どうしてもやりたいネタがあるので、今回も駆け足気味です
──中央暦1640年4月11日午後4時、世界の扉──
──ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!…ドンッ!ドンッ!ドンッ!
「駄目だ!榴弾じゃ外殻を貫通出来ない!」
「砕いた傍から修復されてるぞ!」
「足を狙え!時間を稼ぐんだ!」
世界の扉は混乱の渦中にあった。
始めこそ火砲や爆薬を用いた面制圧により万単位の魔王軍を容易く削り取り、伝説の魔物であるレッドオーガとブルーオーガ、更には魔王の乗騎であるとされる赤竜すら瞬殺せしめた。
しかし未だに魔王は健在であり、それどころか全高20mにも及ぶ巨大ゴーレム…カイザーゴーレムを呼び出し、それの肩に乗り此方へ向かって歩いてくる。
「クソッ!榴弾じゃ埒が明かない!」
「どうしましょう!」
「…そうだ!五航戦のお二人なら、徹甲爆弾を持っているはず!航空支援を要請しよう!」
次々と砲弾を受けながらも侵攻してくるカイザーゴーレムの姿に歯噛みしていたガイだったが、二隻の空母による航空支援が用意されている事を思い出す。
──ブゥゥゥゥゥンッ!
そんな事を話していると、空に風を切り裂く音が響いた。
空を見上げると、10機程の航空機がカイザーゴーレムに向かって一直線に飛んで行くのが見える。
大柄な胴体に、中ほどから跳ね上がるような角度が付いた特徴的な逆ガルの主翼…『流星』だ。
垂直尾翼の識別番号を見るに、『翔鶴』所属の物であろう。
「先んじて動いていたか!」
沖合いで停泊していた五航戦だが、流石に巨大なカイザーゴーレムの姿に気付いたらしく、上空で待機させていた流星を要請前に向かわせていたのだ。
──ブゥゥゥゥゥンッ!ガチャンッ!
流星の爆弾倉が開き、抱えた500kg爆弾を投下すべく急降下を開始する。
強固な装甲を持つ軍艦を撃沈する為の爆弾だ。如何に魔力で強化された岩石の外殻を持つカイザーゴーレムでも、直撃すればひとたまりも無いだろう。
「ぬぅぅぅっ!あれは…『神の船』ではないか!本当に『太陽神の使者』だというのか!」
しかし、魔王ノスグーラはその脅威を熟知しており、永い封印の中でその対処方法を編み出していた。
右手を天に掲げ、魔力を集中させる。
「《詩を紡ぎ静寂を迎えよ。汝福音をもたらすとき、灰塵は土に舞う。極彩食らいて影落とすべし。照らせ、我が使者。空の彼方はまだまだ暗い。》─ヘル・ファイア・バースト!」
──ゴオッ!
ノスグーラが詠唱すると、赤黒い火球が幾つも浮かび上がった。
その数は10や20では済まない。
100は優に超え、500近くは有るだろう。
人間の魔導師一人が魔力全てを使い、漸く生み出す事が出来るような火球をこんなにも扱う事が出来るのは、流石魔王と言ったところか。
「撃ち落としてくれる!」
右手を振り下ろしながら、殺意に満ちた声をあげる。
──ゴォォォォォッ!
暴風が吹くような音と共に、火球が空に向かって放たれる。
まるで濃密な対空射撃…地から空へ向かって降る雨のようだ。
──ブゥゥゥゥゥンッ!ボンッ!ボンッ!
