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──中央暦1640年6月14日午後2時、ピカイア軍港──
神話ミリシアル帝国使節団の面々は、アルバント市から大陸横断鉄道北側路線を使い、ギムを経由してピカイアに到着した。
統一戦争により崩壊したギムは、ロデニウス連邦がサモアから学んだ技術を実践するための都市となっており、サモア全面協力で再開発されたアルバント市には劣るものの、文明圏外国とは思えないほどに発展していた。
そして、軍港都市であるピカイアに訪れた使節団は二手に分かれて視察する事となった。
一方はライドルカ、ベルーノ、メテオスの市街地視察班。
そして、もう一方は…
「は…ははは…」
「嘘だ…」
乾いた笑いしか出てこないアルパナと、今にも吐きそうな顔色のフィアームによる軍港視察班だった。
今二人は、広大な埠頭の一角にある建物…入港する艦船を誘導する為の、港内管制室から軍港を見下ろしていた。
「どの船も100m以上はある…」
「えぇ…しかも、100隻以上はありますね…」
フィアームが震える声で告げ、それにアルパナが同意する。
二人の目には桟橋に停泊する大小様々な軍艦が映っていた。
100m程度の艦体に小型砲と6~8本程度の筒状の物体を装備した艦から、200m以上はあるだろう巨砲を備えた城のような艦に、平たい甲板の上に航空機を搭載した巨艦。
100m程度の小型艦船が最も多いが軍港内は勿論、港外にも整然と多数の艦船が並んでいる。
その数100隻は下らないだろう。
「戦艦と空母だけで10隻はある…巡洋艦らしき艦船は30隻ぐらいか?小型艦に搭載されている、あの筒状の物体はなんだ…?形状からして投光器…にしては数が多すぎるし大きすぎる…」
アルパナが、難しい顔をしながら小型艦の筒状の物体…駆逐艦の魚雷について推察する。
魚雷という兵器が存在しないこの世界では、まさかあれが戦艦すら屠る兵器だとは考えもつかないだろう。
そんな彼の真横で青くなっているフィアームは、ある一つの可能性に行き着いた。
(おそらくは我々の視察を受け入れるに当たって、この軍港に艦船を集めたのだろうが…これが全てだとは思えない。いくら見栄を張る為でも、戦力を全て飾りに使うような愚行を犯す事は無い筈…となると…)
「神聖ミリシアル帝国の方々ですね?」
思考に耽っている二人の背後から、落ち着いた声がかけられた。
ビクッと肩を跳ねさせて素早く振り向く。
「おっと…申し訳ありません。驚かせてしまいましたね。」
二人の視線の先で、声の主は苦笑した。
癖のある金髪に、彫りの深い顔立ちと海のような碧眼。
金のモールをあしらった濃紺の軍服は、如何にも高級将校といった雰囲気があり、胸元には略綬がズラッと付けられている。多数の功績を打ち立てた英雄なのだろう。
「初めまして。アズールレーン総指揮官、クリストファー・フレッツァ上級大将と申します。」
190cm以上ある長身と、筋骨隆々な体格からは想像出来ないような穏やかな笑みと紳士的な態度で二人に握手を求めてきた。
「あぁ、初めまして。神聖ミリシアル帝国軍務省軍務次官のアルパナ・ベイダールと申します。」
「初めまして。神聖ミリシアル帝国外務省のフィアーム・イザロンと申します。」
「アルパナ殿とフィアーム殿ですね?よろしくお願いいたします。」
何の前触れもなく現れた指揮官に一瞬戸惑った二人だが、形式的な挨拶を返しながら握手に応えた。
(若い…)
指揮官のがっしりした手の感触を感じながら、フィアームはそう思った。
確かにメツサルから、『指揮官殿』は若いと聞いてはいた。
しかし、一軍を統べる立場にある者で"若い"と言えばどうしても40代程度と考えてしまう。
だが、彼女の目の前にいる男はどう見ても30代…いや、もしかすると20代後半という可能性もある。
そんな"若者"が第四文明圏防衛軍を標榜するアズールレーン総指揮官というのは、いささか違和感がある。
よほど才能があるのか、はたまた親の七光りでも使ったか…しかし、メツサルの話を信じるなら彼は異世界の人間だという話だ。
もしかすると、異世界人は若く見えるのかもしれない。
「大規模な艦隊ですね…全て、フレッツァ殿が指揮官を勤めるアズールレーン所属の艦船なのですか?」
フィアームが考えていると、アルパナが軍港を指しながら問いかけた。
それに対し指揮官は、頷きながら答えた。
「全てではありませんが、それなりの数がそうですよ。あの中には、ロデニウス連邦海軍の艦船も含まれていますが…どれがどこの所属だというのは、防衛機密なのでお教えしかねます。」
