アズレンアプリ内で、アズレン世界にはジェットエンジン付きラジコンを作る技術がある事が判明しましたね…
対戦車ミサイルぐらいなら作れそうです
──中央暦1640年6月11日午後7時、ロデニウス連邦アルバント市『ホテル・グランドアルバント』──
「では皆様、お好きな料理をお楽しみ下さい。」
「はい。ご丁寧にありがとうございます。」
神聖ミリシアル帝国から来訪した使節団は、空港からアルバント市内のホテルに移動し、暫しの休憩を挟んで歓迎の立食パーティーに参加していた。
今しがた、アルバント市長と挨拶を交わしたフィアームだがその顔は疲労の色が滲んでいた。
「はぁ…何なんだ。この国は…」
空港からホテル迄の道すがら街並みを観察していたが、様々な物を見る度に彼女の精神はガリガリと削られていた。
(材料さえあれば独りでに建物を作り上げる『3Dプリンター建築』に、高画質高音質の映像や音楽を数秒で送り届ける『5G通信』…自動車は恐ろしい程に静かで速い…しかも、一部の金持ちだけではなく庶民でも購入する事が出来るとは…)
頭痛に耐えながら情報を整理するフィアームだが、不意に声がかけられた。
「フィアーム様、お飲み物は如何でしょうか?」
薄墨色の髪を後頭部で二つに纏めておさげにし、ホワイトブリムとメイド服を着用したKAN-SEN『グラスゴー』だった。
その手には、シャンパンやミネラルウォーターが注がれたグラスを乗せたトレーを持っていた。
「あ、あぁ…では、シャンパンを頂こう…」
トレーから、黄金色のシャンパンが注がれたグラスを取るフィアーム。
そんな彼女の顔をグラスゴーがジッと見詰めていた。
「…何か?」
「いえ、少々お疲れのようでしたので…お休みになられますか?」
メイド隊として様々な手解きを受けているグラスゴーは、フィアームの疲労を見抜きそんな提案をしたのだ。
しかし、フィアームは愛想笑いを浮かべてやんわりと断った。
「いや…移動の疲れが出たのでしょう。大した事はありません…」
「そうですか…?…気分が優れない時は、何時でも仰ってくださいね。」
とりあえずはフィアームの言葉を信じて引き下がるグラスゴー。
トレーを持っていない側の手で器用にカーテシーをして見せると、なんとも優雅に去って言った。
そんな彼女の背を見送りつつ、グラスに口を付けるフィアーム。
「むっ…これは…」
黄金色の水面から漂う爽やかな香りに、口内で弾ける微炭酸。
酸味・甘味・苦味・渋味が複雑に絡み合ったコクがあり、芳醇な果実感と熟成されたまろやかさがある。
喉をサラッと通り抜けた後の風味や鼻に抜ける香りは、爽やかなリンゴのようだ。
かなり質が良いシャンパンだと言えるだろう。
(そうだな…疲れているなら、ちゃんと栄養を取らなければ。)
美味いシャンパンに気を良くしたフィアームが、どうにか立ち直ってテーブルに置かれた色とりどりの料理に向き合う。
大半が見たことも無い料理だが、料理が盛り付けられた皿の脇には料理名と使われた材料が書かれたプレートがあった。
「これは…ペンネアラビアータ?小麦粉で作った短い麺を、トマトとニンニクと唐辛子で作ったソースで絡めたものか…」
彼女の目に付いたのは、ペンネというペン先のような形をしたパスタをピリ辛のトマトソースで絡めたサディア料理だった。
それを取り皿に取ると、ペンネをフォークで突き刺す。
(文明圏外国の料理…果たしてどんなものか…)
ペンネを口にし、数回咀嚼する。
トマトの酸味と甘味に、後からくる仄かな辛味。ペンネのモチモチとした食感に、香ばしい小麦とニンニクの香り…
「美味い…」
言葉が口を突いて出てきた。
もう一つペンネを口にして、シャンパンで流し込む。
口の中に留まる辛味と油が微炭酸と爽やかな風味でリセットされ、再びペンネに手が伸びる。
「これが…文明圏外の料理なのか…?こ、これは?」
続いて手を伸ばしたのは、カリッと焼いたバゲットに焼き魚と野菜を挟んだサンドイッチだった。
──カリッ
「っ!?う、美味っ!」
思わず大きな声が出てしまう。
カリカリに焼いた香ばしいバゲットは勿論美味く、間に挟まれた魚…サバは脂がのっていて、口の中で溶けるようだ。
しかし、共に挟まれた野菜であるレタスのみずみずしさと、スライスオニオンの程よい辛味が口内で混ざり合い、脂のしつこさを打ち消してくれる。
「この魚も野菜も…かなり新鮮だ!美味い…美味過ぎる!」
実を言うと、フィアームは外務省でも有名な美食家なのだ。
外交活動のついでに、各国の名物料理を楽しむのが彼女の趣味である。
それ故、料理のレベルの高さと食材の質の良さが嫌でも理解出来た。
そんな彼女の元へ、一人のドワーフ…メツサルが歩み寄ってきた。
