轟くん対飯田くんの戦いは結構なスピード決着だったらしい。とはいえステージは轟くんの“個性”の氷結で氷ついていて、それを溶かす作業が入った。それが終わるまでのつなぎなんだろうな。なんかマイク先生が話しだした。
『えー、ここでリスナーに朗報だ! 二回戦第三試合で勝った吐移なんだが、あの子の地元のお役所さんに確認をとったところ、確かに“個性守秘制度”を適応していたことが判明した! それに伴って、一旦保留にしていた吐移の勝ちはちゃんと認められることになったぜ!』
『勝利判定になったとはいえ、三回戦に来るかは分からんがな』
『いいや来るね! 俺吐移のボイストレーニングのコーチしてるけど、その時宣言されたぜ! “体育祭で優勝してきます!”って!!』
『……一応確認するが、稽古を最後にしたのはいつだ』
『二週間前! 流石に体育祭の内容が俺からリークされたとかなったら大問題だからな! そこはきっちり距離とってるぜ!』
『ならいいか』
もっと警戒している要件あるくせに。まあそれを抜きにしても、マイク先生のフォローがお上手ですね、相澤先生。
『あれ? まだステージ片付かない? ならもうちょい吐移のイメージアップに務めるか! 三回戦二試合目は吐移 対 爆豪 なのは皆知ってるな!? 普通科が準決勝まで勝ち上がってくるのは例年だと中々無いスゲーことだから、そもそもお前は誇りに思っていいぞ! 吐移!!』
進み方に難有りなんだよなぁ。てかなんだよイメージアップって。皆に勧善懲悪の気持ちよさを味あわせてやればいいのに、そんなことされたら皆微妙な感情になっちゃうじゃん。
『それから対戦するこの二人、何度も言うが普通科とヒーロー科の組み合わせなんだが、休みの日に二人で公園で発声練習と筋トレするくらい仲のいいダチだ!』
いや、その一回しか俺まだ、バクゴー君と特訓したことないんだけど。まるでメチャメチャ仲が良いみたいな言い方してるけど、そんなことないからね? そりゃ命の恩人だし仲良くなりたいから頑張ってるけども。
『あの暴れん坊で且つクレバーな戦闘スタイルの爆豪と普通科の吐移が仲がいいなんて意外でしょ? そんな二人の馴れ初めもドラマティック!! 二回戦で吐移が言ってたの、リスナーの諸君はちゃんと聞いてたか? “腹に六発ナイフで刺された”ことあるっていうの。あれ、されて倒れてたところをたまたま一般通過してた爆豪が救急車呼んで助けたんだって! 犯行現場がショッピングモール近くの人気の無い場所だったらしいんだけど、爆豪がたまたま気がつかなかったら吐移、多量出血で死んでたかもくらい危なかったんだって!』
『具体的に話していいのか、それ』
『爆豪には確認とってないけど別に悪口じゃないからいいっしょ? と、この話吐移が嬉しそうに話してくれたから多分話して大丈夫!』
話す場所と相手とタイミングを考えて欲しかった。正直言って話して欲しくない。さっさとステージ片付かないかなぁ!!!
『助けて名乗らず去った爆豪、それを誰だろうかと気にする吐移。そんな二人が再会したのは、雄英の大食堂! まさか同級生だなんて! まさか同じ高校の生徒だなんて! 運命を感じた吐移は、爆豪に猛アタックして――お? そろそろステージも片付いたかな?』
待て!! そこで止めんな!! 何が『もうちょっと話したかったのにぃ』だ! 話せ! 中途半端に言葉を、よりにもよってそこで切るな!! マジで出て行きづらいじゃねーか!! もー!!!
