今回よりミ帝接触編です
119.先触れ
──中央暦1640年5月14日午前11時、ロデニウス連邦首都クワ・トイネ──
ロデニウス連邦の中枢である大統領府。
その中心である大統領執務室のソファーに座る四人の人影があった。
「成る程…神聖ミリシアル帝国が、国交開設を前提とした使節団を派遣したいと申し入れて来たと?」
「神聖ミリシアル帝国と言えば…ムーも凌ぐ国力を持つ、世界最強国家ですよね~?」
内二人は、指揮官と女性。
青紫色の髪で右目を隠し、緑と赤を基調にした軍服を着用したKAN-SEN『トレント』だ。
「えぇ…やはりパーパルディア皇国を下したという実績と、新たなる列強国として名乗りを上げた事がかの国の興味を引いたのでしょう。」
難しい顔で頷きながら答えたのは、対面のソファーに座る紺色のスーツを着用したロデニウス連邦大統領カナタ。
「神聖ミリシアル帝国は、古の魔法帝国の遺跡を解析して手に入れた強大な軍事力と優れた技術力を以てして世界最強に相応しい力を持っている。そのような国家が自ら出向くとは…我々の地位も随分と向上したものだ。」
神妙な…しかし、どこか嬉しさを隠せないような表情で何度も頷くのはカナタの隣に座った外務大臣リンスイである。
そう、実は2日前に神聖ミリシアル帝国からコンタクトがあり、ロデニウス連邦へ使節団を派遣したいという要請があったのだ。
それに対し連邦政府は快諾。使節団を出迎える準備の為の話し合いが行われているのだ。
「神聖ミリシアル帝国、世界最強の国家ですか…ムーよりも進んだ文明という事は、少なくとも理性的な国家である事は間違い無いでしょうね。」
「うむ。しかし、世界最強というプライドは勿論あるだろうし、我々を新興国として見くびっている可能性もある。故に、刺激せずに…かつ舐められないような出迎えを執り行いたいのだが…」
指揮官の確認するような言葉に、リンスイが難しい顔をしながら答える。
今までロデニウス連邦が接触した列強国と言えば、ムーとパーパルディア皇国…ムーはかなり理性的であったが、パーパルディア皇国については思い出す事も憚られる程に酷いものだった。
つまり、ロデニウス連邦の対列強国外交は50%の確率で失敗しているとも言える。
故に、神聖ミリシアル帝国に対する外交は慎重にならざる負えなかった。
「飛行機で来訪する、というお話でしたよね~?」
トレントが下唇に人差し指を当てながら問いかけ、それにカナタが答えた。
「先方からはそう説明されているので、大陸の西にある『アルバント市』にある空港で着陸してもらい、大陸横断鉄道北側路線でこのクワ・トイネまでお越し頂きましょう。」
カナタはそう言いながらローテーブルの上に広げられた地図上を指でなぞった。
そのルートは旧ロウリア王国の西にあるアルバント市から旧クワ・トイネ公国の国境の街ギムを通り、最終的に首都クワ・トイネへ向かうというものだ。
「まずは空港での出迎えが重要となるな…第一印象が全てを左右すると言っても過言ではない。」
むぅ、と唸りながらリンスイが思案する。
確かに彼の言う通り、もし出迎えに粗相があればそれこそ外交問題に発展するだろう。
それに関してはトレントから答えが出た。
「アルバント市の空港に儀仗隊を派遣して…鉄血の楽団に演奏をお願いしてはどうでしょ~?勿論、神聖ミリシアル帝国の国歌を演奏すれば好印象だと思いますよ?」
「うむ、それがよいな。それと…指揮官殿、空軍からアクロバットチームを派遣してはくれまいか?」
トレントの言葉に頷きつつ、リンスイは指揮官に声をかけた。
「アクロバットチームですか?」
「うむ、音楽に合わせて空にスモークで神聖ミリシアル帝国の国旗を描く事は…可能だろうか?」
「んー…先方が此方に来るのはいつ頃でしたかね?」
眉をひそめて考え込みながら問いかける指揮官。
それに対しカナタが手帳を見ながら答えた。
「凡そ1ヶ月後…6月の半ばですね。」
「1ヶ月…まあ、ギリギリどうにかなるでしょう。…あぁ、そうだ。」
脳内でアクロバットチームの訓練スケジュールを組みながら、地図の一点を指差す。
「ギムから直接クワ・トイネではなく、ピカイアとマイハークを経由した方が良いのでは?」
「ほう、何故に?」
首を傾げるリンスイに対し、指揮官は頷く。
「ピカイアには大規模な軍港があり、マイハークはロデニウス連邦随一の経済都市です。ですから…」
「成る程、我が国の海軍力と経済力を示すという事ですね?」
