傷吐き   作:めもちょう

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 前回のifの最後で言いましたね。『ブチブチにブチギレた吐移くん編』です。コピペでいっぱいになるのは申し訳ないので、最初の部分はカットしました。

 お話は常闇くんに吊り下げられたところから始まります。


IF 2-1

「全力を出さない者が立てるほど、この大会は甘くない」

「ああ゛っ!?」

 

 黒影で俺の片足を掴んで逆さ吊りにしてきやがった常闇くんが、クッソ生意気なことを言い出しやがった。さっさと場外に放り投げりゃいいものを、そんな問答の為に俺を抵抗出来ない逆さ吊りにしてるってのか? 性格悪いなお前!

 

「言っただろうがよ! 俺は全力出してここに立ってる! 現に君と戦っているこれ、二回戦目じゃんか!」

 

 一回戦目、俺はこの自己回復と拳と心理戦で芦戸さんに勝った。あれでプロには俺が“自己回復の個性持ちの生徒”って印象づけられてるはず。それを崩されてたまるか!!

 

「一回戦目はそれを出すまでもなく勝利できた。それだけだろう。だが俺にはそうはいかないぞ」

「しつこいなぁ……!」

「見せてみろ。お前の全てを」

 

 そんなこと言われて、出すとでも思ってんのか。カッコいいとでも思ってんのか。しつこい男は嫌われるぞ! 現に俺が嫌ってる!

 

「全力出してるって、さっきから言ってるだろ! なんだよお前っ! 俺はもうなんにも出来ないんだから、このまま放り出せばいいだろ悪趣味!」

「出来るだろう? ロボに対してぶつけた“個性”を、俺にもぶつければいい」

 

 ふざけんな、ふざけんな! 会場もなんかおかしいぞって雰囲気になってきてる! 実況のマイク先生も『もうやめてあげて!』って言ってんだろ! あ~も~、あったま来た! 精神的にも物理的にもこっちは頭に血がのぼってんだよ! いい加減下ろしやがれ!!

 

「何をぶつけるってェ? 俺は全力をお前にぶつけて、まるで歯が立たなかっただけですけどォ!?」

「いつまで隠しているつもりだ。そんなことでお前、ヒーローになれるとでも思っているのか」

「生憎、俺はヒーローよりも救急救命士とか、そっちを目指してるもんでね!! ヒーローにも勿論憧れてるけど!!」

「ならば尚更だ」

 

 降ろしてくれねーなら、反動つけて降りてやる。イラついてるから、その上から目線な、説教臭い顔をぶん殴ってやる!

 

 

「力を隠しておいて全力とは、そんなことで民衆がお前を認めるものか」

「………………」

 

 ……なあ、常闇。誰が、いつ、民衆に、認めてもらおうなんて言った?

 

 どうして、『“個性”を隠す、使用しない』ことが悪だとされないといけない?

 

 なんで、全てをひけらかさないといけない? そうじゃないと認められない?

 

 それで、いったい、誰が、迷惑した?

 

 

 逆さに見る常闇くんの顔が、まるで自分が正義だと言わんばかりに自信たっぷりで、不愉快だった。

 

 

 お前の正義は、俺の正義じゃない。調子に乗るなよ!!!

 

 

 

 例によって、裸足の俺。黒キューブは俺の体のどこからでも出せる。俺の意思でいつでも発動出来る。だから、俺の足を掴む黒影の手に穴を開けた。

 

「なっ!?」

「……何驚いてんだよ」

 

 落ちた先は、白線の内側。まだ俺には戦う権利が残されている。やっちまったからには、最後までやってやろうじゃねぇか。

 

 いきなり手のひらに穴が空いた黒影はビビったのか、「ワァーー!?」って叫んで常闇のとこまで引っ込んだ。薄々感じてたけど、こっちもどうやら自我があるらしいな。ならまず、こっちの心を折ってやろうか。

 

「お望み通り、俺が墓場まで持っていくつもりだった“これ”、見せてやるよ」

 

 最近良くなってきた笑顔を見せながら、ゆっくり立ち上がって見せる。あれれ~? どうして常闇くん、後ずさりしてんのォ~? お前が見たかったモン、見れてんだぞ~?

