なんだろう…最近、上手く書けない気がするなぁ…
──中央暦1640年6月19日午後2時、サモア基地ウポル島母港──
──ブゥゥゥゥゥゥン…キッ…キッ…
母港に併設された飛行場に1機の爆撃機が着陸した。
白を基調とし青いラインを描いたそれは、『ランカスター爆撃機』を旅客機に改造したものだ。
すると、機体側面の搭乗口が開いてそこから人影が現れた。
「ここが…アズールレーンの本拠地…」
「なんだ、この港は…カルトアルパス並み…いや、カルトアルパスより遥かに大きいぞ…」
タラップを降り、辺りを見渡しながら呆然と呟いたのはライドルカとフィアームだった。
まるで植物の根のように海へと突き出した無数の桟橋に、忙しなく動く巨大なクレーン。建ち並ぶ無数の建物は、飾り気が無く物々しい雰囲気を漂わせており、この港が軍港という事を知らしめている。
「な…な…これが…全部軍艦なのか!?戦艦も空母も巡洋艦も…ピカイア軍港の二倍は居るじゃないか!」
「おぉっ!?あれは、まさかゴーレム!?我が国でも実験段階のゴーレムがあんなにも…」
一方でアルパナは桟橋に停泊する200隻もの艦船を目の当たりにして何度も目を擦り、ベルーノは母港内を行き来するゴーレム…作業用スコープドッグを目の当たりにして興奮しながら顔を青くするという、器用な芸当を披露していた。
「これは…ムーどころか、我が国でも勝てるか…」
それぞれ驚愕の表情を浮かべる4人の最後尾を歩くメテオスは、眉をひそめながら呟いた。
そんな使節団の前に、純白のリムジンが停車し後部座席のドアが開いて一人の女性が降りてきた。
「あなた方が神聖ミリシアル帝国の使節団か」
内巻きの長い金髪に、ルビーのように赤い瞳。白と赤を基調とし、金のモールや肩章をあしらった華美な軍服は相当に高い位の人物であるという事を窺わせる。
「初見となる。我が名は、キング・ジョージ5世。ジョージ、と呼んでくれても構わない」
深紅のマントを翻らせながら名乗ったのは、KAN-SEN『キング・ジョージ5世』だった。
堂々とした立ち振舞いに、そこらの女優でも霞むような美貌…その名も相まって、どこかの王族と思わせる高貴な雰囲気を纏っている。
「…あ、失礼。私はフィアーム・イザロンと申します。そして、こちらが…」
「構わない。あなた方の事は聞いている」
雰囲気に飲まれかけていたフィアームが自己紹介しようとするが、予め使節団について教えられていたジョージは手でやんわりと彼女の言葉を遮る。
「ふむ…あなたが、メテオス・ローグライダーか?」
「…そうだったら、何か?」
使節団の最後尾に居たメテオスに向かって、ジョージが問いかける。
「…いや、私から言うべきではないな。さあ、車に乗ってくれ」
フッ、と何か含みのある笑みを浮かべたジョージだったが、手でリムジンを指すと乗り込むように促した。
「あの…どちらへ?」
ライドルカが怪訝そうな顔でジョージに問いかける。
それに対し、ジョージは得意気な顔で答えた。
「指揮官が建造ドックで待っている。離れているから車を使うが…道すがら、あなた方に伝えておくべき事がある」
──同日、リムジン内──
革張りの上等なシートが据え付けられた、僅かなロードノイズすら聴こえない車内。
そこでは、使節団の5人がジョージから様々な話を聞いていた。
それは、サモアがあった世界…異世界についての事だった。
「信じ…られない…」
ライドルカが虚ろな表情で俯きながら、首を横に振った。
それも無理は無いだろう。
80億もの人口が10億まで減る程の世界大戦に、100年以上の復興期間。
漸く復興し、新たなる歴史を刻み始めた人類の前に現れた脅威『セイレーン』。
セイレーンにより制海権を失い、再び滅亡の危機に晒された人類を救う新たなる剣…
「その…ジョージ殿、貴女が…」
「人の姿を持った兵器…KAN-SEN…だと言うのですか?」
アルパナとベルーノが瞳を震わせながら、ジョージに目を向ける。
セイレーンに対抗する為に生み出された兵器…在りし日の軍艦の力を人の姿に収めた最強の海上戦力KAN-SEN。
目の前にいるジョージが、その一人だという事は余りにも衝撃的だった。
「そうだ。私はKAN-SENの内の一人…戦艦『キング・ジョージ5世』の力を持つ者だ」
何でも無い事のようにあっさりと肯定するジョージだが、使節団の面々は互いに顔を見合わせたりして落ち着きの無い様子だった。
──ダンッ!
