異世界の航路に祝福を   作:サモアオランウータン

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ブンブーン様より評価10、イデオン様より評価9、タイヨー様より評価6を頂きました!

大雨の後は台風…毎年、激甚災害指定出てますよねぇ…



何はともあれ、アズレン三周年ですよ!
信濃実装に、巨乳ランキングに食い込んだ樫野…そして、テーマソングに西川兄貴!
凄まじい情報密度でしたねぇ…財布が軽くなる…


133.西の果てと東の果て

──中央暦1640年6月22日午後2時、グラ・バルカス帝国帝都ラグナ──

 

第二文明圏…ムー大陸の西方に突如として出現し周辺国家を次々と併合し、更には第二文明圏のパガンダ王国とその宗主国である列強レイフォルを滅ぼした恐るべき大帝国『グラ・バルカス帝国』

その首都であり繁栄の象徴である帝都ラグナの中心にある帝王府の自室から霞がかった街並みを眺める一人の男が居た。

 

「クックックッ…」

 

やや老いを感じさせるものの、未だに生命力に溢れた美丈夫…彼こそがこの大帝国の帝王グラ・ルークスである。

 

「この世界は我々に何を求める?」

 

国ごと異世界に転移するというバカげた事が発生し、統一寸前だった前世界『ユグド』を失った事は手痛い損失だった。

しかし、この異世界は余りにも都合が良かった。

弓矢や剣、旧式戦闘機でも容易く屠れるワイバーン。それらしか戦力を持たぬ蛮族と、手付かずの各種資源…前世界で"最強"であったグラ・バルカス帝国から見れば正に理想的な世界だった。

 

「蛮族ばかりの世界…この余りにも稚拙な世界を我が帝国が統一し、私が世界の帝王となる」

 

ニヤリと口角を釣り上げ、野心に満ちた笑みを見せるグラ・ルークス。

転移直後は失った植民地を補う為に周辺国を恫喝、或いは武力侵攻する事で食糧や燃料を始めとする様々な資源を搾取していたのだが、一部穏健派の皇族がそれに反発していた。

しかし、穏健派筆頭の皇族は国交開設の交渉中に『パガンダ王国』の手により処刑された。

これにより穏健派は急速に発言権を失い、グラ・ルークスを筆頭とする武闘派が幅を利かせる事となったのだ。

それからというもの、グラ・ルークスはとある野望に情熱を注いでいた。

 

「我が偉大なる父…先帝グラ・ルーメンですら無し得なかった世界統一。それを成し遂げ、私が帝国史上最も偉大な帝王となる!」

 

自室に飾られた歴代帝王の肖像画や写真の内、端にある写真に目を向ける。

グラルークスの野望、それは"先帝を超える"事だった。

前世界で世界統一目前だったグラ・バルカス帝国だが、それはグラ・ルークス一代で成し得た訳では無い。前世界で帝国が統治していた植民地の7割を手に入れたのは先帝であり、彼の父であるグラ・ルーメンだったのだ。

言ってしまえばグラ・ルークスは父の後を継ぎ、消化試合をやっているに過ぎなかった。

それ故か彼は父に対するコンプレックスがあった。

 

──「父を超えたい…父よりも偉大な帝王となりたい…」

 

そんな嫉妬に近い思いこそあったが、世界統一目前とあっては無理もない話だ。

世界を統一したとしても彼はあくまでも"グラ・ルーメンの遺志を継ぎ、世界統一を成した帝王"でしかない。

勿論、それはそれで偉大な事だろう。

しかし、彼はそれで満足したくはなかった。

 

「クックックッ…この世界はユグドよりも広大で、"世界最強"などと嘯く国家もある。それを打ち倒し、我が名を世界に轟かせる!それこそが、我が悲願!我が願い!」

 

先帝が建造させ、帝国の象徴にしようとした戦艦と巡洋戦艦を空母に改装させ『グレードアトラスター級』を新たに建造させ帝国の象徴とする等、先帝を常に超えるべく動いていた彼の野望は燃え盛るばかり。

狂気と野心の炎が宿った瞳で先帝の肖像を見据えながら高笑いし続けるグラ・ルークス。

そんな彼の姿を見下ろす肖像。癖のある金髪に彫りの深い顔立ち、海のような瞳を持つグラ・ルーメン…この時、グラ・ルークスは思いもしなかっただろう。

異世界にて、父の生き写しに出会う事となるとは…

 

 

──同日、サモア基地母港──

 

「ヘックション!」

 

潮の香りがする海風の中、一人の男…指揮官が大きなくしゃみをした。

そのくしゃみに驚く三人の女性が居た。

 