 これから嫌ってほど、見せてやるよ。

 

『な、なんだァ!? 一体何が起きてるんだぁあッ!?』

『どうやら、吐移が常闇の挑発にのったみたいだな』

 

 実況の大声は会場の代弁か。圧倒的に有利だったはずなのに、いきなり黒影が引っ込んだら驚きもするか。サービス精神旺盛なら、ここでもっと見せてやるんだろうなぁ。でも残念でした! 黒キューブは見せてあげない! どうやって自分が傷つくのか、せいぜい考えてビビってろ。

 

「……カウンターか?」

「さぁ、どうだろうねぇ?」

 

 悩め。悩め。悩みやがれ。藪をつついて、お前にとって何が出た? あっはははは!!!

 

「かすり傷で済むと思うなよ」

 

 お前がカッコつけたんだ。俺にだってカッコつけさせろよ。なぁ?

 

 

 俺に触れたらダメだと判断したのか、常闇は変わらず黒影を俺に差し向けてくる。俺はというとそんな黒影の触れる場所触れる場所に黒キューブを発生させて、黒影に染みこませてから傷を復活させた。その度に悲鳴が上がっている。痛そうだな……。見てらんないよ……。

 

「いいのぉ常闇くぅん!! 痛そーだよぉ黒影ちゃんがぁ! いい加減、変わってあげたらァ!?」

「ぐっ……」

「相棒にいっぱい悲鳴あげさせちゃって、可哀想だと思わなァい!? 黒影ちゃんも、ひっどい相棒を持ったもんだァ! 可哀想になぁあ!!」

『い、いったいどうしたんだ吐移 正! 顔つきが完全に闇落ちしてるゾォー!?』

 

 闇落ち、かぁ! まさにそのとおりかもなぁ!! ふざけんなプレゼント・マイク。

 

「モウヤダ、代ワッテ!」

「ダ、黒影っ!?」

 

 狙い通り。何度も何度も怪我させられて、痛いし怖かったもんねぇ。俺もリアルタイムだとおんなじこと思ったよ! にしても案外早く、心折れちゃったねぇ?

 

「ホラホラぁ! 代わって欲しいってよ黒影ちゃぁん! 代わってあげなきゃァ! 相棒ばっかり痛い目見させて、まったく酷いご主人だ! あんなに悲鳴を聞いちゃったら、さすがの俺だって心痛くなっちゃう!」

「! 苦しめている本人が、何を!」

「お前だよ、ばァ~か」

 

 分かりやすく、だけど真顔で馬鹿にしてやれば、何故だか常闇はビビっていた。俺の予定では、ここで怒って肉弾戦になるはずだったんだけどなぁ? ハハッ、たまにはこのヴィラン顔も役に立つんだな!!

 

「お前が望んだ展開だ。お前が俺に“これ”を出すように言ったんだ。だから出してやってんだ。なら、今お前の相棒がメソメソ泣いてるのは、お前のせいだろ?」

「っ……!」

「喜べよ。かかってこいよ。テメェの肉体でよォ!!」

 

『怖い! 怖いよ吐移! お前、そんな奴じゃないだろォ!?』

『雄英も把握していない“個性”に、普段見せない顔、行わない言動での精神攻撃。それがあいつの作戦なのかどうかは分からんが、相手の精神を揺さぶる戦略は偶然だとしても見事だ』

『なんだイレイザー!? あれ、吐移が正気でやってるとでも言いたいわけ!? あんな顔で!?』

『そうだな。正気じゃなくなってはいるだろうな』

『ダルォ!?』

 

 実況席はうるさいし、常闇はまるで動かないし。なんでこうも思い通りにならないもんか。ていうかミッドナイト先生は俺を止めないの? まあ、都合はいいからこちらから指摘しないけど。

 なら、やってやるんだ。お前を戦闘不能にして、俺は、優勝してやるんだ。

 ここまで来たら、振り切ってやる。

 

『常闇はむやみに人を煽ったことを反省しろ。そして吐移。お前は少しは落ち着け』

「ハッ! センセー! 俺は落ち着いてマース!!」

『それは自分の感情を整理してから宣言しろ。――笑うか、大泣きするか。どっちかにしろ』

「……それは出来ない相談っすよ、相澤先生」

 

 自分の顔がどうなってるかくらい、自分で分かってるっての。

 やたらと大きい口でニンマリ笑って、無駄に横に長い目からは留めなく涙が溢れて。何度拭っても出てきちまうような、どうにもならない酷い有様なことくらい、分かってる。メチャメチャ汚いことくらい、あんのクソでかいモニターに映ってんだから、分かってんだよ。

 

 黒影を迎え撃つ為にしていた前のめりの体勢から、両手をズボンのポッケに突っ込んでふんぞり返った、嘗め腐った態度を取ってやる。

 

「ね~え~、常闇くぅん。まだかかってこないのぉ?」

「……」

「かかってこないならァ……語ろうぜェ!」

 

 ポケットの中に突っ込んでいた両手を出して、そのまま両腕を大きく広げながら提案する。俺がすぐに攻撃を仕掛けてくるかと思っていたのか、常闇は間抜け顔で「か、語る……?」なんて素っ頓狂な声で言っていた。

 ついでだ。狂気ばっかり見せちゃって申し訳ないから、お得な情報も公開しちゃおう!

