異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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ARIAHALO様より評価8を頂きました!

なぜアズレンは変な時期に水着を実装するんでしょうね
あぁ、土佐の水着は勿論買いましたが何か?


101.異界の恋 暫しの眠り

──中央暦1640年2月14日午後1時、サモア基地トゥトゥイラ島東煌街──

 

サモア基地の中でも民間用地が多いトゥトゥイラ島。

そこは空前絶後の賑わいを見せていた。

先の戦争により中止となってしまったクリスマスと正月の鬱憤を晴らすかのように先勝祝いと春節、ついでにバレンタインデーの祭りが開催されているのだ。

 

──ジャーン!ジャーン!ジャーン!パパパパパパパンッ!

 

そんなトゥトゥイラ島の中でも一際賑わっているのが東煌街である。

街並みには銅鑼や爆竹の音が鳴り響き、メインストリートでは着飾った人々が演舞を披露し、そんな人々の間を縫うように東洋の龍を模した張子…龍舞が多数の演者に操られアクロバティックな動きを見せる。

通り沿いには多くの屋台がひしめき合い、揚げ菓子や包子の匂いを漂わせている。

また、街並みには提灯や上下逆さまになった"福"の文字が描かれた幟やタペストリーが飾られており、非日常感を加速させている。

流石は春節の本場東煌、気合いの入れ方が違う。

 

「うわっ…ちょっ…す、すみません!通ります!通ります!」

 

そんな人混みの中を泳ぐように掻き分ける一人の若者が居た。

ムーからの留学生にして、かの国の戦術士官ラッサンである。

 

「ふぅ…すごい人混みだ…ムーの建国祭よりも賑わっているぞ…」

 

人の波を掻き分け、どうにか広場まで辿り着くと一息ついて辺りを見回す。

なぜ彼がここに居るのか…それは他でもない、『逸仙』からお誘いがあった為だ。

 

「あぁ…でもなぁ…女性の方からお誘いを受けるなんて…男としての威厳がなぁ…」

 

ラッサンは若干、後悔していた。

意中の女性を男らしくリードする…そんな事を望んでいたのだが、実際の所彼は女性とあまり接した事が無い。

故にどのように誘うか思い悩み、ズルズルと引き延ばしていた結果、逸仙の方からお誘いの言葉を掛けられてしまった。

 

(男としての威厳が…いや、待てよ…)

 

ふと、今朝の事を思い出した。

それは、彼の同期である技術士官マイラスと平行世界のムーで建造された戦艦のKAN-SEN、『ラ・ツマサ』とのやり取りだった。

 

──「それじゃあ、ラッサン。私は主と一緒にサディア街に行くから邪魔しないでね。」

 

──「は、ははは…えっと…頑張れよ。」

 

がっちりと手を繋いだラ・ツマサとマイラス…何故かツヤツヤとしたラ・ツマサと、ややげっそりしたマイラスの姿は鮮明に目に浮かぶ。

 

(もしかして…KAN-SENって"肉食系"って奴なのか…?)

 

「ラッサンさーん。こちらですよー。」

 

ラッサンがそんな考察をしていると、人混みの中から彼を呼ぶ声が聴こえた。

バッ、と声のした方に首を振り目を皿のようにして声の主を探す。

人混みの中、簡単には見付からないだろうと思ったが、意外にもすんなり発見する事が出来た。

切り揃えられた長い黒髪に、青い花の刺繍が施された白いチャイナ服。その手にトレードマークである青い日傘を持っている。間違い無い。

 

「逸仙さん!」

 

「合流出来て良かったです。例年より人が多くて…少し、想定が甘かったですね。」

 

「あぁ…何時もより多いんですか…凄い人混みで目が回りそうですよ、ははは…」

 

困ったように、しかしながら上品な微笑みを浮かべる逸仙と苦笑いを浮かべるラッサン。

 

「おっと、ごめんよ。」

 

その時、荷物を抱えた男が逸仙の肩にぶつかった。

 

