若干グロが入ります
──中央暦1638年4月25日午前9時頃、要塞都市エジェイ防衛司令部──
「ふむ、陣地構築は完了しておるようですな!」
「えぇ、あとはビスマルク殿の作戦に使用するギムまでの線路が無事であれば良いのですが…」
エジェイ防衛司令部の窓から、エジェイを囲む城壁を眺める二人の男性。
一人はクワ・トイネ西部方面師団司令官、ノウ将軍。そして、もう一人は奇妙な形の片眼鏡らしきものを着用した重厚な雰囲気の軍服を身に纏う、サモア陸戦部隊司令官シュトロハイム大佐である。
そんな二人が眺める城壁は、M2重機関銃や37mm機銃、81mm迫撃砲が設置されており以前とは比べ物にならない程の防御火力を獲得していた。
「しかし、厚かましい願いではありますが…線路が不要な"戦車"とやらも配備したいものですな。」
「ふぅむ…確かにAT(アーマードトルーパー)では目立ち過ぎる上に大口径砲を装備してしまうと最大の特徴である機動力が発揮出来なくなり、装甲列車は線路が無い戦場には持って行けませんからな。」
チラッと、城壁の内側にあるエジェイ市街地を見下ろす。
そこには、重厚な装甲と長大な砲身を備えた列車…装甲列車が鎮座しており、周囲では兵士達が点検作業に従事していた。
サモアには、戦車や自走砲といった機甲戦力は少ない。さほど大きな島でもなく、対セイレーン戦では陸戦の可能性が低かったためだ。
その為、サモアにおける陸上火砲は戦艦の砲塔を流用した要塞砲や、移動砲台として装甲列車等が主力となっている。
「明日には作戦開始ですな。」
明日早朝、エジェイより2km西方で野営をしているロウリア軍に砲撃を行う手筈になっている。丁度、海戦が行われている間に陸戦を同時に行いロウリア軍を混乱させる作戦だ。
「ふっ…ご安心されよ。」
シュトロハイム大佐は右腕を前方斜め上に突き出したお決まりの特徴的な敬礼をした。
「我ァァァァァァが鉄血陸戦部隊のォォォォ戦術教導は世界一ィィィィィ!」
「は…ははは…」
相変わらず煩いシュトロハイム大佐に、ノウ将軍は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
──中央暦1638年4月26日午前7時頃、エジェイ西方2km・ロウリア軍野営地──
野営地の後方にある一際大きな天幕の下、朝食の硬いパンと具材の少ないスープを前にロウリア陸軍エジェイ攻略部隊の司令官、ジューンフィルア伯爵は思考に耽っていた。
「エジェイへの街道にあった木と鉄の道…偵察隊が目撃した鉄の大蛇…クワ・トイネは一体何をしようとしている…?」
彼には幾つか懸念があった。
先ずは、補給の問題。ギムや周辺の集落はもぬけの殻であり、略奪による補給が出来なかった。その為、司令官であるジューンフィルア出さえも目の前にあるような粗食を強いられている。
次に、ギムとエジェイを結ぶ街道の中間地点辺りから現れた砂利を敷いた上に、木材と長大な棒状の鉄を置いた謎の道。
最後に、偵察と嫌がらせを兼ねた騎兵隊が目撃したという鉄の大蛇。
「導士ワッシューナよ、貴様はどう思う?」
一人で考えても仕方ない、と思い傍らの魔導士ワッシューナに問いかけた。
「はい、私も直接見た事はありませんが…列強国には"鉄道"と呼ばれる乗り物があると聞いています。噂によると、鉄の箱を幾つも並べた物で鉄で作られた道を、馬を遥かに越える速さで走る物…と聞いております。」
「なんと!列強国にはそのような物が…だが、我々も持たぬような物をクワ・トイネが持っているとは思えぬな。」
その言葉とは裏腹にジューンフィルアは言い様の無い不安に駆られていた。
「ここに陣を構えてもう二週間になろうとしている。騎兵隊による挑発で奴等も限界であろう。今日、仕掛けるぞ。」
ギムで略奪も何も出来なかった兵士達の不満は最高潮に達している。現に、素行のよろしくない兵士…赤目のジョーヴを始めとする者が些細な事でケンカを始める等している。
一応は彼らの直属の上司である騎士団長ホークが諌めてはいるが、このままでは士気に関わる。
