異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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かじバン様より評価8を、打出小槌様より評価7を、りうまえ様より評価5を頂きました!

新章の導入をどうしようか考えていたら遅れました



戦争と戦争の間
97.世界の反応


──中央暦1640年1月29日午後7時、神聖ミリシアル帝国港町カルトアルパスの酒場──

 

一仕事終えた労働者や商人が集まるカルトアルパスの酒場。

雑多な言葉が飛び交う場であったが、話題は一つに絞られていた。

 

「レイフォルに続いてパーパルディア皇国まで…いくら下位とは言え、列強国が二か国も滅亡するってのは…」

「とんでもない国際情勢になってきたな…」

「こりゃ、もう一波乱ありそうだぜ?」

 

そう、パーパルディア皇国が滅亡した事に対する話題で持ちきりだった。

レイフォルがグラ・バルカス帝国という新興国に滅ぼされ、続いてパーパルディア皇国がアズールレーンという文明圏外国の軍事同盟に滅ぼされた事は国際情勢に大きな衝撃を与えていた。

 

「だが、パーパルディア皇国の代わりに建国した…えぇ、っと…」

「自由フィシャヌス帝国か?」

「そうそう、自由フィシャヌス帝国だ!あの国の皇帝、めっちゃ美人だな。」

「分かる。優しそうでたまらねぇな。しかも、市場開放とか言って商売もやり易くなったしな。まったく、グラ・バルカス帝国にも見習ってほしいぜ。」

 

パーパルディア皇国の後継国家である自由フィシャヌス帝国は、経済と産業再生の為に積極的な市場開放を行っていた。

それとは対照的に、グラ・バルカス帝国は旧レイフォルの市場開放を殆ど行っておらず、各国を行き来する商人にとっては商売がしにくい場となっていた。

 

「俺は、今までレイフォルに持って行ってた品物を自由フィシャヌス帝国やロデニウス連邦に持っていく事にしたよ。あっちの方が商売しやすいし、儲かるからな。」

「でもよ、あの辺で商売するには商業ビザかパスポートってのが必要なんだろ?」

「大丈夫だ。お前、ムーで商売する為の許可書を持ってるだろ?それがあれば、ムーで商業ビザの発行が出来る。明後日にでもムーに行くんだが…お前も来るか?」

「おっ、いいのか?ありがてぇ、一杯奢るよ。」

 

 

──同日、ルーンポリス宮殿アルビオン城──

 

神聖ミリシアル帝国の中枢であるアルビオン城の一角、帝国情報局で二人の男性が話し込んでいた。

 

「成る程…君は、ロデニウス連邦は新たな列強国に相応しい…そう考えると?」

 

ゆったりしたソファーに座って軽く頷くのは、帝国情報局長アルネウス。

 

「はい。我が国の諜報員が手に入れた情報によれば、かの国はムーを凌駕する程の技術力を持っているとの事です。」

 

アルネウスの言葉に答えつつ、テーブルの上に何枚かの魔写を並べるのは彼の部下であるライドルカだった。

 

「これは、ムーに居る駐在武官が撮影した物です。」

 

そこに写されていたのは、大型貨物船から降ろされている飛行機械…『F2Aバッファロー』と鉄の獣…『M4シャーマン』の姿だった。

その貨物船には、ロデニウス連邦の国旗が翻っており、降ろされている"積み荷"にはムー統括軍の国籍マークが描かれている。

 

「……ふむ、これはムーが輸入しているという事か?」

 

「はい。それに加えて、積み荷を降ろした貨物船は国旗をムーの物に変えたそうです。つまり積み荷だけではなく、貨物船も商品だったようです。」

 

ライドルカの推測は大正解だった。

ロデニウス連邦はムーに対して多種多様な兵器を輸出しているが、兵器だけではない。

貨物船や自動車のような民需品も輸出している。

なかでも、貨物船は多数が輸出されている。

これは、ムーの造船所が新型艦建造の為に貨物船を作る余裕が無くなっているというのもあるが、もう一つ理由があった。

その理由は、貨物船の甲板がやたらフラットにされている事から何と無く察せられるが、ライドルカはそこまで考えが回らなかった。

 

「他国に兵器を輸出しているとなれば…」

 

「はい。本国にはより高性能な兵器があり、旧式兵器を輸出しても構わない程の生産力が…」

 

──ゴンゴンゴンッ!

