最近、急に朝方とか寒くなりましたね
皆様お身体にはお気を付けて下さい
あと、アズレンのCM流れ過ぎでは?
──中央暦1640年6月24日午後2時、旧クイラ王国内『ザラーフ地区飛行場』──
旧クイラ王国の内陸部。荒涼とした大地が広がり、生命なぞ存在しないかのような荒野。
だが、そんな只中にコンクリートの建物と滑走路が置かれた一角があった。
それこそが、ロデニウス連邦とアズールレーンが共同で運用している兵器実験場『ザラーフ・クレーター兵器実験場』である。
──ブゥゥゥゥゥゥン…キッ…キッ…
陽炎が揺らめく陽炎に旅客機が着陸し、タキシングして格納庫へとその身を収めて行く。
タラップが用意され、旅客機の乗降口が開いて人影が姿を現す。
「ふう…気温が高いとはいえ、湿度が低いせいか不快さはありませんね。指揮官、水分補給を怠ってはいけませんよ」
お下げにした灰色の髪に、やや前時代的な印象を受ける臙脂色と黒を基調とした軍服。
赤いフレームの眼鏡も相まって知的な印象のKAN-SEN『ケルン』だ。
彼女はその『カンレキ』を活かし、現在はこの兵器実験場で回転翼機の実用化試験を監督している。
「サモアは蒸し暑いからな…それと比べれば快適だな。どうぞ、降りて下さい。足下にはお気を付けて」
ケルンの言葉に頷きつつ、タラップを降りながら機内に向かって声をかける指揮官。
その背後を追うように三人の人影が姿を現した。
「なんて広大な実験場…ここが、ロデニウス連邦とサモアの軍事力が生み出される場所なのか…」
格納庫内を行き交う様々な人々を驚嘆したように眺めるフィアーム。
白衣や作業服を着た技術者は勿論、フード付きローブを着用した魔導師や緑色の不規則な縞模様の珍妙な服を着用した兵士らしき者も居る。
開発側と運用側の人間が一同に会しているあたり、かなり大規模な兵器実験を行っているのだろう。
「ここに来る途中に見えた"砂漠のど真ん中に置かれた大量の航空機や車両"は何だと思うかね?捨てられたにしては綺麗に並んでいる上に、まだまだ使えそうな物ばかりだったのだが…」
フィアームの後ろを歩くメテオスは、自らの背後に首を捻って問いかけていた。
「退役した兵器を保管し、何時でも使えるようにしているのだろう。湿度や天候の変化の少ない砂漠地帯に置く事で劣化を防ぐ…劣化防止魔法すら使えんようだな。やはり、魔法技術は帝国に敵わんか」
僅かに吹き込む熱風が不快なのか、眉をひそめながらメテオスの疑問に対して自らの見解を示すテュポーン。
そして彼女の見解は正解だった。
サモア基地が転移した直後、旧クワ・トイネ公国と旧クイラ王国に多数の旧式兵器を供与したのだが旧ロウリア王国との統一戦争後、ロデニウス連邦として再出発した際に産業と経済の発展を目的とし大量の航空機や車両を製造した。
その結果ロデニウス連邦は大量生産・大量消費の時代となり、軍民問わず従来型を最新型に取り替えるというサイクルがとんでもない早さとなっていた。結果として従来型が中古市場に溢れる事態となってしまったのだ。
民生品ならば第四文明圏構想参加国でも安く買い求める事が出来る為問題無い。しかし、軍用は高価で民間向けに転用し辛い事から余ってしまっていた。
故に中古兵器は砂漠地帯でモスボール保管し、買い手がついた場合や有事の際に再就役出来るようにしてあるのだ。
「さて…早速、メテオス殿が気になっていた物をお見せしましょう。こちらです」
全員がタラップから降りた頃合いになると、格納庫の前で待機していたバンを指差して乗り込むように促す指揮官。
それに従いフィアームとメテオス、テュポーンはバンの後部に乗り込んだ。
「それじゃあ、ケルン。頼んだ」
「承知致しました」
指揮官が助手席に、ケルンが運転席に乗り込みバンが発車する。
──同日、『ザラーフ・クレーター兵器実験場』──
──ドンッ!…ドンッ!…ドンッ!
──ブォォォォォォォォン!
──バシュゥゥゥ!バシュゥゥゥ!バシュゥゥゥ!バシュゥゥゥ!
