異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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鉄槌様より評価10、ぽんこっつ様より評価8を頂きました!

レースクイーン着せ替え全部買ったら諭吉が消し飛びました
っていうかあのCM放映するのか…これじゃ、アズレンがエッチなゲームだと思われてしまう


130.家族のあり方

──中央暦1640年6月21日正午、サモア基地ウポル島内ホテル──

 

「むぅぅぅぅ…」

 

ホテルの上層階の一室、そこで一人の女性が机と向き合って頭を抱えていた。

 

「転移によりこの世界に現れたサモア…戦闘艦の力を持った女性であるKAN-SEN…そして、メテオス殿の干渉により生み出された魔帝のKAN-SEN…ダメだ、何をどう説明すればいいんだ…」

 

神聖ミリシアル帝国使節団代表のフィアームは、白紙の報告書を前にして深い溜め息をついた。

しかし、こう悩んでいるのは彼女だけではない。

彼女達使節団は、一旦帰国する三人に持たせる為の報告書を製作しているのだ。

 

「テュポーン殿は口調こそアレだが、比較的友好的だ。彼女と上手く付き合って行く事が我が国の利益となるだろう…」

 

眉間に深いシワを刻みながら腕を組み、うーん…と唸るフィアーム。

 

──コンコンコンコンッ…

 

すると、部屋の扉がノックされた。

 

「どうぞ」

 

やや驚きつつも、扉の向こう側に居るであろう人物に入室を許可する。

 

「フィアーム様、失礼致します。昼食をお持ちしました」

 

扉を開けサービスワゴンを押して入って来たのは、一人のメイドだった。

純白のホワイトプリムを頂いた長い銀髪に、やや紫がかった碧眼。二の腕や胸元が大きく開いた中々に露出度が高いメイド服を着用しているものの、いやらしさを全く感じさせない気品を持つKAN-SEN『ベルファスト』だ。

 

「ん…?あぁ、もう正午でしたね」

 

ベルファストの言葉を聴いて漸く昼食時だと気付いたフィアーム。

正に時間も忘れて机と向き合っていた彼女だが、時間を認識すると空腹を自覚してしまう。

 

「随分と根を詰めておられたようですが…体調等は崩しておられませんか?」

 

「いえ、大丈夫です。こういった作業には慣れていますので」

 

ソファーの前に置いてあるテーブルに、サービスワゴンから取り出したサンドイッチや、ティーセットを配膳しながら問いかけるベルファスト。

そんな問いかけにフィアームはずっと座っていた椅子から重い腰を上げ、伸びをしながら窓に近付きつつそう答えた。

 

「左様でございますか。差し出がましい言葉、失礼致しました」

 

「いえいえ、お気にならさず」

 

ペコリと頭を下げるベルファストに、フィアームは苦笑しながら返した。

普通のメイドならば適当にあしらってしまう所だが、彼女はKAN-SEN…ロデニウス連邦の実質的な盟主である、サモアの戦力を担う存在。それ故、フィアームはベルファストに対してどう接すれば良いのかイマイチ掴みかねていた。

だからだろうか、気不味さを紛らわせるように窓から地上を何気無く見下ろす。

 

「ん…?」

 

ふと、彼女の目を引く物があった。

それは、大通りを挟んで向かい側にある高層ビル…フィアーム達使節団が滞在しているホテルと同系列の企業が運営しているホテルから、三人の人影が出てくるが見えた。

太陽の光を反射するような金髪が一人と、銀髪が二人。銀髪の人物の内一人はかなり小柄で金髪の人物に抱き抱えられている事が窺える。

 

「あれは…?」

 

目を細め、良く観察してみる。

金髪の方は見た事がある。遠くからでも分かる程に恵まれた体格を持つ男、指揮官ことクリストファー・フレッツァだ。

そんな彼の傍らに居るのは、ツバの広い帽子を被った白銀の髪を持つ、遠くからでも分かる程に豊満な肢体の女性だという事が分かる。

そして、指揮官の腕に抱かれているのはおそらく子供…傍らの女性と同じ白銀の髪で、服装から見て女児であるようだ。

 

「あら…ご主人様とイラストリアス様とリトル・イラストリアス様でございますね」

 

いつの間にフィアームの真横に立って、同じく窓から地上を見下ろしていたベルファストがそう述べた。

 

「彼女達も、KAN-SENなのですか?」

 

「はい。イラストリアス様もリトル・イラストリアス様も、お二方共私と同じロイヤルのKAN-SENでございます」

 

そう答えたベルファストの言葉に、やはりかという態度で頷く。

そうしながらも三人を見ていたが、迎えに来たらしい黒塗りのハイヤーに三人が乗り込んだ。そうなれば、もう様子を窺う事は出来ない。

しかし、フィアームの脳裏にはとある疑問が浮かんでいた。

 