『おい、そこで止めたら変に誤解が――』
『OK! ステージの準備は整った! 早速戦う二人を紹介しよう!!』
勧善懲悪とか色々考えすっとばして棄権したくなってきた。でも、ここまで来ちゃったから、もう、出て行かなきゃ。
それに考え方によっちゃ、これもまた晒し者。天罰は下り始めてる。
「行くか」
マイク先生が余計なことを言ってくれたおかげで、足から力が抜けてへたり込んでいた。そこに無理やり力を入れて、立ち上がる。
こんなふらっふらな奴相手で、バクゴー君は戦っても満足出来るのかな。ごめんね。でもきっとこの戦いは、君の株が上がるものになるから。いい話でしょ? 俺のヒーロー。
『さあ入場してこい、仲良しコンビ!』
呼ばれた。行かなくっちゃ。安心できる陰から、陽のあたる向こうへ。
『全部ぜんぶ吐き出しちまえ! 普通科 吐移正!!』
痛い日差しを浴びて、ステージに上がる為のコンクリートの階段を裸足で登る。ほんの少しだけ、ひんやりしているような気がした。
『
四隅でツボっぽいやつから上がる火柱の間を抜けて、ステージの真ん中の、二つある白線のひとつの前に立つ。
『思ってるより頭使って戦ってるぞ! ヒーロー科 爆豪勝己!!』
油断もスキもない、君の前に立つ。
「ヘアバン」
「何?」
観客席から上がってくる声も、マイク先生の声も、もう俺の頭はノイズとしてしか受け付けなくなった。シンソー君に「応援は力になるよ」って言ったのに。……俺に応援なんてないか。
バクゴー君が俺に向かって人差し指をクイックイッてやって、挑発してきた。
「カラス頭に見せた“それ”、俺にも食らわせてみろや」
「……ふーん?」
すごいなぁ。痛いの食らっても耐えられるって自信があるんだー? さすがタフネス。筋肉の鎧を纏ってるだけある。
あれってさー、何度食らっても慣れないんだよねー。階段の上から背中押されて落とされた時も、食らってないけど花瓶が頭上から落ちてきた時も、目にハサミ突きつけられた時も、何度も腹に蹴りを食らった時も。心臓とかがキュッてなって、体からあったかいのがなくなってって、「あ、死ぬんだ」ってなる。あの感じ、本当に慣れない。
直ぐに治る俺でこんなんだよ? 自己治癒に時間のかかる一般人さんは、もっと怪我をするってことに危機感を持ったほうがいいよ。
「バクゴー君ってェ、ドMさんだったんだぁ?」
「あ゛ぁ? 何勘違いしてんだゴラァ。テメェの全部をぶつけて来いつってんだよ」
「だぁから、それがドMだっつってんだろォ?」
「……早速悪態ぶつけてきてんじゃねーか」
「上出来だぜ、ヘアバン」なんて褒められて、思わず舌打ちした。挑発が挑発になってない。効いてたとしてもほんのかすり傷。舐めれば治る程度くらいしか食らってない。クソが。
『ステージでは早速挑発合戦が繰り広げられているぞぉ! 勝負は始まってる! 次は拳で戦うかぁ!?』
聞こえてなかったけど、開始コールは終わってたんだな。動かないのはエンターテイメント的には悪い画だろうから、そろそろ始めなきゃ。
さあ、君のヒーロー活劇の始まりだ!
「ヘアバン」
「いい加減お喋りは御終いにしようぜ? かかってこいよバクゴー君。来れるもんならなァ!」
「-5億点」
「…………ん?」
な、何の話?
頭では「これは隙を作る為の作戦だ、乱されるな」って考えてるのに。俺と彼の温度差にやられて、張り詰めていた緊張が解けちゃって、気づいたら俺、膝と両手を床についてた。
お、お前、お前ぇえ!!?
「それ、今言う!?」
『説明しよう! 爆豪が言った“-5億点”とは!? 笑顔がど下手の吐移が雄英に入ってから立てた計画、“笑顔満点計画”!! それに俺も発声のコーチとして関わってるんだけど、それに吐移が爆豪を巻き込もう! って話した時に真っ先に点数をつけられたらしい! それが-1億点!! ってあれ!? 吐移めっちゃ減点されてんじゃーん! ウケる~!』
「うるせぇ!!!」
『こんなに声も大きくなって……!』
『これ試合始まってるんだよな?』
相澤先生の言うとおりだよ。何俺の成長をこんなタイミングで喜んでんだよ。TPOをわきまえてくれ!
「ご協力してくれてるのには感謝してますけど、何も今言わなくて良かったでしょ先生!! 試合している選手に向かってステージ外から妨害行為は最低っすよ!!!」
『えっごめん!!』
まったく、酷い話だよなぁ。精神攻撃しか、煽り合いしかしてなかったからまだ間に合うけどさ。
そう。試合は始まってんだよ。
「君は君で、何考えてんだ?」
「あ゛?」
立ち上がりながら、実況席に向けていた顔を本来向けるべき相手に戻す。なんてふざけた態度してくれてんだろうな。君の“個性”を発動するのに最適な手という部位を、ズボンのポケットの中に突っ込んでる。
「俺の精神乱して隙を作ってぶっ飛ばす。そんな作戦で俺のこと貶してくれたんだろ? なのになんでお前、そこでぼーっとつっ立ってんだァ? 折角のチャンス、フイにして「ハンッ!」」
ああ、強者の余裕。どうしてそんなに余裕ぶれるんだ。君は俺の“個性”の詳細なんて知らないくせに。情報はアドバンテージ。自分の傷を他人に付与することが出来るっていうのは晒したけど、それを“黒キューブ”に変換して投擲やらトラップやらに活用できるとは言っていない。そもそも傷の回復するトリガーが“息”だっていう弱点も晒してない。そんな情報不足な君が、どうして俺に、そんなに余裕ぶれるんだ?
「精神乱すぅ? 隙を作るぅ? 折角のチャンスぅ? んなの、テメェをぶっ殺すのにいるわけねェだろうが」
「言ってくれるねぇ……!」
「事実だわ」
本当に事実で、ただえさえ震えてる声が更に震えてくるねぇ。はームカつく。
確かにちょっと前までの俺なら、自己回復するだけの俺なら勝てなかった。それこそ押し出しで負けてた。でも今の俺なら、分からないだろ?
