傷吐き   作:めもちょう

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ネタバレ:IFだからこそ、出来たこと。


IF 2-4

『挑発合戦は終わりを迎え! 構えた二人の戦いが、今! 始まる!!』

『開始から何分経ったんだこれ』

『んな野暮な事言うなよイレイザー! 今のは二人にとって大事な話だったの! 二人が全力で戦う為に!』

「つまり青春ね!!」

 

 「青臭い話は好みよ!!」とかミッドナイト先生がなんか言ってるけど、もう反応してやんない。俺はもう、バクゴー君しか眼中にないんだから。

 俺の正面には、変わらず構えたままのバクゴー君。油断も隙もあったもんじゃない。バチバチ火花を散らして、いつでも爆破が可能な状態になっている。そうか、この熱い日差しで汗をかいて、君も準備して、いや、自然と準備がなされたんだな。()()()()()()()()()()()()()()

 

「かかってこいやぁ!」

「なら、お言葉に甘えて!」

 

 何事も先手必勝!! そう思ってバクゴー君に向かって走る。にしてもめっちゃ見てくるな君!

 

「おぉらっ!!」

「おっせェんだよ!」

「ぼぉっ!?」

 

 大きく振りかぶって体重を乗せた拳。それはあまりに軽々と避けられて、顔面にカウンター食らった。爆破じゃなくてシンプルに頬への打撃だったのは、いつその傷が返されてもなるべくダメージが少なくなるように、だろうか。

 よろけながらバクゴー君から距離を取る。くっそ、思ったより衝撃がすごくて黒キューブ喰らわせられなかった! これは予定外!

 

『これが普通科とヒーロー科の違いなのか!? 経験値の差なのか!? 二人の動きのキレに差が見て取れる! 吐移、戦闘経験の差を、どう埋めるー!?』

 

 純然たる格闘戦なら俺は間違いなく負けるに決まってる。だけど今は“個性”の使用が認められている。技の美しさを争っているわけじゃない。なら、どんなに狡い手だって、勝つ為なら認められていいはずだ。

 ()()()()()()()()()()()()って、許されるはずだ。

 

『てゆーか吐移、なんで毎試合毎試合、裸足なんだろ? 一回戦は相手が芦戸だったから靴が溶かされないようにかなーとかって分かるけど、予選も二回戦も今も靴脱いでんのは、なんで??』

『二回戦で見ただろ。あいつの“個性”の攻撃的な面は、足からでも出せるからだ』

 

 バラさないで欲しかったなぁ。そこまで言われたら逆に裸足でないと、素肌でないと条件を満たせないって考えついちゃうでしょうが! バクゴー君頭いいんだから!

 でもまだ、見せてない技があるんだよ。いい顔で驚いてよ、バクゴー君!

 

『なるほど! 最適化を図った結果が裸足なんだな! じゃあそんな効率厨な吐移は、これから爆豪を倒す為に何をする!? 対する爆豪はどう対抗するぅ!?』

 

 まずはストレートに黒キューブを叩き込もう。絶対に反撃されるわ、こちらの攻撃は全く当たらないわで、結局これは全力でやっても意味がない。そう、周りには見えるはずだ。

 でも、君には当てはまらなそうだな。何度も何度も俺にカウンター食らわせてるくせにまるで喜んでない。自分が有利だなんて思ってない。そのイラついた顔が証明してくれる。勘がいいなぁ!

 

「ヘアバン!! テメェ、何企んでやがる!!!」

 

 何って、君を倒す作戦だけど?

 

『どうした爆豪!? 始まってからずっと全然爆破しないぞー!?』

『下手に撃てばカウンターされるのが分かっているからだろうな。だからといって対切島の時のような弾幕を喰らわせるには情報が足りず、一歩踏み込めないといったところか』

『大胆に攻撃しようとすれば、何をされるか分からない! 圧倒的な情報不足は、人の足を鈍らせるぅー!!』

 

 そうだろうな。なんてったって、俺はこれを墓場まで持っていくつもりだったんだから。情報が無くて当たり前だ。だから爆破してこない。だから俺を注意深く観察している。だから俺に先制を許した。それが悪いとは言わない。君ならそうしてしょうがない。

 俺がそこに付け込んだ。それだけだ。

 

「ねぇ、バクゴー君。俺らの試合は、いつ始まったっけ?」

「あ? んなの、――!?」

「そうだね! マイク先生がコールした瞬間からだね!」

「テメェ、何を仕込んで……!」

 

 当たらない打撃を繰り出しながら。勢いづいた体にカウンターを喰らいながら。俺はバクゴー君を中心に、ステージを駆けずり回った。少ないと知られている体力をわざわざ消耗してまで、なんで俺はそんなことしてるんだろうね?

