異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

13 / 253
sigure4539様より評価9を頂きました!

今回は、アズールレーンに関する独自解釈及び、ゲーム的な用語を用いた表現、下手な例え話が含まれます
あらかじめ、ご了承下さい
























では、どうぞ


12.ロイヤル伝説

未知の敵、『セイレーン』に対抗する為に生み出された女性の姿を持った人型兵器KAN-SEN。

そもそもKAN-SENとは、Kinetic Artifactual Navy - Self-regulative En-lore Node…意訳するのであれば、動力学的人工海上作戦機構・自律行動型伝承接続端子の略である。

要約すれば、伝承に接続出来る自立行動可能な兵器…という事になるだろうか。

自立行動可能な兵器は理解出来る。KAN-SENにも人間と同じような人格がある以上、自ら考え行動する事は当たり前のように遂行出来る。

では、伝承接続とは一体どういう意味合いだろうか。

 

KAN-SENを、映画を上映するための機材に例えれば分かりやすいかもしれない。

KAN-SENを映写機、艤装がレンズ、戦場がスクリーンだ。

しかし、映画を上映する為にはもう1つ、欠かせない物がある…そう、フィルムだ。

そのフィルムこそがKAN-SENそれぞれが持つ生い立ちや特徴、逸話であり、これを『カンレキ』と呼ぶ。

言ってしまえばKAN-SENとは、『KAN-SEN』という映写機が『カンレキ』のフィルムを『艤装』のレンズを通して『戦場』というスクリーンに投影する事で、在りし日の軍艦の力を発揮している。

例えば、41cm砲を装備したKAN-SENがその主砲を発射したとしよう。

そのKAN-SENは、映写機がフィルムを投影する為にモーターやライトを作動させるかの如く、自らの体から特殊なエネルギーを発生させる…これを『伝承接続状態』と言う。この伝承接続状態で艤装を起動させ、そのエネルギーを艤装の主砲を通して発射する。すると、戦場というスクリーンには41cm砲弾の発射炎や音、弾道に衝撃波、そして直撃時の様々な破壊力が投影されるのだ。

これは『伝承打撃』と名付けられており、セイレーンに対しての有効打となりえる攻撃とされている。しかし、伝承を完全に再現出来ていない為、実際の威力は50%ほど減衰している。

映画は映写機とレンズとフィルムとスクリーンだけでは完全ではない。そう…音響が必要だ。

どちらかと言えばただの映画では無く、活動弁士が居る無声映画に例えた方が良いのかもしれない。

そして、活動弁士の役割を果たすのが実弾…つまりは弾薬だ。

実弾に伝承打撃のエネルギーを纏わせる事で装備している艤装の威力、それを100%引き出す事が出来るのだ。

 

他にも、艤装の換装や俗にスキルと呼ばれる『伝承再現』についてだとか色々とKAN-SENの情報はある。しかし、今はこれだけを知っていれば十分だろう。

『KAN-SENは弾薬が無くとも戦える』

 

 

──中央暦1638年4月26日午前7時頃、マイハーク西方沖・ウォースパイト艦橋内──

 

「Belli dura despicio!」

 

──ドンッ!ドンッ!

 

ウォースパイトの気迫溢れる言葉と共に、38.1cm連装砲が火を噴く。衝撃波により海面の波が潰れ、平らになってしまう。

 

「……手応えあり、命中ね。」

 

「流石の腕前だな、ウォースパイト。」

 

ロウリア艦隊より20km離れた位置に単艦で陣取っているウォースパイトの艦橋で水平線を見据えるウォースパイトと、レーダー画面を見る指揮官とブルーアイ。

ブルーアイはレーダーの見方をいまいち分かっていなかったが、画面に何らかの変化があった為、彼女の言うとおりロウリア艦を撃破したのだろう。

 

「でも、実弾が無いといまいちねぇ…」

 

「木造船相手には伝承打撃だけでも十分過ぎるさ」

 

そう、今のウォースパイトは"実弾"を使っていない。本来は弾薬切れの際に使う最後の手段、実弾を伴わない『伝承打撃』を使用して砲撃をしているのだ。

 

