今回は戦後処理の話しです
こういう政治的な話しは苦手なのでガバガバでしょうが、私の文才ではこれが限界です
ご勘弁を
──中央暦1640年1月5日午後2時、エストシラント──
アズールレーンとパーパルディア皇国による戦争。
それは、第三文明圏のパワーバランスを大きく変容させた。
アズールレーンとの衝突により多数の兵力を失った皇国は、属領の反乱を鎮圧する事すら叶わず国力すらも大きく削がれてしまった。
結果、パーパルディア皇国はアズールレーンに対し屈服する事となった。
そう、戦争は終わったのだ。
列強国が文明圏外国の手により滅ぼされる。そんな衝撃的な結果を伴ってだ。
そうなれば、戦後処理をしなければならない。
パーパルディア皇国の行いにより被った被害を賠償させる為の後始末…それを決める為の話し合いが、エストシラントの沿岸部に設営されたアズールレーンの駐留キャンプにて行われていた。
「馬鹿な!我が国はパーパルディア皇国に宣戦布告をし、兵力を動員したのですよ!?」
そんなキャンプの中心部にある巨大なテントの下で怒号が飛んだ。
怒号の主はリーム王国の将軍、カルマだった。
「ですが、パーパルディア皇国は"正統政府"である自由フィシャヌス帝国が"奪還"致しました。故に、貴国が賠償を求めるべきパーパルディア皇国は最早この世界には存在しないのです。」
カルマの怒号に対し、あっさりと答えたのはロデニウス連邦の外務大臣リンスイだった。
「ならば、我々はパーパルディア皇国の後継国家である自由フィシャヌス帝国に賠償を求めます!具体的には、金銭と領土の割譲…」
「カルマ殿。」
ヒートアップするカルマに、リンスイが冷たい声を投げ掛けた。
「自由フィシャヌス帝国は、我が国と同盟を結んでいます。更には、アズールレーンにも参加しているため我々第四文明圏の国々とも準同盟関係にある…そう言っても過言ではありません。」
「だ、だからどうした!」
「まだ、お分かりになりませんか?」
怒りに顔を真っ赤にするカルマに対し、呆れた様子のリンスイ。
「ブルックリン殿。」
リンスイが声を描けたのは小麦色の肌に、色の薄い茶髪の女性…KAN-SEN『ブルックリン』だった。
「大臣、何でしょうか。」
「貴官の率いる艦隊をリーム王国まで派遣しては貰えぬだろうか?是非とも、リーム王国の首脳部と詳しく話したい。」
「なるほど…砲艦外交ですね。畏まりました。」
「なっ…」
リンスイとブルックリンのやり取りを聞いたカルマは、目を見開いて体を震わせた。
力を持っているとは言え、所詮は文明圏外の蛮国。準列強とも謳われるリーム王国を無下に扱うような事は無い、そう考えていたカルマは面食らった。
第三文明圏の戦争とは、勝者が敗者の全てを奪い尽くす…そんな、野蛮な物だった。
しかし、ロデニウス連邦…そしてアズールレーンは、この間まで戦争をしていた敵国を守る為に砲艦外交を行うつもりなのだ。
そんな理解し難い価値観を前にして、カルマは震えた。
(な…何故だ!?国号が変わったからと言って…何故、文明国である我が国との関係を悪化させるような事をしてでも敗戦国を庇う!?)
まるで理解不可能な怪物を目にしたように恐怖するカルマ。
しかし、そんな彼の疑問に対する答えはリンスイの口から語られた。
「カルマ殿。貴国は我が国が何故このような事をしているか理解出来ていないようなので、単刀直入に申し上げます。」
そう言って、リンスイが前のめりになりカルマと目を合わせる。
「我々が求めるのは、平和の先にある共存共栄…その目的の為には植民地や属領は不要なのです。貴方も見たでしょう?数多の属領を抱えていたパーパルディア皇国が腐敗し、崩れ落ちて行く様を。」
「それは貴国の都合でしょう!我が国は、戦勝国としての権利を行使しようとしているだけです!」
「そうですね。貴国はパーパルディア皇国に宣戦布告し、多数の兵士の犠牲と引き換えに72ヶ国連合の勝利に貢献しました。」
唾を飛ばして反論するカルマの言葉に同調するように、ブルックリンが頷きながら告げた。
思わぬ援護射撃に驚いたカルマだったが、直ぐ様満面の笑みを浮かべてブルックリンにすり寄るように言った。
「貴女もそう思われますよねぇ。我が国の援護があったからこそ、72ヶ国連合は勝利したのであって…」
「はい、"テロリスト排除の協力"ありがとうございました。」
「……は?」
淡々としたブルックリンの口調に、カルマが間抜けな声を出す。
「自由フィシャヌス帝国の主権を不法に占拠していた、パーパルディア皇国と名乗るテロリストの排除に協力して頂き誠に感謝しております。この件に関しましては、犠牲となった貴国の兵士に叙勲を行う事で調整しておりますので…」
「ちょ…ちょっと待って下さい!叙勲!?叙勲ですと!?」
──バンッ!