 

「常闇くんは、“個性守秘制度”って知ってる?」

「個性守秘……?」

「“個性守秘制度”。知られたら嫌だっていう“個性”を持つ人が、個性届をちょっと改変出来ちゃう制度でね。色々条件はあったりするんだけど、その人が本気で自分の“個性”を隠すつもりなら簡単にクリアできる条件だよ。で! 俺はそれを活用してるの。隠してたの。“個性”の攻撃性を! あーあ! この制度使ってるんだから、他人に向けてこの“個性”使ったら俺駄目なのに! 君のせいで俺、犯罪者だよ! ヴィランだよ!! 一番なりたくなかったものに、なっちまったよ!!!」

 

 おっと、いけないいけない。相澤先生に落ち着けって言われてるんだから、心を鎮めないと。深呼吸、深呼吸!

 

「なぁ、常闇くん。この場合ってさ、俺、捕まっちゃうのかなぁ? どうなのかなぁ?」

「……そんなことは」

「どうして俺が捕まらないって言えるの? 自分が挑発したから? だから俺はそこまで悪くないって? なら君も道連れだ! 教唆って言うんだっけ? 犯罪を唆すこと! 一緒に警察のお世話になろーねェ~!」

「なっ……?!」

「俺はこの“個性”、墓場まで持ってくつもりだったんだから当たり前だよな?」

 

 『ヴィラン受け取り係』なんて蔑称が付いてしまってヒーローより下に見られがちな警察だけど、それでもやっぱり法を律する組織は怖いのか。まーた常闇くん、絶句しちゃった。レスポンスが悪いのはヒーローとしていいのか悪いのか。はっきり意見くれる人だと人気出ると思うけど、そこは俺も考えたことなかったなぁ。彼は候補生! 気にしないことにしようか!

 

「……吐移」

「んー?」

「そもそもだ。なぜお前はその“個性”を拒む。優先順位が違えど、お前はヒーローにも憧れている。そしてお前の“個性”の攻撃性はヴィランに対抗できる。この場に立つということは、普通科からヒーロー科への編入を狙っていると、そう見ていいわけだな?」

「……」

 

 確かに。俺はヒーロー科への編入を狙って、この場所に立っている。個性使用許可証が欲しくて、そして出身中学が同じ奴らへの当てつけとして、雄英に来た。

 どうして当てつけが必要だったか、分かるか、常闇。

 

「質問に質問でごめんね常闇くん。君は、なんで俺が自分の“個性”を拒んでると思う?」

「……すまない。分からない」

「そっか。聞いてきてるんだからそうだよね。じゃあさ、……今まで君の相棒に食らわせてきた傷。それはどこで拵えてきたんだろうね」

「……、!? ま、まさか、お前の中学生時代は、そこまで凄惨なものだったというのか!?」

 

 やっぱりバクゴー君たちと同じクラスだから、切島くんなり上鳴くんなりから俺の事情は知れ渡ってるよね。予想通り。

 知っていて、なんで隠そうとしていたのか考えつかなかったお馬鹿さんには、もっと辱めを受けてもらおっかな!

 

「そうだよ。親がヴィランだからってだけで、それを免罪符だと勘違いした奴らに俺は暴力を振るわれてきたんだ。奴らの言葉をそのまま使うなら、俺は『自動回復するサンドバック』らしいから」

 

 俺の告白にざわめく観客席。これで気づく人もきっといるね。自分を正義側だと思い込むのって、本当に危険なんだよ。

 

「『ヴィランの子はヴィラン』だって、ひっどいことも言われたよ。そんなわけないのにねぇ。――さて! ここで問題でーす!」

「は?」

「何の罪も犯していない弱者に理不尽に暴力を振るってきた性根の腐った奴ら! そんな奴らが、弱者だと思ってた人間に攻撃性のある“個性”があると分かった場合、どんな行動に出るでしょーーーっか! ちなみに正解は俺の考えが基準なので、ゲロムズでーす!」

 

 「皆さんも考えてみてくださいねー!」って再度腕を大きく広げて、観客席に向かって、ひいては画面の向こうのあなたに問いかける。

 俺を早く倒したいなら、この隙だらけの瞬間にさっさと無慈悲に攻撃すればいいものを。君は甘いなぁ。

 お前は俺がヴィランだったら、こんなふざけた演説を丁寧に聞いちゃうのか? とっ捕まえてから聞けばいいのに。お前の拳は何の為にある。マイク先生が言ってただろ。捕まえる為にあるんだ。犯罪者の主張を聞くのは捕まえてからでいいんだよ。ま! 教えてなんてやらねーけど!

