傷吐き   作:めもちょう

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五十五話

 ブラウンさんは軍人は軍人でも、国防の方じゃなく、国土安全保障省に属する組織の、アメリカ沿岸警備隊の隊員さんなんだって。違い分かんね。結局国防じゃね?

 で、俺はブラウンさんが乗っていた巡視船に落っこちて、傷は自分の“個性”で勝手に治って、血はありったけ輸血してくれたんだって。

 

 最初は急に息を吹き返した俺を「ゾンビだっ!」とか、めちゃめちゃ言って騒がれてたみたいなんだけど、それ以来動かない俺をブラウンさんが先導して助けてくれたらしい。ちょうど任務期間を終えて基地へ戻る最中だったのが幸運だった。

 基地に着いた俺はすぐさま病院へ入院。落ちて三日目のことだった。

 そして……実は、俺の身元は判明していたんだ。看護師さんの一人が雄英体育祭を見ていて、俺の事も知っていてくれてたんだ。後は日本大使館に連絡して、俺を日本に返す準備を進めていた、のだが……。

 

「あんな大事件があったからな。大使館も政府も大混乱。そして大事件の引き金が、誘拐された雄英生の救出と判明して、もしかしたら同じ雄英生のお前も関係しているのでは。じゃあ、みすみす命を奪おうとした組織のいる日本に返す必要は無いと判断して、今、証人保護プログラムの準備を進めている」

 

 優しいな。判断が素晴らしいな。なんで外国人を庇う必要があるんだ。どこから金は降りているんだ。

 

「俺の“個性”が欲しいんですかね、アメリカも」

「そういうのは、思っても言わないもんだ」

 

 少し強めに注意された。

 

「シリアルはもういいの?」

「はい。満足出来ました。美味しかったです」

「じゃあ、いくつか買って帰るか」

「……どこに?」

「まあ、俺の家だな」

 

 この人が本当に保護者らしい。

 話の続きは家でとのこと。チェインさん、付き合ってくれてありがとう。

 チェインさんの“個性”は、他人同士の会話を成り立たせたい場合は両者に触れなければならないらしくて、運転中はチェインさんとお話しした。

 

「“個性”のこともそうなんだけど、吐移くんが居た学校って、ヒーローを養成する学校として最高峰の高校だったんでしょう? なら、日本よりも事件発生率の高いここ(アメリカ)でヒーローになって、経験を積んでから日本に戻ってもらった方がいいと、軍の頭は考えたってわけ。いい話でしょ?」

「はい。都合のいい話ですね」

「あー、……君には、綺麗事のような話じゃ納得させられないみたいだね……」

「自殺の直前、綺麗事のような話でヴィランに勧誘されていたので。信用出来ません」

「そっかー……」

 

 困らせるのは好きじゃないけど、それより大切なことだと思うから、遠慮しない。いいように使われたくない。使われるなら納得したい。ほとんど無条件に信用しているからこそ説明を求めているんだ。この人達もヴィランなら、黒いキューブの(死ぬ)準備は出来ている。

 

 ブラウンさんの家は基地内にある。一年の九ヶ月近くを海の上で過ごしているからか、せっかくの家はくつろぎスペースだと言わんばかりにインテリアで溢れている。一人なのに。と言ったのはチェインさんだ。俺じゃない。怒られているのもチェインさんだ。ブラウンさんは溜め息を吐いてから、俺達にソファーをすすめ、お茶を入れに行った。

 

「見たところ、女性受けするものがないから完全に自分の為ね、ブラウンさん」

「そうみたいですね」

 

 俺と手を繋ぎ笑うチェインさん。「季節感は特にないですね」と、適当に話を合わせておいた。

 

「あ、そうだ。吐移くん。さっきの話の続きをしようか。えーっと、証人保護プログラムに至った経緯、だったかな」

「あの……その、さっきから仰っている、証人保護プログラムって何ですか」

「あ、そこから?」

 