「きゃっ!」

 

「逸仙さん!」

 

よろめく逸仙、思わず彼女を支えようと腕を伸ばすラッサン。

 

──ポスッ…

 

「悪い悪い、急いでるんだ!」

 

謝罪もそこそこに立ち去る男。

本来なら抗議の一つもしたいものだが、生憎ラッサンにはそんな余裕が無かった。

それも無理は無い。予想外に大きくよろめいてしまった逸仙は、差し伸べられたラッサンの腕の間をすり抜け、彼の体へともたれかかる形となってしまった。

その上、自らの体に何かがぶつかるという状況から反射的に肘を曲げて防御体勢を取ってしまった。

 

「……」

 

「……」

 

まるで逸仙を抱き締めているようになってしまったラッサン。

フリーズしてしまう二人。

世界に自分達以外誰も居ないような静寂に包まれる。

しかし、ここは天下の往来。逢瀬を楽しむ二人が居れば、冷やかしたくなるものだ。

 

「ヒュー…大胆だねぇ。」

「あれは…KAN-SENの逸仙さんじゃないか。あんなべっぴんさんを射止めるなんて…やるじゃない!」

「ママー、あの人の顔真っ赤だよー」

「こら、邪魔しちゃいけませんよ!」

 

道行く人々が二人に冷やかしの言葉を掛ける。

その言葉にようやく状況が飲み込めたのか、ぎこちなくゆっくり離れる二人。

 

「あ…えっと…すみません…」

 

「い、いえ…ありがとうございます…」

 

激しく動悸する心臓により熱い血液が全身を駆け巡り、あっという間に体温が上昇する。

顔が熱い、まるで茹でられたタコのように顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。

その事に対し更に羞恥を覚えて、更に真っ赤になるラッサン。

 

(あぁ…こんなの、まるで子供じゃないか!こんな顔、逸仙さんに見られたら笑われてしまう…!)

 

自らの恥ずかしい赤面を見られていないか、チラッと逸仙の方に目を向ける。

しかし、彼女の表情を窺う事は出来なかった。

 

「さ、さあ行きましょう。向こうの方で雑技団の演舞があるんですよ。」

 

俯いたままラッサンの手を取り、歩き出す逸仙。

手を引かれ、つんのめりながらも彼女について行くラッサンの目に映ったのは、黒髪の合間から覗く真っ赤になった逸仙の耳であった。

 

その夜、滞在するマンションに戻ってきたラッサンの手には甘い香りのするラッピングされた箱があったという。

 

 

──同日午後8時、サモア基地秘匿ラボ──

 

サモア基地秘匿ラボの地上部分にある灯台のレンズ部分、その周囲に設置されたキャットウォークに二つの人影があった。

 

「成る程…つまり、俺が見付けた電子キーは『人類技術保全情報群』の解除キーだったと?」

 

「そうだにゃ。沢山の軍事技術がアンロックされたから、新兵器の開発が出来るようになったにゃ。」

 

その二つの人影とは、指揮官と『明石』だった。

 

「機械動力式のガトリング砲に、高出力ジェットエンジンと超音速機…純粋な科学技術による誘導弾…ピュリっちにも協力してもらってるもけど、結構手こずってるにゃ。」

 

「成る程な…俺もチラッと見たが、赤外線誘導だとかアフターバーナーだとか…いまいちよく分からん。手こずっても仕方ない。」

 

「そう言ってもらえると気が楽だにゃ~」

 

──ガチャ

 

そんな話をしていた指揮官と明石だったが、不意に灯台内部とキャットウォークを繋ぐ扉が開いた。

 

「おぉっ、指揮官殿。準備が整いましたので、お迎えにあがりましたよ。」

 

開いた扉から出てきたのはドクだった。

 

「あぁ、そうか。……それじゃあ、明石。俺の休暇が終わる迄には、試作品ぐらいは完成させておけ。」

 

「にゃ!?」

 