それ故、ジューンフィルアはエジェイへの攻撃開始を決めた。
「おい!なんだありゃ!?」
「さっき見た奴だ!間違いねぇ!」
「鉄の…大蛇!?」
しかし、兵士達が何やら騒ぎ始めた。
何事か?と思い、天幕から出て騒ぐ兵士の視線を辿る。
「なんだ…あれは…」
エジェイの城壁の前に、2km先からでも分かる程に巨大かつ長大な鉄の大蛇…BP42と呼ばれる装甲列車だ。
Ⅳ号戦車パンターの砲塔を搭載した戦車駆逐車が2両、40mm4連装機関砲と7.62cm野砲を搭載した対空車が2両、10.5cm榴弾砲を搭載した砲車が2両、そして指揮車と機関車が連結されている。本来は、戦車運搬車が2両あるはずだが諸事情により砲車に置き換えられている。
つまり、10.5cm榴弾砲4門、7.62cm野砲2門、7.5cm戦車砲2門、40mm4連装機関砲2基…そして、エジェイの城壁上に設置された81mm迫撃砲が15門程が一斉にロウリア軍に向かって火を噴いた。
──同日攻撃開始より10分後、エジェイ防衛司令部──
「ヴァァァァァァカ者がァァァァァァ!我が鉄血のォォォォォォォ装甲列車にはクラップ社製の優れた火砲を搭載しておるのだァァァァァァ!」
「……」
ノウは、シュトロハイム大佐の横で耳を塞いで戦場の成り行きを見守っていた。
正直、ノウはサモアの指揮官を信頼していなかった。何を考えているか分からないあのポーカーフェイスは、何処か胡散臭さがあった。
「鉄血の火砲は世界一ィィィィィ!」
だが、こんな煩い男を受け入れている辺り器は大きいのだろう。
そんな事を考えながら、砲撃により左右に分断されたロウリア兵を見下ろしていた。
──同日攻撃開始より15分後、ロウリア軍野地周辺──
砲撃により、散り散りになったロウリア兵の前に立ち塞がったのは緑色の鉄の巨人だった。砲撃から逃れた兵士達に、奇妙な形の三つ目が向けられる。
「うっ…うぉぉぉぉぉお!」
一人の兵士が勇気を振り絞り、鉄の巨人に向かって槍を振るう。だが、その兵士は鉄の巨人…スコープドッグが持つ口径30mmのヘヴィマシンガンにより、地面を染める赤いシミとなった。
「うわぁぁぁぁぁあ!がぁっ…」
「化け物…げぶっ!」
「痛ぇよぉぉぉぉ!俺の腕…腕…はぁー…はぁー…はぁー…うぅぅ…」
一方的であった。
矢を弾き、近寄ろうにも手に持ったヘヴィマシンガンが火を噴きロウリア兵を無惨な肉塊に変えて行く。
ある者は30mm弾が直撃し血煙となり、またある者は30mm弾が炸裂した衝撃で四肢が千切れ、苦しみ抜いて失血死して行く。
これだけの巨体なら動きも鈍いだろう、と判断した騎兵が大回りするように通り過ぎようとするが、キュィーンというローラーダッシュの音と共に追いかけられ愛馬と合挽き肉になった。小回りは効かないだろうと判断した騎兵も、ターンピックを使った信地旋回によって動きを追尾され雑草の肥料となった。
砲撃からも、スコープドッグ部隊から奇跡的に逃げ仰せた者もエジェイの城壁に設置された、スコープを搭載したM2重機関銃の狙撃によりその命を散らして行く。
「ワイバーンだ!ワイバーンが来たぞ!」
誰かが空を指さして叫んだ。
ギムを占領した本隊から80騎のワイバーンが此方に向かって飛んで来る。
これで安心だ…鉄の大蛇も巨人も、地を這うしか出来ない。誰もがそう考えた。
だが…それは結局、哀れな犠牲者を増やすだけであった。
──同日攻撃開始より30分後、エジェイ郊外上空──
『ダメだ!追い付けない!』
『馬鹿!後ろだ!』
『え?…うわぁぁぁぁ…!』
『おい!?相棒!相棒!頼む!目を…目を開け…うおわぁぁぁぁぁぁ!』
地上に負けず劣らず、上空も地獄となった。
エジェイ東部に作られた簡易飛行場、そこから飛び立った鉄の飛竜…クワ・トイネ空軍所属の『F2Aバッファロー』がロウリア軍のワイバーンを蹂躙していた。
追おうにも追い付かず、逃げようにも逃れられず、当てようにも当たらず、避けようにも避けられぬ。単純ながら、圧倒的な性能差がある故にロウリア軍ワイバーンは圧倒されていた。
──ドドドッ!ドドドッ!ドドドッ!
