?」
あんまり驚くから、質問攻めになる前に威嚇する。
「驚くなよ。俺を連合に勧誘してきたのは、あの“個性”を奪う奴だ。俺の復讐相手を脳無に変えたって、復讐をさらに共に進めようって言われた。バカだろ? 何のために俺が回りくどい方法を取ろうとしたのか、まるで分かってない」
「……んで、なんで自殺した!!」
「驚くなって言ったろ。俺の“個性”狙いだったんだぞ。目の前には、その“個性”を奪える奴がいたんだぞ。取られるわけにはいかない。奪われれば……あの時、オールマイトは勝てなかった。……俺はね、バクゴー君。ヴィランと関わりたくなんか、ないんだよ。最初の頃、言ったの、覚えてる?」
「……ああ」
記憶力がいいね、君は。そうだ。俺はヴィランになりたくない。目標より何より最優先の、俺の中のきまり。人生の軸。
「この“個性”で人を傷つけたくない。ヴィランに使われるのなんて、もってのほかだ。じゃあ、逃げられない場合、どうしたらいい?」
君ならすぐ理解してくれるよな?
「自分に“個性”を使って傷つく分には、法律は何も言ってこないだろ?」
納得はしてくれなさそうだけど。
その笑顔が。怒りに満ちた怖い笑顔が、許してくれない何よりの証拠だ。
「許してくれなんて、言わない。でも俺は、自分の行動に恥ずかしさはない。俺が自殺したから、オールマイトは勝てたんだ」
「ハッ! テメェの“個性”ごときでオールマイトがやられるかよ!」
「出来るね。拳の先や殴られる所にキューブを付けて、相手に破壊させれば、それで相手に傷をつけられる。おまけに自己回復つきだ! オールマイトだって目じゃないね!」
「っ……!!」
俺がオールマイトに勝てないのは当然だ。でも、俺の“個性”は持つ奴が持つ奴なら、全盛期のオールマイトだって、倒せたに違いない。顔無し男くらいタフなら尚更。だから、何が何でも渡したくなかったんだ。
「相手はヴィランだぞ……いくら人を傷つけたくねぇからって、反撃もしねぇで……!」
この件について何も言い返せなかったバクゴー君は、次に責めるべき点をあげてきた。それは思ったさ。でも、その時はそう思えなかった。
「……今思えば、黒いキューブをあの顔無し野郎に、ワープの奴に投げとけば良かったとは思う。でも、自殺することは変わらなかった。だって、前には奪う奴、後ろにはワープの奴がいたんだよ? ……逃げられない。反撃して、捕まったら、容赦なく“個性”が奪われる。それならいっそ……あいつが死体から“個性”を奪えないことに賭ける方が、勝てると思った」
囲まれたあの瞬間、めちゃめちゃ頭回して考えた。20秒もなかったと思う。まるで、すぐ助けが来るのかのように振る舞って、警戒させて、絶対に俺に触れさせないようにした。
「そして事実、あいつは俺から“個性”を奪う素振りも見せず、ワープの奴に俺の体を捨てさせた」
「……」
「俺は、賭けに勝ったんだよ」
死ぬ覚悟を決める時間を稼いで、しっかり決めて、死んだんだ。俺の犠牲は無駄じゃないと慰めながら。
バクゴー君が哀れむ目で俺のことを見るから、泣きたくなった。
「別に、後悔してないとか、そんなわけでもないんだよ。だからこうして、夢枕に立ってるわけだし」
やりたいことはたくさんあった。なりたいものになりたかった。まだ皆に言ってないことの方が多いんだ。言ってはいても、足りないんだ。それが出来ていないのは、俺だって辛いに決まってんだよ。
だから、バクゴー君。俺のワガママに、付き合ってくれよ。
「……ねえ、バクゴー君。頼みがあるんだけど」
「……あんだよ」
「名前、呼んでくんない?」
「名前……?」
「バクゴー君いっつも、ヘアバンって呼ぶじゃないか。冥土の土産にさ」
嫌なの? そんなに悔しそうな顔をして。いいじゃん、最後くらい。もう、他の誰も、俺の顔見て言ってくれないんだから。まあ確かに、ヘアバンっていうのはバクゴー君だけだし、それはそれでいいかもね。
「吐移」
「!」
聞き間違えか? バクゴー君の顔を見たら悔しそうな、でも無理して俺をバカにする顔をしていた。
「返事くらいしやがれ、吐移」
「はい」
今の俺には心臓なんてないはずなのに、それが早鐘を打っている気がした。
「吐移、正」
「うん」
「覚えとけよ、吐移。この俺が、名前で呼んでやったことを」
「絶対、忘れない」
忘れられるわけがない。
「ありがとう」
笑顔になったら、バクゴー君が「99点」って評価してくれた。こんな時までチェックするなんて、変なところでちゃんとしてるなぁ。
「涙分、
「ばーか。
「へへっ、そっか!」
それなら、拭かないとね。俺はバクゴー君に背を向けて、出ていた涙を拭う。思っていたより流れ出していて、汚い。
バクゴー君が夢から覚める前に、伝えたいことは伝えておこう。
「バクゴー君。俺ね、君に初めて助けられた時から、夢を見てるみたいだったよ」
「夢じゃねえ。現実だわ」
「うん。それが、すごく嬉しい。友達ができた。下手な笑顔がここまで上手くなれた。強くなれた。お母さんと話が出来た。……現実なのが、信じられない」
よし、言おう!
「バクゴー君。多めに数えて、4ヶ月。この4ヶ月の間、俺」
振り向いて、ちゃんと言おう!
「幸せでした」
出てこようとする涙は、無理やり我慢した。
「100点」
「やった!」
嬉しいことを言ってくれるよ!
「最後まで俺の心を救けてくれたバクゴー君、やっぱり君はヒーローだ! 君は、皆のヒーローになれるよ!」
おっと! もう覚めちゃうか!
「ありがとう、爆豪勝己くん。君のおかげで、バクゴー君のおかげで、俺は、幸せでした!」
よし! ちゃんと言えたぞ!
夢の中から追い出されて、次はお母さんのところに行こうとした。友達の家は知らないから、と思っていたんだけど……。何か強い力が、俺を引っ張っている。それに抗おうとするけれど、上手く進めない。
仕方ない。もうお呼ばれなんだろう。諦めて、地獄に落ちようか。
人を超えて、山を超えて、海を…………ずっとずっと、海の上を渡ることを強要される。広すぎるこの海を。なんでこんなことをさせられているんだろうか。暇だから、目を閉じておこう。それでもこの霊体は、勝手に運ばれてくれるから。