「20km先の相手に当てるなんて…」

 

「ウォースパイトは本気になれば、24km先の相手にも…しかも、ロウリア艦隊よりも速い相手に当てますよ。」

 

「なんと…」

 

「当然よ、私はウォースパイト…戦争を軽蔑する者よ。だが、この私から陛下や指揮官とのティータイムを奪う者には容赦しないわ。」

 

ふふん、と胸を張るウォースパイト。だが、その特徴的な癖毛がピクッと動いた。

 

「敵機…いいえ、"敵騎"の反応を感知。」

 

「この空は加賀に任せてある。クワ・トイネ空軍はエジェイに居るからな。」

 

「そう、なら安心ね。」

 

指揮官とウォースパイト、二人の会話を聞きながらブルーアイは異次元の戦場に戸惑う事しか出来なかった。

 

 

──同日同時刻、ロウリア艦隊──

 

「司令部!こちら、東方征伐艦隊!謎の攻撃を受けている!至急、反撃の為の航空支援を送ってくれ!」

 

通信士から魔信を引ったくると、悲鳴のようにロウリア本国の司令部へ通信を送るシャークン。

何処からか光の玉が飛んできたかと思うと、それが海面に達した瞬間、一番大きな帆船のマストすら越える水柱が上がり、それに飲み込まれた船はバラバラ…近くに居るだけでも転覆してしまう。

そんな光景を目の当たりにした水夫達はパニックになりながら、出鱈目に船を走らせる。

 

《その声はシャークン将軍か!?何があった!》

 

「パタジン殿!空から光……うぉっ!…くっ、何か分からない攻撃を受けている!」

 

《わ…分かった!とにかくワイバーンを150…いや、250送る!それまで持ちこたえてくれ!》

 

「助かる!」

 

通信に出た者が最高司令官であるパタジンであったため、素早い判断が下された事に感謝しながら揺れる船の上でどうにか踏ん張る。

付近に光の玉…ウォースパイトからの砲撃が着弾し、その度に水柱が上がり海水の雨が降り船が大きく揺れる。まるで時化に突っ込んだかのようだ。

 

「司令部にワイバーン部隊を要請した!それまで持ちこたえろ!」

 

どうにか士気を保たせるべく、援軍が来る事を知らせる。だが、シャークンの鼓舞は悲鳴混じりの報告に掻き消された。

 

「左舷方向より、大型船接近!」

 

「右舷からもだ!」

 

千切れんばかりに左舷方向を向く。

見たことも無いような巨大な灰色の船が3隻、やたら速いガレー船を引き連れて艦隊から離れた船を、何らかの方法で攻撃している。敵船が炎を噴く度に、船が砕けて海の藻屑となる。

 

(あれは…魔導砲か!?)

 

パーパルディア皇国にて演習を見学した事のあるシャークンは、その攻撃に心当たりがあった。

離れた敵船を一方的に破壊する恐るべき兵器…しかし、それは文明国でしかお目にかかれないものであり、こんな文明圏外にあっていい物ではない。

 

 

──同日同時刻、シェフィールド艦上──

 

「はぁ…実弾使用禁止とは…フラストレーションが溜まります。作戦が終わったら、がいちゅ…ご主人様に模擬弾を叩き込みましょうか。」

 

クワ・トイネ海軍の幕下級警備駆逐艦2隻と、改装ガレー船5隻を率いて散開したロウリア艦隊を各個撃破する任務についていたシェフィールドは不機嫌そうに呟いた。

 

《シェフィ!指揮官だって弾薬費と釣り合わないって言ってるし、事実そうなんだから抑えてよ!》

 

シェフィールドの独り言を通信越しに聞いていたエディンバラが彼女を嗜める。

そう、エディンバラの言うとおり対ロウリア艦隊においてサモアの戦力は色々と割りに合わない。

家一軒分の値段とも言われる魚雷を手漕ぎ船に使う事はコストパフォーマンスが余りにも悪い。もちろん、ウォースパイトの38.1cm砲弾もメイド二人の15.2cm砲弾も割りに合わない。その上、威力過剰だ。