コンクリート製の道路に浮いた砂を踏み締めながら進むバンの車内。それなりに防音が施された車内だが、周辺ではひっきりなしに兵器実験が行われているためまるで戦場のような轟音が耳に届いていた。
巡洋艦の主砲程もありそうな大砲を備えた車両に、空薬莢を滝のように垂れ流しながら絹が裂けるような銃声を放つガトリング砲、白煙を噴き出しながら矢継ぎ早に飛翔する太い円柱…フィアームとメテオスは車窓に張り付きながらそれらを観察していた。
「な…なんだあれは…?ムーの戦車のようだが…なんて巨大な砲なんだ…」
「なんという連射力…まるでアトラタテス砲のようだ。しかし、あれは見るにかつてムーで運用されていた回転銃身機関銃のようだねぇ…」
フィアームは巨砲…203mm榴弾砲の威容に驚き、メテオスは20mmバルカン砲の弾幕を前に驚嘆した様子だ。
しかし、そんな二人とは対象的にテュポーンはチラッと車窓に目を向けただけだ。
「燃焼ガスを噴出させて炸薬入りの弾体を飛ばしているだけか…砲熕兵器よりは構造が簡易に出来るが、精度は期待出来ぬ。面制圧用だな」
様々な兵器を目の当たりにし、各々が考察するがどうにも腑に落ちない事があった。
そして、それを口にしたのはフィアームだった。
「フレッツァ殿、質問よろしいですか?」
「私に答えられる事なら」
「この…先程から見えている兵器はロデニウス連邦やアズールレーンで運用される予定の…言わば、最新鋭兵器でよろしいのですよね?」
「採用するかは未定ですが、よほど扱い難かったり致命的な欠陥があったりしない限りは採用するでしょうね」
「そのような兵器を我々に…同盟どころかまだ国交も結んでいない国の者に見せてもよろしいのですか?」
フィアームの言葉も尤もな話だ。
確かにこの世界では最新鋭兵器を見せ付け、自国の優位性を示す砲艦外交じみた行為は当たり前に行われている。
しかし、開発中の兵器…ましてや開発中の光景を見せ付ける事は前例に無い。そんな事をしてしまえば開発中の兵器の上を行く兵器を開発され、苦労して開発した最新鋭兵器があっという間に旧式化してしまう可能性があるためだ。
「…我々は世界秩序を担う事を目的としている為です」
「…は?」
思わず目を丸くし、聞き返すフィアーム。
しかし、指揮官はそれに構わず言葉を続けた。
「我々は確かにパーパルディア皇国を撃破し、世界秩序に大きな衝撃を与えました。しかし、それはパーパルディア皇国が我々に対し殲滅戦を宣言したが故…かの国が友好的であれば、同盟を組み共存共栄の道を歩んでいた事でしょう。ですがそうは成らず、世界秩序の根底を揺るがす事態を招いてしまった」
首を捻り、後部座席に目を向ける指揮官。
「力には責任が伴う…力を振りかざし、弱き者から搾取するような者は街にたむろするギャングと同じです。我々はそうなるべきではない。責任を背負い、秩序と人々の自由の為に戦う…既に国交を結んでいるムー、そして貴国とはそういった価値観を共有出来る。違いますか?」
「い、いえ…その通りだと思います…」
思わぬ話題を振られた事に面食らうフィアーム。
しかし、彼の言葉には全面的に同意出来る。
確かにかつての神聖ミリシアル帝国は、パーパルディア皇国のように周辺国を侵略し搾取する覇権主義国だった。
だが現在では融和政策に舵を切り、鍛え上げた軍事力を世界秩序を保つ為に使い、いつかは復活するであろう魔法帝国に対抗するために備えている。
それを踏まえればロデニウス連邦とアズールレーン、神聖ミリシアル帝国は価値観を共有する立場にあると言ってもよいだろう。
少なくとも彼の言葉を信じるのであれば、他種族を奴隷にするような魔帝を許しはしない筈だ。
「少なくとも貴国とは敵対する意味が無い…寧ろ、協力関係を築く事が出来るでしょう。貴方達に我々の兵器開発を見せているのは、協力関係を築く前に信頼を得る為なのです」
「な…なるほど…」
無理矢理納得し、頷くフィアーム。
だが、指揮官の考えは別だった。
(魔法技術を使った誘導兵器は上手い事行った…だが、もう少し煮詰めたい。ミリシアルとの共同開発が叶えば、より高性能な誘導兵器を作れるな。ラ・ツマサが言うには、グラ・バルカス帝国は先進11ヶ国会議で全世界に対して宣戦布告をするって話だ。この世界でもそうなるかは不明だが…まあ、備えるに越した事はない)
別の世界線で建造され、その世界の記憶を持ったまま建造されたムーのKAN-SEN『ラ・ツマサ』。
彼女が言うには、グラ・バルカス帝国は凄まじい力を以てムーと神聖ミリシアル帝国の軍勢を打ち倒したそうだ。
この世界でも同じ事になるかは分からないが、それに備えておくのは無駄ではないだろう。
(魔帝なんて言う奴らも居るらしいしな…何事も最悪を想定すべきだな)
「…なんだ」
ふと、不機嫌そうな声が響いた。
どうやら魔帝の事を考えている内に、無意識にテュポーンに目を向けていたらしい。
「いや、何も」
「…ふん」
指揮官の言葉に鼻を鳴らし、座席の肘掛けを使って頬杖をつくテュポーン。
それを見たフィアームとメテオスは、怪訝そうな顔をするのみだった。
信濃ってエモール王国の空間占い周りの話で使えそうですよね
あと、びそくの信濃がまた…こう…エッッッッッッ!