 

「今更怪しんだってさ、試合開始から結構経ってるのは、君だって分かってるはずだろ?」

 

 必死なように取り繕っていた顔を崩して笑ってやれば、それが気に入らなかったらしいバクゴー君が顔を真っ赤にしちゃった!

 

「だぁああああっ!!! うぜぇえええっ!!!」

「わぁキレた!」

「様子見なんざ止めだぁ……。今すぐぶっ飛ばしてやらァ!!!」

 

 クレバーなくせに、煽られたら直ぐにキレるのどうにかしたほうがいいよ? ま、君っていつもブチギレてるようなもんだし、頭に血が昇ってても冷静な判断出来るよね?

 そう思ってたのになぁ。残念! 俺のところに()()()来ちゃった!

 

「――バァン!」

「!?」

 

 まずは靴だ。靴が壊れてくれないと黒キューブの効果が期待できない。

 

『どういうことだ!? 走り出した爆豪の靴が、使い物にならないくらい破けたぞぉ!?』

「裸足だなんて、お揃いだね!」

「テんメェ……!!」

『靴を壊した犯人は吐移だァ!! でもどうやって!?』

「直接だけじゃねぇ……。地雷にも出来んのか」

 

 足元から攻撃が来たんだから、そう考えるよね。まったくもってその通り!

 研究した結果、黒キューブは無機物・有機物関わらず染みこませて地雷とすることが出来る! 壊れて効果を発揮する条件は、俺から離れちゃってるから刺激があった瞬間、つまり踏んだらなんだけど。そこらへん不便よね。俺が踏んでも発動しちゃうあたり。ま、俺はすぐに吐き出せるから本当に不便なのはバクゴー君だけだろうけど!

 

「俺は雄英より理不尽だよ。どこに地雷を仕込んだかなんて、目視で確認なんかさせない」

 

 バクゴー君が靴を脱いだ。カパカパ言うそれなんて足手纏い。ボロボロになったそれを場外に投げ捨てた。

 地雷を仕込んだ場所は俺が足か手を付いたところなんだけど、一々覚えてないでしょう? さあバクゴー君。君はこの地雷原に、どう対処する?

 

「ハッ! テメェがどこに仕込んだとか関係ねェんだよ!!」

 

 その対処をした君に、俺がどう対抗すると思う?

 

『一面地雷原と化したらしいステージ! だけど一度爆豪は予選の地雷原に対して奴らしい解決法を編み出してる! 吐移の作戦は意味あるのかぁ!?』

 

 そう。君は入試でも見せ、体育祭予選でも見せたね。両手から繰り出される爆破を推進力とした低空バースト飛行を。

 

「二番煎じが俺に効くかよ!!!」

 

 それが誘い込まれたものだと、考えつかない君じゃないはず。だから俺はショットガンのイメージで、君にこれを投げつけ喰らわせる。いくら器用に飛び回れる君でも、広範囲は流石に避けきれないだろ?

 

「んな!?」

『何!? 今吐移何投げた!? なんか黒いサイコロサイズの何かが爆豪に投げつけられたぞ!?』

 

 お! 振りかぶったのがグーパンの予備動作とでも思ったのか、黒キューブ八割ヒット! てかほとんど広がらなかった! 何がショットガンだ!?

 そもそもビスケット程度の強度しか無いそれを手の中で少し崩してやりながら投げつければ、彼の顔面に当たったそれらはすぐに砕けて、バクゴー君を撃ち落としてくれた。

 なんかされたら嫌だから、地雷をばら撒きながら距離取ろーっと!

 

『なんだ!? どうした!? 爆破で飛んでいた爆豪、吐移に謎の弾丸を喰らって撃ち落とされたーーっ!?!?』

『なるほど、吐移は“個性”を随分小出しにしてきたな』

『なんだって!? じゃああの弾丸は吐移から出てきたもんなのか! ホントに秘密でいっぱいだ! それを食らった爆豪、どんな被害を――』

 

「テメェ……!!!」

 

 黒キューブを喰らったバクゴー君が立ち上がろうと、ステージの床に手を付く。その手は、傷だらけで血まみれだった。

 

「“個性”殺しは定番だよね」

 

 切り傷・刺し傷・おまけに酸。汗腺の死んだ血まみれの手じゃ、あの特大爆破も出来ないよな?

