あ、タルテュの水着買いました
──中央暦1640年2月24日午後2時、自由フィシャヌス帝国首都エストシラント──
『パーパルディア皇国解体戦争』より凡そ二ヶ月…パーパルディア皇国の後継国家である『自由フィシャヌス帝国』は徐々に都市機能を復旧させていた。
「カイオス首相、皇家所有の土地ですが建物や設備の撤去に手間取っています。農地転用には少々時間がかかるかと…」
そんな自由フィシャヌス帝国の首都エストシラントの外れにある小さな館…かつてファルミールが幽閉されていた館では、政権運営に関わる様々な業務が行われていた。
「それに関してはロデニウス連邦より中古の重機…作業用機材と作業員が送られてくる。それを活用すれば、10倍以上の速度で作業を行える。それまでは、援助された食糧で食い繋ぐしかあるまい。」
そんな館の一室で話していたのは、現政権トップである首相のカイオスと、旧政権で農務局長を勤めていたテモンだった。
「今は辛抱する時ですな…私も、ロデニウス連邦の農業改革を学ばねば…」
「すまんな、病み上がりだというのに激務を押し付けてしまって。」
「いえいえ。処刑や公職追放にもならず、それどころか再び農務局長として働ける事は何よりもありがたい事です。寛大な処置をして頂いた恩に報いませんと…」
そう、テモンは旧政権から引き続き農務局長の席を与えられていた。
そして、それはテモンだけではない。
現政権の中には旧政権の要職に就いていた者も少なくない。
と言うのも、旧政権に関わる人物を迫害すれば彼らが反政府ゲリラ等になってしまう可能性が非常に高い。
そうなってしまうと、アズールレーンの介入により再び戦禍に飲まれてしまい、多くの人命が失われてしまうだろう。
それを避ける為にも、旧政権の中から政権運営に関わらせても問題無いであろう人物を選んで採用しているのだ。
そんな人物の中でもテモンや旧皇軍総司令官アルデ、旧経済担当局長ムーリは戦争終盤、過労やストレスで寝込んでいた間に色々と考えを改めたらしく今では新政権運営に全面協力している。
「まあ、あまり無理はしてくれるな。先の戦争では多くの人材が失われた…これ以上、政治に関われる者を失うのは痛いからな。」
「お気遣い感謝致します。」
カイオスがテモンに労いの言葉をかけると、彼は軽く頭を下げて応えた。
──コンコンッ
すると、部屋の扉がノックされた。
「入れ。」
「失礼します。」
カイオスから入室許可を得て入って来たのは、旧経済担当局長ムーリだった。
現在は復興担当局長という新たな職務を与えられている。
「現在、解体準備が進んでいるパラディス城の跡地活用の計画書をお持ちしました。」
そう言ってムーリがカイオスに差し出したのは、ロデニウス連邦から輸入した紙に書かれた事業計画書だった。
それを受け取ったカイオスは、計画書をパラパラと捲って内容を斜め読みする。
「ふむ…パラディス城跡地は戦死者慰霊碑を建立し、広場にすると…」
「はい。先の戦争…延いては旧政権の過ちを反省する為の象徴としての石碑、更には様々な集会の会場や災害時の避難所となる広場を備える事となります。加えて、解体したパラディス城の建材は砕いて様々な形で再利用します。」
エストシラントの象徴であったパラディス城。
そこは、アズールレーンの部隊が踏み込んだ事で多数の戦死者が発生した。
そんな血生臭い城をそのままの形で利用する事は憚られた為、解体する事となったのだ。
「港湾施設の復旧にも多数の建材が必要ですからな。パラディス城の石材を再利用すれば、石切場からわざわざ持って来なくて済みます。」
ムーリの案に、テモンが頷いて同意する。
「うむ。これならば有効活用出来るだろう。早速、必要な機材や人員を算出してくれ。」