「お前と夕張に専用ラボを与えたのは、怪しげな媚薬やらを作らせる為じゃないぞ。ラボを物置にされたくなきゃ、成果を出せ。」

 

「き、鬼畜だにゃ…」

 

シュン…と猫耳を萎れさせる明石を尻目にドクに歩み寄る指揮官。

 

「それじゃあ、案内を頼む。」

 

「えぇ、承知しました。」

 

ドクに先導されて灯台内部に取り付けられている螺旋階段を下って行く。

 

──カンッカンッカンッカンッ……

 

遥か下方に広がる深淵に向かって鉄製の階段をひたすら下る。

 

「まさか本当に出来るとは思わなかったぞ、ドク。しかも、こんな短期間で…」

 

「えぇ、えぇ。指揮官殿が新鮮な被験体を与えて下さったからですよ。そして、睡眠も休日も返上して開発に挑んでいましたからねぇ!」

 

徹夜続きだったからだろうか。

ドクの目元には濃いクマが出来ており、若干ふらついている。

 

「無理は良くないぞ。お前の才能は惜しいからな。」

 

「いえいえ、指揮官殿の命が懸かっているともなれば無理の一つや二つ、覚悟の上ですよ!鉄血から追放された我々を受け入れて下さった恩義…今こそ報いるべきではありませんか!」

 

「別に恩を売る為にやった訳じゃない。上手い事生きていく為には汚い手だって使うべきなのさ。」

 

「それでも我々にとっては大恩ですよ。」

 

そんな話をしていると、灯台の地下にある秘匿ラボへとたどり着いた。

 

「なんじゃこりゃ、カプセルか?」

 

指揮官とドクの前にあったのは、幾つもの装置が取り付けられた円筒形の強化ガラスだった。

まるでB級映画に出てくるエイリアンの培養槽のようだ。

 

「はい、この装置の中に入って頂きます。」

 

「点滴みたいな物だと思っていたんだが…なかなか大事だな。」

 

半ば呆れたように呟く指揮官に頷きながらドクがカプセルの側に寄って作業し始める。

 

「指揮官殿が摂取している『ジーニアス・メーカー』はかなり強烈な薬剤ですからね…全身を中和剤である『ヒューマン・ネイチャー』に浸して身体の内外から投与しなければ完全に中和しきれません。」

 

「って事は、3週間入りっぱなしか?飢え死にするだろ。」

 

「ご心配なく!このために特殊栄養剤を開発致しました!これを血管に投与する事で各種栄養素とカロリーを補えます!……さあ、用意できましたよ。服を全て脱いで下さい。」

 

「…全部?素っ裸って事か?」

 

ドクが力強く頷くのを見ると肩を竦めて服を脱ぎ始める。

 

「あぁ、そう言えば…その身体の傷はどう致しましょう?ついでに再生医療で消せますが…」

 

ドクの言う通り、指揮官の身体には幾つもの傷が刻まれていた。

電撃による火傷や弾痕、刺し傷や切り傷…それらは皮膚に施されたタトゥーを歪めてしまっている。

 

「いや、いい。勲章みたいなもんだ。」

 

「畏まりました、仰せのままに。」

 

仰々しく頭を下げるドクを背にカプセルに潜り込む指揮官。

 

──ウィィィィィン……

 

微かな機械音と共にカプセル内に搭載された細いアームが伸び、先端に取り付けられた針を指揮官の腕や脚に突き刺す。

 

「酸素等も血管から直接送り込むのでご心配なく。……では、薬剤の注入を開始します。約3週間後にお会いしましょう。」

 

「あぁ…」

 

ドクが端末を操作すると、カプセル内部に赤い血のような液体が注入され始める。

 

「ゆっくり…寝るのは……久しぶりだな…」

 

血管に流し込まれる栄養剤に睡眠薬でも入っているのだろう。

激しい…しかし、心地よい眠気に襲われた指揮官は抵抗する事無く深い眠りに堕ちて行った。




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