 

「思いついた? 常闇くん!」

「……媚びへつらう、か?」

「あ~、そういう考えも出来るのかぁ! でも、残念!」

「……報復を恐れての、殺害?」

「中学生にそんな覚悟は出来るのかなぁ? 階段から突き落とされても、腹にナイフで六回刺されても死ななかった俺だよー? これ以上どうやれば、俺って死ぬんだろうね?」

「なっ!? な、ナイフ、だと!?」

「そ! 俺ってしぶといの!」

 

 ま、六発は流石に多量出血で死にかけてたし、あの朝教室に来てたなら君も知ってるとは思うけど。

 

「他に答えは出ない?」

「……」

「そっか。なら答え合わせ」

 

 漸く正解が聞けるとなって、ざわついていた会場が次第に静まり返る。皆が俺の発言に注目している。とは言ってもなぁ。大した答えじゃないから、拍子抜けされちゃうなぁ、きっと。

 

「聡明な方々なら、俺が何を恐れていたのかなんてすぐに分かるでしょう? ――あの性根の腐った奴らは、怪我人・証拠をでっち上げて、復讐の為に俺が“個性”を使ったように見せかけて、ヴィランに仕立て上げるに決まってる。俺を直接どうにか出来ないなら、権力に頼るに決まってる!」

「……まさか、そこまでするか?」

「常闇くん。俺はね、ヴィランになりたくないの。絶対になりたくないの。なりたかったらヒーロー養成校に来るわけねーんだよ。そんな奴に絶望与えるとしたら、性根が腐ってんだから、そういうことしてくるよね?」

「証拠をでっち上げたところで、警察が捜査すれば虚偽だと、仕立て上げられたものだとすぐに判明するだろう?」

「確かに。今言ったのはあくまで最悪のシナリオだよ。でもやりかねないかな。あいつら、俺がいくら暴力振るわれてたとしても警察に相談しないって思ってたらしいから。何をされても疑われても何も言わないとでも思い込んでただろうね。あ、怪我なら、振るわれてた証拠は、黒影ちゃんが証明してくれるよね?」

「どうだ、黒影」

「色ンナトコロガ痛カッタナ……破ケタリ、刺サッタリ貫通シテタリ、火傷トカ、斬ラレタリ冷タカッタリ……マジデ、色ンナ怪我ノオンパレードダゼ……」

 

 常闇が黒影を引っ込めるのが遅いから、結構な量の黒キューブを染みこませちゃったりしちゃったよ。本当に痛そう。俺だって一度に食らったわけじゃないのに。

 

「俺の居た中学って結構治安悪くってさー。地元でもヤンキー中学で有名だったよ。そんなんだから全然証拠もカメラがなくて残らないし、俺自体が自動回復するもんで怪我の証拠が中々残せなくって、警察に突き出すのに苦労したよ。――でも! クラスの半分くらいの人数は少年院にぶち込んだよ! 『将来の夢はヒーローで~す』って言いながら俺に“個性”振るってくる奴らを中心にね! ……話が逸れたね。つまりは、自分を正義だと思い込んでたクズ野郎どもに罠に嵌められてヴィランになるっていう最悪を避けたかったから、俺はこの“個性”をひた隠しにしていた。ってわけだ」

 

 「分かってくれた?」って言いながら首をかしげてみれば、険しい顔した常闇は首を縦に振ってくれた。

 

 俺がなりふり構わなくなったら。事情を知らずに人にばかり本気を出すことを押し付けたり、煽ったりしたら。緑谷くんみたいになりたいからって、丁度隠し事をしてそうな俺と当たったからって無遠慮に秘密を暴こうとしたら。俺のこと何にも知らないくせに、自分がカッコつける為に利用しようとしたら、どうなるのか。

 君にぶつけたい不満はまだまだたくさんあるけれど、これ以上ダラダラお喋りし続けるのは流石にダメかも。潮時だね。

 

「そろそろ終わりにしようか、常闇くん」

「終わり、だと……?」

「そ。流石に1試合分の長さじゃないからねー」

「……ならなぜ、お前は拳を構えない」

 

 必要が無いからに決まってんだろ。ばーか。

 鼻で笑ってやれば、常闇は不審そうにしていた表情を更に色濃いものにした。不安さも足されてるかな?

