「いや、そうは…ならんやろ。」
「なっとるやろがい!」
の精神で楽しんで頂けると幸いです
OK?
──中央暦1640年4月11日午後5時、世界の扉──
轟音が響き、空気が震え、大地が揺れる。
曇天の空の下、二匹の巨獣が吼える。
──ゴガァァァァァァァッ!
一方は土砂と岩石により造られた巨大な人形…神話に語られる魔王ノスグーラが生み出したカイザーゴーレム。
──グオォォォォォォォォン!
もう一方は鋼鉄の体躯を持つ双頭の巨竜…異世界の人々が造りし艦船、ソビエツカヤ・ロシアの『装甲獣形態』
本来、対峙する筈のなかった巨獣が睨み合う様は、まるで新たな神話が誕生して行くかのようだ。
──ゴガァァァァァァァッ!
先に動いたのは、カイザーゴーレムだった。
城の尖塔よりも太い腕を振りかぶり、巨岩の拳を正拳突きのような形で放つ。
その動きはとても緩慢なものに見える。
しかし、巨大な物体というものはある程度の速さで動くだけでも風を巻き上げ、空気を振るわせる。
その証拠のように、カイザーゴーレムの腕の回りでは雪が激しく渦巻いていた。
──ガゴォォォォォンッ!
巨岩の拳が、装甲獣の頭部に打ち付けられた。
空気がビリビリと震え、腹の底まで響くような轟音が響き渡る。
装甲獣の頭部が凹み、それなりのダメージがあったようだ。
しかし、装甲獣の方もやられっぱなしではない。
──グオ…オォォォォォォォォン!
もう一方の頭で、カイザーゴーレムの肩に噛み付く。
もともとは強靭な装甲を持つ鉄血KAN-SENの『装甲獣形態』に対し、白兵戦にて撃破する事を目的としたものだ。
いくら魔力で強化されているとはいえ、岩石なぞ簡単に食い破れる。
──ギギィッ!…ギギィッ!…バゴンッ!
鋼鉄と岩石が軋み、最終的には岩石が砕かれカイザーゴーレムの片腕が落ちた。
切断面から雨霰のように降り注ぐ土砂はまるで、噴き出す血液のようだ。
「お…おのれぇぇぇぇぇ!太陽神の使者め!一度では飽き足らず、二度も我々の邪魔をするか!」
魔帝の兵器を除けば間違いなく最強であろう、カイザーゴーレムの腕を切り落とした装甲獣に激しい怒りを覚える魔王。
フィルアデス大陸からあらゆる種族のヒトを追い出し、海を渡ってロデニウス大陸まで侵攻したというのに訳の分からない軍隊…『太陽神の使者』の手により再びグラメウス大陸に追い返された事は、魔王にとっては屈辱でありトラウマでもあった。
ゆえに、彼は『太陽神の使者』に対して激しい憎悪を抱いていた。
だからこそ、『神の船』に対抗する為の魔法や『鉄竜』に対抗する為にカイザーゴーレムの強化を行った。
しかし、『太陽神の使者』は『魔導船』を変形させて陸揚げするという方法で此方の上を行った。
「やはり、貴様らは魔帝様復活の障害となる!なんとしてでも、この場で討ち滅ぼしてくれるわぁぁぁぁぁ!」
カイザーゴーレムが残った腕を振りかぶり、巨岩の拳を打ち下ろす。
まるで地面に杭を打つような一撃。
それは、直撃すれば世界の扉を崩壊させる事が出来る威力となるだろう。
──ゴォォォォンッ!
しかし、そうはならなかった。
装甲獣がカイザーゴーレムの二の腕に噛み付き、その動きを防いでしまったのだ。
加えて、脇腹にはもう一つの頭が噛み付いてきた。
「なっ!?く、クソッ!離せ!」
カイザーゴーレムに魔力を送り込みパワーアップを試みる魔王だが、いくら魔力を注いでも噛み付いた装甲獣を振りほどけない。
それも当然、最大で23万馬力にも及ぶ出力から繰り出される咬合力から逃れる術なぞ無いに等しい。
"あの"大和型戦艦が繰り出した式神でさえ逃れる事が出来なかったのだ。
「おのれぇぇぇぇ…下等生物共が生意気な!」
四苦八苦している魔王の目に装甲獣の背に立つ人影…ソビエツカヤ・ロシアが映った。
「何故、我々の邪魔をする!貴様ら下等生物なぞ、魔帝様の家畜に過ぎん!そんな貴様らが、魔帝様の被造物たる我々を…」
「…愚かな。」
ひたすら憤怒と怨嗟の言葉を吐き出し続ける魔王に対し、ソビエツカヤ・ロシアは冷たく言い放った。
「1万年前の遺物が、常に進歩を続ける人類に勝てる訳がないだろう。そうやって、他者を見下し続ける限り…貴様には進歩も勝利も無い!」
不敵な笑みを浮かべ、啖呵を切るソビエツカヤ・ロシア。
しかし、その言葉は正に火に油。
更に魔王の怒りを燃え上がらせた。
「か、下等生物めぇぇぇぇ…!生意気な!もう良い!貴様から焼き殺してくれる!」
カイザーゴーレムに魔力を送り込むのを中断すると、天に手を掲げた。
「《詩を紡ぎ静寂を迎えよ。汝福音を…》」
「あれはっ!同志翔鶴の艦載機を撃墜した魔法か!?」
撃墜された艦載機を操っていた翔鶴から、魔王が扱う魔法がどのようなものか聞いていたソビエツカヤ・ロシアは、打たせまいと装甲獣の出力を限界まで引き出す。
──ゴゴゴゴゴゴゴッ!ズゴンッ!ズゴンッ!