 

アルネウスとライドルカの会話を遮るように、扉が激しくノックされた。

突然の事に二人は肩を跳ねさせ驚き、互いに顔を見合わせる。

 

「…誰だ?」

 

ライドルカが立ち上がり、扉をゆっくりと開ける。

すると、男が部屋に雪崩れ込んできた。

 

「あぁ、良かった。誰か居てくれたのは幸運でしたよ。」

 

「貴方は…?」

 

「あぁ、すまない。私はメテオス、対魔帝対策省の者だ。」

 

雪崩れ込んできた男…メテオスの言葉に、アルネウスとライドルカは再び顔を見合わせた。

対魔帝対策省と言えば、遺跡から発掘された物を使って怪しげな実験をしている者達だ。

現存する国家に対して諜報活動を行う、帝国情報局とは関わりの薄い省庁である。

 

「な、何の用で…」

 

「君たちに頼みたい事があるのだが…」

 

ライドルカの問いかけを遮るようにして、テーブルに歩み寄って大きな紙を広げるメテオス。

それは、世界地図だった。

 

「去年の11月12日の午後11時頃…そして、12月16日の午後11時頃に『広域魔力探知機』が反応した。どちらも東方で発生した"異常な魔力波"に反応したらしく…」

 

「異常な魔力波…?」

 

アルネウスが首を傾げて問いかける。

それに対し、メテオスは頷きながら答えた。

 

「異常な程に巨大で、かつ純粋な魔力の奔流…仮に、これが魔力による爆発だとすれば都市一つが消滅する程の…」

 

「そ、それ程の魔力が…?」

 

狼狽えるライドルカにメテオスが真剣な目を向ける。

 

「これは、我々が研究している魔帝の兵器…その内で最も強力とされる『コア魔法』に匹敵する規模と思われる。」

 

「ま、魔帝だと!?まさか、もう復活したのか!?」

 

目を見開き、腰を抜かしそうになるアルネウス。

しかし、それに対しメテオスは首を横に振った。

 

「いや、もし本当に魔帝が復活したのであればとうの昔に世界は戦禍に包まれているだろう…」

 

「だとすれば何が…?」

 

「そう、そこだよ。」

 

そう言って広げた地図を指差すメテオス。

地図には旧パーパルディア皇国のパールネウス辺りにマーカーが描かれていた。

 

「11月の反応は東方からとしか分からなかったが…12月の反応は旧パーパルディア皇国のパールネウス付近、という事を突き止めた。」

 

アルネウスとライドルカが地図を覗き込み、メテオスの説明に耳を傾ける。

 

「この地は、現在旧パーパルディア皇国の後継国家である自由フィシャヌス帝国に組み込まれているのだろう?もし良ければ、君たちの情報網を使って調べてもらえないかね?」

 

「ふむ…」

 

メテオスの言葉に、アルネウスは小さく頷いてライドルカに目を向けた。

 

「ライドルカ、12月16日と言えばまだ自由フィシャヌス帝国は正式には建国されず、パーパルディア皇国が存在していた頃だな?」

 

「はい。とは言っても、殆ど勝敗は決まっていたような時期でしたが…」

 

「ふむ……メテオス殿、ライドルカ。私は、その異常な魔力波とやらにはどうもロデニウス連邦が関わっているように思える。」

 

その言葉に次はメテオスとライドルカが顔を見合わせた。

 

「確かに…かの国はムーに兵器を輸出出来る程の技術力を持っていますし…」

 

「加えて、ロデニウス連邦が支配しているロデニウス大陸には『太陽神の使い』なる伝説がある…その『太陽神の使い』に関連する物を発掘し、解析に成功したのであれば…」

 

二人が自らの推測をブツブツと呟いていると、アルネウスが手をパンパンと叩いた。

 

「私は、どのみちロデニウス連邦に使節団を送る必要があると思っている。自由フィシャヌス帝国はそれなりの影響力を維持しているとは言え、ロデニウス連邦に比べると劣っていると言わざるおえない。つまり、ロデニウス連邦が新たな列強国として台頭する可能性が高い。」

 

「何よりも、ムーがロデニウス連邦の列強国入りを歓迎するという声明を出していますからね。」

 

捕捉するようなライドルカの言葉に、アルネウスが頷く。

 

「そういう事だ。ムーすらも認める力に、未知の技術力…それを見極め、世界秩序にとって有用か否かを判断する必要がある。その為の使節団には…メテオス殿、是非貴方達も参加出来るように取り計らおう。」

 

「それはありがたい。もし、ロデニウス連邦にコア魔法があるとするなら魔帝を研究するのに有用だからね。」

 

密かに続けられる雑談のような突発的な会議。

しかし、その時誰も想定する事は出来なかっただろう。

ロデニウス連邦…アズールレーンが、あんな破天荒な手段を取るとは…




そういえばアンケートの結果ですが、回答26の内…
①→0
②→5(+1)
③→1
④→19(+1)

となりましたので、④で行こうと思います

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