 

「せっかく暴かれちゃったし、俺の実験に付き合ってよ」

「実験、だと……?」

「うん。俺のこの“個性”の危険性とか、有用性とか。それを検証するのに、君の体を使わせてよ。暴いたんだから、それくらいの責任はとってくれるよね?」

「戦いの場でのんきに検証、実験とは、少々たるんでいるのでは?」

 

 お前の意見は聞いてない。聞いてないから、お前も容赦せずかかってこいよ。出来るんならな。

 

「せっかくだ。君のクラスメイトから受けた傷をお返ししようか」

「! 芦戸の、酸による傷、か」

「それだけじゃないよ。轟くんが予選で氷結で妨害したじゃない? その時の傷もあるよ」

「……」

「どんな傷かは、受けてみてのお楽しみに!」

 

 つくづく自分の性格が悪すぎて嫌になる。執念深くて、徹底的に潰してやりたくなって、自分の責任は最低限にしたがる。大好き。本当に気持ちいい。

 常闇くん。俺はこんな汚い人間なの。キラキラした君たちみたいな、優しいで溢れた世界で生きてないの。

 

 自分の顔の斜め前に、左手で指パッチンの準備をする。

 

「遠隔でも発動出来るのか……!? そもそもどうやって、俺に傷の爆弾を仕込んで……!?」

「発動させない為に俺に攻撃でもしてみる? 散々傷つけた黒影ちゃんを、また、俺に差し向ける?」

「……くそっ!」

 

 煽ってやれば狙い通り、常闇は俺に直接立ち向かってきた。かかったな。

 勿論、ヒーロー科の常闇と普通科の俺では地力が違う。格闘術を習っていたかもしれない彼と、暴力しか知らない俺では普通にぶつかり合ったら勝敗は一目瞭然だ。

 だが、このステージ上ならアンチヒーロー行為以外は何をしたって構わない。傷つけあうことを認められている。だから。

 

「フッ!!」

 

 顔に来た廻し蹴り。指パッチンの為に上げていた腕でそのまま受け止めながら、ほんの少しだけ晒されている素肌から黒影にしたように黒キューブを染みこませた。

 

「ぐっ!」

「発動させんぞ!」

 

 ばーか。仕込みはたった今完了したっての。黒影の反省活かせねーの?

 

『戦いは再開されたァ! 何やら遠隔で“個性”発動を企む吐移に、それを阻もうと蹴りを食らわせる常闇!! このまま常闇、攻撃を続けて吐移を押し出すか!? それとも吐移が隙を見て発動させるかァ!?』

『仮に遠隔で個性を発動させることが出来たとしても、今肉弾戦している時点で常闇の“個性”にしていたような、触れた場所から発動させる方法に切り替えても、おかしくないな』

『なるほど! つまり吐移を早く押し出さないと、常闇はどちらに転んでも怪我しちまうってこった! ヤベーぞ!!』

 

 離れたところにいる相澤先生は冷静に考えるな。でも、俺と戦っているのはあなたじゃない。常闇だ。感情的になった常闇だ。だから気がつかなかっただろ? 

 俺に蹴りを入れる為に至近距離にいる常闇くんに、意識して不気味に笑ってやる。

 

「気づいたって、もう遅い」

 

 ヒュッと、常闇は喉を引きつらせて声にならない悲鳴を漏らしていた。

 

 

 目は、痛いもんね。

 

 

 

 常闇が男の子らしい野太い悲鳴をあげて、ステージの上でのたうち回った。見える派手な症状は、両腕と右顔半分部分の皮膚が溶けてるとこだろうか。あとは体育着の下に隠れているんだろう。

 

「一度に食らうと痛すぎるだろうからさ。目と、足裏は止めといたよ」

 

 こんな気遣い、君にとっては大きなお世話だろうけど。でも、あれ本当に、痛かったから。あれを喰らうのは俺だけでいいよ。

 

「常闇くん、行動不能! 吐移くん、三回戦進出!!」

 




 究極に性格の悪い吐移くん、いかがでしたでしょうか……。最後の最後で甘さが出たのは、彼の優しさなのか、「ヴィランになりたくない」という意思の表れなのか。極端な変化に、振り切ったつもりでも非道になりきれない吐移くんでした。


 バクゴー君と戦う吐移くんが見たい人ー!! はーーーーい!!!!(自問自答)
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