傷吐き   作:めもちょう

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五十三話

 戦いが終わって、それで全てが丸く収まればよかったのに。

 

 オールマイトと最悪のヴィランの戦いの痕は凄まじくて、たくさんのヒーロー達と警官が協力して、倒壊した建物から生き埋めになっている人々を救助していた。でも死者はかなり居るだろうな。なんか、蛍のような光が次々と、天へと登って行っている。

 

 ……俺が生きていたら、俺が生きて救助活動が出来たなら。

 

 ……あの時生きることを選んでいたとして、俺はヴィランになっていたわけだから、救助活動も出来ないし、これ以上の惨事を引き起こしたかもしれない。だから、死んで良かったんだ。

 

―本当に?

 

 知らない。

 

―考える時間は出来た。

 

 嫌だなぁ。

 

―でも考えなきゃ、バクゴー君を納得させられる説明は出来ない。

 

 ……いやだなぁ。

 

 でも、ここで何も言わずに去ったら、バクゴー君何するか分からない。俺を探されたらたまったもんじゃない。

 俺は自分の人生を謳歌した。だから、バクゴー君も、皆にも謳歌してもらいたいんだ。俺の体を探すなんて無駄な時間を、一瞬でも過ごして欲しくない。

 だから、説明を。その為の説得の言葉を考えてなきゃいけない。俺があの場ですぐ死んだ理由を、ちゃんと言葉に起こさないと。

 

 

 

 オールマイトもいる厳戒態勢の中、顔無し男はぐるぐる巻きにされて、移動牢(メイデン)に入れられようとしている。その様子は報道カメラで捉えられている。中継だろうな。バクゴー君も見てるかな。ちゃんと、保護されているのかな? まだ、ちょっと会えないな。

 

 オールマイトが指さした。どこへ? 中継カメラへ。ボロボロの、口から血を流しているオールマイトは告げた。

 

「次は 君だ」

 

 誰に向けた言葉だろう。決まっているさ。不安を心に抱える一般国民へさ。

 

 これだけボロボロになっても、私の心は折れていない。私を今まで見てきた人たち。私の信念は、君が継ぐんだ。

 

 俺にはそう聞こえて、痺れて、混乱した。

 

 この意思が継げるような肉体が無いことに絶望して。

 オールマイトが勝って生き残り、この発言をしてくれたことに喜び。

 雄英教師としてまっすぐ俺を認めてくれたこの人の気持ちに、報えないことに悲しみ。

 あなたを俺が殺すことにならなくて良かったと歓喜した。

 

 俺は死んでよかったんだ!!

 生きてヒーローになりたかった!!!

 

 同じ口が発しているのが、自分でも信じられない。

 

 

 

 もうオールマイトの側にいたって仕方がないだろう。バクゴー君の所に向かいながら、この混乱はどうにかしよう。

 

 歩きながら考えて、バクゴー君の所に着いた。着いてしまった。準備は出来ているのに、怖かった。

 

 警察署で保護されているバクゴー君にいつもの覇気は無くて、警察官に聞かれるまま答えていた。疲れてるんだろうな。事情聴取を終えた彼は、対応していた警官に「吐移正ってやつの捜索届が出てないか」って聞いていた。雄英があるのは神奈川じゃないから、ここで言ったってしょうがないのに。警官も不思議そうにしていた。

 

 別室に通されたバクゴー君。親の迎えが来るまでここで待機らしい。疲れているバクゴー君はソファに横になった。

 

「ヘアバン……」

 

 どうして? どうして君は、俺を探そうとしてくれるの?

 

 

 

「バカだよ、バクゴー君は。バカゴー君め」

 

 夢の中に入る。入って、馬鹿にしたのにバクゴー君は何も言い返してこないし、何か期待している顔をしている。その理想は膨らむ前に壊させてもらおうか。

 

「例のごとく、()()に立っているわけだけれど」

 

 壊したらバクゴー君、膝をついて絶望した顔になった。夢だと気づかなかったくらい疲れているのか、現実の方にも現実感を感じていなかったか。まあ確かに、あの大事件は夢であって欲しいよな。

 

「……そんなに、俺のことを助けようとしてくれた、その気持ちはありがたかった。でも、それを君がする必要はなかったんだよ、バカゴー君」

「……夢にまでわざわざ出てきたんだぞ。お前が警告すると同時に、俺以外に自分の危機的状況が伝えられていないと考えても、いいだろうが」

 

 不満を言う口の端は、上がろうとしているのを無理やり抑えていた。

 

