夢を見た。実技試験の時を繰り返した夢を。
だから、思い出した。
「まさか……」
3Pを奪ったあの爆発野郎が、爆豪くんだったとは……。
逆に、あんな特徴的で印象的な男をよく思い出さなかったな。どうしよう。いや、友達になるのは確定してるけど、その距離感を……あーめんどくっさ。いっそめちゃめちゃ近くなってやろうか。というか、時の流れに身を任せればいいっしょ。
電子レンジがひと仕事終えた合図を軽やかに鳴らした。
「あ、ご飯冷まさなきゃ!」
電子レンジから温めた冷凍ご飯を取り出す。熱々のそれをラップから取り出し、広げて冷ます。弁当に入れるにしてはまだ熱すぎるから。
徳用鶏そぼろの乗ったご飯、キャベツの野菜炒めに、プレーンの玉子焼き。弁当の内容はいつもこれだ。メニューを考えるのが面倒くさいから。朝はお弁当を作った残りかスーパーの惣菜の残りと、インスタント味噌汁。しっかり食べないと授業中眠くなるのは中学で知った。寝坊は出来ないな。
弁当を持って登校だ。主張の激しいでっかい校門が、俺のテンションを上げてくれる。朝の空気が気持ちいい。
「おはよー皆!」
教室の扉をくぐりながらクラスメイトに挨拶すれば、先に登校していた皆が挨拶を返してくれる。
嬉しい。学校で挨拶して返ってくる。笑顔を向けてくれる。誰も俺に悪意を向けてこない。その事実に自然と口角が上がっていた。攣らないように気をつけなくちゃ。前に攣った時は痛かったからな。
時間はあっという間に過ぎて、昼休み。記見さんのブーイングを受けながら、今日も俺は爆豪くんたちの所に向かう。
隣に座ったら怒られた。友達だからいいでしょうって言ってたらダチじゃないって言われた。まだまだ先は長い。名前も覚えられてなかったから、再度名乗って、自分の弁当の包みを開く。
「いただきます」
「ありゃ、吐移、昨日と中身一緒じゃね?」
「あ、ホントじゃん。作りすぎたとか?」
あ、気づかれた。周りよく見てるな、上鳴くん。
ここで嘘をついてもしょうもない。正直に言おうか。
「朝って忙しいからさ。一人分作るのに凝ったものは出来ないし、決断の回数は少ない方が疲れないって聞いたから」
「嘘だろ!? これから毎日、昼飯これ!?」
「材料が同じならね」
味付け変えたりするし、だからそんな信じられないって顔しないでよ、上鳴くん。よし、話を変えよう!
「そんなことよりさ、俺、爆豪くんに頼みがあるんだ」
「やるかアホ」
「俺に稽古つけてくんない?」
「やらねーつってんだろ」
「君みたいに、俺も声を大きくしたいんだよ!」
これが爆豪くんと仲良くなる方法。名付けて、『師弟関係で仲良くなろう大作戦』! ……マイク先生にこの作戦名言ったら、
「その頬っぺたも柔らかそうでいいよね! どう鍛えてるの?」
よっぽど嫌なのか、爆豪くんは台湾ラーメンを啜って返事をくれない。なら、理論武装だ! 負けないぞ!
「ヒーローにとって、声の大きさ、笑顔ってのはすごく大事だろ? オールマイトがその筆頭! 声が大きければ遠くまで届く。それは、人々に避難を呼びかけたり、安心させたり、ヴィランへの威圧感にもなるだろ? 笑顔だってそうだ。人々の希望になり、ヴィランの絶望となる。ヒーローにとって、声と笑顔は大切なんだよ」
「俺らの担任は笑顔で安心させてくんねーぞ?」
「え、あ、そこは、ほら……実力で安心させてくれるでしょ」
マイク先生に教えてもらったけど、あの身だしなみがなってない人は彼らA組の担任、イレイザーヘッド先生らしい。あの人の笑顔もなかなか想像出来ない。……いや、あの人って確か、アングラ系のヒーローじゃなかった? って、そういうのはどうでもいい!
「少なくとも俺の憧れはそーなの!」
何人もいるけど!