装甲獣の動力が唸り、踏ん張った四肢が接地する地面が砕ける。
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「な、なんだ!?…う、浮いている!?」
そう、カイザーゴーレムの両足が地面から離れていた。
何百…いや、何千トンもあるであろう巨大なカイザーゴーレムが装甲獣の二本の首で持ち上げられていたのだ。
「馬鹿な!こんな…こんな馬鹿な事が…」
あまりの事態に詠唱する事も忘れ、振り落とされないようにカイザーゴーレムにしがみつく魔王。
そんな魔王を見て、ソビエツカヤ・ロシアはほくそ笑んだ。
「あれだけ下等生物呼ばわりをしておいてそれとは…無様だな。」
「貴様…っ!」
一瞬で怒りのボルテージを上げた魔王が、ソビエツカヤ・ロシアに手を向ける。
詠唱無しで魔法を放つ為、手に魔力を集中させるが…
「吹っ……飛べ!」
装甲獣が首を振り、カイザーゴーレムを天高らかに放り投げた。
──ゴォォォォォォォォッ!
大質量の物体が急速に上方へと移動した為、強烈な上昇気流が発生する。
巻き上げられる雪や土砂…その行く先には、宙を舞うカイザーゴーレムの姿があった。
信じられない光景だ。
全高40mものカイザーゴーレムが天高く放り投げられる…正に、新たな神話が誕生した瞬間だった。
「同志瑞鶴!」
空に向かって、ソビエツカヤ・ロシアが叫んだ。
それを見計らったように、曇天の空を裂いて一機の飛行機が全速力で飛来した。
──ブゥゥゥゥゥゥンッ!
絞られた滑らかな胴体に、上反りした主翼を持つ戦闘機…重桜の最新鋭機『烈風』だ。
その烈風のエンジンカウルの上で、瑞鶴が腰の刀に手をかけていた。
「こんなにお膳立てされたら…」
──チャキッ…
鍔を鳴らし、抜刀する。
「決めない訳には行かないでしょ!」
後ろ腰に装備された飛行甲板を模した艤装に、ミニチュアになったような流星を三機呼び出すと同時に刀の柄頭を飛行甲板の後端に押し付ける。
──ブゥゥゥゥゥゥン…シャンッ!シャンッ!シャンッ!
呼び出されたミニチュアの流星は飛行甲板を逆方向に滑走し、瑞鶴の刀と接触すると炎となって刀身に纏い付く。
「あ…あれは…!」
宙を舞うカイザーゴーレムの肩で、魔王は目を見開いた。
その脳裏に過ったのは恐怖…死への本能的な恐怖だ。
「くっ…来るな!来るな!」
手に魔力を集中させ、防御魔法を展開する。
しかし、対空攻撃に使用した魔法とカイザーゴーレム維持の為の魔力はあまりにも膨大過ぎた。
特に、装甲獣から逃れる為に注ぎ入れた魔力は莫大な魔王の魔力を枯渇させてしまっていた。
それを示すように、防御魔法の厚みは何とも頼りない。
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」
烈風のエンジンカウルを蹴り、飛び上がる瑞鶴。
鶴の翼を模した袖が風をはらんで羽ばたくようにはためき、燃え盛る刀が空に炎の帯を描く。
「う…うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
──バチッ!バチッ!バチッ!
防御魔法と刀が競り合い、火花が散る。
しかし、それも一瞬の事だった。
──バリンッ!
まるでガラスが割れたような音が響き、防御魔法が破られた。
それを目の当たりにした魔王は、呆然と呟く。
「馬鹿…な…」
──ザンッ!
魔王の体を刃が袈裟斬りに切りつけ、そこから炎が噴き出す。
「…斬り捨て、御免!」
そのまま魔王の体を斬り抜いた瑞鶴が、烈風に飛び乗る。
次の瞬間だった。
──ズッ…
カイザーゴーレムが炎に包まれ、巨大な火の玉となり…
──ゴガァァァァァンッ!
放射状に魔力を噴出しながら崩壊した。
空に浮かび上がる火の玉を中心とした放射状の模様。
それはまるで、太陽のようだった。
瑞鶴の「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」を成功させたかった