 

『エグい! エグいよ吐移!! 爆豪の両手を潰して爆破を封じたァア!!!』

 

 “個性”は身体能力だ。緑谷くんの指や腕が壊れたように、力まないと切島くんが硬化出来ないように、シンソー君の洗脳が呼びかけに反応しないと効果が無いように、必ずデメリットや弱点、予備動作がある。バクゴー君は緑谷くんタイプ。使えば使うほど手のひらに負担がかかるもの、と見た。そのデメリットを克服しようと鍛えて手のひらが分厚くなってるんだとしても、それを破いてしまえばいい。――何も、骨までぐちゃぐちゃにはしなくていいからな。

 

『ステージを駆け回って足裏から地雷を撒き、移動手段を限定しつつ既視感を持たせることで爆豪に狙い通りの動きをさせた。あとはそこに初めて見せる“個性”をぶつけることで動揺させ、しっかり爆豪に攻撃を喰らわせた。といったところか』

『ってことは吐移、試合が始まった瞬間からこの展開を狙っていたってのかー!? どこまで用意周到な男だ、お前はー!』

 

 説明ご苦労様です、実況のお二人。俺から説明するなんてそんな余裕、憤怒のオーラが醸し出されているバクゴー君を目の前にしたらなくなっちゃったもんでね!

 

『戦闘経験値の差を、まだ全然晒されていない“個性”と頭脳プレーで埋めた吐移! 爆豪の両手を壊した次は、いったい何をしてくれるんだー!?』

「やってくれんじゃねェか……! だがこれで俺を止められると思うなよ!!」

「思ってる訳無いだろ。ここから俺だって、どうしたもんかなんて考えてんだからよ」

「真顔で嘘ついてんじゃねぇぞ」

 

 本当だよ。本当に悩んでるんだから。成功させる気ではいたけれど、まさかここまで君が俺の策に嵌ってくれるなんて思ってなかったんだから。でも、ここで弱みを見せたら、カッコ悪いよな。

 

「本当に悩んでるよ。これから君を、どう調理してやろうかってね!」

「ふざけてんなよ!!」

 

 あくどい笑顔もイケメンだと様になるねぇ! あー怖い!

 

 どう仕掛けてやろうか? こちらから出来ることは俺に格闘技を決めてくるであろうバクゴー君にカウンターと黒キューブをぶつけてやることくらいか。動けなくなるくらい、だけど後遺症が残らない程度にしないといけない。

 俺の中に残ってる傷のラインナップはなんだ? そもそもいくら残ってる?

 バラ撒きにバラ撒いたから、全体で残り60%くらい。その内50%がかすり傷から切り傷、打撲なんかの長くて二週間くらいで違和感や目立った痕が消える傷たち。残りの10%が、骨折から致命傷。これらは流石に使えない。

 タフネスなバクゴー君にぶつけるなら、打撲、程度の浅い刺し傷、切り傷くらいか? 使えるものを選ぶなら更に%は小さくなって、20%以下、か。

 

「俺、これ以上バクゴー君を傷つけたくないなぁ。辞退してくんない?」

「ハッ! ほざいてろ!!」

 

 負けることを認めたくない、君らしい咆哮だ!

 挑発して、バクゴー君が攻撃してくるように仕向ける。彼が俺に攻撃をしかけるならもう、足を使って俺に近づくしかない。前半走り回って殴られて体力が消耗されている俺だけれど、それでもこれからは俺から仕掛けなくていい。俺は逃げ回るだけで、勝手にバクゴー君が怪我してくれる。下準備って大事だね!

 

「ところでどうしたの? さっきから動いてないけど。あぁ、やっぱり両手が使えないのって、不便?」

「……テメェ、随分“そいつ”の使い方が(こな)れてんなァ? 『墓場まで持ってく』つってた割には、どっかで使ってたろ?」

 

 俺の挑発ってそんなに力不足なんだろうか。バクゴー君全然ノッてきてくんない。一応バクゴー君を中心に、距離を取りながら円を描くように歩き回る。それは勿論、かすり傷の地雷をバラ撒く為。

 

「『墓場まで持っていく』っていうのと、使わないっていうのは違うよ。人生何が起こるか、今みたいに分からないでしょう? 俺がいらないと思うこの力だって、誰かを救う時が来るかもしれない。だから、何に使えるか、どう使えるかくらいは研究したの。まさか命の恩人の君に使う時が来るなんて、まったく想像してなかったけどね!」

「そうかよ」

 

 大丈夫、だよな。今のであげたくない情報は、俺、言ってないよな? 喋るのも大変だな。

 

「俺が話したんだから、バクゴー君も教えてよ。俺をどう倒そうと考えてるかをさ!」

「誰が言うかよ」

「そうだよね。君は行動で語る人間だもの。ねえ、さっさと教えてよ!!」

 

 考える時間はもう、あげたでしょ?

