とりあえずマウントを取っていけ
──中央暦1640年6月11日午後3時、ロデニウス連邦アルバント市空港──
アルバント市空港のターミナルビル内に存在する応接室では、神聖ミリシアル帝国使節団の面々が外交官から挨拶と説明を受けていた。
「神聖ミリシアル帝国の皆様、遠路遥々ご足労頂き誠に感謝致します。"世界最強の超大国"である貴国からの訪問を受けるとは…これは、我が国最大の出来事でしょう。あぁ、申し遅れました。私は今回、貴国との外交を担当させて頂きますロデニウス連邦外務省外交官のメツサルと申します。」
上等な仕立てのスーツに身を包んだドワーフ族の男性、旧クイラ王国の外交官であるメツサルが如何にも人の良さそうな笑顔を浮かべながら手を差し出して握手を求める。
「ご丁寧にありがとうございます。神聖ミリシアル帝国外務省外交官のフィアームと申します。」
文明圏外国とは思えない程に丁寧な対応と、神聖ミリシアル帝国を『世界最強の超大国』と言って尊重している事に気を良くした彼女は、メツサルの握手に笑顔で応えた。
「フィアーム殿ですね、よろしくお願いいたします。…さて、では皆様が我が国で円滑な視察を行う為に必要な物をお貸し致します。」
そう言ってメツサルに付き従っている外務省職員がアタッシュケースをテーブルに置いて開けると、中身を使節団を見せるように180°回す。
そこにあったのは、灰色のスポンジの中に埋め込まれた縦15cm幅6cm程度の5つの黒いガラス板のような物だった。
「どうぞ、お取り下さい。」
メツサルがアタッシュケースを手で示し、ガラス板を手に取るように指示する。
「これは…なんでしょう?」
おずおずとアタッシュケースに手を伸ばし、ガラス板を手にする使節団。
その内の一人、ベルーノがガラス板を様々な角度から観察しながら問いかけた。
黒いガラス板に見えたが表面だけがガラスであり、側面や背面は一体成型された銀色の金属で作られているらしい。
側面には、樹脂製らしい突起が幾つか付いている。
「それは『スマートフォン』という物です。我が国ではポピュラーな通信機器の一つです。」
そう答えながらメツサルも同じ物を懐から取り出した。
「す、スマートフォン?」
聞き慣れない言葉に、首を傾げるライドルカ。
彼に対して頷きながら、メツサルは自らが持つスマートフォンの側面を見せた。
「側面に青くて細長い突起があると思いますが…それを3秒程度長押しして下さい。」
使節団の面々が指示に従い、側面の突起を長押しする。
すると、スマートフォンがブーッと振動してガラス板の部分が白く発光した。
「おおっ!?」
驚き、スマートフォンを落としそうになるアルパナ。
そうしている間にも、ガラス板…画面には様々な情報が表示される。
──饅頭電子公社
──ロデニウス連邦政府専用
──GH-04
「これは、電話・カメラ・テレビ・計算機・電子マネー・インターネット等々の機能を一つに纏めた機械です。使節団の皆様が我が国に滞在される期間中、お貸ししますのでご活用下さい。」
驚く使節団に構わず、何でもないように説明するメツサル。
初めは彼もスマートフォンに驚いていたが、今ではすっかり慣れてしまった。
外国から訪れた使節団の驚愕にも慣れっこだ。
「電子マネーやインターネットとは…なんだね?」
未知の言葉を耳にしたメテオスが問いかける。
それにメツサルは頷きながら答えた。
「電子マネーというのは、我が国で普及している決済システムの一つです。貴国を始めとした多くの国では、紙幣や硬貨を支払って商店から商品を購入しますよね?勿論我が国にも紙幣や硬貨はありますが、そういった物を使わず支払いを行えるシステムです。イメージとしては…この機械を通して銀行口座から直接、商店等へ支払いをするという感じでしょうか。」
説明しながら、画面に表示された電子決済アプリをタップして決済画面を表示させる。
画面の中央には複雑な紋様が描かれた四角形…QRコードが表示されていた。
「市街地での見学の際、お気に召す物がありましたらこの画面を商店の店員に提示して頂ければ購入出来ます。一定以上の高級品や危険物…自動車や宝飾品、武器以外でしたら大体の物は購入出来ます。支払いは我が国で行いますので、ご遠慮無くお使い下さい。」
その説明を聞いた使節団は唖然としていた。
こんな小さな機械が財布の代わりになる…しかもこれが銀行口座と繋がり、それにより決済が出来るシステムが普及しているのだ。
このシステムがあれば、紙幣や硬貨を製造・流通させる為のコストを削減させる事も出来る上、通貨偽装等の犯罪を撲滅出来るだろう。
「続いてインターネットについてですが…これは、図書館のような物です。」
「と、図書館…?」
電子マネーという概念に驚愕しながらも、ぎこちなく問いかけるベルーノ。