「フィアーム殿、我が国の料理は如何ですか?」
「んっ…あぁ、メツサル殿。」
サバサンドに齧り付いていたフィアームだったが、メツサルに気付くと急いで咀嚼して飲み込んだ。
「はははっ、お気に召されたようで何よりです。」
「いやぁ…お見苦しい所を…」
朗らかな笑みを浮かべるメツサルに、思わず顔を赤らめるフィアーム。
彼女は観光客ではなく、あくまでも神聖ミリシアル帝国の外交官としてこの場に居るのだ。いくら料理が美味かろうと、それに夢中になっていては話にならない。
「んんっ…しかし、驚きましたよ。まさか、第三文明圏にも属さない貴国が…ムーすら上回る文明を築いているとは…」
咳払いをして、驚嘆を隠せぬ口調で告げる。
その言葉にメツサルはニコニコしながら会釈した。
「神聖ミリシアル帝国の方にそう言って貰えるとは…努力のかいがありました。」
「しかし…失礼ですが、腑に落ちない点があるのです。」
「ほう、何でしょうか?」
眉をひそめ、怪訝そうな表情を浮かべたフィアームは意を決して問いかけた。
「何故…何故、これ程の文明を築いている貴国が今まで国際社会の表舞台に立たなかったのか…という点です。」
フィアームの疑問も尤もな話だ。
何せ、ロデニウス連邦が国際社会に出てきたのは中央暦1639年10月末…つまり、まだ1年も経っていない。
だと言うのにこの国は、ムーから列強国に相応しいと認められている。
そんな国が今まで表舞台に出てこなかったのは、何かしらの裏があるのではないか?そう考えていた。
「なるほど…確かに、我が国が国際社会の表舞台に立ったのは対パーパルディア皇国戦争中、貴国の世界のニュースを通じてでしたね。」
「はい。貴国が新たなる列強国に名乗りを挙げ、第四文明圏創設を宣言したあのニュースですね。」
実はあのニュース(参照:54.世界へ)は、フィアームも観ていた。
初めは思い上がった蛮国が虚勢を張るためにそんな事をしたのだと思ったが、ムーがロデニウス連邦に同調し、更にはパーパルディア皇国に勝利した時にはまさかと思ったが、所詮パーパルディア皇国は下位列強…それに勝っても大した事は無いだろうと思い込んでいたのだ。
しかし、実際にロデニウス連邦を目の当たりにした瞬間、その思い込みは間違いだったと気付いた。
口にこそしていないが彼女はロデニウス連邦をムーどころか、祖国である神聖ミリシアル帝国よりも高度な文明を持っていると考えるようになっていた。
「実はあれより前…中央暦1637年1月か2月の頃、『とある方々』が我が国の前身であるクワ・トイネ公国とクイラ王国に接触してきたのです。」
「『とある方々』…?」
「はい。彼らは自らを、異世界の住人と名乗りました。…えぇ。勿論、初めは信じませんでした。」
それからメツサルは笑顔のまま語った。
羽ばたかぬ飛竜である飛行機や、200mを超える鉄船こと戦艦…それを使う彼らは、武力ではなく理性的な交渉で資源と引き換えに様々な技術を与えてくれた。
その後に勃発した『ロデニウス統一戦争』を乗り越え、ロデニウス連邦の建国。
ムーとの接触や、その後の対パーパルディア皇国戦『パーパルディア皇国解体戦争』等々…まるで英雄譚を話すようだった。
「そうして、我々はここまで発展出来たのです。」
「な…成る程…」
メツサルは一仕事終えたという雰囲気だが、フィアームは更に混乱した。
(異世界の住人…つまりは転移してきたのか?まるで魔帝…いや、違う。魔帝ならば理性的な交渉なぞ出来ないはずだ。と、なると…ムー神話のようなものか?)
脳内で様々な考察を展開するが、彼女には気掛かりな事があった。
「メツサル殿、貴殿の話によく出てきた『指揮官殿』という人物ですが…」
「彼ですか?彼は、第四文明圏防衛軍『アズールレーン』の総指揮官として活躍されてますよ。」
「その、指揮官殿と面会する事は可能でしょうか?」
メツサルの話を聞いたフィアームは、ある事を確信していた。
それこそが、"アズールレーンこそがロデニウス連邦の本質"というものだ。
それ故、アズールレーン総指揮官との接触を望んだ。
「指揮官殿は…確か、ピカイア軍港にいらっしゃいますよ。指揮官殿と時間が合えば或いは…ですが、彼は多忙でして…」
「いえ、出来ればで構いませんよ。」
苦笑し、ペコペコと頭を下げるメツサルにフォローの言葉をかけながらも、彼女はまだ見ぬ『指揮官殿』の姿を思い浮かべていた。
そんなフィアームに、メツサルが思い出したように話しかける。
「あぁ、因みにですが。あの二つ結びのメイド…『とある方々』の内のお一人です。」
「…え?」
そろそろ長門かビスマルク、常設入りしませんかね?
友人が欲しがってるんですよ