「残念! 俺の生身にはね、GPSやらなんやらが取り付けられてるの。手のひらにね!」

「電波ジャックするような組織だぞ。そんな情報も遮られてるに決まってんだろ」

「パソコン繋がってたじゃん!」

「それが捕まった時点で分かってりゃな!」

 

 こんな状況でも、こんな内容でも、話せるって事が楽しかった。バクゴー君もそう思ってくれてたら嬉しいな。夢の中に入るまでは本当に怖かったのに。なんかそういうことわざあったよね。何だっけ。

 

 意識をバクゴー君に向けると。彼は俺を伺うような表情になっていた。君がそんな顔をするだなんて、思いもしなかった。君は人の心とか事情とか、何も気にせずズケズケと話を進めるイメージがあるから。……それは緑谷くんかなぁ。彼も中々だからなぁ。バクゴー君にとっては失礼なことを考えてしまった。だから、俺から誘ってみよう。

 

「バ()ゴー君、何か聞きたいって顔してる。……まぁ大体予想はついてるけど」

「……なら、さっさと済ます」

 

 バ()ゴー君って言ったのに、まるで聞いてない。気づいていないのか、気づいていても余裕がなくて、何も言わないのか。その緊張を解こうと思ったのに。

 バクゴー君は震える口を開いた。

 

「お前は今、どこにいる」

 

 質問はやっぱりそれだよな。思わず笑ってから、用意していた言葉を放つ。

 

「分かんない。俺も探してる」

 

 バクゴー君が何も言わないから、俺は続けて言う。

 

「だから、来てほしくなかったんだよ。俺にも分からないから。……なんのこっちゃって話だよね。でも、本当なんだよ。ワープの奴に俺の体、どこかに捨てられちゃったから。テキトーにめっちゃ遠いとこに捨てたらしくてさ、どこかってヒントもくれなかったし」

「体を、捨てられた……?」

 

 説明下手のまま人生を終えてしまったなぁ。これも最初に言わないといけなかった。

 

「ああ。俺、自殺したから」

「はあっ!?」

 

 あんまり驚くから、質問攻めになる前に威嚇する。

 

「驚くなよ。俺を連合に勧誘してきたのは、あの“個性”を奪う奴だ。俺の復讐相手を脳無に変えたって、復讐をさらに共に進めようって言われた。バカだろ? 何のために俺が回りくどい方法を取ろうとしたのか、まるで分かってない」

「……んで、なんで自殺した!!」

「驚くなって言ったろ。俺の“個性”狙いだったんだぞ。目の前には、その“個性”を奪える奴がいたんだぞ。取られるわけにはいかない。奪われれば……あの時、オールマイトは勝てなかった。……俺はね、バクゴー君。ヴィランと関わりたくなんか、ないんだよ。最初の頃、言ったの、覚えてる?」

「……ああ」

 

 記憶力がいいね、君は。そうだ。俺はヴィランになりたくない。目標より何より最優先の、俺の中のきまり。人生の軸。

 

「この“個性”で人を傷つけたくない。ヴィランに使われるのなんて、もってのほかだ。じゃあ、逃げられない場合、どうしたらいい?」

 

 君ならすぐ理解してくれるよな?

 

「自分に“個性”を使って傷つく分には、法律は何も言ってこないだろ?」

 

 納得はしてくれなさそうだけど。

 その笑顔が。怒りに満ちた怖い笑顔が、許してくれない何よりの証拠だ。

 

「許してくれなんて、言わない。でも俺は、自分の行動に恥ずかしさはない。俺が自殺したから、オールマイトは勝てたんだ」

「ハッ! テメェの“個性”ごときでオールマイトがやられるかよ!」

「出来るね。拳の先や殴られる所にキューブを付けて、相手に破壊させれば、それで相手に傷をつけられる。おまけに自己回復つきだ! オールマイトだって目じゃないね!」

「っ……!!」

 

 俺がオールマイトに勝てないのは当然だ。でも、俺の“個性”は持つ奴が持つ奴なら、全盛期のオールマイトだって、倒せたに違いない。顔無し男くらいタフなら尚更。だから、何が何でも渡したくなかったんだ。

 

「相手はヴィランだぞ……いくら人を傷つけたくねぇからって、反撃もしねぇで……!」

 

 この件について何も言い返せなかったバクゴー君は、次に責めるべき点をあげてきた。それは思ったさ。でも、その時はそう思えなかった。

 