「はい、この表示されている横長の物の端にマイクの形がありますよね?これを指で触れて…」
画面の上方、横長の検索ウィジェットの端にある音声入力のアイコンをタップする。
「えーっと…"アルバント市空港からマイハーク空港への定期便"…はい、このように表示されます。」
スマートフォン底部のマイクに話し掛けると画面には、アルバント市空港とマイハーク空港を結ぶ定期便の出発時刻が表示された。
「今日は全ての便が予定通り運航するようですが、悪天候等で出発が延期されたり欠航するような事があれば航空会社がその都度、最新の情報を更新するようになっています。また、この機能を利用して地図を表示して道案内させたり、映像や音楽を楽しむ事も出来ます。」
もう使節団の頭はパンク寸前だった。
リアルタイムで更新される情報に、それを利用した娯楽の提供…自分たちでは思い付かないような新たな概念が押し寄せてきてもう処理が追い付かない。
「め、メツサル殿…計算機としても使えるという話ですが…?」
顔を青くし、冷や汗を浮かばせながらフィアームが問いかける。
メツサルは、そんな彼女に心配そうな目を向けながら答えた。
「はい、画面の左下にある"電卓"を指で触れて…」
電卓アプリを起動し、テンキーや記号を表示させる。
「この計算機…電卓は足し算引き算は勿論、掛け算や割り算、各種関数の計算も出来ます。最大で兆単位の計算も出来ますが…兆単位の計算なんて日常生活で使う機会は無いのですがね。まあ、専用に作られた計算機の方が使いやすいのでオマケみたいなものですが…」
苦笑し説明するメツサルだが、フィアームは電卓アプリを起動して見よう見まねで様々な計算をしていた。
基本的な初等算術は勿論、三角関数や平方根等…直感的な操作が出来るスマートフォンのお陰で、初めて触れた彼女でも基本的な操作が出来た。
しかし、だからこそ彼女は残酷な現実を知る事になった。
「さて…基本的な説明はここまでにして、本日皆様が宿泊されるホテルへとご案内致します。」
メツサルが立ち上がると、彼の付き人が応接室の扉を開けた。
「ホテル迄の道中、質問等があればお答えしますのでご遠慮せずにどうぞ。」
メツサルが扉を手で示しつつ、使節団を先導する。
「は、はい…」
「ロデニウス連邦では、これが普及しているのか…」
「"ロデニウス連邦の名物料理"…おおっ!本当に表示された!何々…?魚を生で食べる料理もあるんだな…」
「裏面のこれがカメラのレンズか?なら、フィルムは何処に…?」
「ふむ…手袋をしていると反応しないようだね…」
意気消沈したフィアーム。
スマートフォン片手に呆然とするライドルカ。
早速、検索機能を使うアルパナ。
スマートフォンを様々な角度から観察するベルーノ。
手袋をしたままではタッチパネルが反応しない事に気付いたメテオス。
様々な反応を見せる使節団の先頭を歩いていたメツサルだったが、ふと思い出したように真後ろのフィアームに声をかけた。
「あ、そうだ…フィアーム殿、貴殿の荷物の一つに精密機械があったようですが…専用の輸送車を用意致しますが、如何しましょう?」
使節団は滞在中の着替えや、記録用のカメラ等を持ってきていた。
その中でもフィアームの私物とされた黒いケースに入った重量物…それには『精密機械・取り扱い注意』と書かれていた為、メツサルは気を利かせてそんな提案をしたのだ。
しかし、フィアームは首を横に振った。
「いえ…やはりあれは、天の浮船に置いたままで良いです…」
「左様…ですか…?」
だとしたらアレは何なのだろう?
そんな疑問を抱くメツサルだが、女性の私物に探りを入れるのも憚られた為、追及はしない事にした。
(兆単位の計算に、関数計算だと…?しかも、通信機器のオマケ…こんな物が普及している国に我が国の計算機を持ってきても…笑い者になるだけだ…)
祖国の技術力の高さを見せ付ける為に持参した魔導式計算機…巨大なタイプライター程もあるそれを思い浮かべ、自らの手にあるスマートフォンを見る。
胸中に広がる敗北感は、彼女のプライドをへし折るには十分だった。
【悲報】フィアーム、心が折れる
今後、お色気シーンは…
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今より増やせ
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このぐらいでいい
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もう少し減らしていい
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もっと減らして
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無くていい