そんな中、明らかに姿も動きも異なる者が存在した。
クワ・トイネ空軍のバッファローが、樽のような太く短いフォルムをしているのに対し、それは細長く滑らかな洗練された姿を持っていた。
機首に黒いチューリップのマーキング、コックピットの下にハートのエンブレム…BF-109T(Bubi)である。
そのBF-109Tは、低空を飛んでいたかと思うと急上昇し必死に逃げているワイバーンを下方から銃撃、そのまま上昇して後方宙返りしながら後方のワイバーンへ上方から銃撃、宙返りして水平飛行に戻った瞬間にヘッドオン状態になったワイバーンへ銃撃。その一連のマニューバで一気に3騎のワイバーンを叩き落とした。
《赤城教官!落としすぎですよ!》
《ごめんなさいねぇ、ツェッペリンから借りたこの子を使うのが、ついつい楽しくなってしまったのよ。》
クワ・トイネ空軍のパイロットが、自分達の活躍の場を奪われてはたまらんと言わんばかりに通信で抗議する。
だが、通信の相手…赤城はクスクスと笑うだけで、急降下して再びワイバーンを撃墜した。
《でも、指揮官様からは貴方達のサポートに徹しろ、と言われてますから私はここでお暇しましょう。》
散々暴れた赤城の操るBf-109Tは高度を上げて、エジェイの上空を旋回し始めた。
この空戦によって、ロウリア軍のワイバーン80騎は全滅、クワ・トイネ空軍の被害はゼロであった。
因みに、赤城所属機は1機で15騎の撃墜を記録した。
──同日同時刻、ロウリア軍野営地──
「これは…魔法…いや…違う…なんだ……なんだ…」
ワッシューナが虚ろな表情で、ブツブツと呪文のように呟いている。
それをBGMにジューンフィルアは膝を着き、天を仰いでいた。
厳しい訓練を積んだ兵士が、まるでゴミのように死んでゆく。
鉄の大蛇が噴く炎により原形すら留めず死ぬ者、鉄の巨人が持つ武器により血煙となり死ぬ者、鉄の飛竜によってワイバーンごと叩き落とされる者。
全てが圧倒的な破壊によって、葬られた。
「魔帝の復活…?違う…きっと…魔法では……なっ……」
ワッシューナの独り言が途切れた。
ふと、彼の方を見ると"顔の上半分が無い"
うー、だとか、あー、だとか…そんな不明瞭な声を発して三歩程歩いて倒れた。
(逃げなければ。)
そう思い、立ち上がろうとしたジューンフィルアの目に黒い点が見えた。
それは次第に大きくなり、やがて…10.5cm砲弾が炸裂した閃光と衝撃の中、ジューンフィルアの意識は消失した。
この戦闘にて、ロウリア軍の生き残りは僅か4名。
3名は、砲弾の破片により重傷を負っており懸命な治療の結果、後遺症こそ残ったものの生き延びる事が出来た。
残る1名は奇跡的に無傷だった、スワウロと名乗る謎の金属盾を持った重装歩兵であった。
──同日午前2時頃、マイハーク市近郊・サモア管理地──
クワ・トイネからサモアへ提供された土地に作られた、『アズールレーン・マイハーク駐屯地』の倉庫。
そこに、眼鏡に白衣姿のビスマルクと、ブカブカの白衣を羽織ったU-556の姿があった。
「556?貴女、列車の運転出来るの?」
「任せて下さい!アネキのお役に立てるように色々、勉強しましたから!」
そう、自信満々にU-556はディーゼル機関車を動かして倉庫から巨大な車両を引っ張り出す。
重厚長大な柱のような物が搭載された車両に、ビスマルクは歩み寄り静かに手を添えた。
「さて…この子が、ラインの黄金とならない事を願うしかないわね。」
どちらかと言えば、陸戦の方がスラスラ書けます