申し訳なさそうに軽く頭を下げる指揮官を見たフィアームは、その態度に内心舌を巻いた。
(ほう…中々に殊勝な態度だ。親の七光りで無理矢理、地位を勝ち取るような者ではなさそうだ。演技の可能性もあるが…とりあえず無能ではないのだろう。)
神聖ミリシアル帝国内でも、有力者が箔を付けるために自らの子を省庁や軍隊に捩じ込む事が僅かにある。
そうやって捩じ込まれた子は大抵、自らの親の地位を振りかざして現場を引っ掻き回す事が多数だった。
かく言うフィアームも、そんな有力者の子の監督役に着いて散々苦労した経験の持ち主なのである。
故に、そういった血筋しか誇るような物が無い人間には敏感だった。
「いえいえ、確かに国交も無い国には教えられませんよね。あー…あれらの艦船は、魔法を使わない機械動力船なのですか?」
指揮官に対し気まずそうな表情を浮かべるアルパナだが、雰囲気を改める為に新たな質問を投げ掛けた。
「はい。ムーと同じく、魔法を使わない科学技術の賜物ですよ。ですが、第四文明圏参加国や新たにロデニウス連邦の同盟国となった、自由フィシャヌス帝国等へ輸出・供与している帆走フリゲートは独自の魔法技術を使用しています。」
「ほう…独自の…」
指揮官の言葉に感心したように頷くアルパナ。
そんな二人のやり取りの間に、フィアームが割り込んできた。
「お話の途中、申し訳ありません。どうしてもお聞きしたい事があるのですが…」
「…我々が異世界から転移してきた、という事に関するものですか?」
質問内容を先読みされていた事に、思わず言葉に詰まるフィアーム。
だが指揮官は、彼女に構わず言葉を続ける。
「メツサル殿からお聞きしたのでしょう?…結論から言いますが、我々は本当に異世界から転移してきたのです。」
「ふ、フレッツァ殿が居られた世界はどのような…世界なのですか?」
おずおずと、アルパナが問いかける。
「…あの戦艦や空母、巡洋艦を易々と沈めるような、海に巣食う化け物と戦争をしてました。…話せば長くなります。」
「あれを…易々と…?」
指揮官の答えに目を見開くアルパナ。
それに対し、指揮官はゆっくりと頷いた。
「えぇ。人類から海を奪い、滅亡寸前まで追い詰めた化け物…我々は、そんな化け物を狩るハンターでした。」
「という事は…今頃、フレッツァ殿の世界は…」
「いえ、我々が転移したのはその化け物を駆逐した後なので、おそらくは大丈夫でしょう。」
「な、成る程…」
信じがたい話を聞いて戸惑うアルパナだが、フィアームは別の考えを抱いていた。
(信じがたい…だが、嘘と断じる事も出来ない。ロデニウス連邦の異常な発展…地道な技術の蓄積やムーの介入でも不可能だ。そうなると…消去法で、ムー神話のような国家転移が発生したと考える他無い…非現実的だが、それしかない。)
チラッと指揮官を見る。
どうやらアルパナと兵器について話しているようだ。
(もし…もし、彼の話が全て本当なら…彼は相当な手練れ、世界を救った英雄の一人という事になる。)
指揮官を更に観察する。
彼女の目は、彼の手に向いていた。
(薬指に指輪は…無い。となると未婚か。)
フィアームは移動中、ロデニウス連邦の風習等を貸し出されたスマートフォンを使って調べていた。
その結果、ロデニウス連邦では既婚者は手の薬指に指輪を着けるという風習がある事が分かった。
(もし、彼の話が本当なら…適当な貴族の娘を…)
フィアームは、指揮官の話が真実だった時の事を考えて策を練っていた。
優秀な人材と、大規模な戦力…その矛先が祖国に向かない為に、そしていつの日か復活するであろう魔帝との戦いで彼らを利用する為の策だ。
言ってしまえば、神聖ミリシアル帝国民…特に貴族の娘と、彼を結婚させる政略結婚を狙っていた。
自分の妻の祖国を攻め込むような男は居ないだろうし、妻の祖国が危機ならば率先して助けに行くはずだ。
覇権主義から脱却した神聖ミリシアル帝国が、武力の代わりに勢力拡大に用いていた手段を、ロデニウス連邦及びアズールレーンに使おうと考えたのだ。
「…何か?」
策を練るフィアームに、指揮官が問いかけた。
どうやら彼の手をじっと見ていた事に感付かれたらしい。
「あ…い、いえ…あ、薬指に何か怪我をされていますよね?それが気になって…」
「あぁ…これですか。」
フィアームの言う通り、指揮官の左手薬指の付け根には小さな傷があった。
それを見ながら指揮官は、フッと微笑んだ。
「キツネに…噛まれたんですよ。」
「キツネ…ですか?」
「えぇ。凶暴で恐ろしく…可愛い奴ですよ。」
【悲報】フィアーム、地雷を踏みそう
今後、お色気シーンは…
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