合点がいったように手を叩くカナタ。
ピカイアはロデニウス連邦海軍の根拠地であり、軍艦が停泊している。
そしてマイハークは、統一戦争後の再開発により様々な企業が本社を置いており、マイハーク港は商船が絶え間く出入りしている。
それを見れば、ロデニウス連邦の国力は嫌でも理解出来るであろう。
「勿論、使節団の到着に合わせて我々の艦隊もピカイアやマイハークに派遣させましょう。ロデニウス連邦は新たな文明圏の盟主…最新の列強国となるのですから、多少の見栄は張りませんと。」
苦笑しながら提案する指揮官だが、リンスイがやや心配そうに告げる。
「しかし…余りにも大規模は戦力を見せびらかす事は、先方に要らぬ警戒心を与えてしまうのではないか?もし、世界最強の神聖ミリシアル帝国が我々を敵と見なせば…」
ブルッと身を震わせるリンスイ。
確かに彼の言葉にも一理ある。
東の果てに急に現れた新興国が大規模な艦隊を保有していれば、要らぬ警戒心を与えてしまうかもしれない。
しかも相手は"あの"神聖ミリシアル帝国だ。
敵対国は慈悲すら与えずに滅ぼす世界最強国家…万が一、かの国を敵に回すような事があれば大変な事になるだろう。
だが、指揮官はそんな心配はしていなかった。
「楽観視する訳ではありませんが…大丈夫でしょう。かの国がそんなに短絡的なら、この世界はこんなにも平和ではありませんよ。ただ…万が一、我々を敵対視し戦争を仕掛けてくるのであれば…」
その碧眼が刃のように鋭くなる。
その目付きにカナタとリンスイが思わず寒気を覚えた。
「もうっ、指揮官ったら。怖い顔になってるわよ?ほら、スマイル♪スマイル♪」
だが、そんな指揮官の頭をトレントが、撫でる。
優しく慈しむような手付きに、思わず顔が綻んでしまった。
「ははっ…そうか…大統領、外務大臣、申し訳ありません。」
やんわりとトレントの手を払い除け、カナタとリンスイに向かって深々と頭を下げる指揮官。
しかし、二人は苦笑しながらフォローした。
「いえいえ…いざという時に躊躇していては取り返しの付かない事になりますから。指揮官殿のように躊躇い無く行動出来る事は強みですよ。」
「大統領の仰る通りですな。まあ、指揮官殿のように肝が座っていれば使節団に物怖じするような事は無い。舐められない、という一点では卿は適任であろう。」
「お気遣い、感謝致します。」
再び深々と頭を下げる指揮官。
それを笑顔で見ていたトレントだったが、何かを思い出したように目を見開きながら手を叩いた。
「あら、そういえば…」
「トレント、どうかしたのか?」
「おもてなしの為のお料理のメニューを考えないといけませんね。」
確かに使節団を出迎えるにあたって軍事力や経済力を示す事も重要だが、文化水準の高さを示す事も大事だ。
勿論、空港で出迎える予定の楽団が奏でる音楽でも示す事は出来る。
しかし、ロデニウス連邦の主要産業の一つである豊富な農作物を使った多種多様な料理でも文化水準を示すべきだろう。
如何に他が優れていても、串焼き肉しか出ないようでは先方をガッカリさせてしまう。
加えて、宗教的に口にする事が出来ない物を出してしまうとそれだけで外交問題だ。
「アイリス料理のフルコースとか…重桜の懐石料理とかはどうだ?」
「神聖ミリシアル帝国は主要国の中でも最もエルフが多いので、植物性の食べ物を好むエルフに合わせて懐石料理は中々良いかもしれません。」
エルフであるカナタは重桜の懐石料理がお気に入りらしく、プライベートでもよく料亭に通っている。
しかし、それに反論したのがリンスイだった。
「いえいえ、大統領。使節団の方々は長旅でお疲れでしょうし、精を付ける為に肉料理…つまり、ユニオンのステーキ等をですね…」
疲れている人間相手に消化に悪そうなステーキを出すのはどうかと思ってしまうが、ドワーフとヒトのハーフであるリンスイは豪快なユニオン料理がお好みのようだ。
「私は…赤、緑、白が鮮やかなサディア料理がいいと思うのだけど…指揮官はどうかしら?」
予期せぬ議題で詰まる議論。
しかし、それに対して指揮官が出したのは単純な答えだった。
「国籍問わず様々な料亭を並べ、各々が気に入った料理を取る…ビュッフェ方式の立食パーティーにしては?各々の好き嫌いやアレルギー等の問題もありますし、そのような形にするのが無難だと考えます。」
他三人が「それだ!」というような顔を見せ、とりあえずこの話し合いは一区切りとなった。
イベントの後に周回イベントは流石に燃料が…