「お任せ下さい。これほどの事業なら、失業者を多数雇用する事が出来るでしょう。」
「頼むぞ。経済を復興させなければ、この国は再び混乱に陥ってしまうからな。」
真剣な表情でムーリとテモンを激励するカイオス。
「お任せを、全身全霊で取り組みますので。」
「信頼に足る働きをしませんとな。」
それに対し二人は、力強く頷いた。
──同日、自由フィシャヌス帝国皇帝居室──
カイオス達が政権運営の為に尽力している館のとある一室。そこは、自由フィシャヌス帝国皇帝ファルミールの居室となっていた。
質素ながら品の良い調度品が設置されたその部屋は、とにかく豪華さを求めた旧パーパルディア皇族とは明らかに違った趣がある。
「本日はご足労頂き、ありがとうございます。」
シンプルなデザインのソファーに座り、握手の為に手を差し出すのは居室の主にして皇帝ファルミールだ。
「いえいえ。お忙しい中、対応して頂き誠に感謝致します。」
差し出された彼女の手を握るのはムーの外交官ムーゲだ。
先の戦争時にはロデニウス連邦に避難していた彼だが、戦争終結に伴いエストシラントに戻って来たのだ。
「再びこの地に来て頂けるとは思いませんでした。ありがとうございます。」
続いて深々と頭を下げつつ彼に手を差し出したのは、旧第一外務局長であり現外務大臣であるエルトだった。
彼女がこんな態度を取っているのには訳がある。
今回、ムーゲが訪れた理由は大使館再開の挨拶であるからだ。
ムーゲの祖国であるムーは世界第二位の列強国であり、誰もが認める大国である。
それ故、面子を維持する為にどこの馬の骨とも知らない国に大使館を置く事はしない。
そんなムーが大使館を再開した…つまり、自由フィシャヌス帝国は少なくともムーから認められた国家である、という事だ。
「我が国としても戦後間もない国家に大使館を置く事は異例なのですが…」
エルトの手を握りながら会釈するムーゲ。
「しかし、アズールレーンの治安維持部隊が駐留するという事なので大使館を再開させる事に致しました。何よりも、貴国は非常に魅力的な市場となるでしょう。お互いに良い関係を築き、共に繁栄しようではありませんか。」
ムーゲの言葉は耳当りのよいものだが、本音はムーの利益を求めるものだ。
実際のところムーはロデニウス連邦から来る優れた工業製品により、無視出来ない程の貿易赤字が出始めている。
ライセンス生産等が行える大企業ならまだしも、このままでは中小企業の倒産が発生する可能性がある。
そうなれば新たな市場を開拓する必要がある…そんな中で現れたのが、第三文明圏最大の勢力を持つ自由フィシャヌス帝国だ。
経済的に不安定ではあるが、将来性は十分に見込める。何よりも、皇帝ファルミールはロデニウス連邦での生活により科学技術に理解がある。
つまりそれは、ムーの製品を売り捌ける可能性が高いという事だ。
「はい。我が国は歩き出したばかりの赤子のような国ですが…いつかは、貴国や神聖ミリシアル帝国…そして、ロデニウス連邦のような一流国となれるように努力致します。」
穏やかな笑みを浮かべつつも、自信に満ちた様子で宣言するファルミール。
それを見たムーゲは頷き、応えた。
「これは個人的な見解ですが…貴女のようなお方が導かれるのであれば、この国は再び列強国となれるでしょう。その日を楽しみにしていますよ。」
上品に微笑むファルミールと、嬉しさを隠しきれない笑顔を浮かべるエルト。
それに対しムーゲは、何処か楽しそうな笑みを見せた。
それから遠くない未来。
自由フィシャヌス帝国は世界屈指の大国として名を轟かせる事となった。
中でも、初代皇帝ファルミールと初代首相カイオスの名は後世まで語られる事となるのであった。
そろそろ新アイリスイベントですかね?
リシュリューやジャンヌダルク、楽しみです