異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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100話に到達しました
これからもノリと勢いが続く限り執筆して行きますので、応援よろしくお願いします

どんな風に書くか悩んでたら遅れました
クオリティー低いかもしれません


100.人間性を求めよ

──中央暦1640年2月10日午前10時、サモア基地マノノ島大講堂──

 

2月も半ばに差し掛かったサモア基地。

そこは、いつも以上に賑わっていた。

それもその筈、先の戦争によりクリスマスと正月の各種イベントが中止となっていた為、その有り余ったエネルギーを春節とバレンタインにぶつけるべく様々な人々が準備に奔走している。

そんな中、静かな…しかし、どこよりも熱い場所があった。

 

「それでは…会議を始めましょう。」

 

多くのKAN-SENが研修やクラブ活動に利用している学園の一角にある大講堂。そこで一人のKAN-SEN…『赤城』が会議の開始を宣言した。

大講堂に集まった数十名のKAN-SEN、その目的はただ一つ。

 

──休暇中、どの陣営あるいは誰が指揮官と過ごすのか

 

その権利を手に入れる為に集まったのだ。

勿論、話し合いではなく武力を用いて決める事も出来るが、そうなれば指揮官に要らぬ業務を押し付けてしまう事になる。

それを避ける為にも話し合いの場が設けられた。

 

「赤城、ちょっといいかしら?」

 

小さな手が挙げられた。

縦ロールの長い金髪に小さな王冠。手にマストを模した錫杖を持った幼さを感じさせるKAN-SEN、『クイーン・エリザベス』だ。

 

「あら…"小さな"女王様、こんな会議に出席するなんて珍しいですわね。」

 

「むっ…小さなって…まぁ、いいわ。」

 

赤城からのジャブを受け流したエリザベスは、席から立ち上がり胸を張って発言した。

 

「休暇中の下僕はロイヤルで預かるわ。」

 

エリザベスの言葉にKAN-SEN達がざわめく。

腹の探り合いの段階で放たれた渾身の右ストレート。怯むのも無理はない。

しかし、そんな中で挙手するKAN-SENが居た。

 

「可愛らしいシニョリーナ。申し訳ないが、意見させてもらうよ。」

 

若草色の長髪に突起の付いた髪飾り。袖口に赤白緑のトリコローレが施された軍服を着用したKAN-SEN、『リットリオ』だ。

 

「あら、何かしら?私の決定に不服でも?」

「あるとも、可愛らしいシニョリーナ。指揮官の母君は我々の同胞…つまりはサディア人らしいじゃないか。せっかくの休暇ならば、母君の料理を味わえる我々サディアに居るべきだと思うのだが?」

 

「サディア料理ならばメイド隊にも作れるわ。それに、メイド隊ならば身の回りの世話まで…」

 

「あら、果たしてそうかしら。」

 

リットリオに反論するエリザベスの言葉を遮るように、穏やかな声が発せられた。

 

「ボウヤに必要なのは無償の"愛"…主従の"奉仕"ではなく、母から与えられる包み込まれるような"愛"ではないかしら?」

 

濡れ羽色の長髪に、漆黒のドレスのような軍服を着用したKAN-SEN『フリードリヒ・デア・グローセ』だ。

 

「ボウヤはいつも頑張っているもの。たまには甘えさせてもいいんじゃないかしら?」

 

「確かに、グローセさんの言う通りかもしれませんね~」

 

グローセの言葉に同意したのは、サモア基地古参KAN-SENの一人『ヴェスタル』だった。

 

「指揮官は自分が無理している事に気付いてませんからね~。人の温もりを通じて"人"として大切なモノを取り戻して欲しいので…昔から付き合いのあるユニオンで預かりますね。」

 

「ヴェスタル、少し待ってもらおうか。」

 

挙手しながらヴェスタルに反論したのは『サン・ルイ』だった。

 

「如何に休暇と言えど指揮官の護衛は必要だろう。そして、休暇中に安心して過ごせるように昔馴染みが護衛に当たるのがいい。それを踏まえれば…私が、延いてはアイリス・ヴィシアで身柄を預かるのが道理ではないか?」

 

そう、実はサン・ルイはサモア基地古参の一人である。

彼女は当初こそ指揮官の事を軽蔑していたが、交流を重ねる内に友好的に…というよりは恋一歩手前の感情を抱いていた。

 

「あら、何時もは仲裁仲裁言っている割には欲を出してきたわね?それとも…それが聖教騎士とやらのやり方かしら?」

 

「……私は合理的に考えた事を口にしただけだ。」

 

赤城の言葉に冷静に返すサン・ルイだったが、その額には冷や汗が浮かんでいる。

我欲の混ざった発言をしてしまった事に対して多少なりとも罪悪感を覚えているのだろう。

 