その為、普段は使わない非実弾攻撃である伝承打撃によって攻撃している。

例え、威力が半減していてもロウリア艦隊には十分過ぎる威力であり、弾道や射程は変わらないため普段通りに戦える。

しかし、戦う為に生まれてきた自分達がこうして制限をかけられたまま戦場に出されると言う事は、少なくともシェフィールドにとっては不満であった。

 

「…トカゲが飛んできてますね。クワ・トイネの皆様、対空攻撃は気にせず海上に集中されますように。エディンバラもですよ」

 

《了解!》

 

《シェフィに言われなくても分かってるってば!》

 

自らが引き連れるクワ・トイネ海軍艦艇と、ロウリア艦隊を挟んで反対側に居るエディンバラに呼び掛ける。

今回、エアカバーにやってくるのは世界に名だたる空母機動部隊が片割れ、加賀の艦載機達。

性能の差は歴然、取り零しも自分とエディンバラで対応出来る。

そんな、指揮官からの指示を思い出しつつ頭上を飛び越えて行く機影を見上げた。

 

 

──同日ウォースパイトの初撃より15分後、マイハーク沖上空──

 

「なんだこの有り様は…」

 

海戦の舞台となっているマイハーク沖上空に到着した、ロウリア軍ワイバーン部隊の隊長は海上を見て唖然とした。

見送った艦隊は4000隻を越える大艦隊。美しい一切の乱れがない陣形で海を突き進む艦隊は、クワ・トイネ艦隊を蹂躙するだろうと思っていた。だが、現実は違った。

精強なるロウリア艦隊は、蜘蛛の子を散らしたように皆ががむしゃらに動き回り、波間には無残に破壊された船の残骸やバラバラになった人間のパーツが浮かんでいた。

 

「あの船か!?……なんて大きさだ!」

 

隊長がロウリア艦隊の左右に展開したシェフィールドとエディンバラ、そして遥か先に見えるウォースパイトを指した。

 

「味方の左右に居る敵大型船に75ずつ、100は俺について来い!」

 

隊長は素早く指示を飛ばし、上空からの攻撃で敵艦隊を撃破しようと試みた。

だが、それは叶わなかった。

 

《上空!敵騎接近!》

 

誰かからの報告を聞いた隊長は、上空を確認する前に、ブーンと言う聴き馴染みのない音が聴こえた。

次の瞬間には、愛騎もろとも何かに貫かれ、波間を漂う残骸の仲間入りを果たしていた。

 

 

──同日同時刻、ロウリア艦隊後方──

 

「なっ……」

 

謎の攻撃の正体を探るべく、水平線を睨んでいたヴァルハルは驚愕に思考が染められていた。

水平線の彼方から飛来する謎の光の玉に、ロウリア艦隊の左右に現れた巨大船。

 

「まっ…まさか、ムーか!?」

 

ヴァルハルの脳裏を過ったのは、この地から遥か西方の列強国、ムーの存在だった。

左右の巨大船は、遠目にしか見えないが回転砲塔のような物を備えているように見える。更には、帆が無いにも関わらず高速で航行し、うっすらと黒煙を吐き出している。それらの特徴は、ラ・サカミ級始めとするムーの船が持つものだ。

本来、ムーは中立を掲げているためこんな文明圏外国の戦争に荷担する事は無い。

だが、このロデニウス大陸のクイラ王国にはムーが求める石油が豊富に埋蔵されている。クイラ王国と国交を結んだムーが権益保護のため、介入してくる可能性もゼロでは無い。

 

(だが、こんな東方の僻地までムーが進出してくるか?それに…あの船はムーの物よりも洗練しているように見える。)

 

ヴァルハルが現状を分析しようと、いっぱいいっぱいな頭をフル回転させる。

正に、思考回路はショート寸前だ。

 

「ワイバーンが来たぞ!」

 

そんなヴァルハルの思考を遮るようにロウリア兵が上空を指差す。

それに釣られるように、空を見上げるとロウリア軍のワイバーン…200以上は居そうな大部隊が戦域に到着した。

 