「大体テメェ、“それ”を使わねぇで俺にどう勝とうって話なんだよ。それこそ、何考えてんだ」
「別に“使わない”なんて一言も言ってねぇんだよなぁ?」
「なら、言い方変えてやるわ。――中途半端なチカラで、どうこの大会で一位になろうとしてたんだって話なんだよ」
中途半端? バクゴー君は俺のあの叫びを知らないの? 俺の過去を、あの現場を見ておいて、黒キューブを隠し通してきた理由に納得してくれないの? 演技をし続けてきたことにも、理解を示してくれないの? 「墓場まで持っていく」って俺、確かに言ってたはずだよね?
「君、俺のはな「出せるモン全部出して、今ここに立ってんのが俺たちだろうが」
「――は?」
俺の話遮って、何言ってんの? 俺たち? それ、もしかして、
「もしかして、その“俺たち”って、俺も含んでんの? 君の言う、出せるモンには俺のこの“個性”の暴力的な一面も含んでるんでしょう? 俺はそれを出してこなかったんだから、“たち”って俺の事を含んじゃ「アホかお前」っ、だから、遮んな!」
「テメェの話が聞いてられねぇからだろうが」
「はぁ!?」
「使ってただろ。あの仮想ヴィランロボによ」
「……あ」
忘れてた……。ロボにはわざわざ市役所まで言って確認して大丈夫だって確認してたから安心して使って。でもそれが、人に対して黒キューブ使ってしまったのが俺の中で衝撃的すぎて、なかったことになってた。
違う。なんで衝撃的だったかって、それは、――俺が、自分の誓いを破ったから。
「ロボは人じゃねぇからノーカン? 血が出ねぇからノーカン? ちげーだろうがよ」
「じ、自己防衛、と、人への明らかな加害意識を持ったそれは、ちが……」
「論点ズラしてんじゃねーよアホ。テメェは確かに、この上に立つ為に“個性”を使ったんだ。出せるモン全部使って、ここによぉ」
言い方は全然優しくない。むしろ俺には分かりにくいまである。でも、でも。
この場に立つ俺を、認めてる。
ステージに立てる権利のある人間だと、認めてくれてる。
この体育祭で一位を目指していい人間なんだと認めているから、バクゴー君がこんなに長々と俺に、説得を試みている。行動で示しがちな君が、俺に、言葉で。……言葉じゃないと、俺が直ぐに負けちゃうからだろうな。分かってるぅ!
「俺に言った宣言。テメェそれを最初から破る気で居たんか」
「宣言……?」
「忘れてんじゃねーぞ。言っただろうがよ。お前、俺を蹴落として、一位になんだろ?」
「……覚えて、くれてたんだ」
やば、嬉しい。興味が無いことは大体切り捨てて忘れてそうなのに、俺の宣言、覚えててくれてたんだ。
バクゴー君が両手をポケットから出して、足を肩幅に広げた。それから、もう一度、俺に人差し指で挑発してきた。
「来いよ、ヘアバン。テメェの全力見せてみろ。それを俺が上から、完全にねじ伏せてやっからよぉ!!」
強者。やっぱり君には何とも言えない魅力で溢れてる。決して一般的に良い人とは言えないかもしれない。でも、俺にとっては君は、3回に2回くらいは、俺の心を暗闇から
気づけば俺は足を肩幅まで広げていて、自分でも分かるくらい不気味に笑っていた。
「んなこと言っていいのかよ? 安心しちゃうよぉ? 君に痛いのぶつけても大丈夫だって、勘違いしちゃうよぉ!? それでもいいの? 君を蹴落としてもいいのぉ!!?」
「気色悪い喋り方してんじゃねぇよ-7億点!! 蹴落とせるもんなら蹴落としてみやがれ!!」
「あー! また点数落としやがってー!!」
「自業自得だろ。-10億点」
また3億点減点しやがって! 君の点数感覚どうなってんだよ! てか何基準!?
「大きな計算しか出来ないその頭、一度壊して治してもらおうか」
「壊れてんのはテメェの方だわ。ぶっ飛ばして、頭の接触不良直してやるよ」
「とんだ破壊的発想の持ち主だなぁ!」
「互い様だゴラァ!」
舌戦は終わりだ。ろくに勝負になってたかなんて知らない。そもそもこれで勝負をつけようなんて、二人共思ってない。ただただバクゴー君が、俺に発破をかけてきただけ。
俺を慰めようなんて考えてない。自分が“理想とする勝利”の為の発破。バクゴー君の行動は、実に自分本位なものばかり。なのに、それが何故だか、心地いい。励まされてないのが、気楽だった。
さぁ、観客の皆様お待たせしました! これから俺らの勝負が、本格的に始まります!!