「私としては…指揮官様へのお礼も兼ねて是非、我らが重桜が全力で"おもてなし"を致したいと思っていますわ。うふふふ…」

 

赤城が袖で口元を隠して妖艶な笑みを浮かべる。

 

「そのお礼って…天城救出の件についてかい?」

 

「指揮官さんは~別に気にしてないと思うの~」

 

赤城の言葉にツッコミを入れたのは『ノーザンプトン』と『ロングアイランド』だった。

二人は指揮官がどのような休暇を過ごすかについては興味は無いが、会議が妙な方向に進んで要らぬ混乱を生み出してしまう事を防ぐ為に監督役として参加しているのだ。

 

「そうだとしても、お礼をしなければ重桜としての面子が立ちませんわ。」

 

「強情なの~」

 

どうしても譲歩するつもりはなさそうな赤城の態度を見て、机に突っ伏すロングアイランド。

そんなロングアイランドを一瞥したノーザンプトンは、ふむ…と少し考え込む。

 

「休暇は一ヶ月もあるんだから、4~5日間ずつ分けたらどうだい?それなら、平等になるだろうし…」

 

「確かに…」

「まあ、先任であるノーザンプトンが言うのであれば…」

「この辺りで妥協すべきでは?」

 

ノーザンプトンの提案に渋々ながら同意するKAN-SEN達。

彼女達も無闇な争いをするよりも、適当な着地点で妥協する方がいいと判断したのだろう。

 

「よし、それじゃあその方向で調整…」

 

全員が納得したと判断したノーザンプトンが締め括ろうとした瞬間だった。

 

──ドンドンッ!

 

大講堂の扉が激しくノックされた。

 

「……どうぞ。」

 

誰が来たのだろうか?

そう思いながらノーザンプトンが入室の許可を出す。

 

「失礼しますよぉ!」

 

大講堂に勢い良く入って来たのは、鉄血の名物科学者ドクだった。

何やら興奮した様子でタブレット端末を抱えている。

 

「ドク~ずいぶん慌ててるみたいなの~」

 

机の上でダラッと溶けていたロングアイランドが、ドクに向かって長い袖をヒラヒラと振る。

 

「あぁ、ロングアイランド殿。ごきげんよう……ではなく!これをご覧あれ!」

 

何時もよりテンション高めに言いながら、タブレット端末を大講堂に設置されている大型モニターに接続する。

タブレット端末の画面が表示されたのを確認すると、動画ファイルをタップして再生する。

 

《あぁ…あぁ…ワたシが無くナる…溶けル…ココロが……アァ…あァ…赦シテくれ…》

 

《おやおや、指揮官殿はより濃度の高い物を摂取しているのですがね…意外と早く壊れましたね。》

 

《タエられナい…あはハは…うぅぅウ…ワタシは…ワタシは…アァ…こロしてくれ…私が…ナクなル…アァ…》

 

《まあ、良いでしょう。貴重なデータが取れました。んん~、いいですねぇ…》

 

手術台に縛り付けられた人物…おそらく女性とドクのやり取りが記録された動画だった。

どう考えても違法な非人道的実験の有り様であるが、今更言及するような事はしない。

 

「実に有意義な実験が出来ましたよ。」

 

ニィ…、と口角を吊り上げて笑みを浮かべるドク。

そんなドクに対し、ノーザンプトンが質問した。

 

「で、そんな事を報告する為に来たのかい?」

 

「勿論違いますよ!」

 

ドヤ顔で白衣のポケットから薬のアンプルを取り出すドク。

そのアンプルには『Human nature』と書かれたラベルが張り付けられていた。

 

「指揮官殿が服用している『ジーニアス・メーカー』の中和剤…その名も『ヒューマン・ネイチャー』です!」

 

「おぉ~本当に出来たんだ~」

 

ドヤ顔で胸を張るドクに向かってパチパチと手を叩くロングアイランド。

しかし、他のKAN-SEN達には正に福音でった。

あの人として何か大切な物が欠落している指揮官が普通になれるかもしれないのだ。

 

「ですが…この『ヒューマン・ネイチャー』は点滴のように時間をかけて少しずつ投与する必要があります。その期間はおよそ3週間と少し…およそ25日間程かける必要が…」

 

説明していたドクだったが、言葉が詰まった。

それもその筈、指揮官の休暇期間の内、投薬期間を除いた5日間の争奪戦が始まろうとしていたからだ。

KAN-SEN達から漂う闘争心に当てられたドクは、冷や汗を垂らしながら大講堂を後にする事しか出来なかった。

 




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