(流石のムーでも船だけではワイバーンには苦戦するだろうな。)

 

そう考えていたヴァルハルであったが、彼の目に何やらキラッと光る物が映った。

ワイバーン部隊の遥か上空、小さな点にしか見えない。

それは、初めは何か理解出来なかった。だが、ブーンと言う独特の音はヴァルハルには理解出来た。

 

「やはり…飛行機械か!」

 

ワイバーンの上空から降下してきた飛行機械は、鼻先をチカチカ光らせた。すると、ロウリア軍のワイバーンが、ガクッと急に力を失い竜騎士もろとも混乱の最中にあるロウリア艦隊の只中に堕ちていった。

 

(違う!ムーの『マリン』ではない!)

 

ヴァルハルが掴んでいたムーの最新鋭飛行機械、マリンの情報と謎の飛行機械は大きく違っていた。

ムーのマリンは、翼が上下二段になっている複葉機と呼ばれるものだ。しかし、今ロウリア軍ワイバーンと交戦している飛行機械は、より洗練された形状で翼は左右を貫くような形で配置されている一枚しか無い。どちらかと言えば神聖ミリシアル帝国の『天の浮舟』とマリンを足したような形をしている。

そう、マイハーク港沖に停泊している加賀より発艦した『零戦52型』が機首の機銃でワイバーンを次々と撃墜しているのだ。

 

(なんだ!一体どこの飛行機械だ!?)

 

撃墜されて行くワイバーンを見上げながら、ヴァルハルは必死に考える。

だが、その思考は結論を出す事は出来なかった。

 

──ドンッ!

 

「うおぉぉぉぉ!?て…転覆する!」

 

至近距離に着弾したウォースパイトの砲弾によって発生した波に巻き込まれ、転覆する帆船。その勢いで海へと投げ出されたヴァルハルは、背中から海面に叩き付けられ気絶してしまった。

幸いな事に、仰向けだったため溺れる事はなかった。

 

 

──同日同時刻、ロウリア艦隊中央──

 

「……撤退だ!」

 

「は…?」

 

「撤退せよ!もう持たん!」

 

奇妙な飛竜により、250ものワイバーンは殆ど撃墜されてしまった。その上、艦隊はクワ・トイネ海軍と一戦交えるどころか、逃げるのに手一杯な状態だった。

故にシャークンは、無駄な犠牲をこれ以上出さない為に撤退を決断したのだった。

 

「は…はいっ!」

 

全艦に撤退命令を伝える通信士を、自ら手助けしようとした。しかし、上空から何か聴こえてきた。

 

「仲間の仇ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

奇跡的に加賀の零戦から逃れた竜騎士がワイバーンを全速力で飛ばし、ウォースパイト目掛けて飛んで行く。だが…

 

──ドンッ!

 

ウォースパイトの砲撃がワイバーンに直撃、竜騎士とワイバーンが血煙になった瞬間を目撃したシャークンが次に見た光景…それは、自らが乗船している帆船の船首に砲撃が命中した瞬間だった。

 

 

──同日同時刻、ウォースパイト艦橋内──

 

「やるねぇ、ワイバーンに主砲を当てるとは。」

 

「狙った訳じゃないわ。偶然よ。」

 

加賀からの通信で、ロウリア艦隊の撤退と、ついでにウォースパイトの砲撃が飛行しているワイバーンを撃墜した事を聞いた指揮官とウォースパイトは、一息つくように砲撃を止めてシェフィールドとエディンバラに漂流者の救助を命令した。

その間、ブルーアイは長距離砲撃の有効性を軍務局へ訴えかける為の、報告書の参考にするメモを取る事に忙殺されていた。

 

斯くして、マイハーク沖海戦は終結した。

ロウリア海軍の損害は、軍船3000隻以上、ワイバーン220騎、兵士集計不能、という大損害を被った。

一方、クワ・トイネ海軍の損害は改装ガレー船に装備した37mm機銃から排出された薬莢に接触した事による火傷が2名、確認されたのみだった

 




457mm連装砲の設計図が集まりません

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。