異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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モスクワ防衛軍司令部様より評価10、ゆきなりα様より評価8、藤守よーき様より評価2を頂きました!
久しぶりに評価を頂きました…嬉しいものですね


新アイリスイベントの情報がぞくぞく出てますね
ベアルンは貴重な貧乳主力ですし…と言うより、シュルクーフの水着、なんですかあれ!エロゲじゃん!


109.取捨選択

──中央暦1640年3月24日正午、サモア基地アポリマ島──

 

サモア基地を構成する島の一つであり、様々な研究施設が建ち並ぶアポリマ島の一角…そこから取り乱したような声が聴こえてきた。

 

「ぬぁぁぁぁぁぁぁっ!ダメだ!ダメだ!ダメだ!構造が複雑過ぎる!こんな複雑で高価な物を量産するなんて、財務省が許さない!」

 

その呻き声の主はムーの技術士官であるマイラスだった。

そんな彼が居るのは古い倉庫を改装した研究所である。

その研究所、建物自体は古いのだが掛けられた看板は真新しいものであり、その看板にはこう書かれていた。

 

──『ムー先端技術研究局・サモア出張所』

 

そう、ここはムーが新たな技術…特に軍事技術を開発する為に設立した研究機関の出張所だ。

 

「重量を分散する為に転輪を増やすと、車体の前後長が長くなり過ぎる…かと言って、ぎっちり詰めると転輪の取り外しが難しくなって整備性が落ちる…あ"あ"あ"あ"あ"あ"!どうしたらいいんだぁぁぁぁぁ!」

 

地獄の底から響くような絶叫と共に頭を抱え、床を転げ回るマイラス。

その様はまるで狂人のようだ。

マイラスがこうなった理由、それはムー本国から伝えられた指示にあった。

 

──「75mm級の主砲を搭載し、最高時速40km以上、正面装甲50mm以上、整備が容易かつ生産性良好な戦車を可能な限り国産技術で開発せよ。」

 

そんな無茶ぶり過ぎる要求だ。

現在ムーは、ロデニウス連邦から『M4中戦車シャーマン』を輸入しているが、陸戦兵器というものは損耗が激しい。

故障したり撃破されたりして数が減った場合、輸入に頼りきりでは迅速な補充が出来ない。

故に、陸戦の主役となるであろう戦車の自主開発に乗り出したのだ。

 

「あの要求をした連中は、ムーの技術レベルが分かってないんじゃないか!?『ラ・グンド』が精一杯なのに無茶苦茶だぁぁぁあ!」

 

祖国の事を悪く言いたくは無いが、思わずこう言わざるを得ない。

まず主砲、これ自体はムーでも製造出来るだろう。

次に装甲、これは鋳鉄なり圧延鋼鈑なりで製造出来る。

整備性や生産性も構造を単純にすれば、それなりに良くなるだろう。

 

「やっぱり、足回りが一番の難関だな…」

 

しかし、速度が一番のネックだ。

巨大な砲と分厚い装甲の重量を支えつつ、路面の凹凸に追従する強靭なサスペンション。

数十トンにもなるであろう車重を動かす為のハイパワーなエンジンと、そのパワーを適切に制御するためのトランスミッション。

サスペンション、エンジン、トランスミッション…その三つは複雑であるため簡単には整備も生産も出来ない。

 

「サスペンションは…コイルスプリングかリーフスプリングか…トーションバーか…製造設備的にコイルスプリングがいいか?」

 

床に転がったまま、ブツブツと呟くマイラス。

 

「エンジンは、マリンの星型空冷エンジンで決まり…液冷は我が国じゃ、まだ満足に製造も整備も出来ないしな…」

 

傍らに落ちていた書類を手に取る。

本国からの要求書だ。

苦い顔をし、クシャクシャに丸めて放り投げる。

 

「問題はトランスミッションだな…我が国の技術じゃ、30トンの車重を時速40kmで無理無く動かせるトランスミッションは作れない…よしんば作れても量産は…」

 

まるで芋虫のように体を捩るマイラス。

実はかれこれ、二日連続で徹夜しているのだ。最早、寝不足を通り越して変なテンションに突入しつつある。

 

「……主?」

 

そんなマイラスに、鈴の鳴るような声が掛けられた。

明るい茶髪に宝石のように美しい緑色の瞳、スレンダーな体つきのKAN-SEN『ラ・ツマサ』だ。今はKAN-SENとしての正式な服装であるムーの伝統装束ではなく、パーカーにショートパンツというボーイッシュな格好だ。

 

「あぁ…ラ・ツマサぁ…」

 

「あの…お茶をお持ちしたのですが…」

 

その言葉の通り、彼女の手にはティーセットが乗ったトレーがあった。

 

「そこに置いて…私は疲れたよ…」

 

「あぁ…あの新型戦車の…」

 