急降下爆撃の体勢に入り回避行動が出来なかったうえ、加えてまさかこんな弾幕に曝されるとは思っていなかったのか、次々と撃墜されて行く流星。
「そ…そんな…」
ワイバーンを遥かに上回る速度で飛行する航空機が容易く撃墜されてしまった。
あれはKAN-SENである翔鶴が運用する無人艦載機だったため人的被害こそ無いが、圧倒的性能の兵器ですら太刀打ち出来ない。
「ガイ!」
そんな光景を目の当たりにし、呆然としていたガイに声がかけられた。
「も、モア!?」
「無事で良かった!あのゴーレムやばいぞ!どんどん大きくなってる!」
「な、何だって…」
目をゴシゴシと擦ってカイザーゴーレムをよく観察する。
「グァッグァッグァッグァッ!見たか、使者共!貴様らの神の船なぞ羽虫も同然…最早、何も恐れるものはないわぁぁぁ!」
勝ち誇ったように高笑いする魔王。
よく見ると、その位置が高くなっている気がする。
距離が近付いたから、だけではない。
よく見れば、カイザーゴーレムが全体的に大きくなっている気がする。
「あ、あれは…!」
カイザーゴーレムの足下、そこが大きく凹んでいる。
いや、あれは"吸い上げている"のだ。
まるで樹木が水を吸うように、カイザーゴーレムを構成する土砂や岩石を吸い上げているのだ。
「う…嘘だろ!?」
「倍位になってるぞ!」
驚愕に目を見開くガイとモア。
確かに、カイザーゴーレムは世界の扉よりも遥かに大きく…40m程迄に巨大化している。
「このままじゃ、世界の扉が破壊されるぞ!騎士団は防衛ラインを運河へ後退させる判断を下した!お前達も後退した方がいい!」
切羽詰まったような声でモアが告げる。
確かに、あんな巨大ゴーレムの一撃を食らえば世界の扉は破壊されてしまうだろう。
しかし、ガイは逃げる訳にはいかなかった。
「指揮官殿が!指揮官殿がまだいる筈だ!」
「あ、おい!」
「避難しているとは思うが、確認してくる!お前は先に行っててくれ!」
引き止めようとするモアの言葉を振り払い、走り出すガイ。
戦場でピアノを弾いたりするよく分からない人物だが、一応は最高指揮官だ。
安否を確認しなければならないだろう。
カイザーゴーレムが歩行する事により発生する揺れに足を取られながらも、指揮官とタシュケントが居た場所へ向かって走る。
「指揮官殿!」
ピアノの音色は聴こえない。
流石に避難したのだろう。そう思い、胸を撫で下ろしたガイだったが…
「同志ちゃんも飲んだら?」
「だから、酒は飲まないって言ってるだろ?」
いや、居た。
透明な液体が入った瓶を持ったタシュケントを肩車して、此方に向かってくるカイザーゴーレムを見物している指揮官が居た。
「し、指揮官殿!?」
「ん?…あぁ、お前か。」
「やっほー、同志ガイちゃん。」
下手すれば巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、呑気な態度の二人。
それを見て、ガイは思わず脱力してしまった。
「な…何をしているんですか?」
「いや、魔法って凄いな。って思って見物してた。…ふむ、魔法技術の研究も更に進めるべきか?」
「いやいや…逃げましょうよ…」
ため息混じりに進言するガイ。
しかし、指揮官はそんな彼に不思議そうな目を向けた。
「何故?」
「な、何故ってそれは…」
チラッとカイザーゴーレムに視線を送り、肩を竦める。
「あれ、ヤバいですよね?」
「あぁ、そんな事か…」
同じく肩を竦める指揮官。
そして、指揮官に同調するようにタシュケントがガイにジト目を向けた。
「同志ガイちゃん。同志ちゃんが何の手も打ってない訳ないでしょ?」
「はあ…?」
いまいち飲み込めず、間抜けな声を出してしまうガイ。
だが、その答えは直ぐに分かった。
──グオォォォォォォォォンッ!
海の方から雄叫びが聴こえた。
空気をビリビリと震わすような大音量の雄叫び。
それを聴いた者は皆…魔王ですらも海に目を向けた。
「あ、あれは…」
先程まで勝ち誇ったような表情をしていた魔王の顔が、驚愕に染まる。
魔王だけではない。世界の扉にいた者全て…指揮官とタシュケント以外の全員が、魔王と同じように驚愕していた。
──グオォォォォォォォォ!
ゴツゴツとした磯を砕きながら上陸する巨体。
二つの頭に長い首を持つ四足歩行の鉄竜…その胴体には、長大な三本の砲身を持つ砲塔が三基搭載されている。
「俺の部下は優秀でね…ロシア、あとは頼んだぞ。」
どこか満足そうに頷きながら鉄竜に声をかける指揮官。
それに応えたのは、砲塔の内の一つに立った一人の人影であった。
「任せろ、同志指揮官。神話なぞ、我が艦砲で押し潰してやる!」
長い銀髪に、赤い瞳。180cm程もある長身を白い軍服で包んだKAN-SEN『ソビエツカヤ・ロシア』だ。
艤装を『装甲獣形態』に変形させ、上陸してきたのだ。
「な…まさか…使者共の魔導船なのか!?変形し、陸上にまで進出してくるとは!?」
想定外の事態に狼狽える魔王だったが、直ぐに気を取り直した。
正面からソビエツカヤ・ロシアを迎え撃つように、カイザーゴーレムを転回させる。
「このカイザーゴーレムは魔帝様の『二足歩行型陸戦兵器』をモデルにして造った!貴様らなぞに負けてなるものかぁぁぁぁぁあ!」
──ゴガァァァァァァァッ!
──グオォォォォォォォォン!
北の地で、二体の巨獣が吼えた。
セントルイスって着せ替えが出る度にデカくなってません?