「……今思えば、黒いキューブをあの顔無し野郎に、ワープの奴に投げとけば良かったとは思う。でも、自殺することは変わらなかった。だって、前には奪う奴、後ろにはワープの奴がいたんだよ? ……逃げられない。反撃して、捕まったら、容赦なく“個性”が奪われる。それならいっそ……あいつが死体から“個性”を奪えないことに賭ける方が、勝てると思った」

 

 囲まれたあの瞬間、めちゃめちゃ頭回して考えた。20秒もなかったと思う。まるで、すぐ助けが来るのかのように振る舞って、警戒させて、絶対に俺に触れさせないようにした。

 

「そして事実、あいつは俺から“個性”を奪う素振りも見せず、ワープの奴に俺の体を捨てさせた」

「……」

「俺は、賭けに勝ったんだよ」

 

 死ぬ覚悟を決める時間を稼いで、しっかり決めて、死んだんだ。俺の犠牲は無駄じゃないと慰めながら。

 バクゴー君が哀れむ目で俺のことを見るから、泣きたくなった。

 

「別に、後悔してないとか、そんなわけでもないんだよ。だからこうして、夢枕に立ってるわけだし」

 

 やりたいことはたくさんあった。なりたいものになりたかった。まだ皆に言ってないことの方が多いんだ。言ってはいても、足りないんだ。それが出来ていないのは、俺だって辛いに決まってんだよ。

 だから、バクゴー君。俺のワガママに、付き合ってくれよ。

 

「……ねえ、バクゴー君。頼みがあるんだけど」

「……あんだよ」

「名前、呼んでくんない?」

「名前……?」

「バクゴー君いっつも、ヘアバンって呼ぶじゃないか。冥土の土産にさ」

 

 嫌なの? そんなに悔しそうな顔をして。いいじゃん、最後くらい。もう、他の誰も、俺の顔見て言ってくれないんだから。まあ確かに、ヘアバンっていうのはバクゴー君だけだし、それはそれでいいかもね。

 

「吐移」

「!」

 

 聞き間違えか? バクゴー君の顔を見たら悔しそうな、でも無理して俺をバカにする顔をしていた。

 

「返事くらいしやがれ、吐移」

「はい」

 

 今の俺には心臓なんてないはずなのに、それが早鐘を打っている気がした。

 

「吐移、正」

「うん」

「覚えとけよ、吐移。この俺が、名前で呼んでやったことを」

「絶対、忘れない」

 

 忘れられるわけがない。

 

「ありがとう」

 

 笑顔になったら、バクゴー君が「99点」って評価してくれた。こんな時までチェックするなんて、変なところでちゃんとしてるなぁ。

 

「涙分、(プラス)にしといてよ」

「ばーか。(マイナス)だわ」

「へへっ、そっか!」

 

 それなら、拭かないとね。俺はバクゴー君に背を向けて、出ていた涙を拭う。思っていたより流れ出していて、汚い。

 バクゴー君が夢から覚める前に、伝えたいことは伝えておこう。

 

「バクゴー君。俺ね、君に初めて助けられた時から、夢を見てるみたいだったよ」

「夢じゃねえ。現実だわ」

「うん。それが、すごく嬉しい。友達ができた。下手な笑顔がここまで上手くなれた。強くなれた。お母さんと話が出来た。……現実なのが、信じられない」

 

 よし、言おう!

 

「バクゴー君。多めに数えて、4ヶ月。この4ヶ月の間、俺」

 

 振り向いて、ちゃんと言おう!

 

「幸せでした」

 

 出てこようとする涙は、無理やり我慢した。

 

「100点」

「やった!」

 

 嬉しいことを言ってくれるよ!

 

「最後まで俺の心を救けてくれたバクゴー君、やっぱり君はヒーローだ! 君は、皆のヒーローになれるよ!」

 

 おっと! もう覚めちゃうか!

 

「ありがとう、爆豪勝己くん。君のおかげで、バクゴー君のおかげで、俺は、幸せでした!」

 

 よし! ちゃんと言えたぞ!

 

 

 

 夢の中から追い出されて、次はお母さんのところに行こうとした。友達の家は知らないから、と思っていたんだけど……。何か強い力が、俺を引っ張っている。それに抗おうとするけれど、上手く進めない。

 

 仕方ない。もうお呼ばれなんだろう。諦めて、地獄に落ちようか。

 

 人を超えて、山を超えて、海を…………ずっとずっと、海の上を渡ることを強要される。広すぎるこの海を。なんでこんなことをさせられているんだろうか。暇だから、目を閉じておこう。それでもこの霊体は、勝手に運ばれてくれるから。

 

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