異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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kida様より評価9を頂きました!

まさかリトル艦追加とは…このリハクの目を(以下略


114.百鬼夜行

──中央暦1640年4月11日午後3時、魔王軍──

 

真っ白な雪原を塗り潰すように、悪鬼の軍勢が進撃する。

万を超えるゴブリンの群れ、それを幾つかの部隊に分割して纏める百を超えるオーク達に、獣のような魔獣達。

それら醜悪な魔物達による軍勢の後方、それは圧倒的な存在感を以て君臨していた。

オークよりも大きな人型の魔物、それぞれ赤と青の肌を持つモノ…伝説の魔物、レッドオーガとブルーオーガ。

それを左右に侍らせ、旧パーパルディア皇国が運用していた地竜を三回り程も大きくした、赤い四足歩行の竜…赤竜に騎乗したオーガよりも更に一回り大きな人型の魔物。

それこそが神話に語られる魔王ノスグーラである。

 

「グァッグァッグァッ…下等種共の恐怖で歪んだ顔と断末魔の叫び…再び楽しめる日がくるとはな。」

 

顔を歪ませ、醜悪な笑みを浮かべるノスグーラ。

それを見たレッドオーガとブルーオーガも同じような笑顔を見せた。

 

「我々も、再び魔王様と共に戦える日を心待ちにしておりました。」

 

「魔王様、目覚めの食事は如何いたしましょう?さっぱりとエルフに…がっつりとドワーフに…それとも量を優先して人間に致しますか?」

 

二体の配下の言葉に頷きつつ、ノスグーラは答えた。

 

「そうだな…若い女が良い。吊し上げ、肉を削いで悲鳴を上げさせながらその肉を食らうのだ。」

 

「それはそれは…実に美味い事でしょうな。」

 

「流石は魔王様。下等生物共の泣き叫ぶ顔が目に浮かびますなぁ…」

 

残虐な考えを披露した魔王を褒め称えるオーガ達。

彼らは流暢に言葉を話し、知能も人間並み…あるいはそれ以上なのだが、対話なぞ不可能な程に価値観がかけ離れていた。

 

「マオウサマ…カベ…ミエル…」

 

そんな身の毛もよだつ会話をしていた三体の元に、一体のオークが報告してきた。

その言葉を聞いた魔王は赤竜の背に立つと、オークが指差す方向を眺めた。

 

「ほう…あれが貴様らが話していた壁か。下等生物共も知恵を絞ったと見える。」

 

ノスグーラが目にしたのは、地峡を塞ぐように聳え立つ壁…世界の扉だった。

20mにも及ぶ高さの壁を乗り越える事はゴブリンやオークでは不可能だろう。

だが、この場にはオーガもノスグーラも居る。

オーガの拳を以てすれば穴を開ける事は容易であろうし、ノスグーラが持つ莫大な魔力を使った魔法ならば軍勢が通り抜けられる程に崩壊させる事も出来るだろう。

 

「あんな物で我々を止められる筈がない。」

 

「魔王様。我々が先行し、壁に穴を開けにいきましょうか?」

 

ブルーオーガからの提案を首を横に振って却下するノスグーラ。

確かに、スムーズな進軍を目指すならば彼の提案を受け入れるべきだろう。

だが、少数を無闇に先行させれば各個撃破される可能性がある。それを考えれば得策とは言えない。

しかし、ノスグーラの考えはまた違うものだった。

 

「まあ、そう急くな。敢えてこうやっているのだ。」

 

「ほう…何故ですか?」

 

レッドオーガの問いかけに、ノスグーラは得意気に答えた。

 

「地を埋め尽くす程のゴブリンとオークの群れ、そして我々…それを見た下等生物共はどう思うだろうなぁ…」

 

ニヤリ、と口角を吊り上げるノスグーラ。

それに納得した二体のオーガも、口角を吊り上げつつ頷いた。

 

「成る程、そうやって絶望を与えるのですな。」

 

「流石は魔王様。深い考えをお持ちですな。」

 

「そうだろう、そうだろう。かつて我を封印した報い…絶望で償わせてやろう!」

 

「「「グァッグァッグァッグァッ!」」」

 

三体の魔物が大地を震わせる程の大音量で高笑いする。

そうしている間にも魔物の軍勢は世界の扉に向かって突き進む。

だが、その進軍スピードがやや落ち始めている。

 