 

 ようやく俺の挑発にノってくれたバクゴー君が飛ぶように走って俺に急接近してきた。来た! 俺は逃げないよ。むしろ近づいて、攻撃のタイミングをズラしてやる!

 バクゴー君は傷つきまくった拳じゃなく、まだそこまで傷ついていない裸なお足で、俺の頭目掛けて廻し蹴りしてきた。それを一旦引いて、ズボンで肌が隠れていないところを狙って両腕で頭の横を庇うようにして受け止めた。勿論、そこから黒キューブを発生させながらな!

 

「ガッ!?」

『廻し蹴りが受け止められちまった爆豪、顔が殴られてみてぇに吹っ飛んだァ!?』

 

 顔を押さえたバクゴー君はよろけるついでに俺から距離を取った。気づいたかな? 今の黒キューブは、バクゴー君がさっき俺に食らわせてきたそれだった。

 

「さっきはよくも殴ってくれたね!」

 

 バクゴー君は俺の煽りに何も言葉を返してくれない。ただ、俺をまっすぐ見据えている。

 落ち着いたこの感じ。しっかり腰を下ろして構えている様。きっと、一発で終わらせようと、その為に呼吸を整えている。

 そっちがその気なら、こっちだって。

 

 互いがでかい一発を狙う。決まれば終わる。勝負が終わる。自然と、俺たちの間に緊張が高まった。

 

 高まるっていうのに、さっき自爆した黒キューブがこの間タンスに小指をぶつけた奴で、それを思い出す雑念が俺を邪魔をする。くだらねぇ……!

 

『煽り合いも、カウンター合戦も鳴りを潜め、ただただ静かに睨み合う! これは嵐の前の静けさってやつかァーー!?』

 

 うるさい。集中力が切れる。よくバクゴー君を観察して、彼がいつ仕掛けてくるかを見ないといけないのに。

 一発で決める。決めるって、どう決める? 血が流れない、丁度いいケガはなんだ? 彼が死なない程度の、でも行動不能に出来るケガは、どれだ?

 

 そんな都合のいい怪我、俺、してた?

 

「ぐッ……!?」

「っ!?」

 

 足を広げた、ジリジリと、少しだけ足を広げただけのバクゴー君が、呻いた。どうやら俺の仕掛けた地雷を踏んだらしい。けど、俺、あんな苦しくなるような傷、仕掛けた覚えが――ある。

 今バクゴー君が立っている場所。そこは、俺がバクゴー君の靴を壊そうと、重めの傷を中心に置いたところだ。生身に喰らったら結構なものだとは思う。俺がそう判断したから俺から出したんだ。だからって、タフネスな彼が、膝をつくような傷じゃ、ないはずだ。

 

「だ、騙されないからな! 俺は君が倒れるような傷をバラ撒いてないからな!」

 

 その、はず、なんだ。

 

「……オエッ」

 

 力が入らないらしいバクゴー君が、膝をついた状態から立ち上がろうと床に手をついて、更に力が抜けたように肩をすぼませてしまった。

 顔の真下に。項垂れた顔の、影が落ちる床の上に、赤が落ちた。

 

 崩れ落ちる。ゆっくりと、君が。赤に、沈んだ。

 

「ーーーーっ!!!」

 

 罠だ。俺の中にあいつらは確かにいる。致命傷になりそうな黒キューブは確かに俺の中にある。あるって分かってるのに。俺の中の冷めた部分が警告してくれているのに。

 

 どうして俺は、駆け寄って、バクゴー君をひっくり返して、怪我の様子を見ようとしているんだ。

 

「やっぱ来るよなァ?」

 

 ほぉら。バクゴー君、めっちゃ悪い顔して待ち構えてたじゃん!

 ひっくり返らされたバクゴー君は足を揃えて胸のあたりに、構えてた!

 

「がァアっ!!?」

 

 その足は勢いよく俺の顎を蹴り上げてきた!! あ、空、キレーだなー。お星様キラキラしてるー

 

「死ねオラァアッ!!!」

 

 そんな()()()()()()()()()()に、凶悪な笑顔を逆光で見えにくくしたバクゴー君が現れて、踵落としを決めようと右足を振り上げていた。格闘技はどの角度から見ても綺麗なんだなー、じゃない!!!