ざわつく車内に、一際大きな音が響く。
何事かと、全員が音のした方を見る。
「馬鹿に…しているのですか…?」
それは、俯いたままプルプルと震えるフィアームだった。どうやら、シートに備え付けられているひじ掛けに拳を叩き付けたらしい。
「このサモアが異世界から転移したという事は百歩譲って認めましょう…その異世界で未曾有の戦争が勃発した事も、未知の敵が再び人類を危機に陥れた事も同じく認めましょう…」
顔を上げ、キッと鋭い目付きでジョージを睨み付けた。
「貴女が戦艦!?あり得ない!戦艦の艦長だと言うのであれば分かりますが、"戦艦そのもの"だというのはあり得ない!」
ビシッと窓を指差し、停泊している艦船を示すフィアーム。
「あの鉄の塊が、貴女だと言うのですか!?」
「その通り。だが、この場に私の艦体は展開していない」
「ならば証拠を…」
「フィアーム殿、落ち着いて下さい!」
ヒートアップするフィアームを宥めようとするライドルカ。
優秀で理解力もあるフィアームだが、いくら何でも一人の女性が巨大な戦艦その物だという事は理解出来ないようだ。
それ故、荒唐無稽な話で馬鹿にされたと感じてしまったらしい。
余りにも多くの非常識な話を聞いて余裕が無い中、そんな話を聞いてしまっては取り乱してしまうのも仕方ない。
「ふむ…証拠か」
ジョージは取り乱すフィアームに何の感心も無いのか、腕を組んで何か考え込む。
「…ここでいいか。停めてくれ」
窓の外を眺めていた彼女だったが、何かを見付けたのか運転手に停車を命じて、リムジンを桟橋の袂に停止させる。
「フィアーム殿。証拠が見たいと言うのであれば、今すぐに見せようではないか」
「な、何を…」
未だに怒りが消えない表情のフィアームだが、ジョージは彼女に悪戯っぽい笑みを向けて見せた。
「百聞は一見にしかず…さあ、ご覧あれ!」
そう言ってリムジンのドアから出ると、桟橋から飛び降りた。
「なっ…!?」
アルパナが目を見開き、身を乗り出す。
桟橋から海面まではそれなりの高さがある上、ジョージは服を着込んでいた。
普通に考えれば海面に叩き付けられ、衣服が海水を吸って沈んでしまう筈だ。
しかし、そうはならなかった。
「この光…っ!」
メテオスが思わず顔を逸らしてしまう程の閃光が海面から放たれ、閃光と共に輝く青い立方体が乱舞する。
「な、なんだ…これは…」
ライドルカが口を開け、ポカンとした表情を浮かべる。
青い立方体により描かれる軌跡は巨大な戦艦のシルエットとなり、更なる光を放って輝く。
「目を…開けてられない!」
ベルーノが顔を伏せ、閃光から目を守る。
だが、閃光は直ぐに治まり使節団の面々は恐る恐る顔を上げた。
「ま、まさか…こんな事が…」
フィアームが全身をガタガタと震わせ、顔を真っ青にする。
彼女の目に映っていたのは、内陸に艦首を向ける戦艦だった。
全長227.2m、全幅31.4m、基準排水量36,772tにも及ぶ巨体には、35.6cm4連装砲塔2基が誇らしげに装備されている。
『キング・ジョージ5世級戦艦』のネームシップ、その堂々たる姿に彼女は…いや、使節団の面々は畏怖の感情を覚えた。
「キング・ジョージ5世級のネームシップとは私の事だ。他に知りたい事があれば申すがよい」
艦首に立つジョージの良く通る声が使節団の耳に届く。
だがフィアームを始めとした面々は、大海の王者を前に平伏する事しか出来なかった。
PoWとDoYが姉妹っていうのは違和感あるけど、二人ともKGVの妹っていうと納得出来る