「あの…ベルファスト殿。少し失礼かもしれませんが…質問をよろしいでしょうか?」

 

「はい、私にお答え出来る範囲であれば何なりと」

 

正直、こういった質問は憚られる事だろう。

しかしフィアームは、自らの計画を実行するにはこの質問をしなければならないと考えていた。

 

「では、失礼しまして。フレッツァ殿が抱き抱えていた…リトル・イラストリアス殿、彼女はフレッツァ殿とイラストリアス殿のお子様なのですか?」

 

そう、ここにきて指揮官が子持ちだという疑惑が発生したのだ。

ロデニウス連邦大統領であるカナタから、指揮官は未婚だと聞いてはいる。

普通に考えれば、未婚の男性が子持ちな訳がない。子持ちの未亡人等と交際をしているという可能性もあるが、KAN-SENという特殊な存在である彼女達が未亡人という可能性は低いだろう。

しかし、彼女達は異世界の住人。もしかしたら異世界では、未婚でも子供を作る習慣があるのかもしれない。そうなればフィアームの計画…指揮官と自国の貴族を結婚させ、サモアの戦力を利用するという事が難しくなるだろう。

 

「その通りでございます」

 

その鈴の鳴るような声は、フィアームの計画をあっさりと否定した。

 

「で…ですが、フレッツァ殿は未婚だと…」

 

まさか本当に子持ちだとは思わず、目を見開いてしまうフィアーム。

そんな彼女にベルファストは、あくまでも淡々と真実を告げるように答えた。

 

「左様でございます。ご主人様は未だ未婚…ですが、ご主人様は私達を分け隔て無く愛して下さいます。それ故ただ一人だけを特別視せず、平等に愛する為に敢えて未婚なのです」

 

実を言うとベルファストは嘘をついている。

リトル・イラストリアスは指揮官とイラストリアスの間に産まれた子供ではない。キューブ実験の際に生み出されたKAN-SENである。

なぜ彼女がそんな嘘をついたのか。それは、彼女がフィアームの考えを察していたからだ。

 

(ふふっ…大方そちらのお嬢様とご主人様を婚姻させ、政治的に利用するご計画なのでしょうが…そうはさせません。ご主人様を…私達の指揮官を、貴国の駒にはさせませんよ)

 

時に"三枚舌"とも言われる外交手腕と諜報能力を持つロイヤルだが、それはKAN-SENにも言えるのだろう。

大国の考えというのは、彼女にとってはある意味分かりやすいものだった。

心中で意地の悪い勝ち誇ったような笑みを浮かべるベルファストだったが、一方でフィアームは顔には出さないものの内心焦りまくっていた。

 

(み、未婚で子供が居るとは…しかも複数人のKAN-SENと関係を…?いやいや、私の思い過ごしかもしれない。誤解して、間違った情報でフレッツァ殿を誹謗中傷するような事となれば、"最悪の事態"となるかもしれない!だが、どのみち男爵家の行き遅れ…もとい、お嬢様ではイラストリアス殿やベルファスト殿には敵わんだろう。別の手を考えなければ…)

 

実を言えば、フィアームが指揮官に引き合わせようとした男爵家の娘というのは所謂"地雷女"という者だった。

決して不細工では無いが、甘やかされた末っ子という事もあって我が儘で理想がやたら高く、使用人に対しても高圧的な態度という如何にもな地雷なのである。

そんな"地雷"と、美しく気立ても良いKAN-SEN達ならどちらを選ぶかは明白だろう。

 

「フィアーム様、昼食をどうぞ」

 

ニコニコしながらテーブル上のサンドイッチと紅茶が注がれたティーカップを指すベルファスト。

そんな彼女に、フィアームも精一杯の愛想笑いを浮かべながら応えた。

 

「あ、あはは…そうですね。そういえば、空腹でしたよ」

 

ソファーに座り、お絞りで手を拭いてからサンドイッチに手を伸ばす。

 

(サモアの戦力を利用するにはどうすべきか…いや、もういいか。私はあくまでも外交官。専門家に任せよう)

 

思考を放棄し、サンドイッチを口にする。

軽くトーストした薄切りの食パンにスライスした玉ねぎの辛味と、黒胡椒を効かせたローストビーフ。食パンにはバターが塗ってあるのか、玉ねぎと黒胡椒の辛味をまろやかにしている。

 

(美味い…こんな簡単な食事すらもこのクオリティー…政略結婚なんぞより、駐ロデニウス連邦大使になるために動いた方がいいのかもしれん)

 

ある種の現実逃避に走るフィアームだが、その諦めは英断だと言えるだろう。




やはり口を閉じたエセックスは強い…

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