 

「誰が死ぬかぁあ!!」

 

 蹴りは拳より何倍も威力があるもんだし、振り下ろすなんてもっと威力が高いはず。そんなの受け止められるわけ無い。だから自爆覚悟でステージを転がって、ギリギリのところで踵落としを避けてやった。ハンッ! 床に踵ぶつけて怪我してやんの! 俺はジャージの上がまた使いもんにならなくなったけど!! もう、ステージは転がれない。

 

『やたらと煽る罠師吐移 VS 騙し討ちの爆豪! やっべ! 字面どっちも悪者なんだけど! 仲良しコンビのこの勝負、どちらに軍配が挙がるー!?』

『どっちも決定力に欠けている。爆豪は手を潰されて攻撃手段や機動力を殺されている。吐移は吹っ切れているようで、その実自制心を働かせ、命に関わるような傷をセーブしている。この試合、まだ続くかもな』

 

 決定力。そうだ。俺がこんなにバクゴー君を追い詰められているのは、長く戦えているのは、バクゴー君の“個性”が最も効率的に発現させられる両手を潰したからだ。ならこの状況、圧倒的に俺が勝ちに近い!

 

「バクゴー君! 君、さっさとでっかい一発を俺にぶちかまさないと、俺は永遠と回復しちゃうよ! 出来ないなら早めに辞退したらー!?」

「さっきから、うぜぇんだよヘアバン!! 攻撃誘ってんのはバレバレなんだよ!」

「バレてたってどうでもいいんだよ! 俺のほうがド有利なんだからな!」

 

 自分が不利だと、それも相手が調子にノっていたら、きっと君は気に入らないだろう? さぁ来いよ。焦ってかかってこいよ。君からさっき喰らった蹴り、中々脳みそ揺れたぞ!

 

「テメェが有利ぃ? “個性”潰したところで、テメェが俺に勝てるなんざ勘違いしてんじゃねぇぞ!!!」

「勝てるね!! 今ので決めきれなかったのなら、君はもう俺を騙せない!!」

「もうあんな小賢しい真似、しねぇでイイんだよ……。テメェを正面からぶっ飛ばして殺るからよぉ!!!」

 

 なんとか打開策を、なんて考えているだろう彼の思考を邪魔して、来ないと恥ずかしいまでに君を言葉で追い詰める。それから俺はここで待ち構える。

 そう。有利なのは俺なんだ。俺は焦らなくていいんだ。俺はここで、バクゴー君がどこに攻撃してくるかを冷静に見極めて、受け止めるだけでいいんだ。

 なのにどうして。俺は不安になってるんだ。どうして不必要に心臓が脈を打っているんだ。

 

 地雷を恐れず、バクゴー君が俺に向かって駆け寄ってくる。傷だらけの拳で俺にトドメはさせない。だから絶対に蹴りでくる。中途半端な力加減じゃ、また俺は耐える上に、カウンターだってやってやる。それは彼も分かってる。

 だから絶対、彼はさっきも踵落とししてきた右足で、俺にかかってくる!

 

「覚悟しろやァアッ!!!!!」

 

 怒声を挙げながら、左足で踏み切り、飛び上がったバクゴー君が俺の目の前に。右足は後ろへいっていて、まさに俺を蹴ろうと振りかぶっている。

 

 それを、バカ正直に受け止めるとでも思うなよバクゴー君!!

 

 その蹴り避けて、生身のどこかに黒キューブを叩きつけてやる!!

 

 

 

 

 バチッと、音が聞こえた。

 

 

 

 

 最初に、左側から熱と風を感じた。

 その次に、脳が揺れた。

 しゃがむ為に踏ん張っていたはずの足がステージから浮いて、与えられた衝撃のまま、体が持ってかれた。

 

 痛い。

 

 このままずっと吹っ飛ばされるのかと思ったけど、直ぐに別の硬い衝撃が全身を、特に右肩と背中に走った。

 壁だ。壁が、俺を受け止めたんだ。

 

 痛い。

 

 重力に従って落ちて、草の上にへたり込む。

 耳が痛い。顔が痛い。熱い。全身が痛い。目が何を見ているのか分からない。高いだけの耳障りな音が頭の中で鳴り響いてる。ぐるぐる、セカイが、まわってる。

 

 あ、息すりゃイイじゃん。

 

「吐移くん、場外!! 爆豪くん、決勝進出!!」

 

 あ、俺、負けたのか。

 

 息はしてる。意識して息をしているのに。痛い気がする。

 

 でも、それ以上に、なんでだろ。

 

 なんか、スッキリ、してる気がする。

 

 

 

 

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