両手をテーブルに叩き付けながら立ち上がるカルマ。
「勲章だけで納得しろとでも!?我々がパーパルディア皇国から受けた数々の屈辱が、そんな物で晴れるとでも!?皆さんもそう思いますよね!」
そう言いながら横を向くカルマ。
そこには、72ヶ国連合の代表…クーズ王国のハキとイキアが居た。
「確かに…パーパルディア皇国に恨みはあるが…」
「だからと言って、賠償金や領土を貰ったとしても我々にはそれを活用する術が無い。それならば、アズールレーンからの提案に乗るのが最善だ。」
パーパルディア皇国の最終防衛ラインであったアルーニを牽制していた72ヶ国連合は、ヴァルハルを始めとした指導教官からある提案を受けていた。
「まあ、自由フィシャヌス帝国はアズールレーンが監視してくれてるし、ファルミール陛下も自治権を確約してくれたしなぁ…」
ハキが腕を組ながら頷く。
アズールレーンは72ヶ国連合に対してこんな提案をしていた。
それは、72ヶ国連合に多大な復興支援を行う事と引き換えに、自由フィシャヌス帝国の構成国となるというものだ。
これは、せっかく独立を勝ち取った元属領に対して再び属領に戻れと言っているようなものだ。
しかし、全ての元属領が独立し多数の国家が乱立するような事となれば、さながら戦国時代のような状態になる事が危惧される。
そうでなくても、パーパルディア皇国により国家基盤をズタズタに破壊された元属領が既存の国家に侵略される可能性がある。そうなれば第二のパーパルディア皇国が誕生し、新たな悲劇の火種と成りかねない。
そんな想定をしたアズールレーンは、全ての元属領に自由フィシャヌス帝国の構成国となるように要請したのだ。
勿論、この要請を受けた多くの元属領は反発したが、自由フィシャヌス帝国にはアズールレーンが駐留し監視を行う事、各元属領には自治権を認める事を条件に要請は受け入れられた。
言ってしまえば、帝国と言う名の合衆国である。
「元属領の方々の意見は一致しています。それに…貴国は旧パーパルディア皇国沿岸部の一部を占領しているではありませんか。それ以上を望むと言うなら…此方としても、相応の対応を取らなければなりません。」
「ぐっ……」
ドスの効いたリンスイの言葉に後ずさるカルマ。
助けを求めるように会議の参加者を見るが、ブルックリンは書類に何かを書き込んでいるし、ハキとイキアは冷ややかな目を向けている。
正に孤立無援、この場にカルマの味方は居なかった。
「ぐっ…う…も、もういい!勝手にすればいい!」
結局、何も言えない状況となったカルマはそんな捨て台詞を吐いて早足でテントから出ていった。
「……ふーっ、噂通り強欲でしたな。」
カルマが出ていったのを確認したリンスイは、息を吐きながら椅子に深く座り直した。
そんなリンスイの肩をブルックリンが軽く叩く。
「ご苦労様です、大臣。少々、荒削りでしたが…この第三文明圏では、この方がいいでしょう。」
「ははは…やはり、準列強を相手にするのは緊張するな。VR訓練をしていなかったら、マトモに相手出来なかっただろう。」
ブルックリンから掛けられた労いの言葉に、リンスイが苦笑いしながら答える。
ロデニウス連邦は新たな列強国を目指すにあたって、様々な人材を育てていた。
工業製品やインフラを作る技術者は勿論、経済や外交、軍事を司る政治家や軍人も可能な限り迅速に育てる必要があった。
それに活用されたのが、サモアからもたらされたVRとAIを組み合わせた技術だ。
これにより、AIから生み出された擬似人格とのやり取りや、VRによる環境再現等々…実践さながらのシミュレーションを簡単に行う事が出来る為、ロデニウス連邦の人材は急速に育っていた。
「それでは皆様、このあとは自由フィシャヌス帝国の暫定外務大臣であるカイオス氏との会談があります。事前の打ち合わせ通り、自由フィシャヌス帝国構成国加入の署名をお願いします。」
ブルックリンの呼び掛けに、全ての参加者が頷いて同意した。
その後、自由フィシャヌス帝国と元属領は共存共栄を目指す声明を発表する事となった。
自由フィシャヌス帝国は、敗戦国であるパーパルディア皇国の後継国家であるにも関わらず列強国に相応しい規模を維持する事となり、第三文明圏の主として君臨する事となった。
新KAN-SENの着せ替えを買ったら諭吉が消し飛びました