 日本にはないシステムなので、と言ったら納得してくれて、チェインさんは説明してくれた。

 

・事件の証言者をいわゆる「お礼参り」などの制裁から保護する目的で設けられた制度。

 

・該当者は裁判期間中、もしくは状況により生涯にわたって保護されることとなる。その間、住所の特定されない場所に、アメリカ合衆国連邦政府極秘で最高レベルの国家機密で居住する。その際の生活費や報酬などは全額が連邦政府から支給される。内通者による情報漏洩の可能性を考え、パスポートや運転免許、果ては社会保障番号まで全く新しいものが交付され完全な別人になる。

 

・被保護者の中でもとりわけ、アメリカ合衆国の国益に多大なる貢献をしたものは、相当裕福な経済的援助を受けることもある。(Wikipediaより引用)

 

 

 説明を受けて、気になった事がある。

 

「その制度を活用した人が、ヒーローなんて目立つ仕事を志していいんですか?」

 

 そう言ったらチェインさんが「大丈夫だよ~!」と笑って、説明中に戻ってきていたブラウンさんが代わりに答えてくれた。

 

「そりゃ、アメリカ国内の事件の証言者ならそういうわけにはいかない。が、お前はそこまで顔が割れてない上に、事件は日本で起こってる。ちょっと顔を変えりゃ、アメリカじゃあ誰も気づきやしないさ」

「そーそー! そこんところは気にしなくていいよ。君に気付いたナースは母親が日本人だから、雄英体育祭をチェックしてただけ。君は幸運だけど不幸なことに、全然有名人じゃないの!」

「本当に幸運で不幸ですね」

 

 いや、外国で見てて、覚えてる方がすごくないか? 俺は本当に不幸なのか?

 話を合わせてた方が進むだろうし、指摘しないようにしよう。チェインさんが「で、君をヒーローにしようと動いてる話なんだけど」と話を続けた。

 

「アメリカは日本と違って“個性”を使っていい職場は結構あるけれど、君は自由に動ける職業ヒーローがいいんじゃないかって話になったんだって! 軍医として欲しそうにしてたけど、国民の命を結果的に多く救えるのは、やっぱり現場にいつでも急行出来る立場だよねってことでさ! 君の“個性”って、他人と自分の傷を黒いキューブに変換、なんだよね? 医療従事者じゃその黒いキューブの使い道どうするのって話もあったし、ならヴィランにぶつけてもらおう! それならヒーローに! それならここアメリカで! それなら国民を救ってくれる! もしかしたらアメリカに永住してくれるかも! だから上の人は保護するに留まらず、証人保護プログラムでアメリカ国民になってもらおうって目論んでいるんだよ!」

「なるほど……」

「ちょっと、頑張って軍部の本音っぽいところまで話したのに、反応薄くなーい?」

「そんなところまで赤裸々に話すからだろ」

「さっきこの子が自分で、綺麗事は聞きたくないって言ってきたの。ブラウンさんは知らないだろうけど」

「車の中での話か」

 

 俺が考えているのは、アメリカでヒーローになることを日本政府が許すのかってこと。だって、もうあちらは俺が生きていることを知っているんだ。ならわざわざアメリカで保護されずとも……本音を言えば、みすみす貴重な治癒系の“個性”を外に出すものだろうか。まだ、日本と話し合いは進んでいないんじゃないのか?

 疑惑が湧いてくる中、ブラウンさんが厚め書類をカバンから取り出し、俺の前に出した。

 

「綺麗事なしで言っていいなら、さっさとこの書類にサインしてほしい」

「それは説明不足じゃないです?」

「書類の内容を全部読みたいので、二週間待っていただけますか?」

「ちゃんと手伝うから、吐移くん。不貞腐れないで、お願い」

 

 早く話を進めたいブラウンさんと、日本に、家に帰りたいけど帰れないと察しながら、それから目を背ける俺の戦いが始まった。

 

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