「む、どうした?ゴブリン共の足が止まっているではないか。」

 

苛立ったようなノスグーラの元へ、一体のオークがやって来た。

 

「マオウサマ…デコボコ…タクサン…アルキ…ニクイ…」

 

「何だと?」

 

その言葉にレッドオーガが軍勢の先頭を眺める。

そこにあったのは小さな雪山…いや、積まれた瓦礫に雪が積もったものだった。

 

「小癪な…我々の進軍を妨害する小細工か。マラストラスを討ち取るだけの知恵を付けただけの事はある。良い、気にするな。所詮はただの石積み…無視して進め!」

 

ギリッと歯を鳴らすノスグーラだが、二体のオーガは体をブルッと震わせた。

 

「魔王様…嫌な予感が致します…」

 

「前回の戦いの相手…『太陽神の使者』と同じ気配がします…」

 

暴虐の化身とも形容される二体のオーガが恐れている。

しかし、ノスグーラはそれを笑い飛ばした。

 

「グァッグァッグァッ、何を言うか!奴らが現れたのは1万年以上前の話だぞ!こんなにも永い時を経れば、奴らも寿命を迎え死に絶えているだろうよ!」

 

「しかし、我々の魂に使者達に対する恐怖がこびりついています…」

 

「甲高い音を鳴らして高速で飛び回る『神の船』、強烈な爆裂魔法を吐き出す角の付いた『鉄の地竜』…そして全長250mを超える『魔導船』の爆裂魔法は地形を変える程…あぁ…恐ろしい…」

 

見た事もないほどに震える二体のオーガ。

しかし、ノスグーラはそれでも笑い飛ばした。

 

「グァッグァッグァッ…それがどうした。あの忌々しい太陽神の使者なぞ、魔帝様の足元にも及ばん。魔帝軍の『天の浮舟』の速さは音を超えるのだ。音の半分の速さしか出ぬ神の船ごとき、敵ではない。巨大な魔導船も、空中戦艦や海上要塞から放たれる爆裂誘導魔光弾の飽和攻撃の前では無力だ。魔帝様はもうじき復活する…何も心配は要らんのだ。」

 

ノスグーラの言葉を聞いた二体のオーガは、安心したのか体の震えを止める事が出来た。

 

「そ、そうですな!」

 

「魔帝様の力は絶対…恐れるものはありませんな!」

 

「グァッグァッグァッ!そうだ!」

 

立ち直った配下に満足したのか、高笑いしながら空を見上げるノスグーラ。

ふと、彼の目に何かが見えた。

 

「…なんだ?下等生物共の投石か?」

 

暗雲立ち込める灰色の空。

そこに幾つか黒い塊が見えた。

 

──ヒュルルルルルル…

 

笛のような風切り音を立てて此方に向かって落下してくる。

ただの投石ならば大した問題ではない。

ノスグーラやオーガはおろか、オークに当たっても大した事にはならないだろう。まあ、ゴブリンならば大怪我か死ぬかするだろうが。

 

「ま、魔王様…あれは…」

 

レッドオーガの額に冷や汗が流れ…

 

──ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

「ビギャァァァッ!」

「ギィィィッ!ギィィィッ!」

「グォォォォォッ!」

 

腹の奥に響くような轟音と共に地面が弾け、土塊と共に魔物が宙を舞う。

ゴブリンやオーク、獣のような姿をした魔獣が力無く地面に叩き付けられる。

 

「ば、爆裂…魔法…」

 

ブルーオーガが喉から絞り出すように呟いた。

 

──ヒュルルルルルル…ヒュルルルルルル…

 

次々と聴こえる風切り音。

だが、それに混ざって別の音が聴こえる。

 

──ポロンッ♪ポロンッ♪デンデーンッ♪デレデレデーン♪

 

「なんだ…これは…」

 

その音を耳にしたノスグーラ。

それには聞き覚えがあった。

一定の感覚で鳴る音…音楽と呼ばれる物だ。

そしてその音楽というものは、太陽神の使者による攻勢の前触れとして耳にしていた。

 

「ま、まさか…本当に、奴らが!?」

 

ノスグーラが目を見開き驚愕した瞬間、彼らの足元が沸き上がるように弾けた。




魔王軍殲滅RTA、はーじまーるよー

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