爆豪くんをチラリと見る。よしよし、興味を持ったな。考えてる考えてる。ラーメンを食べる手が止まってるよ。
「入試(君のせいもあって)落ちて今は普通科だけど、近いうちにヒーロー科に編入して、免許取って、俺はナンバー1救急救命士になる!」
「ヒーローじゃないんかい!」
やっぱり突っ込まれた。ノリ良いな。でも、優しいあの人たちをもう心配させたくないんだよね。
笑って、頭の後ろを掻く。
「俺、戦闘能力皆無なもんで。でも、個性使用許可証さえ手に入れば、職業ヒーローじゃなくても個性が使える。そうすればどんな災害現場でも、息さえ出来れば俺は人々を救える! だから爆豪くん、俺に稽古をつけてください!」
「俺が講師かよ」
「最初にそう言ったじゃん」
うっわぁ、めっちゃ顔にメンドクサイって書いてるー。でも話した感じ、爆豪くんってガキ大将タイプだし、おだてながら押せばいけるかもしれない。
「やったことなんかねーぞ、こちとら」
「そうなの? あの大声は発声練習の賜物だとばかり」
「吐移、そんなに爆豪の声聞いたことあんの?」
「あるよ。実は俺があのケガをする前。入試の実技で俺と爆豪くん同じ会場だったんだ。覚えてる?」
覚えてたらなんか嫌味のひとつでもありそうだから、覚えてないだろうけど。
「んなわけねーだろ、ザコ」
「ザコっ!?」
入試でいい線いってたんですけどぉっ! 46ポイントはいい方でしょー!?
「まったく、酷いなぁ……。爆豪くんの仮想ヴィランを倒す時の『死ねっ!』とか『殺ォす!!』とかがさ、遠くからでも聞こえてたんだよね。自分の爆破音でもかき消されない声量に驚かされたってわけ。ね! その声量の秘訣、教えてよ!」
……今の言い訳は流石に無理があったか。フェイクを入れすぎたか。あの時思ってもないことを言い過ぎたか。さすがに怪我人背負って前線から離れた後は聞こえなかったし。ほら、怪しんでる。
「放課後までに考えてやる。死にてぇくれぇきついの用意してやるから、覚悟すんだな」
え、あ、誤魔化されてくれた。マジか。まぁでも、誤魔化されなかったらどうしていいか分からなかったしね。受け入れてくれて、ありがとう。君からの挑戦、受けて立つ!
「望むところだよ、バクゴー君!」
放課後までに考えると言ったバクゴー君達は、その日のヒーロー基礎学でヴィランに襲撃された。話を聞くだけで血の気が引くとんでもない大事件だ。それなのにバクゴー君、「無傷だからやるぞ」とか言い出して、マジでビビった。ありえない! 絶対保護者が心配してるに決まってる! 早くその顔見せて安心させてあげて!
「大事件があった後にのんびり発声練習なんて出来ない! 今日は帰ろう? 帰って!」
背中を押してC組の教室から追い出した。なーんで「明日こそ覚悟しとけよ」なんて愛すべき敵役みたいなセリフ吐いてんの!? さては君、アホだな!? 可愛いとこあんじゃーん! じゃない!!!
襲撃があったから、ほとんどの生徒が保護者の迎えや部活で使う感じのバスを使って家に帰された。一人暮らしの人間だってバスで帰されるのに、担任に送るからって、俺だけ残された。
表情筋的に作れないけど、笑えてくる。露骨だなぁ、雄英。俺はヴィランと関係ありませんよぉっだ!
何の為に回りくどい復讐方法を考えてると思ってんの? 果たされないかもしれない方法でしかないのに、わざわざヴィランになる必要はない。俺はヴィランと関わらない。ヴィランになりたくないから。
関わるくらいなら、死んでやる。
まぁ、そんな俺の考えを雄英側は知らないんだから、俺を内通者だと思うのも無理もないんだけどね。きっと今日の襲撃だって、俺が手引きしたとか思ってるんでしょ? ざんねーん! 全く違いまーす! やるならB組の時にするってーの! あ、それだと絆されてるからそうしたんだとか思われるのかなー? だからってA組にしたら関係持ってるってのを逆手にとってってー? どっちに転んでも駄目そー! クソが。
先生は「吐移は家が近いから、待たせちゃうけど先生が送ることになったんだ。バスの定員もあるからな」って言っていた。なら他のクラスの生徒も乗せればいい言い訳を。
暇で暇でしょうがないから提出物のワークにシャーペンを走らせていたら、担任が教室にやって来た。
「遅くなってごめんな」
「宿題も出来ましたし、バイト先に電話も出来たんで、大丈夫です」
監視、ご苦労様です。