傷吐き   作:めもちょう

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五十六話

 問題として挙げたいのは、とりあえず二つ。

 

 一つは、日本政府に俺への証人保護プログラムの件は伝わっているのか。伝わっていて尚、俺をアメリカに任せようっていう話になっているのか。

 “神野区の悪夢”があった日本はブラウンさんが言ったように大混乱中のはずだ。そして、俺はいくら貴重な“個性”とはいえ、国のお偉いさんが()()()守りたいと思える国民かと言われたら、そうでもないだろう。あえてアメリカで保護させて、恩を売る価値が俺にあるだろうか。戻ってこさせた方が安上がりだろう。

 

 もう一つは、アメリカ側は俺を日本に返す気はあるのかっていう話。

 鴨(治癒系の“個性”持ち)がネギ(ヒーロー志望)を背負ってきたんだ。アメリカ政府がわざわざ金出して俺をヒーローにしようと計画している。そんなの、俺に恩を売って、アメリカから返す気が無いってことじゃないか。念入りに、証人保護プログラムで俺を「吐移正」から別人に、アメリカ人にして。

 

 そして、聞いたことがある。アメリカ人にとって契約は絶対的なものらしい。そんな国民性を持った人間から差し出された契約書。簡単にサインしていいわけない。強い眼力で俺を見てくるブラウンさんに、一つ一つ聞いていこう。さぁ俺を納得させてみろ。出来なきゃ、この家が血の海になるぞ。俺の血で。

 

「ブラウンさん。あなたが知っているかは分かりませんが、聞かせてもらいます。日本政府は、俺への証人保護プログラムに賛同していますか?」

「……提案しているが、返答はもらっていない。まだ事件の対応で忙しいんだろうよ」

「ならサインはしません。するわけないですよ。日本側が俺を迎えようって言ったとき、俺がこれにサインしてたらややこしいことになるじゃないですか」

「まあ、そうだな」

「この流れでもう一つ聞きます。仮に、この制度を受け入れた俺を、アメリカは日本に返す気はありますか?」

「……それはお前の意思で決められるものだ。そこんとこは気にすんな」

「いや、気にさせていただきます。アメリカ国民の税金で食わせて、住まわせていただく身になるんですよ? 気軽に国に返してもらえるとは思えません」

「そう考えるんなら、早くヒーローになってアメリカ(うち)に多大に貢献して恩売っとけ。お偉いさんが何も言えないくらいにな。そもそもプログラムにお世話になる気はないんだろ。聞く必要があるのかそんなこと」

「すみません。より世話にならない意思を固める為です」

 

 わざわざ別人にならなくてもいいんじゃないか? お母さんや皆との縁を捨てる必要は無いんじゃないか? もう次からは、生まれ変わると決めた次からは、黒いキューブを使ってヴィランに対抗してやる。自分の身くらい自分で守ってやる。

 だから、帰してくれ。

 

「吐移くん、ちょっと待ってくれないかな」

 

 チェインさんが介入してきた。考え直せと、いや、結論は出すのはまだ早いと。そう言うのかと思っていた。

 

「確かに、日本政府の答えを聞く前にサインを求めたのは酷い対応だった。ごめんなさい。……あのね、質問があなたばかりだったから、私たちからも質問させてくれないかな。あなたを助けた私たちには、()()を知る権利があると思うの」

 

 ()()というのは、俺が巡視船に降ってくるまでの経緯だろうか。俺はただ一つ頷いた。

 

「君はどうして、自殺を図ったの」

 

 思った通りだった。俺はバクゴー君用に考えていた、あの言い訳たちを並べていく。

 

 俺を仲間(コマ)にと勧誘してきたのは、“個性”を奪い、与える“個性”を持った、オールマイトと戦っていたあのヴィランであること。

 俺がどう返事をしたところで、いずれは“個性”を奪われ、悪用されていたと予想したこと。

 ヴィランにどうしてもなりたくなかった事。

 俺には逃げる場所が「死」しかなかったこと。

 

 これらの骨組みに肉を付けて話した。最後に、「生きているのが予想外だったんだ」と付け加えて。

 話している途中、どんどん顔を険しくさせていったブラウンさんとチェインさん。話終えた後、チェインさんが俺のことを「ラッキーボーイ」と呼んだ。

 

「あなたの手にはGPS発信機が埋め込まれている。学校からかなり優遇されているあなたは、相当期待されているのね。ヒーロー養成校として最高峰の学校に、家まで用意されて」

 

 さっきも俺の“個性”の本当のところまで知っていたが、どこまで調べて、どこまで知っているんだろうか、この人たちは。

 

「そんな子を国が放っておくとは思えない。日本が返事出来るほど回復してきたら、そりゃあ『返してくれ』と言うでしょうね。体裁もあるし。でもね、私個人としては帰したくない。日本は一つの街を半壊させられただけでなく、大きな柱であった“オールマイト”氏を失った。平和の象徴と讃えられた彼が居なくなれば、日本でも犯罪率はこれから高くなることでしょうね。そこに未完成品を返されても、私が日本政府なら、勘弁して欲しい。あなたを、今度こそ守れないかもしれないから」

「……ポーズとしての返して欲しいは、即戦力として見ているから、ということですか」

「そう悲観的にならなくてもいいと思うけど、そうね。即戦力として使われるなら、あなたは使い潰されるだけ。ねぇ吐移くん。あなたは今、日本ではまだ行方不明者としてしか扱われていない。チャンスなのよ!」

 

 俺が話を聞くと知ったからか、チェインさんの目が輝きだした。

 

「日本では死んだものとして扱ってもらって、あなたは()()()()()()()()()()()()() アメリカは日本よりもプロヒーローも多ければ、犯罪発生率も段違い。あなたをヒーローとして育てながら適度に危険に晒し、それを解決する術を学ばせられる。弱体化している日本に今帰って身を危険に晒すより、変わらないアメリカで強くなる方が絶対にいい! それに……今ここで帰っても、あなたは同じことを繰り返すだけじゃないかな」

 

 そうかもしれない。用意していた黒いキューブたちが良い証拠だ。何も言い返せない。

 

 今、雄英に戻っても、もちろん歓迎はされるだろう。だが、俺の“個性”を守る為に、また多くの金が使われる。バクゴー君と同じようにヴィランに拐われて戻ってきた身だとしても、元からヴィランの回し者と思われていた俺が戻ったら内通者が戻ってきたと考えるかもしれない。それはとても悲しい捉え方だと分かっているが、最悪を考えないといけない。

 しかし、アメリカ政府の保護下に入れば──

 

「答えは焦って出さなくていい。どうせ日本政府が答えるまで、もうちょっと時間かかるだろうからな。その日本に帰るのが今なのか、強くなってからなのか……。アメリカもお前を利用しようと動いてんだ。お前も利用しちまえ。その方が利口だぜ?」

 

 ブラウンさんがそう言って席を立つ。書類を置いて。

 考える時間はまだ欲しかった。証人保護プログラムを受け入れる。別人になる。それをまだ受け入れようとしない自分への言い訳を考える時間が。

 

 生まれ変わると決めたんだ。手段として、悪くない。

 

 

 




 今回で“吐移正”の物語は最終回です。
 ここまで見てくださった方々、誠にありがとうございました!!
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