異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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130話の続きとは関係無い話が続きますが、執筆のリハビリと今後の展開の伏線に必要な話となっています




132.水先案内人

──中央暦1640年6月22日午前10時、ロデニウス連邦首都クワ・トイネ大統領府──

 

「では、これより『空路・航路における安全航行の為の会議』を始めます」

 

ロデニウス連邦に神聖ミリシアル帝国の使節団が訪れているなか、大統領府内の会議室にて産業大臣アラハムが宣言した。

 

「はい。発言よろしいですか?」

 

「ホエイル長官、どうぞ」

 

挙手しアラハムから発言の許可を得たのは、沿岸警備隊長官のホエイルだった。

 

「えー…我が国を始めとした第四文明圏、そして第三文明圏の一部、及びムーにロラン基地局を設置し運用している事は皆さんご存知の事かと思います」

 

彼の言う通りロデニウス連邦とアズールレーンは、彼らが中心となる第四文明圏や同盟国であるアルタラス王国等が在籍する第三文明圏、更に友好国であり最大の貿易相手であるムーに『LONG RANGE NAVIGATION』…通称『ロラン』の基地局を建設し、それを活用して航空機や船舶の安全な航行を行ってきた。

 

「私が指揮する沿岸警備隊や民間企業では民間向けのロランAを、軍ではロランCを使用している事もご存知の事と思います」

 

ホエイルの言葉に会議の参加者が一様に頷く。

このロランは、2ヶ所の基地局から発せられる信号の到達時間差を利用し自らの位置を特定するというものである。

沿岸部の地形を見て位置を特定する『地文航法』や天体の動きや位置を利用する『天文航法』よりも正確かつ、天候等に左右されにくいという特徴を持つため、より安全で効率的な航行が可能となっていた。

しかし、このロランにも幾つかの欠点があった。

 

「ですがロランAの最高有効距離は約2,500km、ロランCは約4,200km…十分な距離と言えますが、第三文明圏から第二文明圏へ向かうとなると有効距離から外れてしまい、従来の天文航法に頼らざる負えません。勿論、各地に点在するムーの空港からの信号を利用する事も可能ですが、如何せんムーの電波航法システムはロランよりも有効距離が短いので安全かつ効率的な航行には使い辛いのです」

 

「確かに…それは貿易会社や航空会社から改善を求められています。機械動力船や航空機は、風さえあれば良い帆船とは違って燃料を消費してしまいますからな。効率的な航行を行わなければ経済的な損失は勿論、難破の恐れもあります」

 

タブレット端末を見ながら発言するホエイルに、アラハムが同意する。

 

「ですがタイミングがいい事に、神聖ミリシアル帝国の使節団が国交開設の為に我が国を訪問しています。神聖ミリシアル帝国の港町カルトアルパスや、首都ルーンポリス…他数ヵ所に基地局を設置する事が出来れば主要な航路をカバーする事が出来ますので…」

 

「国交開設の暁には建設許可を求めると?しかし、ミリシアルが他国の大規模基地局建設に同意するだろうか?かの国は魔法文明国の総本山…科学文明国の技術をふんだんに利用した施設を主要都市に置かれる事にいい顔はせんだろう」

 

ホエイルの考えに外務大臣リンスイが渋い顔をしながら応える。

ロランの基地局は長大なアンテナと莫大な電力が必要となる為、それなりに大規模な施設となってしまう。

近代的な設備の無い文明圏外国や科学文明に理解のある国家なら物珍しさや、技術的価値から設置は歓迎されるが相手は"世界最強"の魔法文明国である。

自分達の技術に絶対的な自身を持ち、プライドの高い神聖ミリシアル帝国が新興国の施設を受け入れるとは思えない。

 

「やはり…厳しいものですな…」

 

「いや、お待ちを」

 

半ば諦めたようなホエイルの言葉だが、その言葉は防衛大臣であるパタジンによって遮られた。

 

「実は…サモアから新たな航法システムが提示されているのです。現在はサモア基地で建造中らしいのですが…」

 

専用のタブレット端末を操作し、会議室の壁に嵌め込まれている特大モニターに画像を表示させる。

そうして表示されたのは天を突くように高く、何本ものワイヤーで支えられた鉄塔だった。

 