今にも死にそうな声で答えたマイラスに、苦笑するラ・ツマサ。

マイラスの情熱…と言うよりも技術バカさ加減を知っているラ・ツマサには彼を止める事は出来ない。

 

「もう、どうすりゃいいんだよぉ…上の奴らは自分たちの技術レベルを弁えてない…」

 

「ふふっ…そうですね。主は頑張っていらっしゃるのに…」

 

トレーを机に置き、マイラスが放り投げた紙を拾うラ・ツマサ。

そのまま、彼の傍らに座ると自らの膝をポンポンと軽く叩いた。

 

「頑張ってる主にはご褒美です。さあ、私の膝にどうぞ。」

 

ニコニコしながらマイラスの頭を自らの膝に乗せるラ・ツマサ。

「ちょっ…!?いや、いいから!大丈夫だから!」

 

流石に恥ずかしいのか、直ぐ様起き上がって逃れてようとする。

しかし、頭をがっちり掴まれてしまい起き上がる事が出来ない。

 

「遠慮しないで下さい……ね?」

 

「……はい。」

 

笑顔の…しかし目が笑ってないラ・ツマサにそう言われたマイラスは、大人しく従うしかなかった。

 

「んふふ~♪」

 

なにやらハミングしながらマイラスの頭を優しく撫でるラ・ツマサ。

恥ずかしそうに顔を赤らめる彼に気付きながらも、片手で器用に丸まった紙を広げる。

 

「ふんふ~…ん?」

 

「…ラ・ツマサ?」

 

ハミングと手が止まった事に違和感を覚えたマイラスが、ラ・ツマサの顔を見上げる。

 

(うわ…美人だし可愛いし…肌キレイすぎるだろ!目も宝石みたいで…って、じゃなくて!)

 

「ど、どうした?」

 

胸中でのろけながらも、広げた紙を見たまま固まっているラ・ツマサに問いかけるマイラス。

 

「主…本国からの要求仕様はこれだけですか?」

 

「あぁ、そうだよ。凄く簡単に言ってるけど…」

 

カクンッ、とラ・ツマサが顔を下に向けてマイラスの顔を真っ正面から覗き込んだ。

 

「無理に…"シャーマン戦車のような形にする必要は無い"のでは?」

 

「……え?」

 

ラ・ツマサが放った言葉に目を丸くするマイラス。

 

「……あ、申し訳ありません。門戸外の私がこんな事を…」

 

「あ…いやいや、大丈夫!大丈夫!続けて!」

 

自らの発言にハッとした様子の彼女に、言葉を続けるように促す。

 

「左様…ですか?では…素人の考えですが…例えば旋回砲塔を無くして固定砲塔にしてしまうとか…砲塔の側面や背面や天板の装甲を大きく削れば…そうすれば、かなりの軽量化が見込めます。」

 

「……確かに。」

 

口元に手を当てて考え込むマイラス。

 

「要求仕様には、旋回砲塔搭載の指定も正面装甲以外の厚さ指定も無い!固定砲塔にすれば剛性が向上して、主砲の命中率を高められる!砲塔の装甲を削れば旋回速度の向上を見込めるし、天板を無くせば視界が良くなる!」

 

勢い良く立ち上がるマイラス。

一気にテンションMAXになる彼に、今度はラ・ツマサが目を丸くした。

 

「い、言った自分が言うのもなんですが…旋回砲塔を無くしたり、装甲を削るのは戦闘力が下がるのでは…」

 

「いや、ムーは基本的に防衛戦が基本…つまり、国土に侵攻してくる敵を迎え討つ事が基本戦略だ!そうなれば必然的に待ち伏せ攻撃が中心となる!待ち伏せの時に砲を左右に大きく振る必要は無いし、側面や背面から攻撃を受ける可能性は低い!」

 

「つ、つまり…?」

 

マイラスの余りの剣幕に萎縮するラ・ツマサ。

しかし、マイラスはそれに構わずに言葉を続けた。

 

「旋回砲塔や、正面装甲以外はそこまで必要じゃない!我々に必要なのは、待ち伏せ攻撃に有利な戦車だ!ありがとう、ラ・ツマサ!」

 

「きゃっ!?」

 

漸く良いアイディアを閃いたマイラスは、ラ・ツマサを抱き上げるとクルクルと回り始める。

 

「あ、主…ちょっ…降ろし…」

 

「ありがとう!ありがとう!ラ・ツマサ!君は最高の戦艦だ!」

 

「ちょっ…ちょっと、主!嬉しいのですが降ろし…あ…ちょっと気分が……」

 

濃い隈のある顔で満面の笑みを浮かべるマイラスと、顔を赤らめたり青ざめさせたりと忙しいラ・ツマサ。

そんな二人のやり取りは、マイラスの寝落ちとラ・ツマサの乗り物酔いで幕を閉じたという。

 




もう一つの作品の方が中々の勢いで伸びてる…
少しびっくり

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