「指揮官、大丈夫か?」

 

苦笑し、体調を心配するエンタープライズ。

 

「見送りに来てくれたのは嬉しいけど…体調不良を隠すのは感心しないぞ、ご主人」

 

同じく心配し、やや諌めるような口調の夕張。

 

「指揮官が風邪なんて引く訳ないよ。大方、誰かに噂されたんじゃないかな?」

 

何でも無いような態度でそんな推測をするノーザンプトン。しかし、彼女は何時もと様子が違う。

と言うのも、普段なら陸上選手のようなスポーツウェアじみた服装なのだが現在の彼女は、普段の服装の上から『ボルチモア』や『ブレマートン』のような上着を着用している。

 

「ノーザンプトンの言う通りかもな。お前のアンテナで何処の誰が噂してるのか特定してくれよ」

 

「その噂話が無線で行われているなら出来るけどね」

 

指揮官の冗談に肩を竦めて応えつつ、母港に停泊している自らの艦体に目を向けるノーザンプトン。

彼女の目線の先にある艦は、元々のノーザンプトンより全長が20m程長くなっており、全体的に大型化していた。

だが、一際目を引くのは艦橋の頂点に配置された大型のパラボラアンテナと40m近い高さのマストだ。

 

「出来るんだな…まあ、通信能力が高いに越した事はない。今回の試験航海で有効活用出来るように頑張ってくれよ」

 

「あぁ、任せて」

 

「よし、では指揮官。新型動力試験の航海に行ってくる。サモアで何かあったら直ぐに戻って…」

 

指揮官がノーザンプトンに激励の言葉をかけ、エンタープライズが出発する事を伝えた瞬間だった。

 

「お〜い!待って待って〜!」

 

エンタープライズ、ノーザンプトン、夕張が停泊している桟橋へと走り寄ってくる人影が現れた。

桃色の髪を頭頂部の辺りで括り、胸元からヘソの辺りまで縦にザックリと開いた競泳水着を着たKAN-SEN…『デイス』だ。

 

「デイス、どうした?」

 

「あはは…ごめんごめん。私も試験航海に同行する事になってね〜」

 

「おや、間に合ったみたいだね」

 

指揮官の疑問にデイスが答えていると、夕張が目を丸くし感心したように呟いた。

 

「間に合った…?もしかして、デイスも改装をしたのか?」

 

「そうだね。エンタープライズに搭載した新型動力と同じ原理の物を搭載し、それに合わせて新しい艦体を建造するって話だったけど…もう出来たんだね」

 

「ふっふ〜ん。新しい艦体に動力に、新しい魚雷…これで思う存分、魚雷ショーが出来るよ!」

 

指揮官の問いかけに答える夕張の横で胸を張って得意気な様子のデイス。

言われて見れば確かに、彼女の腰に付いているセイルを模した艤装の形状が変わっている。対空砲やアンテナ等が幾つも突き出したゴチャゴチャした物ではなく、ツルッとした質感で左右に一対の短い翼が生えたような形状だ。

 

「だが、潜水艦のお前が水上艦…巡洋艦と空母に着いて行けるか?頑張れば行けるかもしれんが…」

 

「平気だよ〜。何せ、水中で28ノットぐらい出せるようになったからね!」

 

「水中でか?そりゃ凄い」

 

「コホンッ…指揮官、そろそろ出発しようと思うんだが…」

 

指揮官とデイスが話していると、エンタープライズが咳払いをして割り込んできた。

その言葉を聴いて腕時計を見てみると、出港予定時間を過ぎていた。

 

「あぁ、すまん。新型動力だけじゃなく、超高高度偵察機や超音速戦闘爆撃機の試験もするんだったな」

 

「その通り。今回の為に艦載型に改造したんだ。…まあ、戦闘爆撃機の方は元々は艦載機だったみたいだ」

 

指揮官の確認の言葉に、エンタープライズが頷きながら答える。

様々な試験を一度に行うのであればキチンと予定を立て、それを恙無く行わなければ想定外の事態に巻き込まれる可能性もある。

だからこそ、出港予定時刻を大幅に遅れる訳にはいかない。

 

「よし、じゃあ全員準備はいいか?」

 

指揮官による最終確認の言葉に頷く四人。

それを見た指揮官は、一人一人の瞳をしっかりと見据えると力強く頷いた。

 

「常に最悪を想定し、最善を尽くせ。では、よい航海を」




最近、執筆が捗らない事ばかり…
一回、気合いを入れ直す必要がありますね

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