「ロランをより発展させた『オメガ』と呼ばれる基地局です。最高有効距離は凡そ10,000km…ロランCの倍以上となります。これなら、フィルアデス大陸の西方とムー大陸の東方に設置する事で中央世界に基地局を置かずとも電波航法を利用する事が可能です。…もっとも、現状は実地試験の段階らしく直ぐに実用化とは行かないようですが」

 

「10,000km!?それは凄い…しかし、一番良いのはミリシアル国内にロラン基地局を置く事です。外務省には頑張って頂きたい」

 

「ホエイル殿も無茶を仰る…全力で挑みますが、ダメでも恨まないで頂きたい」

 

パタジンの言葉に驚きつつ釘を刺す事を忘れないホエイルに対し、苦笑するリンスイ。

そんな中、会議の参加者の一人が手を挙げた。

 

「気象局のミドリです。よろしいですか?」

 

「ミドリ局長、どうぞ」

 

挙手したのは、クワ・トイネ海軍出身で現在は気象局の局長を務めるミドリだった。

 

「我々気象局は現在気象レーダーで雲や風を、各地に設置した観測所で気温や気圧を観測し天気予報に役立てています。ですが、その予報精度は未だ改良の余地があります事は皆さんご存知でしょう」

 

「そうだな…確かに私の息子の妻が、天気予報を信じたら雨が降ったと言っていましたな」

 

ミドリの言葉に対し茶化すように応えるアラハム。

そんな冗談に会議室が僅かな笑いに包まれるが、それはミドリの咳払いによって鎮まった。

 

「コホンッ…我々気象局としても予報精度の向上は急務だと考えています。洗濯物が台無しになる程度ならまだしも、天気予報が外れて嵐に巻き込まれたとあっては我々の面目丸つぶれですよ。そこで空の遥か上…"宇宙"と呼ばれる空間に『人工衛星』と呼ばれる人の手で作った星を飛ばして遥か高みから雲の動きを観測する計画についての報告を行いたいと思います」

 

「あの計画か…まるで伝説に伝わる魔帝の『僕の星』のようだ。それで、どうなったのだ?」

 

ミドリの言葉にパタジンが前のめりになりながら問いかける。

それもそのはず、軍事行動において天候とは重要な要素の一つでもある。

それ故、気象局の人工衛星計画は防衛省からも多大な期待を寄せられていた。

 

「結論から言いますと…全て失敗しています」

 

だが、ミドリの口から出たのは会議の参加者を落胆させる言葉だった。

 

「今まで5基のロケットを打ち上げてますが…3基は地上付近で爆発、2基は空中分解となってしまいました」

 

「むう…流石にそう容易くは行きませんな…」

 

唸りながら腕を組み、眉間に皺を寄せるアラハム。

他の参加者も同じような雰囲気だ。

何せロデニウス連邦の経済は急成長しているが、軍民問わない急速な近代化はそんな急成長続ける経済力でもギリギリな程だ。

そんな自転車操業一歩手前な状況での宇宙開発は中々に厳しいものがある。

しかし、より正確な天気予報が出来れば天災による経済損失を抑えるだけではなく、国防においても有利となる。

それ故、端から見れば金食い虫な事業でも継続する必要があるのだ。

 

「ですが、今月の始めに行われた打ち上げでは宇宙空間まであと一歩の所まで迫りました。もう一歩…もう一歩なんです!」

 

「あと一歩…可能であれば来年の今頃迄には打ち上げは頂きたい。私も財務局等に掛け合って予算を確保しよう」

 

「では私も防衛予算から宇宙開発予算を工面してみようではないか。古来より上を取った者が戦を制すると言う…ならば、宇宙空間を取れば誰よりも有利となるだろう」

 

「アラハム大臣、パタジン大臣、ありがとうございます!」

 

やや苦笑しながら予算確保に動く事を確約するアラハムとパタジン。

それに対しミドリは思わず立ち上がり、深々と頭を下げた。




Wikipediaや個人ブログ、You Tubeでは分からない事も多いので色々と資料を買い漁っていたら10万近く溶けました

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